転生したら人生がサクセスモードだった   作:ねるすと

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第9話

 キッズクラスに通い始めてから、三か月が経った。

 俺の日常は、かなり野球中心になっていた。

 幼稚園から帰れば父さんとキャッチボール。家の前で素振り。週末はキッズクラス。雨の日には、家の中でボールを握ったり、野球の本を読んだりする。

 前世でも野球はやっていた。

 でも、今の方がずっと楽しい。

 理由は簡単だった。

 

【素振りを行いました】

【筋力が上がった】

【技術がかなり上がった】

 

【キャッチボールを行いました】

【技術が上がった】

【精神が少し上がった】

 

【走り込みを行いました】

【敏捷がかなり上がった】

【筋力が少し上がった】

 

 やったことが、ちゃんと自分の中に残る。

 そして。

 貯めた経験を、どの能力へ使うのかは俺が決められる。

「……楽しい」

「伊織、何が?」

「なんでもない」

 庭でボールを拾っていた父さんが首を傾げる。

 前世では、画面の中の選手を育てるだけでも何時間だって遊べた。

 それが今は。

 育っているのが、自分自身だ。

 面白くないわけがない。

 

 

 最初の頃。

 俺は経験が貯まるたびに、かなり適当に能力を上げていた。

 最初にコントロール。

 次はミート。

 玲に球速で負けそうになれば、悔しくなって球速。

 ゴロを弾けば守備。

 遠くまで投げたくなれば肩。

 その時欲しいものへ、その時使う。

 今考えると。

 かなり行き当たりばったりだ。

 でも。

 三か月もシステムを使っていると、少しずつ癖が分かってきた。

 素振りをすれば、筋力や技術。

 走れば敏捷。

 キャッチボールなら技術や精神。

 守備練習では、敏捷や技術が貯まりやすい。

 つまり。

 上げたい能力を先に決める。

 そこから逆算して練習する。

 その方が効率がいい。

「完全に育成ゲームだな……」

 前世。

 こういうことを考えるのは好きだった。

 問題は。

 それに気づくまで、三か月かかったことだ。

「球速にも結構使ったんだよな……」

 俺は投手を目指しているわけじゃない。

 ショートがやりたい。

 だったら。

 もっとミートや守備へ回してもよかった。

 ただ。

 速い球を投げられるようになった分、送球も明らかに強くなっている。

 完全に無駄だったわけでもない。

「まあ、一周目だしな」

 最初から最適解なんて分かるわけがない。

 失敗して。

 覚える。

 それでいい。

 

 

 今日は。

 ミートを上げる。

 

【ミート E45】

【蓄積した経験を使用しますか?】

 

 はい。

 

【ミートが上がった】

【E45 → E48】

 

「三つか」

 最初。

 GからFへ上げていた頃と比べると、少しずつ数字が動きにくくなっている。

 三か月前。

 

【ミート G10】

 

 だった能力が。

 

【ミート E48】

 

 ここまで来た。

「十分早いよな」

 五歳児。

 三か月。

 普通に考えれば、とんでもない速度だ。

 他の能力も確認する。

 

【成瀬 伊織】

年齢:5歳

 

【野球能力】

《競技カテゴリ:幼児》

 

弾道  1

ミート E48

パワー F34

走力  E43

肩力  E47

守備力 E45

捕球  E42

 

【投手能力】

球速     44km/h

コントロール D51

スタミナ   E41

 

【特殊能力】

なし

 

「コントロールだけDか」

 最初に一番多く経験を使った能力。

 その分。

 他より一歩先へ進んでいる。

 逆に。

 パワーはまだF。

 ほとんど経験を回していないからだ。

 俺が何へ経験を使ってきたのか。

 能力表を見るだけで、なんとなく分かる。

「こういうの、いいな」

 ちゃんと。

 自分で育てている感じがする。

 

 

 画面へ意識を向ける。

 

【現在の競技カテゴリでは、高能力になるほど成長効率が低下します】

 

 さらに表示を開く。

 

【現在カテゴリ:幼児】

低能力帯は比較的少ない経験で成長します。

能力がカテゴリ上位へ近づくほど、必要な経験は増加します。

身体的成長による制限を受ける能力も存在します。

 

「なるほど」

 G。

 F。

 この辺りはかなり早かった。

 Eに入って。

 少しずつ重くなってきた。

 D。

 C。

 B。

 A。

 上へ行けば行くほど。

 必要な経験も増えていくのだろう。

「幼児カテゴリで、どこまで行けるんだろ」

 C?

 B?

 頑張れば。

 Aまで届く能力もあるのかもしれない。

 分からない。

 だから。

 試したい。

 どの練習が効率いい?

 どの能力を先に伸ばす?

 均等に育てる?

 一つを突出させる?

 経験はすぐ使う?

 貯めておく?

「……」

 分からないことだらけ。

 それが。

 最高に楽しい。

 

 

 翌日。

「伊織君!」

 公園へ行くと、玲がすでに待っていた。

「今日も早いな」

「うん」

「何時から?」

「わかんない」

 玲のお父さんが苦笑する。

「十五分くらいかな。もっと早く行きたがってたんだけど止めた」

「玲……」

「早く野球したかったから」

 玲が当然のように言う。

 この三か月。

 俺と玲は、ほとんど毎週一緒に野球をしている。

 そして。

 玲は。

 俺の予想通り。

 いや。

 予想以上の速度で上手くなっていた。

「投げるよ」

「おう」

 玲がボールを投げる。

 パシッ。

 胸元。

 俺も返す。

 パシッ。

 また返ってくる。

「……」

 最初に会った頃。

 玲のボールは左右へ散りまくっていた。

 今では。

 普通にキャッチボールが成立している。

「伊織君」

「ん?」

「もっと離れよう」

「また?」

「うん」

 二人で数歩下がる。

 玲がボールを握る。

 左足。

 腰。

 腕。

 初めて会った時。

 俺の動きを見ながら真似していたフォーム。

 それが。

 もう。

 玲自身の動きになり始めている。

 シュッ。

 パシッ。

「……」

 胸元。

「お前、また速くなってない?」

「そう?」

「なってる」

「毎日投げてるからかな」

 それだけじゃない。

 俺だって。

 毎日やっている。

 しかも。

 俺にはシステムがある。

 三十八年分の記憶もある。

 最近では。

 必要な経験を考えて、練習内容まで選ぶようになってきた。

 普通なら。

 差は広がってもいい。

 なのに。

 玲は。

 離れない。

 システムも。

 前世の経験も。

 何も持っていないはずなのに。

 普通についてくる。

「伊織君?」

「なに?」

「もっと離れる?」

「……する」

 負けたくない。

 五歳児相手に。

 中身三十八歳の俺が何を張り合っているんだ。

 そう思う。

 でも。

 嫌だった。

 まだ。

 追いつかれたくない。

 

 

「二人ともー!」

 詩織が走ってきた。

「また野球?」

「また野球」

「毎日そればっかり」

「好きだから」

 玲も頷く。

「僕も好き」

「玲ちゃんは伊織君の真似ばっかり」

「だって伊織君上手だから」

「……」

 玲は。

 こういうことを普通に言う。

 最初の頃は。

 単純に嬉しかった。

 でも最近は。

 素直に喜べない。

 だって。

 こいつ。

 俺の真似をしてから。

 その俺より上手くなる可能性がある。

「詩織ちゃんもやる?」

 玲が聞く。

「野球?」

「うん」

「やらない」

 即答。

「楽しいよ?」

「私はピアノとか絵の方が好き」

「そっか」

 そういえば。

 詩織は。

 俺と違って。

 色々やっている。

 ピアノ。

 絵。

 勉強。

 友達と遊ぶ。

 もちろん。

 俺とも遊ぶ。

 自分の人生能力を開く。

 

【人生能力】

学力 54

運動 31

容姿 47

芸術 20

社交 35

精神 64

 

「……」

 運動だけ。

 明らかに伸びが早い。

 当然だ。

 野球ばかりやっている。

 一方。

 学力。

 芸術。

 社交。

 少しずつは上がっている。

 でも。

 野球ほどではない。

 人生能力は。

 実際にそれを経験しなければ伸びない。

 野球のように。

 余った経験を好きな能力へ振ることもできない。

 そして。

 詩織の人物情報。

 

【藤崎 詩織】

関係:幼馴染

好感度:???

恋愛条件:未解放

 

「……まだ見えないか」

「何が?」

「なんでもない」

 前世の記憶が正しければ。

 詩織は。

 野球だけ上手い男では。

 攻略できない。

 学力。

 運動。

 容姿。

 芸術。

 社交。

 全部。

 高い水準が必要だったはずだ。

 でも。

 野球に使う時間を増やせば。

 当然。

 他へ使う時間が減る。

「……なるほどな」

 ゲームなら。

 コマンドを一回選べば。

 一週間が終わる。

 現実は。

 そこまで単純じゃない。

 でも。

 一日は二十四時間。

 これは。

 ゲームより厳しいかもしれない。

 

 

「伊織君」

「ん?」

「今度の日曜日なんだけど」

 詩織が少し恥ずかしそうに言う。

「ピアノの発表会があるの」

「へえ」

「見に来る?」

「日曜日?」

「うん」

 日曜日。

 キッズクラスがある。

「何時?」

「二時」

「午前は?」

「練習?」

「うん」

「……また野球」

 詩織が少しだけ不満そうな顔をする。

「午前中の練習が終わったら行くよ」

「ほんと?」

「うん」

「絶対?」

「絶対」

 詩織が笑った。

 

【藤崎詩織の好感度が少し上がった】

 

「……よし」

「何が?」

「なんでも」

 午前。

 野球。

 午後。

 発表会。

 そのあと。

 三人で遊ぶ。

 全部欲しいなら。

 全部やればいい。

 時間を無駄にしなければ。

 きっとできる。

 少なくとも。

 今の俺は。

 そう思っていた。

 

 

 その日の帰り。

「伊織君」

 玲が俺の隣を歩く。

「なに?」

「日曜日、午前だけ?」

「うん」

「午後は?」

「詩織のピアノ」

「僕も行く」

「え?」

「詩織ちゃんの発表会」

 後ろを歩いていた詩織が振り返る。

「玲ちゃんも来るの?」

「行っていい?」

「いいよ!」

 詩織が嬉しそうに笑う。

「じゃあ三人だね」

「そうだな」

 野球をして。

 発表会へ行って。

 そのあと。

 三人で遊ぶ。

 結構忙しい。

 でも。

 悪くない。

 前世の俺には。

 こういう幼馴染も。

 一緒に夢を追いかける友達も。

 いなかった。

 いや。

 本当は。

 いたのかもしれない。

 俺が。

 大切にしなかっただけで。

「伊織君?」

「ん?」

「また難しい顔してる」

 玲が言う。

「五歳児に難しいことなんてないだろ」

「伊織君も五歳だよ?」

「……そうでした」

 詩織が笑う。

 玲も笑う。

 俺も。

 少しだけ笑った。

 

 

 家へ帰り。

 その日の経験を確認する。

 

【キャッチボールを行いました】

【技術が上がった】

【精神が少し上がった】

 

 今日は。

 肩力へ使ってみる。

 

【肩力 E47】

【蓄積した経験を使用しますか?】

 

 はい。

 

【肩力が上がった】

【E47 → E49】

 

「あと一つ」

 五十から。

 D。

 コントロールに続いて。

 二つ目のD能力が見えてきた。

 三か月前。

 GやFばかりだった俺が。

 少しずつ。

 次のランクへ手を伸ばしている。

「……システム、やっぱりすごいな」

 でも。

 同時に分かってきた。

 俺はまだ。

 全然使いこなせていない。

 玲に負けそうだから球速。

 打てなかったからミート。

 エラーしたから守備。

 その場その場で。

 かなり適当に育ててきた。

 もし。

 最初から今の知識があったら?

 もっと。

 強くなれていたかもしれない。

「まあ」

 次から。

 上手くやればいい。

 今の俺は。

 まだ。

 一周目なのだから。

 画面を閉じる。

 昼間の玲を思い出す。

 システムを覚えるほど。

 俺の成長は速くなる。

 なのに。

 あいつも。

 普通についてくる。

 だから。

 もっと育てたくなる。

「次はDだな」

 俺は。

 完全に。

 自分自身を育てることへ。

 夢中になり始めていた。

 

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