転生したら人生がサクセスモードだった   作:ねるすと

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第85話

 梅雨が明けきる前。

 城東シニアでは、夏季大会に向けたメンバー発表が行われた。

 練習後、監督が選手たちを集める。

 3年生にとっては最後の夏。

 俺たち2年生にとっても、去年とは意味が違う。

 去年は、上級生についていく立場だった。

 今年はもう。

 試合に出ることを期待される側だ。

 

◇

 

「これから夏季大会の登録メンバーと背番号を発表する」

 監督の声で、グラウンドが静かになる。

 俺は列の中で聞いていた。

 背番号。

 正直、少し気になっている。

 去年より守備も打撃も伸びた。

 投手としても、130km/hまで来た。

 先発も出来る。

 抑えも出来る。

 ショートも守る。

 だったら。

 何番になるんだろう。

「1番、水城玲」

「はい」

 玲が短く返事をする。

 予想通り。

 この夏のエース。

 背番号1。

 玲の現在地を考えれば、誰も文句はない。

「2番、高瀬悠真」

「はい」

 正捕手。

 これも当然。

「3番、黒田大河」

「はい!」

 黒田がいつもより大きな声を出す。

 少しだけ笑いそうになった。

 そして。

「6番、成瀬伊織」

「……はい」

 6。

 一瞬だけ。

 背番号1を見た。

 玲の背中。

 ほんの少し。

 羨ましいと思った。

 投手をやるなら。

 やっぱり1番は特別だ。

 でも。

 6番。

 ショート。

 それも。

 悪くない。

 むしろ。

 かなり好きだ。

 監督が俺を見る。

「成瀬」

「はい」

「お前は基本ショートで出す」

「はい」

「ただし、必要なら投げてもらう」

「はい」

「6番を背負ったまま、マウンドにも上がれ」

「……はい!」

 少しだけ。

 返事が大きくなった。

 

◇

 

 発表が終わる。

 背番号を受け取って、玲のところへ行った。

「1番」

「うん」

「似合うね」

「ありがとう」

「ちょっと羨ましい」

 玲が俺の背番号を見る。

「伊織君は6」

「ショートだからね」

「僕は1」

「知ってる」

「僕の方がエース」

「今はね」

「今も」

「今って言ったじゃん」

「これからも」

「それは分からないでしょ」

 玲が少しだけ笑った。

「じゃあ競争だね」

「いいよ」

 高瀬が後ろから入ってくる。

「お前ら、背番号発表直後に何の勝負始めてんだ」

「エース争い」

「水城が1番だろ」

「今は」

「成瀬、お前まで乗るな」

 高瀬がため息をついた。

 でも。

 こういうのは。

 嫌いじゃない。

 

◇

 

 その日の練習。

 俺は背番号6をつけてショートに入った。

 ノック。

 正面。

 三遊間。

 二遊間。

 深い位置。

 前へ出る打球。

 全部。

 出来るだけ丁寧に処理する。

 6番。

 ショート。

 俺が前世で憧れていたポジションの番号。

 なのに。

 頭のどこかでは。

 投げることも考えている。

 高瀬のサイン。

 玲の球。

 自分のチェンジアップ。

 カーブ。

 もっと球速を上げる方法。

 結局。

 どっちかを選ぶ気なんて。

 最初からなかった。

「成瀬!」

「はい!」

 ノックが飛んでくる。

 深い三遊間。

 追いつく。

 逆シングル。

 そのまま1塁へ。

「アウト!」

 コーチが声を上げる。

「いいぞ!」

「はい!」

 6番。

 いい番号だ。

 でも。

 この番号で。

 投手もやる。

 打つ。

 走る。

 全部やる。

 それが。

 俺らしい気がした。

 

◇

 

 練習後。

 監督に呼ばれた。

「成瀬」

「はい」

「大会中、水城を毎試合投げさせるつもりはない」

「はい」

「連戦になる。お前にも先発してもらう可能性がある」

「分かりました」

「その時、ショートは三上に入ってもらう」

「三上が?」

「去年から練習してるだろ」

「はい」

 三上は本職がセカンドやセンターだけど、俺が投げる時のためにショートも練習している。

「お前が投げても守備が崩れないようにしてある」

「なるほど」

「だから遠慮するな」

「遠慮?」

「投手として出る時に、ショートのことまで考えるなってことだ」

「……」

 少し。

 図星だった。

「分かりました」

「水城が打たれたら、お前を出すこともある」

「はい」

「逆もある。お前が先発して、後ろに水城を置くことも出来る」

 その使い方。

 ちょっと面白い。

「嬉しそうな顔するな」

「してました?」

「してる」

 監督が呆れたように笑った。

 

◇

 

 グラウンドを出る前。

 玲が俺のところへ来た。

「伊織君」

「何?」

「僕が打たれたらお願い」

「急にどうしたの?」

「監督から聞いた」

「ああ」

「伊織君が後ろにいるのは安心する」

 少し意外だった。

「玲でもそう思うんだ」

「何が?」

「誰かが後ろにいると安心するとか」

「思うよ」

「へえ」

「伊織君が打たれた時は僕が投げる」

「打たれないけど」

「僕も」

「じゃあ出番なくない?」

「ないね」

 2人で少し笑う。

 高瀬が離れたところから叫んだ。

「お前らそこでフラグ立てるな!」

「フラグ?」

「何?」

「いや、もういい!」

 高瀬は最近。

 俺たちへの当たりが少し強い。

 

◇

 

 翌日。

 学校へ行くと、早速知られていた。

「成瀬、背番号決まったんでしょ?」

 教室に入ってすぐ、クラスメイトに声を掛けられる。

「うん」

「何番?」

「6」

「ショート?」

「基本は」

「基本?」

「投手もやるから」

「やっぱ投げるんだ」

 別の男子も寄ってくる。

「水城は?」

「1」

「うわ、エースじゃん」

「そうだね」

「成瀬も1番狙わなかったの?」

「ちょっと欲しかった」

「欲しかったんだ」

 笑われた。

 でも。

 本当に少し欲しかった。

「大会いつ?」

「再来週くらい」

「見に行けるかな」

「来るの?」

「成瀬と水城いるならちょっと見たい」

「最近、野球詳しくないやつまで言ってるよな」

 別の女子が会話に入る。

「藤崎さんが色々話してるからじゃない?」

「詩織が?」

 見る。

 自分の席にいた詩織が。

 少しだけ目を逸らした。

「だって、この前ノーヒットノーランしたって聞いたし」

「水城君も140km/h出すんでしょ?」

「すごいよね」

「……詩織」

「何?」

「話したの?」

「少しだけ」

「少し?」

「聞かれたから」

「へえ」

 詩織が俺を見る。

「嫌だった?」

「別に」

「ならいいでしょ」

「うん」

 自分から誰かに話すほどのことでもないと思っていたけど。

 詩織が話していた。

 それが。

 少しだけ不思議だった。

 

◇

 

 昼休み。

 また何人かに大会のことを聞かれた。

「成瀬君、ホームラン打つ?」

「分からない」

「水城君って本当に140出るの?」

「出るよ」

「成瀬君は?」

「130」

「それも十分速くない?」

「玲見た後だと遅く感じるよ」

「感覚おかしいって」

 女子たちが笑う。

 その中の1人が詩織を見る。

「藤崎さんも見に行くんでしょ?」

「え?」

「幼馴染なんだし」

「予定が合えば」

「行こうよ。みんなで」

「いいね」

 話が進んでいく。

 俺は昼飯を食べながら聞いていた。

 去年まで。

 シニアの試合を学校の友達が見に来ることなんて、ほとんどなかった。

 少しずつ。

 変わってきている。

 玲の140km/h。

 俺のノーヒットノーラン。

 春の大会。

 高校のスカウト。

 俺たちがやってきたことが。

 外へ広がり始めている。

 

◇

 

 放課後。

 詩織と校門を出る。

「大会、来るの?」

「さっきも言ったけど、予定が合えば」

「いつなら行けそう?」

「日程分かったら教えて」

「分かった」

 少し歩く。

「伊織君」

「何?」

「背番号6、嬉しい?」

「嬉しいよ」

「でも1番も欲しかったんでしょ?」

「まあ」

「欲張り」

「橘さんにも言われる」

「だと思った」

「でも6も好き」

「ショートだから?」

「うん。前世でも――」

 言いかけて止める。

「前世?」

「……昔から」

「今、前世って言わなかった?」

「気のせい」

「怪しい」

「気のせい」

 危ない。

 詩織がじっとこっちを見る。

「まあいいけど」

「いいんだ」

「伊織君、たまに変なこと言うし」

「そんなに?」

「たまにね」

 詩織が笑った。

 

◇

 

「でも」

 詩織が続ける。

「6番、似合いそう」

「まだ見てないでしょ」

「ショートやってる伊織君、好きだから」

「……」

 一瞬。

 返事が遅れた。

「野球してる時の話ね」

「分かってるよ」

 なぜか。

 詩織の方が先に付け足した。

「投げてる時もすごいけど、ショートの時って色々動くでしょ。見てて面白い」

「そう?」

「うん。だから6番、似合うと思う」

「じゃあ見に来てよ」

 また。

 考える前に言った。

「大会」

 詩織が少し笑う。

「行けたら行く」

「絶対?」

「予定が合えば」

「じゃあ日程決まったらすぐ教える」

「うん」

 その返事を聞いて。

 少しだけ。

 大会が楽しみになった。

 

◇

 

 家へ帰る。

 机に背番号6を置く。

 その横に。

 システムを開く。

 

【夏季大会メンバーに選出されました】

 

【背番号:6】

 

【役割】

遊撃手 / 投手

 

 遊撃手。

 投手。

 2つ。

「いいね」

 俺は笑った。

 1つに絞る必要はない。

 出来るなら。

 両方やる。

 そして。

 打つ。

 走る。

 守る。

 もっと出来ることを増やす。

 

【夏季大会まで:14日】

 

 残り2週間。

 玲はさらに球を速くしようとしている。

 黒田はホームランを増やそうとしている。

 三上は俺が投げる時のショートを練習している。

 高瀬は、投手2人分の配球を考えている。

 橘さんにとっては。

 最後の夏。

 去年。

 俺たちは全国ベスト4で負けた。

 今年は。

 その先へ。

「全国、行くか」

 まずは。

 そこからだった。

 

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