転生したら人生がサクセスモードだった   作:ねるすと

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第77話

 春季大会の翌日。

 学校から帰り、シニアへ行くまでの少しの時間。

 俺は久しぶりに育成画面をじっくり開いていた。

 昨日。

 カーブの習得を始めた。

 

【変化球】

チェンジアップ 5

カーブ     未完成

 

 その下。

 貯まっている育成ポイントを見る。

 筋力。

 敏捷。

 技術。

 精神。

 変化球。

「……結構あるな」

 秋。

 ノーヒットノーラン前に、チェンジアップと緩急へかなり使った。

 それでも。

 冬の練習。

 試合。

 守備。

 打撃。

 少しずつ。

 また貯まっている。

 その気になれば。

 使える。

 例えば。

 球速。

 今は130km/h。

 筋力と技術をまとめて使えば。

「……132くらいなら」

 上げられる。

 多分。

 守備も。

 肩も。

 パワーも。

 もっと上へ押し上げられる。

 システムがある。

 ポイントがある。

 なら。

 全部使えばいい。

 昔の俺なら。

 そう考えた。

「でもなあ」

 画面を見ながら。

 小さく息を吐く。

 使わない。

 正確には。

 一気には使わない。

 理由は。

 もう知っている。

 

◇

 

 あれは。

 まだ小学校に入ったばかりの頃だった。

 システムを手に入れて。

 能力を上げられることが。

 何より楽しかった時期。

 練習すれば。

 ポイントが増える。

 ポイントを使えば。

 能力が上がる。

 だったら。

 貯める意味なんてない。

 そう思っていた。

 その日。

 俺は。

 走力。

 肩力。

 パワー。

 運動能力に関わる項目へ。

 一気にポイントを入れた。

 当時の細かい数字までは覚えていない。

 でも。

 複数の能力を。

 まとめて。

 かなり上げたことだけは覚えている。

【能力上昇を実行します】

 何も考えず。

 決定した。

 最初は。

 何ともなかった。

「おお」

 立ち上がる。

 身体が軽い。

 部屋の中を少し走っただけで分かった。

 速い。

 ジャンプすれば。

 いつもより高い。

 柔らかいボールを投げれば。

 前よりずっと強く壁へ当たる。

「すげえ!」

 嬉しかった。

 ゲームそのものだった。

 ポイントを入れれば。

 すぐ強くなる。

 だったら。

 これを続ければいい。

 そう思った。

 その日の夜までは。

 

◇

 

「……寒い」

 布団に入っているのに。

 身体が震えた。

 頭が痛い。

 身体中が重い。

 母親が額へ手を置き。

 すぐに体温計を持ってきた。

「伊織、熱あるじゃない」

「……何度?」

「39度近い」

「え」

 風邪。

 その時は。

 家族も。

 俺自身も。

 そう思った。

 でも。

 咳はない。

 鼻水もない。

 喉も痛くない。

 ただ。

 熱。

 全身のだるさ。

 そして。

 筋肉痛みたいな痛み。

 次の日も。

 まともに起き上がれなかった。

 3日ほど。

 ほとんど寝ていた。

 

◇

 

 熱が下がれば。

 終わり。

 ではなかった。

 久しぶりに外へ出た日。

 走る。

「うわっ!」

 思ったより。

 足が前へ出た。

 止まろうとして。

 バランスを崩す。

「……何これ」

 次。

 ボールを投げる。

 狙った場所。

 いつもの感覚。

 投げる。

 ボールは。

 思ったより上へ抜けた。

「え?」

 もう1球。

 今度は抑える。

 それでも。

 少しずれる。

 身体は。

 確かに強くなっている。

 でも。

 頭の中にある俺の身体と。

 実際の俺の身体が。

 合っていなかった。

 走れば。

 歩幅が違う。

 投げれば。

 腕の振りが違う。

 打てば。

 バットが思ったより速く出る。

 簡単に言えば。

 性能だけ先に変わった。

 でも。

 俺自身が。

 その性能に慣れていなかった。

 

◇

 

 その夜。

 俺はシステムを開いた。

「これ、ポイント使ったから?」

 当然。

 答えは返ってこない。

 ただ。

 画面を探していると。

 今まで気にしていなかった表示があった。

 

【身体適応状態】

 

【急激な身体能力上昇を検知しました】

 

【現在、肉体及び神経系が新しい能力値への適応を行っています】

 

「……神経系?」

 子供の身体で。

 意味を全部理解できたわけじゃない。

 でも。

 続く表示は分かった。

 

【適応期間中、一時的に身体感覚のずれ・疲労・発熱等が発生する場合があります】

 

「先に言えよ……」

 いや。

 多分。

 どこかに書いてあった。

 俺が。

 読まなかっただけ。

 ゲームでも。

 説明書を飛ばすタイプだった。

 そのツケを。

 初めて身体で払った。

 

◇

 

 それから。

 1週間以上。

 まともな感覚に戻らなかった。

 特に投げるのが大変だった。

 強くはなっている。

 以前より遠くへ投げられる。

 でも。

 狙ったところへ行かない。

 腕を少し弱く振ると。

 今度は届かない。

 いつもの力。

 いつもの踏み込み。

 いつものリリース。

 その「いつも」が。

 全部変わっていた。

「強くなったのに、下手になってる」

 かなり。

 腹が立った。

 でも。

 練習を続けていくうちに。

 少しずつ。

 新しい身体が。

 自分の身体になっていく。

 足の速さ。

 腕の強さ。

 力の出し方。

 全部。

 慣れれば。

 確かに。

 前より強い。

 だから。

 能力上昇そのものが悪いわけじゃない。

 問題は。

 上げ方だった。

 

◇

 

 その後。

 何度か試した。

 1つだけ。

 少し上げる。

 これは。

 ほとんど問題ない。

 練習を続けながら。

 自然に伸びかけている能力へポイントを使う。

 これも。

 違和感は少ない。

 でも。

 身体能力を。

 短期間に。

 一気に何段階も上げる。

 これは。

 負荷が大きい。

 特に。

 パワー。

 走力。

 肩力。

 球速。

 スタミナ。

 身体そのものへ影響する能力。

 一方で。

 ミート。

 守備。

 捕球。

 コントロール。

 技術系は。

 高熱まで出ることは少なかった。

 その代わり。

 感覚がずれる。

 足運び。

 グラブを出すタイミング。

 バットの出し方。

 リリースポイント。

 一気に伸ばすと。

 今までの感覚と結果が噛み合わなくなる。

 結局。

 慣れるための練習が必要になる。

 だったら。

「普通に練習した方が早い時あるんだよな」

 これが。

 俺の出した結論だった。

 

◇

 

 今。

 システムを見る。

 

【球速 130km/h】

 

 例えば。

 筋力ポイントを大量に使う。

 技術も使う。

 精神も。

 一気に。

 上げられるだけ上げる。

 もしかすると。

 数日で。

 今よりかなり速くなる。

 でも。

 フォームが変わる。

 下半身の出力が変わる。

 腕の振りが変わる。

 リリース位置も。

 微妙にずれる。

 そして。

 今の。

 コントロールB78。

 変幻自在。

 低め○。

 リリース○。

 せっかく作った投球感覚を。

 一時的に壊す可能性がある。

「効率悪い」

 だから。

 やらない。

 練習で。

 身体を作る。

 自然に130から131へ近づける。

 その状態で。

 最後の一押しにポイントを使う。

 それなら。

 適応負荷は小さい。

 結果的に。

 練習を休む期間も減る。

 俺は。

 ゆっくり育てたいわけじゃない。

 最速で。

 育てたい。

 だから。

 一気に上げない。

「……我ながらゲーム脳だな」

 少し笑った。

 

◇

 

 ただ。

 全部のポイント使用が。

 同じではない。

 チェンジアップ。

 特殊能力。

 こういうものは。

 少し違う。

 あれは。

 身体を突然作り替えるというより。

 それまで積み上げてきた感覚や技術を。

 システムが整理して。

 形にしてくれる感じが強い。

 だから。

 秋に。

 チェンジアップを3から5まで上げて。

 緩急○まで取った時も。

 身体が壊れるような反動はなかった。

 もちろん。

 全く何もないわけじゃない。

 指先。

 腕の振り。

 リリース。

 少し違和感はあった。

 でも。

 翌日には。

 ほぼ馴染んだ。

「カーブも同じか?」

 未完成の表示を見る。

 変化球ポイント。

 ある。

 入れれば。

 完成は早くなる。

 でも。

 今は。

「まだ」

 昨日。

 投げたカーブ。

 109。

 111km/h。

 ほとんど曲がらない。

 握りも。

 抜き方も。

 まだ分かっていない。

 この状態で。

 ポイントだけ入れるより。

 まず。

 自分で。

 感覚を作る。

 その方が。

 多分。

 効率がいい。

 

◇

 

 シニアの練習。

 投球練習の最後。

 監督が言う。

「成瀬、カーブ5球だけ」

「はい!」

「嬉しそうだな」

「はい」

「5球だからな」

「分かってます」

 高瀬が座る。

「昨日より曲げようとするなよ」

「分かってる」

「本当に?」

「みんな信用なさすぎじゃない?」

「日頃の行い」

「何したよ」

「全部やろうとしてる」

「それは悪くないだろ」

 握る。

 カーブ。

 まだ。

 違和感がある。

 初球。

 投げる。

 110km/h。

 ふわっ。

 少しだけ。

 落ちる。

「昨日よりマシ」

「本当?」

「ちょっと」

 2球目。

 109km/h。

 今度は。

 少し横へ。

「お」

 高瀬がミットを見る。

「それっぽい」

「来た?」

「まだ来てない」

「厳しいな」

 3球目。

 力が入る。

 112km/h。

 ほぼ真っすぐ。

「今のダメ」

「自分でも分かる」

 4球目。

 一度。

 力を抜く。

 指先。

 抜く。

 投げる。

 108km/h。

 ボールが。

 少し。

 横へ曲がりながら。

 落ちた。

 パスッ。

「……」

 高瀬が。

 少し笑う。

「今の、一番カーブだった」

「マジ?」

「うん」

「もう1球」

「あと1球な」

「分かってる」

 5球目。

 同じ感覚。

 でも。

 今度は抜けすぎる。

 102km/h。

 高め。

「全然違う」

「難しい」

「だから面白いんだろ?」

 高瀬が言う。

「……それ詩織にも言われたことある」

「誰?」

「幼馴染」

「ああ」

 高瀬が立ち上がる。

「じゃあ今日は終わり」

「もうちょっと」

「終わり」

「10球」

「監督ー!」

「分かった!」

 止められた。

 

◇

 

 練習後。

 システムを開く。

 

【変化球習得経験を獲得しました】

 

【カーブの習得度が上昇しました】

 

【カーブ:未完成】

 

 まだ。

 未完成。

 でも。

 昨日より。

 確実に。

 前へ進んでいる。

 その下。

 育成ポイント。

 使おうと思えば。

 使える。

 俺は。

 画面を閉じた。

「まだ使わない」

 焦らない。

 というより。

 今使うのは。

 もったいない。

 もっと。

 自分で覚える。

 身体を近づける。

 その上で。

 ポイントを使えば。

 もっと少ない負荷で。

 もっと大きく伸びる。

 育て方にも。

 順番がある。

 

◇

 

 帰宅後。

 少しだけピアノを弾く。

 前なら。

 芸術C60を見て。

 ポイントで一気にBまで上げられないか。

 そんなことを考えたかもしれない。

 でも。

 今は。

 鍵盤を押す。

 音を聞く。

 次。

 少し弱く。

 もう一度。

「……」

 野球も。

 ピアノも。

 勉強も。

 全部。

 積み上げる。

 そして。

 必要な時に。

 システムを使う。

 それが。

 今の俺の育て方だった。

 

 もちろん。

 

 もし。

 

 明日突然。

 

「球速150km/hにしますか?」

 

 なんて表示が出たら。

 

「……押すかもしれないけど」

 

 多分。

 いや。

 かなり迷う。

 

 でも。

 

 今は。

 

 130km/h。

 

 カーブ未完成。

 

 やることは。

 まだまだある。

 

「まずは131だな」

 

 俺は。

 次の練習予定を開いた。

 

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