転生したら人生がサクセスモードだった   作:ねるすと

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第9話

 キッズクラスに通い始めてから、三か月が経った。

 俺の日常は、かなり野球中心になっていた。

 幼稚園から帰れば父さんとキャッチボール。家の前で素振り。週末はキッズクラス。雨の日には、家の中でボールを握ったり、野球の本を読んだりする。

 前世でも野球はやっていた。

 でも、今の方がずっと楽しい。

 理由は簡単だった。

 

【素振りを行いました】

【筋力が上がった】

【技術がかなり上がった】

 

【キャッチボールを行いました】

【技術が上がった】

【精神が少し上がった】

 

【走り込みを行いました】

【敏捷がかなり上がった】

【筋力が少し上がった】

 

 やったことが、ちゃんと自分の中に残る。

 そして。

 貯めた経験を、どの能力へ使うのかは俺が決められる。

「……楽しい」

「伊織、何が?」

「なんでもない」

 庭でボールを拾っていた父さんが首を傾げる。

 前世では、画面の中の選手を育てるだけでも何時間だって遊べた。

 それが今は。

 育っているのが、自分自身だ。

 面白くないわけがない。

 

◇

 

 最初の頃。

 俺は経験が貯まるたびに、かなり適当に能力を上げていた。

 最初にコントロール。

 次はミート。

 玲に球速で負けそうになれば、悔しくなって球速。

 ゴロを弾けば守備。

 遠くまで投げたくなれば肩。

 その時欲しいものへ、その時使う。

 今考えると。

 かなり行き当たりばったりだ。

 でも。

 三か月もシステムを使っていると、少しずつ癖が分かってきた。

 素振りをすれば、筋力や技術。

 走れば敏捷。

 キャッチボールなら技術や精神。

 守備練習では、敏捷や技術が貯まりやすい。

 つまり。

 上げたい能力を先に決める。

 そこから逆算して練習する。

 その方が効率がいい。

「完全に育成ゲームだな……」

 前世。

 こういうことを考えるのは好きだった。

 問題は。

 それに気づくまで、三か月かかったことだ。

「球速にも結構使ったんだよな……」

 俺は投手を目指しているわけじゃない。

 ショートがやりたい。

 だったら。

 もっとミートや守備へ回してもよかった。

 ただ。

 速い球を投げられるようになった分、送球も明らかに強くなっている。

 完全に無駄だったわけでもない。

「まあ、一周目だしな」

 最初から最適解なんて分かるわけがない。

 失敗して。

 覚える。

 それでいい。

 

◇

 

 今日は。

 ミートを上げる。

 

【ミート E45】

【蓄積した経験を使用しますか?】

 

 はい。

 

【ミートが上がった】

【E45 → E48】

 

「三つか」

 最初。

 GからFへ上げていた頃と比べると、少しずつ数字が動きにくくなっている。

 三か月前。

 

【ミート G10】

 

 だった能力が。

 

【ミート E48】

 

 ここまで来た。

「十分早いよな」

 五歳児。

 三か月。

 普通に考えれば、とんでもない速度だ。

 他の能力も確認する。

 

【成瀬 伊織】

年齢:5歳

 

【野球能力】

《競技カテゴリ:幼児》

 

弾道  1

ミート E48

パワー F34

走力  E43

肩力  E47

守備力 E45

捕球  E42

 

【投手能力】

球速     44km/h

コントロール D51

スタミナ   E41

 

【特殊能力】

なし

 

「コントロールだけDか」

 最初に一番多く経験を使った能力。

 その分。

 他より一歩先へ進んでいる。

 逆に。

 パワーはまだF。

 ほとんど経験を回していないからだ。

 俺が何へ経験を使ってきたのか。

 能力表を見るだけで、なんとなく分かる。

「こういうの、いいな」

 ちゃんと。

 自分で育てている感じがする。

 

◇

 

 画面へ意識を向ける。

 

【現在の競技カテゴリでは、高能力になるほど成長効率が低下します】

 

 さらに表示を開く。

 

【現在カテゴリ:幼児】

低能力帯は比較的少ない経験で成長します。

能力がカテゴリ上位へ近づくほど、必要な経験は増加します。

身体的成長による制限を受ける能力も存在します。

 

「なるほど」

 G。

 F。

 この辺りはかなり早かった。

 Eに入って。

 少しずつ重くなってきた。

 D。

 C。

 B。

 A。

 上へ行けば行くほど。

 必要な経験も増えていくのだろう。

「幼児カテゴリで、どこまで行けるんだろ」

 C?

 B?

 頑張れば。

 Aまで届く能力もあるのかもしれない。

 分からない。

 だから。

 試したい。

 どの練習が効率いい?

 どの能力を先に伸ばす?

 均等に育てる?

 一つを突出させる?

 経験はすぐ使う?

 貯めておく?

「……」

 分からないことだらけ。

 それが。

 最高に楽しい。

 

◇

 

 翌日。

「伊織君!」

 公園へ行くと、玲がすでに待っていた。

「今日も早いな」

「うん」

「何時から?」

「わかんない」

 玲のお父さんが苦笑する。

「十五分くらいかな。もっと早く行きたがってたんだけど止めた」

「玲……」

「早く野球したかったから」

 玲が当然のように言う。

 この三か月。

 俺と玲は、ほとんど毎週一緒に野球をしている。

 そして。

 玲は。

 俺の予想通り。

 いや。

 予想以上の速度で上手くなっていた。

「投げるよ」

「おう」

 玲がボールを投げる。

 パシッ。

 胸元。

 俺も返す。

 パシッ。

 また返ってくる。

「……」

 最初に会った頃。

 玲のボールは左右へ散りまくっていた。

 今では。

 普通にキャッチボールが成立している。

「伊織君」

「ん?」

「もっと離れよう」

「また?」

「うん」

 二人で数歩下がる。

 玲がボールを握る。

 左足。

 腰。

 腕。

 初めて会った時。

 俺の動きを見ながら真似していたフォーム。

 それが。

 もう。

 玲自身の動きになり始めている。

 シュッ。

 パシッ。

「……」

 胸元。

「お前、また速くなってない?」

「そう?」

「なってる」

「毎日投げてるからかな」

 それだけじゃない。

 俺だって。

 毎日やっている。

 しかも。

 俺にはシステムがある。

 三十八年分の記憶もある。

 最近では。

 必要な経験を考えて、練習内容まで選ぶようになってきた。

 普通なら。

 差は広がってもいい。

 なのに。

 玲は。

 離れない。

 システムも。

 前世の経験も。

 何も持っていないはずなのに。

 普通についてくる。

「伊織君?」

「なに?」

「もっと離れる?」

「……する」

 負けたくない。

 五歳児相手に。

 中身三十八歳の俺が何を張り合っているんだ。

 そう思う。

 でも。

 嫌だった。

 まだ。

 追いつかれたくない。

 

◇

 

「二人ともー!」

 詩織が走ってきた。

「また野球?」

「また野球」

「毎日そればっかり」

「好きだから」

 玲も頷く。

「僕も好き」

「玲ちゃんは伊織君の真似ばっかり」

「だって伊織君上手だから」

「……」

 玲は。

 こういうことを普通に言う。

 最初の頃は。

 単純に嬉しかった。

 でも最近は。

 素直に喜べない。

 だって。

 こいつ。

 俺の真似をしてから。

 その俺より上手くなる可能性がある。

「詩織ちゃんもやる?」

 玲が聞く。

「野球?」

「うん」

「やらない」

 即答。

「楽しいよ?」

「私はピアノとか絵の方が好き」

「そっか」

 そういえば。

 詩織は。

 俺と違って。

 色々やっている。

 ピアノ。

 絵。

 勉強。

 友達と遊ぶ。

 もちろん。

 俺とも遊ぶ。

 自分の人生能力を開く。

 

【人生能力】

学力 54

運動 31

容姿 47

芸術 20

社交 35

精神 64

 

「……」

 運動だけ。

 明らかに伸びが早い。

 当然だ。

 野球ばかりやっている。

 一方。

 学力。

 芸術。

 社交。

 少しずつは上がっている。

 でも。

 野球ほどではない。

 人生能力は。

 実際にそれを経験しなければ伸びない。

 野球のように。

 余った経験を好きな能力へ振ることもできない。

 そして。

 詩織の人物情報。

 

【藤崎 詩織】

関係:幼馴染

好感度:???

恋愛条件:未解放

 

「……まだ見えないか」

「何が?」

「なんでもない」

 前世の記憶が正しければ。

 詩織は。

 野球だけ上手い男では。

 攻略できない。

 学力。

 運動。

 容姿。

 芸術。

 社交。

 全部。

 高い水準が必要だったはずだ。

 でも。

 野球に使う時間を増やせば。

 当然。

 他へ使う時間が減る。

「……なるほどな」

 ゲームなら。

 コマンドを一回選べば。

 一週間が終わる。

 現実は。

 そこまで単純じゃない。

 でも。

 一日は二十四時間。

 これは。

 ゲームより厳しいかもしれない。

 

◇

 

「伊織君」

「ん?」

「今度の日曜日なんだけど」

 詩織が少し恥ずかしそうに言う。

「ピアノの発表会があるの」

「へえ」

「見に来る?」

「日曜日?」

「うん」

 日曜日。

 キッズクラスがある。

「何時?」

「二時」

「午前は?」

「練習?」

「うん」

「……また野球」

 詩織が少しだけ不満そうな顔をする。

「午前中の練習が終わったら行くよ」

「ほんと?」

「うん」

「絶対?」

「絶対」

 詩織が笑った。

 

【藤崎詩織の好感度が少し上がった】

 

「……よし」

「何が?」

「なんでも」

 午前。

 野球。

 午後。

 発表会。

 そのあと。

 三人で遊ぶ。

 全部欲しいなら。

 全部やればいい。

 時間を無駄にしなければ。

 きっとできる。

 少なくとも。

 今の俺は。

 そう思っていた。

 

◇

 

 その日の帰り。

「伊織君」

 玲が俺の隣を歩く。

「なに?」

「日曜日、午前だけ?」

「うん」

「午後は?」

「詩織のピアノ」

「僕も行く」

「え?」

「詩織ちゃんの発表会」

 後ろを歩いていた詩織が振り返る。

「玲ちゃんも来るの?」

「行っていい?」

「いいよ!」

 詩織が嬉しそうに笑う。

「じゃあ三人だね」

「そうだな」

 野球をして。

 発表会へ行って。

 そのあと。

 三人で遊ぶ。

 結構忙しい。

 でも。

 悪くない。

 前世の俺には。

 こういう幼馴染も。

 一緒に夢を追いかける友達も。

 いなかった。

 いや。

 本当は。

 いたのかもしれない。

 俺が。

 大切にしなかっただけで。

「伊織君?」

「ん?」

「また難しい顔してる」

 玲が言う。

「五歳児に難しいことなんてないだろ」

「伊織君も五歳だよ?」

「……そうでした」

 詩織が笑う。

 玲も笑う。

 俺も。

 少しだけ笑った。

 

◇

 

 家へ帰り。

 その日の経験を確認する。

 

【キャッチボールを行いました】

【技術が上がった】

【精神が少し上がった】

 

 今日は。

 肩力へ使ってみる。

 

【肩力 E47】

【蓄積した経験を使用しますか?】

 

 はい。

 

【肩力が上がった】

【E47 → E49】

 

「あと一つ」

 五十から。

 D。

 コントロールに続いて。

 二つ目のD能力が見えてきた。

 三か月前。

 GやFばかりだった俺が。

 少しずつ。

 次のランクへ手を伸ばしている。

「……システム、やっぱりすごいな」

 でも。

 同時に分かってきた。

 俺はまだ。

 全然使いこなせていない。

 玲に負けそうだから球速。

 打てなかったからミート。

 エラーしたから守備。

 その場その場で。

 かなり適当に育ててきた。

 もし。

 最初から今の知識があったら?

 もっと。

 強くなれていたかもしれない。

「まあ」

 次から。

 上手くやればいい。

 今の俺は。

 まだ。

 一周目なのだから。

 画面を閉じる。

 昼間の玲を思い出す。

 システムを覚えるほど。

 俺の成長は速くなる。

 なのに。

 あいつも。

 普通についてくる。

 だから。

 もっと育てたくなる。

「次はDだな」

 俺は。

 完全に。

 自分自身を育てることへ。

 夢中になり始めていた。

 

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