転生したら人生がサクセスモードだった   作:ねるすと

80 / 91
第80話

 春季大会決勝。

 球場へ着いて。

 最初に思った。

「……人、多くない?」

 三上も同じことを思ったらしい。

 去年。

 シニアの試合なんて。

 基本は保護者と関係者。

 全国大会ならともかく。

 春の地区大会で。

 こんなにフェンス際へ人が集まることはなかった。

「水城見に来たんじゃね?」

 黒田が言う。

「140出したし」

「伊織もだろ」

 三上が俺を見る。

「秋ノーヒットノーラン」

「でも前の試合2点取られた」

「6回2失点だろ。普通にいいわ」

 高瀬が防具を抱えたまま口を挟む。

「しかも今日、相手が相手だからな」

 グラウンドの反対側。

 見覚えのある投手がキャッチボールをしていた。

 真田蒼士。

 真田が所属する**武蔵野シニア**。

 秋。

 俺たちは2対1で勝った。

 あの時の真田は134km/h。

 そして。

 今日。

 練習中に表示された球速を見て。

 周囲が少しざわついた。

 136km/h。

「また上がってる」

 俺が呟く。

 隣にいた玲も見ていた。

「うん」

「嬉しそうだな」

「速くなってるから」

「敵だぞ」

「知ってる」

 玲らしい。

 俺も。

 多分似た顔をしていた。

 

◇

 

 試合前。

 監督が全員を集める。

「今日はいつもより見てる人が多い」

 やっぱり。

 俺だけが感じたわけじゃなかった。

「相手が武蔵野。真田がいる。うちには水城と成瀬がいる。最近この世代を見に来る人間が増えてる」

 三上が小声で言う。

「有名人じゃん」

「黙れ」

 監督が続ける。

「あと」

 一度。

 バックネット裏へ視線を向けた。

「高校関係者も何校か来てる」

「高校?」

 黒田が反応する。

「俺たちまだ2年ですよ?」

「見るところは早いぞ」

 監督が言う。

「特に水城。成瀬。それから向こうの真田」

 玲は。

 いつも通り。

 ほとんど表情を変えなかった。

 俺は。

 もう一度バックネット裏を見る。

 スーツ姿。

 学校名の入ったジャージ。

 手帳を持った人。

 何人かいる。

「……高校」

 まだ。

 1年以上先。

 でも。

 確実に。

 次の場所が近づいてきている。

「成瀬」

「はい」

「気にするな」

「はい」

「水城」

「はい」

「お前も」

「はい」

 玲は多分。

 本当に気にしてない。

 俺は。

 少しだけ。

 気になった。

 

◇

 

 先発。

 城東は玲。

 武蔵野は真田。

 俺はショート。

 初回。

 玲の初球。

 140km/h。

 ストライク。

 観客の一部から。

「おお……」

 と声が出る。

 2球目。

 131km/h。

 高速で落ちる球。

 空振り。

 3球目。

 140km/h。

 ファウル。

 4球目。

 132km/h。

 落ちる。

 空振り三振。

「ナイスボール!」

 高瀬の声。

 玲は。

 秋より。

 明らかに投球が落ち着いている。

 速い球だけじゃない。

 相手の待ち方を見る。

 高瀬のサインに首を振る。

 自分で選ぶ。

 初回。

 三者凡退。

 俺のところへ。

 1球も飛んでこなかった。

 

◇

 

 1回裏。

 真田。

 初球。

 135km/h。

 2球目。

 136km/h。

「速っ」

 三上がベンチで声を漏らす。

 でも。

 球速だけじゃない。

 スライダー。

 秋より。

 曲がり始めが遅い。

 そして。

 真っすぐとの組み合わせも増えている。

 1番。

 三振。

 2番。

 セカンドゴロ。

 俺。

 3番。

 打席へ入る。

 真田が。

 少し笑った。

「久しぶり」

「秋以来」

「今日は打たせない」

「前も聞いた」

「今日は本当に」

「それも前聞いた」

「うるさい」

 初球。

 136km/h。

 内角。

 見送る。

「ストライク!」

 速い。

 でも。

 見える。

 2球目。

 スライダー。

 外へ逃げる。

 見送る。

 ワンボール、ワンストライク。

 3球目。

 135km/h。

 外角。

 ファウル。

「……」

 秋より。

 速い。

 スライダーもいい。

 でも。

 俺も。

 秋のままじゃない。

 4球目。

 スライダー。

 低め。

 バットを止める。

 ツーボール、ツーストライク。

 5球目。

 真っすぐ。

 136km/h。

 外角高め。

「っ!」

 振る。

 カキィン!

 打球は。

 ライト方向。

 でも。

 少し詰まった。

 ライトフライ。

「アウト!」

 真田が。

 マウンドで小さく拳を握る。

「勝った」

「第1打席な」

「1回は1回」

「覚えとく」

 ベンチへ戻る。

 三上が聞いてくる。

「どう?」

「強くなってる」

「打てそう?」

「打つ」

「質問に答えてない」

 

◇

 

 試合は。

 投手戦になった。

 3回表。

 玲が初めてヒットを許す。

 送りバント。

 ツーアウト2塁。

 2番打者。

 140km/h。

 ファウル。

 132km/h。

 落ちる球。

 見逃し。

 ワンボール、ワンストライク。

 次。

 139km/h。

 センター前。

 2塁ランナーがホームへ。

 0対1。

「先制された」

 ベンチから見る玲は。

 特に焦っていない。

 次の3番。

 初球。

 140。

 2球目。

 131。

 3球目。

 高め140。

 三振。

 追加点はなし。

「玲」

 戻ってきた玲へ声を掛ける。

「何?」

「珍しい」

「何が?」

「打たれたのに普通」

「前も打たれた」

「そうだけど」

「次抑える」

 それだけ。

 秋の玲なら。

 少し。

 球そのものへ意識が向いていた。

 今は。

 もう。

 次の打者を見ている。

 

◇

 

 3回裏。

 俺の第2打席。

 ワンアウト。

 ランナーなし。

 真田。

 初球。

 スライダー。

 見送る。

 ストライク。

 2球目。

 136km/h。

 内角。

 ファウル。

 すぐに。

 ツーストライク。

「……」

 真田が。

 少しだけ口元を上げる。

 追い込んだ。

 そう思っている。

 3球目。

 スライダー。

 外。

 見送る。

 ボール。

 4球目。

 136km/h。

 高め。

 ファウル。

 5球目。

 135km/h。

 外。

 ファウル。

「しつこい」

 真田が呟く。

「打ちたいから」

「じゃあ空振りして」

「嫌」

 6球目。

 スライダー。

 低め。

 見送る。

 ツーボール、ツーストライク。

 7球目。

 真っすぐ。

 136km/h。

 外角。

 踏み込む。

 カキンッ!

 センター前。

「よし!」

 1塁へ。

 真田を見る。

「1対1」

「まだ試合負けてない」

「俺もまだ」

「面倒」

「知ってる」

 4番黒田。

 その初球。

 俺は走った。

「走った!」

 高瀬じゃない。

 相手捕手の送球。

 2塁。

「セーフ!」

 盗塁成功。

 続く黒田のライト前。

 俺は3塁を回る。

「回れ!」

 ホーム。

「セーフ!」

 1対1。

 同点。

 

◇

 

 バックネット裏。

 スーツ姿の男が。

 手元のノートへ何かを書いた。

「成瀬、走れるな」

 隣。

 学校名入りのジャージを着た別の男が答える。

「守れる、打てる、走れる。肩もある」

「投げても130」

「秋はノーヒットノーラン」

「欲張りな選手だ」

「悪い意味か?」

「いや」

 男が。

 グラウンドを見る。

「こういう選手は、どこに置くか悩む」

「うちはショートで見たいな」

「うちは投手も捨てたくない」

 胸元。

 一方には。

 **帝陵学園**。

 もう一方には。

 **蒼峰学院**。

 まだ。

 伊織たちは。

 その会話を知らない。

 

◇

 

 5回表。

 1対1。

 武蔵野。

 先頭がヒット。

 送りバント。

 ワンアウト2塁。

 次の打者。

 玲の140km/hを。

 ライト前へ運ぶ。

 ランナーが帰る。

 1対2。

「また取られた」

 三上が言う。

「でも」

 俺はマウンドを見る。

 玲は。

 崩れていない。

 ワンアウト1塁。

 次。

 140km/h。

 ファウル。

 131km/h。

 高速落下球。

 空振り。

 ツーストライク。

 3球目。

 140。

 高め。

 三振。

 ツーアウト。

 次。

 セカンドゴロ。

 2点目。

 でも。

 それだけ。

 

◇

 

 5回裏。

 真田も。

 まだ投げる。

 球速。

 135。

 136。

 落ちない。

 先頭。

 高瀬が四球。

 三上が送りバント。

 ワンアウト2塁。

 俺。

 第3打席。

 真田が。

 露骨に嫌そうな顔をした。

「またお前」

「3番だから」

「知ってる」

 初球。

 136km/h。

 外。

 ボール。

 2球目。

 スライダー。

 ストライク。

 ワンボール、ワンストライク。

 3球目。

 135km/h。

 ファウル。

 ワンボール、ツーストライク。

 4球目。

 スライダー。

 外。

 見送る。

 ツーボール、ツーストライク。

 真田を見る。

 秋。

 俺は。

 こいつの134を見て。

 足りないと思った。

 あれから。

 俺は130まで上がった。

 カーブも増えた。

 玲は140。

 真田は136。

 みんな。

 進んでいる。

「負けたくないな」

「何?」

「何でもない」

 5球目。

 真っすぐ。

 内角。

 136km/h。

 踏み込む。

 振る。

 カァンッ!

 打球。

 三遊間。

 ショートが飛びつく。

 届かない。

 レフト前。

 高瀬が3塁を回る。

「回れ!」

 ホーム。

「セーフ!」

 2対2。

 同点。

 1塁上。

 真田を見る。

 真田も。

 こっちを見ている。

「2対1」

「個人戦するな」

「そっちが始めた」

「そうだっけ?」

「忘れるな!」

 

◇

 

 6回。

 玲は。

 100球近くなっていた。

 監督がマウンドへ行く。

 少し話す。

 玲が。

 こっちを見る。

 そのまま。

 ベンチへ戻ってきた。

「終わり?」

「うん」

「6回2失点?」

「うん」

「悪くないな」

「勝ってない」

「まだな」

 玲は俺を見る。

「伊織君」

「何?」

「あとお願い」

「任せろ」

「投げるって決まってないぞ」

 高瀬が突っ込む。

 その瞬間。

 監督がこっちを見た。

「成瀬、ブルペン!」

「ほら」

「……本当に投げるのかよ」

 三上がショートの準備を始めた。

 

◇

 

 6回裏。

 城東。

 2対2。

 先頭の黒田。

 真田の135km/hを。

 ライト前。

 出塁。

 5番。

 送りバント。

 ワンアウト2塁。

 6番。

 セカンドゴロ。

 ツーアウト3塁。

 高瀬。

 真田。

 初球。

 スライダー。

 ボール。

 2球目。

 136km/h。

 ファウル。

 3球目。

 135km/h。

 高瀬が振る。

 カキンッ!

 打球。

 センター前。

「抜けろ!」

 落ちる。

 3塁ランナー。

 ホーム。

「セーフ!」

 3対2。

 逆転。

 ベンチが沸く。

 ブルペンで。

 俺も拳を握った。

「ナイス高瀬!」

 高瀬が1塁上で。

 こっちへ向かって拳を上げた。

 

◇

 

 7回表。

 俺が。

 マウンドへ上がる。

 さっきまで。

 ショートを守って。

 真田から2安打。

 盗塁1。

 タイムリー1本。

 今度は。

 投手。

 観客が。

 少しざわついた。

「成瀬も投げるの?」

「ショートじゃなかった?」

「両方やるらしい」

 聞こえる。

「……前より人いると、こういうのも聞こえるな」

 高瀬が座る。

「気になる?」

「ちょっと」

「高校の人も見てるぞ」

「今言う?」

「気にするなって監督が」

「高瀬が気にさせてる」

「悪い」

 笑って。

 ミットを構える。

 先頭。

 初球。

 130km/h。

「ストライク!」

 次。

 109km/h。

 カーブ。

 少し横へ。

 落ちる。

 見逃し。

「ストライク!」

 ツーストライク。

 3球目。

 77km/h。

 チェンジアップ。

 バットが。

 前へ出る。

 空振り。

「ストライク! バッターアウト!」

 三球三振。

 観客が。

 また少しざわつく。

「今の何キロ?」

「70台?」

「その前110くらい?」

 聞こえる。

 俺は。

 少しだけ。

 楽しくなった。

 2人目。

 130。

 カーブ。

 130。

 ショートゴロ。

 三上。

 アウト。

 ツーアウト。

 最後。

 武蔵野の4番。

 初球。

 130km/h。

 ファウル。

 2球目。

 77km/h。

 見逃し。

 ワンボール、ワンストライク。

 3球目。

 109km/h。

 カーブ。

 ファウル。

 ワンボール、ツーストライク。

 高瀬を見る。

 サイン。

 外角低め。

 ストレート。

 頷く。

 130km/h。

 カンッ!

 セカンドゴロ。

「アウト!」

 試合終了。

 3対2。

 城東シニア。

 春季大会優勝。

 

◇

 

 整列。

 挨拶。

 真田が。

 帰り際に俺たちの方へ来た。

「水城」

「何?」

「次は打つ」

「うん」

「成瀬」

「何?」

「次は打たせない」

「それ毎回言ってる」

「次こそ」

「俺も次打つ」

「だから嫌なんだよ」

 真田が笑う。

「夏また」

「うん」

 玲が答える。

 俺も。

「またな」

 そう返した。

 

◇

 

 片付けをしていると。

 監督に呼ばれた。

「成瀬、水城」

「はい」

「はい」

 行くと。

 見覚えのない大人が2人。

 1人は。

 胸元に帝陵学園。

 もう1人は。

 蒼峰学院。

「今日はいい試合だったね」

 帝陵学園の男が言う。

「ありがとうございます」

 玲と一緒に頭を下げる。

「水城君」

「はい」

「中学2年で140。面白い投手だね」

「ありがとうございます」

「まだ伸びそうだ」

「伸ばします」

 即答。

 男が笑った。

「頼もしいな」

 次。

 俺を見る。

「成瀬君」

「はい」

「君は忙しいな」

「?」

「ショートを守って、打って、走って、最後は投げる」

「ああ」

「どれが一番好き?」

 少し。

 考える。

「全部です」

「……全部?」

「はい」

 男が。

 少しだけ笑う。

「なるほど」

 蒼峰学院の男も。

 俺を見ていた。

「投手も続けたい?」

「続けたいです」

「ショートも?」

「やりたいです」

「打つのも?」

「やりたいです」

「欲張りだな」

「よく言われます」

 監督が横で笑っていた。

「まだ中2です」

 蒼峰学院の男が言う。

「今すぐ進路を決める話じゃない。ただ、うちも君たちを見ている。それだけ覚えておいて」

「はい」

「また試合を見に来るよ」

 2人は。

 監督へ名刺を渡し。

 離れていった。

 

◇

 

「……高校のスカウト」

 帰り道。

 まだ少し不思議だった。

 中学2年。

 まだ。

 高校なんて。

 先の話だと思っていた。

 玲が隣を歩く。

「伊織君」

「何?」

「どこ行く?」

「高校?」

「うん」

「分かんない」

「僕も」

「珍しいな」

「何が?」

「玲なら即決しそう」

 玲が少し考えた。

「投手として一番強くなれるところ」

「やっぱり決まってるじゃん」

「学校は決まってない」

「ああ」

「伊織君は?」

 俺も。

 少し考える。

 さっきの言葉。

 どれが一番好き?

 全部。

 あれは。

 本音だ。

「全部伸ばせるところ」

「全部?」

「投手も。ショートも。打撃も。走塁も」

「やっぱり伊織君」

「何が?」

「欲張り」

「玲まで言う?」

「うん」

 でも。

 嫌じゃなかった。

 高校。

 次の育成環境。

 そう考えた瞬間。

 少しだけ。

 楽しみになった。

 

◇

 

 夜。

 今日の試合を思い返す。

 玲。

 140km/h。

 6回2失点。

 真田。

 136km/h。

 スライダー。

 俺。

 ショート。

 3打数2安打。

 1盗塁。

 1打点。

 そして。

 1回無失点。

 カーブも。

 公式戦で使えた。

 高校の人間から。

 見られていた。

「進路か」

 まだ。

 決めない。

 でも。

 選択肢は。

 増える。

 そして。

 選ぶなら。

 一番。

 俺を育てられる場所。

 そう考えた。

 その時の俺は。

 まだ。

 高校を。

 学校ではなく。

 次の育成環境として。

 見始めていた。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。