転生したら人生がサクセスモードだった   作:ねるすと

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第78話

 春季大会は、その後も勝ち進んだ。

 俺が研究されて2点を失った試合のあと。

 玲が先発した次戦は、6回1失点。

 140km/hのストレートと、高速で落ちる球。

 相手は最後までまともに芯を捉えられなかった。

 俺はショートで出場して、4打数2安打。

 準決勝進出。

 チームとしては順調。

 でも。

 俺の頭の中は。

 最近ずっと。

 別の球でいっぱいだった。

 

◇

 

「108」

 高瀬が球速表示を見る。

 カーブ。

 投げ始めてから2週間。

 最初はほとんど真っすぐだった球が、少しずつ変わってきた。

 109km/h。

 外へ。

 少し横に動いて。

 そのまま落ちる。

 パスッ。

「今のいい」

「どれくらい?」

「カーブって言っても怒られないくらい」

「やっと?」

「やっと」

 もう1球。

 今度は力が入りすぎた。

 114km/h。

 変化は小さい。

「違うな」

「うん」

 自分でも分かる。

 曲げようとすると。

 曲がらない。

 抜こうとしすぎると。

 高く浮く。

 力を抜く。

 でも。

 腕は振る。

 指先で。

 最後に少しだけ。

 ボールを逃がす。

「難しいな」

「楽しそうだけどな」

「楽しい」

「即答かよ」

 高瀬が笑った。

 

◇

 

 最近。

 カーブの練習が終わるたびに。

 システムを見る。

 

【カーブ:未完成】

 

 毎回。

 まだ。

 未完成。

 変化球ポイントはある。

 使えば。

 早く完成するかもしれない。

 でも。

 まだ使わない。

 自分で投げる。

 失敗する。

 少し分かる。

 また投げる。

 その繰り返し。

 ポイントを入れるのは。

 もっと。

 身体と感覚が近づいてから。

「成瀬」

 監督に呼ばれる。

「はい」

「明日の準決勝。先発」

「はい!」

「カーブ」

「はい」

「使うか?」

 一瞬。

 迷う。

「……使いたいです」

「何球?」

「決めてないです」

「じゃあ条件」

「はい」

「高瀬が使えると判断した時だけ」

「え」

「不満か?」

「いや……」

「未完成だろ」

「はい」

「試合で覚えるのと、試合を練習にするのは違う」

「……はい」

 その通りだった。

「まず勝て。その中で使えるなら使え」

「はい」

 監督が離れていく。

 高瀬が横から言った。

「俺の権限強くなったな」

「変なところで使うなよ」

「じゃあ全部チェンジアップ」

「それはそれで面白そう」

「やる気になるな」

 

◇

 

 準決勝。

 相手は春に入ってから打撃好調のチーム。

 初回。

 俺はいつも通り。

 ストレートとチェンジアップだけで入った。

 130km/h。

 77km/h。

 先頭をショートゴロ。

 2番をセカンドフライ。

 3番。

 ストレートをファウル。

 チェンジアップを見逃し。

 最後は外角低め130km/h。

 三振。

 三者凡退。

 カーブは。

 使わない。

 2回。

 先頭の4番。

 初球。

 130km/h。

 センター前。

 ヒット。

 5番。

 送りバント。

 ワンアウト2塁。

 6番。

 チェンジアップを2球続ける。

 どちらも見送られた。

「……」

 遅い球を捨てている。

 前の試合と同じ。

 でも。

 今回は。

 もう1つある。

 高瀬を見る。

 サイン。

 ストレート。

 頷く。

 129km/h。

 ファウル。

 ワンボール、ツーストライク。

 次。

 高瀬が。

 指を出す。

「……」

 カーブ。

 初めて。

 公式戦で。

 そのサインが出た。

 俺は。

 一度だけ息を吐く。

 腕を振る。

 力まない。

 曲げようとしない。

 108km/h。

 ボールが。

 外角へ向かいながら。

 ゆっくり。

 沈む。

「っ?」

 打者のバットが止まる。

 ボールは。

 外角低め。

 高瀬のミットへ。

「ストライク! バッターアウト!」

「……入った」

 思わず呟いた。

 初めての。

 公式戦。

 カーブ。

 三振。

 高瀬が返球しながら。

 少しだけ笑っていた。

「使える?」

 口の動きで聞く。

 高瀬が。

 小さく頷いた。

 

◇

 

 次の7番。

 初球。

 カーブ。

 そうしたくなった。

 でも。

 やめる。

 今。

 相手ベンチも見た。

 新しい球がある。

 それだけでいい。

 129km/h。

 内角。

 ファウル。

 次。

 130km/h。

 外角。

 ボール。

 3球目。

 77km/h。

 チェンジアップ。

 打者が前へ出る。

 ファウル。

 ワンボール、ツーストライク。

 今度は。

 高瀬がカーブを出す。

 俺は。

 首を振った。

 ストレート。

 外角低め。

 129km/h。

 カンッ!

 ショート正面。

 三上。

 1塁へ。

「アウト!」

 チェンジ。

 ベンチへ戻る。

 高瀬がマスクを外した。

「何でカーブ振った?」

「もう見せたから」

「なるほど」

「次の打者、ちょっと待ってた」

「分かった?」

「多分」

「また多分か」

「多分」

 カーブ。

 投げなくても。

 頭には残る。

 ストレート。

 チェンジアップ。

 その間に。

 108km/h。

 新しい時間が。

 1つ増えた。

 

◇

 

 3回。

 4回。

 カーブは。

 多く投げなかった。

 1イニングに1球。

 多くても2球。

 ストライクを取る時。

 目線を変える時。

 そして。

 打者が。

 130と77だけを考え始めた時。

 そこへ。

 108。

 5回表。

 先頭。

 初球。

 130km/h。

 ファウル。

 2球目。

 108km/h。

 カーブ。

 見逃し。

「ストライク!」

 ツーストライク。

 打者が。

 少し前へ出る。

 次は。

 遅い?

 速い?

 それとも。

 真ん中くらい?

 選択肢が。

 3つ。

 高瀬のサイン。

 チェンジアップ。

 77km/h。

 投げる。

 ブンッ!

「ストライク! バッターアウト!」

 打者の身体が。

 完全に前へ出た。

「……いいな」

 ストレートとチェンジアップだけでも。

 抑えられる。

 でも。

 3つ目があると。

 もっと。

 相手の時間を動かせる。

 変幻自在。

 この能力とも。

 相性がいい。

 

◇

 

 試合は。

 3対0。

 6回。

 俺は先頭にヒットを許した。

 続く打者にも。

 レフト前。

 ノーアウト1、2塁。

 高瀬がマウンドへ来る。

「疲れた?」

「まだ」

「カーブ増やしすぎた?」

「それはない」

「じゃあ」

 高瀬が相手ベンチを見る。

「向こうも慣れてきた」

「うん」

 新しい球がある。

 それだけで。

 ずっと通用するわけじゃない。

 当然。

 相手も。

 見て。

 考える。

「どうする?」

 高瀬が聞く。

「普通に」

「普通?」

「今まで通り」

 新しい球を覚えたから。

 それに頼る。

 違う。

 130。

 77。

 108。

 全部。

 使う。

 3番。

 初球。

 130km/h。

 内角。

 ファウル。

 2球目。

 108km/h。

 カーブ。

 見送られる。

 ワンボール、ワンストライク。

 3球目。

 130km/h。

 外角。

 ファウル。

 ワンボール、ツーストライク。

 4球目。

 77km/h。

 チェンジアップ。

 打者が崩れる。

 空振り。

 三振。

 ワンアウト。

 4番。

 カーブを見せる。

 次。

 高め130km/h。

 振り遅れ。

 センターフライ。

 ツーアウト。

 5番。

 初球。

 チェンジアップ。

 ファウル。

 2球目。

 カーブ。

 ストライク。

 ツーストライク。

 最後。

 外角低め。

 130km/h。

 カンッ!

 セカンドゴロ。

 チェンジ。

 無失点。

 高瀬が戻りながら言う。

「3つあると楽だな」

「だろ?」

「でも」

「何?」

「カーブまだ怖い」

「それは俺も」

「本人もかよ」

 

◇

 

 6回を投げ終え。

 俺は降板。

 7回は玲。

 140km/h。

 132km/h。

 高速で落ちる球。

 三者凡退。

 3対0。

 勝利。

 決勝進出。

 

◇

 

 試合後。

 監督が俺を呼んだ。

「カーブ」

「はい」

「どうだった?」

「使えます」

「自信あるな」

「まだ完成ではないです」

「そこは分かってるか」

「はい」

 俺は。

 今日投げた感覚を思い出す。

 全部。

 完璧じゃない。

 でも。

 何球か。

「これだ」

 という球があった。

「監督」

「ん?」

「ポイント使っていいですか?」

「……ポイント?」

「あ」

 しまった。

「何でもないです」

 監督が怪訝そうな顔をする。

「疲れてるなら休め」

「大丈夫です」

 危ない。

 システムのことは。

 俺しか知らない。

 

◇

 

 その夜。

 部屋。

 システムを開く。

 

【変化球習得経験を獲得しました】

 

【公式戦で未完成の変化球を有効に使用しました】

 

【カーブの習得度が大きく上昇しました】

 

 表示を見る。

 そして。

 変化球ポイント。

 今なら。

 いい。

 握りも。

 抜き方も。

 感覚も。

 身体の中に。

 少しずつできている。

「じゃあ」

 ポイントを使う。

 大量じゃない。

 足りない部分を。

 最後に。

 押す。

 

【変化球ポイントを使用します】

 

【カーブの習得を補助します】

 

【身体適応負荷:軽微】

 

「これこれ」

 前なら。

 未完成になった瞬間。

 全部入れていた。

 今は。

 違う。

 練習して。

 感覚を作って。

 試合で使って。

 そのあと。

 ポイント。

 

【カーブを習得しました】

 

【カーブ 1】

 

「よし!」

 レベル1。

 まだ。

 小さい。

 でも。

 正式に。

 3球目。

 

【変化球】

チェンジアップ 5

カーブ     1

 

 130km/h。

 108km/h前後。

 77km/h。

 3つの速度帯。

「これ」

 思わず笑う。

「もっと面白くなるな」

 カーブを2。

 3。

 もっと育てることもできる。

 でも。

 今は。

 1。

 また。

 投げる。

 練習する。

 身体へ馴染ませる。

 そして。

 必要なら。

 ポイントを使う。

 それでいい。

 

◇

 

 数日後。

 学校。

 昼休み。

 教室で弁当を食べていると。

 詩織が前の席へ座った。

「伊織君」

「何?」

「最近、また楽しそうだね」

「カーブ覚えた」

「ちゃんと曲がるようになった?」

「レベル1」

「れべる?」

「あ」

「何?」

「いや。少し」

「少し?」

「少し曲がるようになった」

「じゃあよかったね」

「うん」

 詩織が俺の弁当を見る。

「それ全部食べるの?」

「食べる」

「多くない?」

「身体大きくしたいから」

「また野球?」

「野球」

「ピアノは?」

「今日やる」

「勉強は?」

「夜」

「……全部やるんだ」

「うん」

 詩織は。

 少し笑う。

「本当に変わらないね」

「褒めてる?」

「半分」

「また半分か」

「でも」

 詩織が続ける。

「前より、楽しそう」

「そう?」

「うん」

 多分。

 そうなんだと思う。

 できなかったことが。

 できるようになる。

 足りなかったものが。

 増えていく。

 今。

 それが。

 何より楽しかった。

 

 春季大会。

 決勝まで。

 あと1試合。

 

 そして。

 

 夏まで。

 あと少しだった。

 

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