転生したら人生がサクセスモードだった   作:ねるすと

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第91話

 

「成瀬。先発」

「はい!」

 

全国大会、2回戦。

試合前のミーティングで名前を呼ばれ、すぐに返事をした。

 

昨日は玲が7回を投げ切った。

今日はベンチスタート。その代わり、俺がマウンドへ上がる。

 

「やっぱり来た」

 

高瀬が防具を持ちながら笑った。

 

「何が?」

「昨日から言われてただろ。次は成瀬じゃないかって」

「誰に?」

「知らねえよ。外野で勝手に」

「じゃあ関係ない」

「お前はそうだろうな」

 

マウンドを見る。

全国大会。去年は、ほとんどショートとして立っていた場所だ。

 

でも今年は違う。

投手としても、ちゃんとここまで来た。

 

「成瀬」

 

監督が俺を見る。

 

「6回を目安にする。ただし、球数と内容次第だ」

「はい」

「昨日、水城を見てる打線だ。速い球には目が慣れてると思え」

「分かりました」

 

玲は141km/h。

俺は130km/h。

 

11km/h違う。

 

でも、それでいい。

 

俺には俺の球がある。

 

「高瀬」

「はい」

「任せる」

「了解です」

 

高瀬が俺を見る。

 

「今日どうする?」

「普通に」

「お前ら最近それ好きだな」

「普通に全部使う」

「それ普通じゃねえんだよ」

 

少し笑った。

 

◇

 

1回表。

 

先頭打者。

高瀬が外角低めへ構える。

 

初球。

130km/h。

 

バァンッ!

 

「ストライク!」

 

相手打者が少しだけ遅れる。

昨日の玲を見たあとなら、これくらいは想定している。

 

2球目。

109km/hのカーブが外角へ入る。

 

「ストライク!」

 

見送った。

打者の目が少し動く。

 

今まで、俺の投球で考える速度はほとんど2つだった。

 

130。

77。

 

でも今は、109がある。

 

「……」

 

高瀬がサインを出す。

チェンジアップ。

 

頷く。

 

腕を振る。

 

77km/h。

 

ブンッ!

 

「ストライク! バッターアウト!」

 

完全に前へ出た。

 

「いいな」

 

高瀬がボールを返す。

 

「うん」

 

2番。

 

今度は130km/hを続ける。

ファウル。見逃し。

 

そこからカーブ。

 

打者のバットが途中まで出て止まった。

 

ボール。

 

次。

外角低めへ130km/h。

 

カンッ!

 

セカンド正面。

 

「アウト!」

 

ツーアウト。

 

3番。

初球はチェンジアップ。

 

「ボール!」

 

ほとんど反応しない。

遅い球を最初から捨てている。

 

「……なるほど」

 

前なら、ここからどうやってチェンジアップを使うかだけを考えていた。

 

今は違う。

 

高瀬を見る。

 

ストレートのサイン。

 

130。

ファウル。

 

もう1球。

129。

 

またファウル。

 

打者の意識が速い方へ寄る。

 

そこで。

 

109km/h。

 

「ストライク!」

 

見逃し。

 

ツーストライク。

 

最後。

外角低めへ130km/h。

 

カンッ!

 

「ショート!」

 

三上が正面で捕る。

 

「アウト!」

 

三者凡退。

 

ベンチへ戻る。

 

「どう?」

 

高瀬が聞く。

 

「楽」

「言い方」

「去年より選べる」

「それは俺も思う」

 

130。

109。

77。

 

3つ。

 

速い。

その間。

遅い。

 

その中で、相手が何を待っているのかを見る。

 

「カーブあると全然違うな」

「うん」

「使いすぎんなよ」

「分かってる」

「その返事、水城と同じくらい信用できねえ」

 

◇

 

1回裏。

 

1番、橘さん。

 

カキンッ!

 

センター前ヒット。

 

「ナイス!」

 

2番、三上。

 

送りバント。

 

ワンアウト2塁。

 

そして。

俺の第1打席。

 

昨日は右方向に2本。

 

でも今日は、最初から右だけを考えるつもりはなかった。

 

──グラウンド全部。

 

橘さんに言われた言葉を思い出す。

 

相手投手は右。

130km/h前後のストレートとスライダー。

 

初球。

外角。

 

ボール。

 

2球目。

内角ストレート。

 

「っ」

 

振る。

 

カキンッ!

 

センター前。

 

「回れ!」

 

橘さんが3塁を回る。

 

でも外野は浅い。

 

「ストップ!」

 

ワンアウト1、3塁。

 

「ナイス、成瀬!」

「ありがとうございます!」

 

1塁上から打球が飛んだ場所を見る。

 

センター。

 

昨日は右。

今は真ん中。

 

続く4番、黒田。

 

外角の球をしっかり捉えた。

 

センターフライ。

 

「タッチ!」

 

橘さんがスタート。

 

「セーフ!」

 

1対0。

 

黒田がベンチへ戻りながら俺を見る。

 

「俺の打点」

「知ってる」

「成瀬が返したみたいな顔すんなよ」

「してない」

「してる」

 

高瀬が笑った。

 

「どっちでもいいだろ。点入ったんだから」

 

◇

 

2回表。

 

先頭にセンター前ヒット。

 

今日初めての走者。

 

でも、焦らない。

 

4番。

 

外角130。

ファウル。

 

内角129。

ボール。

 

109km/hのカーブ。

見逃し。

 

ワンボール、ツーストライク。

 

最後。

 

77km/h。

 

チェンジアップ。

 

ブンッ!

 

「ストライク! バッターアウト!」

 

続く5番。

 

初球。

130km/h。

 

カンッ!

 

ショートゴロ。

 

「三上!」

 

2塁。

 

「アウト!」

 

1塁。

 

「アウト!」

 

ダブルプレー。

 

安打は許した。

でも、打者3人で終わる。

 

マウンドを降りながら、少しだけ笑った。

 

◇

 

3回表。

 

この回は三者凡退。

 

2つの三振。

 

130km/hを見せて。

 

109km/hを混ぜて。

 

最後に77km/h。

 

逆もやる。

 

77km/hを見せて。

 

130km/h。

 

そして109km/h。

 

《変幻自在》。

 

特殊能力として表示される前からやっていたことが、今はもっとやりやすい。

 

球が1つ増えただけ。

 

でも。

 

選べる順番は、もっと増えた。

 

◇

 

3回裏。

 

ツーアウト。

ランナーなし。

 

俺の第2打席。

 

相手投手はまだ変わらない。

 

初球。

外角スライダー。

 

ボール。

 

2球目。

外角ストレート。

 

ファウル。

 

昨日なら。

 

右へ。

 

そう考えていたかもしれない。

 

でも違う。

 

右へ打つために覚えたんじゃない。

 

どこに来ても。

強く振るため。

 

3球目。

 

内角。

 

ストレート。

 

「来た」

 

踏み込む。

 

振る。

 

カァァンッ!

 

高い音。

 

打った瞬間に分かった。

 

打球はレフトへ。

 

外野手が下がる。

 

さらに下がる。

 

「入れ!」

 

ベンチから声が飛ぶ。

 

レフトがフェンス手前まで下がり。

 

見上げた。

 

そのまま。

 

越えた。

 

「ホームラン!」

 

「っ……!」

 

思わず拳を握る。

 

1塁。

2塁。

3塁。

 

昨日は、右方向へ強く打てたことが嬉しかった。

 

今日は。

 

内角を。

 

ちゃんと引っ張った。

 

ホームを踏む。

 

「ナイスバッティング!」

「ありがとうございます!」

 

2対0。

 

ベンチへ戻ると、黒田が最初に寄ってきた。

 

「右だけじゃねえのかよ!」

「右だけにする意味ないだろ」

「昨日あれだけ右打ってたじゃん!」

「今日は内角来たから」

「普通みたいに言うな!」

 

高瀬が俺のヘルメットを軽く叩く。

 

「いいから守備行く準備しろ」

「はい」

 

でも。

 

自分でも分かる。

 

笑っていた。

 

嬉しい。

 

◇

 

4回表。

 

先頭にヒットを許した。

 

今日2本目。

 

でも後続は打ち取る。

 

レフトフライ。

 

セカンドゴロ。

 

最後はチェンジアップで三振。

 

無失点。

 

4回裏には下位打線からチャンスを作り、もう1点。

 

3対0。

 

少しずつ。

 

試合がこっちへ傾いていく。

 

◇

 

5回表。

 

先頭打者。

 

130km/h。

 

カァンッ!

 

右中間。

 

外野の間を抜けた。

 

ツーベース。

 

今日3本目のヒット。

 

ノーアウト2塁。

 

今日初めて、はっきりしたピンチ。

 

「タイム」

 

高瀬がマウンドへ来る。

 

「どう?」

「普通」

「それ聞いてねえ」

「打者?」

「そう」

 

相手ベンチを見る。

 

「速い方に合わせてる」

「だよな」

「カーブも見始めてる」

「じゃあ?」

 

少し考える。

 

「一回、遅くする」

 

高瀬が笑った。

 

「了解」

 

次の打者。

 

初球。

77km/h。

 

「ストライク!」

 

見送る。

 

2球目。

129km/h。

 

ファウル。

 

3球目。

109km/h。

 

カーブ。

 

「ボール!」

 

ワンボール、ツーストライク。

 

全部見せた。

 

次。

 

130km/h。

高め。

 

ブンッ!

 

「ストライク! バッターアウト!」

 

三振。

 

ワンアウト2塁。

 

続く打者はセカンドゴロ。

 

ランナーは3塁へ。

 

ツーアウト3塁。

 

4番。

 

初球。

外角130。

 

ファウル。

 

2球目。

109。

 

見逃し。

 

ストライク。

 

追い込む。

 

高瀬を見る。

 

チェンジアップ。

 

一度首を振る。

 

もう一度。

同じサイン。

 

今度は頷いた。

 

速い球を意識させた。

 

真ん中も見せた。

 

なら。

 

最後。

 

腕を振る。

 

77km/h。

 

打者の身体が前へ出る。

 

でも。

 

バットは止まった。

 

「ボール!」

 

見た。

 

「……」

 

高瀬を見る。

 

少し笑っていた。

 

次。

 

同じ腕の振り。

 

130km/h。

 

外角低め。

 

カンッ!

 

「セカンド!」

 

三上が捕る。

 

「アウト!」

 

無失点。

 

ベンチへ戻る。

 

「今の最後、チェンジアップでもよかったな」

 

高瀬が言う。

 

「うん」

「何で真っすぐ?」

「最後、遅いの意識したから」

「だよな」

 

水を飲む。

 

前なら。

 

特殊能力が発動した。

経験値が入る。

 

そんなことを真っ先に考えていたかもしれない。

 

今は。

 

抑えられたことが。

 

普通に嬉しかった。

 

◇

 

5回裏。

 

3対0。

 

ランナー1塁。

 

俺の第3打席。

 

相手投手は左へ代わっていた。

 

初球。

外角ストレート。

 

見逃し。

 

2球目。

外へ逃げる変化球。

 

ボール。

 

3球目。

 

また外。

 

ストレート。

 

「そこ」

 

踏み込む。

 

振り切る。

 

カァンッ!

 

打球は右中間へ。

 

低く。

 

強く。

 

外野の間を抜ける。

 

「回れ!」

 

1塁ランナーが3塁を回る。

 

俺も1塁を蹴る。

 

「セーフ!」

 

2塁。

 

そして。

 

「セーフ!」

 

ホーム。

 

4対0。

 

タイムリーツーベース。

 

2塁ベースの上で息を吐く。

 

第1打席はセンター。

 

第2打席はレフト。

 

今はライト方向。

 

左。

真ん中。

右。

 

全部に飛んだ。

 

「……楽しいな」

 

自然に口から出た。

 

◇

 

6回表。

 

4対0。

 

先頭を打ち取る。

 

ワンアウト。

 

次の打者。

 

カンッ!

 

センター前。

 

今日4本目のヒット。

 

ワンアウト1塁。

 

初球。

 

ランナーがスタート。

 

「走った!」

 

高瀬が立ち上がる。

 

送球。

 

「セーフ!」

 

盗塁。

 

ワンアウト2塁。

 

続く打者はセカンドゴロ。

 

ランナーが進む。

 

ツーアウト3塁。

 

相手の4番。

 

初球。

129km/h。

 

ファウル。

 

2球目。

109km/h。

 

見逃し。

 

ツーストライク。

 

3球目。

 

130km/h。

 

高め。

 

カァンッ!

 

センターへ。

 

橘さんが下がる。

 

「オーライ!」

 

捕球。

 

3塁ランナーがスタート。

 

「ホーム!」

 

返球。

 

でも。

 

「セーフ!」

 

4対1。

 

犠牲フライ。

 

今日初めての失点。

 

「成瀬!」

 

高瀬の声。

 

頷く。

 

「大丈夫」

 

次の5番。

 

初球。

130km/h。

 

ファウル。

 

次。

 

カーブ。

 

見逃し。

 

ツーストライク。

 

最後。

 

チェンジアップ。

 

ブンッ!

 

「ストライク! バッターアウト!」

 

7つ目。

 

チェンジ。

 

マウンドを降りる。

 

監督が短く言った。

 

「ここまで」

「はい」

「よく投げた」

「ありがとうございます!」

 

6回。

 

4安打。

1失点。

四球0。

7奪三振。

 

全国大会。

 

先発として。

 

ちゃんと試合を作れた。

 

◇

 

6回裏。

 

橘さんがツーベース。

 

三上が送りバント。

 

ワンアウト3塁。

 

俺の第4打席。

 

打席へ向かおうとしたところで、相手ベンチから声が飛んだ。

 

「歩かせろ!」

 

「……マジか」

 

捕手が立つ。

 

敬遠。

 

1塁へ歩く。

 

今日初めて、バットを振らない打席。

 

続く黒田が打席へ入る。

 

「俺で勝負かよ」

 

少し笑っていた。

 

「打って」

「言われなくても!」

 

外角。

 

カァンッ!

 

高い打球。

 

センター。

 

十分な距離。

 

橘さんがタッチアップ。

 

「セーフ!」

 

5対1。

 

黒田がベンチへ戻る。

 

「仕事したぞ」

「ありがとうございます」

「何で敬語なんだよ」

 

◇

 

7回表。

 

マウンドには3年生投手。

 

俺はベンチから最後のアウトを見る。

 

カンッ!

 

セカンドゴロ。

 

「アウト!」

 

ゲームセット。

 

5対1。

 

全国大会、2回戦突破。

 

整列を終える。

 

「成瀬」

 

高瀬が隣へ来た。

 

「何?」

「今日、全部やったな」

「全部?」

「投げて」

「うん」

「打って」

「うん」

「ホームランまで打って」

「うん」

「何その顔」

 

少し考える。

 

でも。

 

答えはすぐに出た。

 

「楽しかった」

「……そうかよ」

 

高瀬が少し笑う。

 

ベンチへ戻ると、玲が待っていた。

 

「ナイスピッチング」

「ありがとう」

 

それだけ。

 

今日は。

 

俺の試合だった。

 

◇

 

帰宅後。

 

システムを開く。

 

【全国大会で先発勝利を記録しました】

【6回1失点を記録しました】

【投球経験を大量に獲得しました】

【制球経験を獲得しました】

【変化球運用経験を獲得しました】

 

続いて。

 

【打撃経験を大量に獲得しました】

【長打経験を獲得しました】

【本塁打を記録しました】

【逆方向への強打経験を獲得しました】

 

「おお」

 

今日の結果を見る。

 

【投球結果】

6回

被安打 4

失点 1

与四球 0

奪三振 7

 

そして。

 

【打撃結果】

3打数3安打

本塁打 1

二塁打 1

打点 2

四球 1

 

センター前。

 

レフトへのホームラン。

 

右中間へのツーベース。

 

画面を見ながら、昼間の打球を思い出す。

 

右だけじゃない。

 

左だけでもない。

 

真ん中も。

 

全部。

 

「まだ打てるな」

 

もっと打ちたい。

 

もっと強い打球を。

 

もっと色んな場所へ。

 

でも。

 

今日はそれより。

 

投げて。

 

打って。

 

勝った。

 

その全部が。

 

「楽しかった」

 

もう一度。

 

口にした。

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