転生したら人生がサクセスモードだった   作:ねるすと

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第95話

全国大会、準決勝。

 

城東シニアの相手は、武蔵野シニア。

春の大会でも戦った相手だ。

 

そして、そのマウンドには。

 

「真田、136!」

 

ブルペンから声が聞こえる。

 

真田蒼士。

春と同じ136km/h。でも、数字が同じだからといって、何も変わっていないわけじゃない。

 

身体は少し大きくなっているし、投げている球も前より強く見える。

 

真田がこっちを見る。

目が合った。

 

「成瀬」

 

少し離れたところから声をかけてくる。

 

「今日、お前が投げるんだな」

「うん」

「ちょうどいい」

 

真田が笑った。

 

「春の借り、返すから」

「返させないよ」

 

それだけ話して、それぞれのベンチへ戻る。

 

今日は俺が先発。打順も変わらない。

3番、ピッチャー。

 

投げて、打つ。

 

相手が真田なら、なおさら楽しみだった。

 

◇

 

1回表。

 

先攻は城東。

 

1番、橘さんがセカンドゴロ。

2番、三上がライトフライ。

 

ツーアウトで、俺の第1打席。

 

真田がマウンドの上からこっちを見る。

 

初球は136km/h。

外角いっぱい。

 

バァンッ!

 

「ストライク!」

 

速い。

 

玲の141km/hとは違う。

球速だけなら玲の方が上。でも真田のストレートは、最後まで強い。

 

2球目は外へ逃げるスライダー。

振らずにボール。

 

3球目、135km/hをファウル。

 

ワンボール、ツーストライク。

 

真田がセットに入り、腕を振る。

 

スライダー。

 

「っ!」

 

振る。

 

でも、バットの下を通った。

 

「ストライク! バッターアウト!」

 

三振。

 

真田が小さく拳を握る。

俺はそのままベンチへ戻った。

 

「どうだった?」

「いい」

「感想それだけ?」

「スライダー、春より曲がる」

「嬉しそうだな」

「うん」

 

打てなかった。

だから、次が楽しみになった。

 

◇

 

1回裏。

 

今度は俺がマウンドへ上がる。

 

先頭打者。

 

高瀬は初球から内角に構えた。

 

130km/h。

 

「ストライク!」

 

見逃し。

 

もう一度、同じところ。

 

今度は打者が振ってきた。

 

カンッ!

 

ファウル。

 

速い球には合っている。

 

高瀬が外へ構える。

少し迷ったけど、頷いた。

 

外角低め。

 

130km/h。

 

カンッ!

 

ライト前。

 

いきなりヒット。

 

ノーアウト1塁。

 

同じストレートを続けて、最後に外へ。

狙いは悪くなかった。

 

でも、打たれた。

 

「切り替えよう」

 

高瀬がボールを返す。

 

2番は送りバントの構え。

 

ここで遅い球はいらない。

バントを失敗させようとして四球にする方が嫌だ。

 

外角へ129km/h。

 

コツンッ。

 

「俺!」

 

前へ出て捕り、1塁へ送る。

 

「アウト!」

 

ワンアウト2塁。

 

3番。

 

初球は高めの130km/h。

 

振り遅れてファウル。

 

もう一度。

今度は内角。

 

カァンッ!

 

またファウル。

 

速い球に合わせようとしている。

 

高瀬を見る。

 

チェンジアップのサイン。

 

今なら効く。

 

腕を振る。

 

77km/h。

 

ブンッ!

 

「ストライク! バッターアウト!」

 

身体が完全に前へ出た。

 

ツーアウト2塁。

 

4番、真田。

 

打席に入る。

 

「投手同士だね」

 

高瀬がマスク越しに言った。

 

「打たせないよ」

 

真田は多分、さっきの3番を見ている。

 

速い球を続けて、最後に遅い球。

 

なら。

 

同じことはしない。

 

初球。

 

77km/h。

 

真田は振らない。

 

「ストライク!」

 

少しだけ眉が動いた。

 

2球目。

 

またチェンジアップ。

 

今度は待っていた。

 

カンッ!

 

ファウル。

 

やっぱり合わせてきた。

 

高瀬のサインはストレート。

 

頷く。

 

内角へ130km/h。

 

詰まった。

 

カンッ!

 

力のないセカンドゴロ。

 

「アウト!」

 

無失点。

 

マウンドを降りる時、真田がこっちを見る。

 

「遅すぎ」

「2球目は待ってたでしょ」

「次打つ」

「どうぞ」

 

俺は笑った。

 

◇

 

2回表。

 

4番、黒田から。

 

真田の135km/hを捉えた。

 

カァンッ!

 

でも、センター正面。

 

高瀬はスライダーで三振。

6番もショートゴロ。

 

三者凡退。

 

真田の調子はいい。

 

◇

 

2回裏。

 

先頭の5番。

 

初球のストレートを見送る。

 

2球目。

 

同じ外角へ130km/h。

 

今度は振ってきた。

 

カンッ!

 

センター前。

 

続く6番。

 

さっきの打者がストレートを打った。

高瀬は初球からカーブを要求する。

 

109km/h。

 

打者は待っていた。

 

カァンッ!

 

左中間。

 

「抜けた!」

 

ノーアウト2、3塁。

 

今日最初のピンチ。

 

高瀬がマウンドへ来る。

 

「カーブ狙ってたな」

「うん」

「どうする?」

「1点はいい」

「了解」

 

7番。

 

内野は通常位置。

 

ここで三振が欲しい。

 

初球。

 

内角へ130km/h。

 

詰まってファウル。

 

2球目。

 

もう一度ストレート。

 

今度は高め。

 

ブンッ!

 

空振り。

 

ツーストライク。

 

打者の目線は完全に上。

 

高瀬が低めへ構えた。

 

チェンジアップ。

 

77km/h。

 

ブンッ!

 

「ストライク! バッターアウト!」

 

ワンアウト2、3塁。

 

8番。

 

初球から打ってきた。

 

カンッ!

 

セカンドゴロ。

 

三上が捕る間に、3塁ランナーがスタートする。

 

「1塁!」

 

アウト。

その間にホームイン。

 

0対1。

 

ツーアウト3塁。

 

9番。

 

初球は外角130km/h。

 

振り遅れたファウル。

 

高瀬がもう一度同じところへ構える。

 

129km/h。

 

カンッ!

 

詰まった打球はライトへ。

 

「オーライ!」

 

捕球。

 

1点。

それだけで止めた。

 

ベンチへ戻ると、高瀬が隣に座る。

 

「予定通り」

「うん」

「打って返せ」

「それは黒田たちにも言って」

「お前3番だろ」

「分かってる」

 

◇

 

3回表。

 

7番がセカンドゴロ。

8番はスライダーで三振。

 

9番もレフトフライに倒れた。

 

三者凡退。

 

0対1のまま。

 

◇

 

3回裏。

 

先頭の1番はセンターフライ。

 

2番の打球はセカンドの右へ。

 

「三上!」

 

追いつく。

でも、グラブの先で弾いた。

 

「セーフ!」

 

記録はエラー。

 

ワンアウト1塁。

 

3番。

 

前の打席では速い球を意識させて、チェンジアップで三振を取った。

 

同じ攻めはしない。

 

初球。

 

109km/hのカーブ。

 

見逃し。

 

「ストライク!」

 

2球目。

 

もう一度カーブ。

 

今度はバットが出る。

 

ファウル。

 

ツーストライク。

 

遅い球に意識が寄った。

 

高瀬を見る。

 

ストレート。

 

外角高めへ130km/h。

 

ブンッ!

 

「ストライク!」

 

振り遅れ。

 

三振。

 

ツーアウト1塁。

 

そして、真田の第2打席。

 

「今度は打つ」

「どうぞ」

 

前の打席。

 

チェンジアップを2球続けて、最後は内角のストレートで詰まらせた。

 

なら、最初から速い球。

 

130km/h。

 

真田が振る。

 

カァンッ!

 

ファウル。

 

合っている。

 

もう一球。

 

129km/h。

 

今度は見送った。

 

「ボール!」

 

少し高い。

 

高瀬がカーブを要求する。

 

一度、首を振った。

 

まだ速い球を意識させたい。

 

3球目。

 

外角へ130km/h。

 

ファウル。

 

ツーストライク。

 

ここで初めて。

 

109km/h。

 

カーブ。

 

真田が待っていた。

 

カンッ!

 

センター前。

 

「ナイス!」

 

ツーアウト1、2塁。

 

「……待ってたか」

 

真田が1塁上からこっちを見る。

 

「打った」

「カーブ狙ってた?」

「さあ?」

「顔が嬉しそう」

「うるさい」

 

やられた。

 

でも、面白い。

 

5番。

 

真田の打席でカーブを使った直後。

 

高瀬のサインはストレート。

 

初球。

 

内角130km/h。

 

カンッ!

 

詰まった打球はショート正面。

 

「アウト!」

 

チェンジ。

 

0対1のまま。

 

◇

 

4回表。

 

打順は1番から。

 

橘さんがレフト前ヒット。

 

ノーアウト1塁。

 

三上には送りバントのサイン。

しっかり1塁側へ転がす。

 

ファーストが捕って1塁へ。

 

「アウト!」

 

ワンアウト2塁。

 

そして、俺の第2打席。

 

真田を見る。

向こうも、こっちを見ている。

 

初球は136km/h。

内角。

 

ファウル。

 

2球目は外へ逃げるスライダー。

ボール。

 

3球目は135km/h。

また内角。

 

見送る。

 

「ボール!」

 

ツーボール、ワンストライク。

 

真田がセットに入る。

 

4球目。

 

外角のスライダー。

 

春なら、センター方向へ返そうとしていたかもしれない。

 

今は違う。

 

昨日まで、ずっとやってきた。

外の球を、右へ強く。

 

踏み込む。

 

振り切る。

 

カァァンッ!

 

打球が高く上がった。

 

方向はライト。

 

「行った!」

 

ベンチから声が飛ぶ。

 

ライトが下がる。

フェンス手前まで追い、そのまま見上げた。

 

打球は、その頭上を越えた。

 

「入った!」

 

一瞬、音が遠くなった。

 

ライトスタンド。

 

逆方向へのホームラン。

 

「……マジか」

 

自分でも声が出た。

 

1塁を回る。

 

春にも真田の球を打った。

でも、今のは違う。

 

外角のスライダーを逆方向へ。

それも、スタンドまで運んだ。

 

3塁を回ると、橘さんがホームで待っている。

 

「ナイスバッティング!」

「ありがとうございます!」

 

ホームイン。

 

2対1。

 

逆転。

 

ベンチへ戻ると、黒田が両手で俺のヘルメットを叩いた。

 

「お前、それ右に入れるのかよ!」

「俺も今ちょっと驚いてる」

「ちょっとかよ!」

「結構」

「だろうな!」

 

高瀬も笑っている。

 

「グラウンド全部、どころじゃなくなってきたな」

「まだ1本」

「その1本がホームランなんだよ」

 

その後、黒田はショートゴロ。

高瀬も三振に倒れてチェンジ。

 

マウンドを見る。

 

真田が新しいボールを受け取っていた。

目が合う。

 

悔しそうだった。

 

でも、笑っていた。

 

俺も笑う。

 

やっぱり、楽しい。

 

◇

 

4回裏。

 

逆転した直後。

 

先頭の6番。

 

さっきはカーブを長打にされている。

 

高瀬も分かっている。

 

初球。

 

130km/h。

 

ファウル。

 

2球目もストレート。

 

今度はボール。

 

3球目。

 

またストレート。

 

空振り。

 

ワンボール、ツーストライク。

 

ここまで全部速い球。

 

高瀬が初めてチェンジアップを要求する。

 

77km/h。

 

ブンッ!

 

「ストライク! バッターアウト!」

 

ワンアウト。

 

7番にはストレートを中心に攻める。

何球か粘られ、フルカウント。

 

最後もストレート。

 

外れた。

 

「ボールフォア!」

 

今日初めての四球。

 

ワンアウト1塁。

 

8番は送りバント。

 

ツーアウト2塁。

 

9番。

 

前の打席はストレートで詰まらせた。

 

初球。

 

また130km/h。

 

見逃し。

 

「ストライク!」

 

2球目も速い球。

 

ファウル。

 

ツーストライク。

 

高瀬が外角低めに構える。

 

今度はカーブ。

 

109km/h。

 

バットが止まる。

 

「ボール!」

 

見られた。

 

なら。

 

もう一度カーブは使わない。

 

高めへ130km/h。

 

ブンッ!

 

「ストライク! バッターアウト!」

 

無失点。

 

2対1のまま。

 

◇

 

5回表。

 

6番から始まる。

 

ライトフライ。

 

7番はセカンドゴロ。

 

8番はスライダーで三振。

 

真田も崩れない。

 

さっきホームランを打ったのに、その次の回には何もなかったみたいに抑えてくる。

 

だから強い。

 

◇

 

5回裏。

 

先頭の1番。

 

第1打席では外のストレートをライト前に運ばれている。

 

高瀬が内角に構えた。

 

130km/h。

 

ファウル。

 

もう一度内角。

 

129km/h。

 

今度は詰まりながらもバットを合わせてきた。

 

カンッ!

 

打球はセンター前へ落ちる。

 

今日5本目のヒット。

 

ノーアウト1塁。

 

「上手いな」

 

思わず呟く。

 

2番が送りバントを決めて、ワンアウト2塁。

 

3番。

 

前の打席ではカーブを2球続けてから、ストレートで三振を取った。

 

今度は逆。

 

初球から130km/h。

 

ボール。

 

2球目もストレート。

 

ファウル。

 

3球目。

 

さらに130km/h。

 

またファウル。

 

速い球に完全に意識が寄っている。

 

高瀬のサイン。

 

チェンジアップ。

 

頷く。

 

77km/h。

 

打者が待つ。

 

振らない。

 

「ボール!」

 

止まった。

 

読まれた。

 

ツーボール、ツーストライク。

 

高瀬を見る。

 

カーブのサイン。

 

首を振る。

 

今は変化球を待っている。

 

なら。

 

130km/h。

 

外角。

 

カンッ!

 

ライト前。

 

「ホーム!」

 

2塁ランナーが3塁を回る。

 

返球。

 

「セーフ!」

 

2対2。

 

同点。

 

今日6本目のヒット。

 

「……そっちか」

 

考えた。

 

読んだ。

 

でも、打たれた。

 

それも野球だ。

 

ワンアウト1塁。

 

高瀬がマウンドへ来る。

 

「ここまで6本」

「うん」

「でも2点」

「うん」

「次、真田」

「分かってる」

 

真田が打席に入る。

 

前の打席で、真田はカーブを狙って打った。

 

だから。

 

今日はもう、カーブを見せなくてもいい。

 

初球。

 

内角130km/h。

 

ファウル。

 

2球目。

 

また内角。

 

129km/h。

 

今度は見送る。

 

「ボール!」

 

真田が少しだけ後ろに重心を残している。

 

変化球を待っている。

 

高瀬を見る。

 

目が合った。

 

サインはストレート。

 

同じ考え。

 

外角低め。

 

130km/h。

 

カンッ!

 

セカンド正面。

 

「三上!」

 

2塁へ。

 

「アウト!」

 

1塁。

 

「アウト!」

 

ダブルプレー。

 

チェンジ。

 

2対2。

 

真田が1塁へ走りながら、少し悔しそうな顔をしていた。

 

カーブは、投げなかった。

 

◇

 

6回表。

 

9番から。

 

セカンドゴロでワンアウト。

 

1番、橘さん。

 

フルカウントから2球続けてファウルで粘り、最後は外角の球を見送った。

 

「ボールフォア!」

 

ワンアウト1塁。

 

2番、三上。

 

初球。

 

カァンッ!

 

ショート正面。

 

「セカンド!」

 

2塁へ。

 

「アウト!」

 

1塁。

 

「アウト!」

 

ダブルプレー。

 

チェンジ。

 

2対2。

 

これで次の回は、俺から。

 

◇

 

6回裏。

 

この回が最後。

監督からそう言われていた。

 

先頭の5番。

 

前の打席では内角のストレートで詰まらせた。

 

だから今回は外から入る。

 

130km/h。

 

見逃し。

 

「ストライク!」

 

もう一度外。

 

今度は打ってきた。

 

カンッ!

 

センターフライ。

 

ワンアウト。

 

6番。

 

初球。

 

高瀬はカーブを要求した。

 

第2打席でカーブを長打にされている打者。

 

一瞬迷う。

 

でも、今までずっと速い球を意識させてきた。

 

頷く。

 

109km/h。

 

打者が前へ出る。

 

カンッ!

 

ショートゴロ。

 

ツーアウト。

 

最後の7番。

 

ここまでストレートで押してきた相手。

 

初球。

 

130km/h。

 

ファウル。

 

2球目。

 

同じ球。

 

今度は見送った。

 

「ボール!」

 

高瀬のサイン。

 

チェンジアップ。

 

首を振る。

 

まだ。

 

3球目。

 

また130km/h。

 

ファウル。

 

ワンボール、ツーストライク。

 

3球続けて速い球。

 

打者のタイミングが完全にそこへ合っている。

 

高瀬を見る。

 

今度は首を振らない。

 

77km/h。

 

腕を振る。

 

ブンッ!

 

「ストライク! バッターアウト!」

 

6つ目。

 

チェンジ。

 

マウンドを降りる。

 

今日の結果。

 

6回。

被安打6。

失点2。

与四球1。

奪三振6。

 

完璧じゃない。

 

考えても、打たれることはある。

 

でも、そのたびに次を考えた。

 

真田と投げ合って、2対2。

 

「ナイスピッチング」

 

監督が言う。

 

「ありがとうございます」

 

高瀬が俺の肩を叩いた。

 

「あとは打て」

「もう打ったよ」

「もう1回」

「欲張りだね」

「勝ちたいからな」

 

それは、俺も同じだった。

 

◇

 

7回表。

 

先頭は俺。

 

第3打席。

 

マウンドには真田がまだ立っている。

 

2対2。

最後の回。

 

真田がこっちを見る。

 

「今度は打たせない」

「さっきも聞いた気がする」

「言ってない」

「そうだっけ」

 

構える。

 

初球は136km/h。

外角に外れてボール。

 

2球目のスライダーをファウル。

 

3球目。

 

内角135km/h。

 

振る。

 

カキンッ!

 

センター前。

 

「よし!」

 

今日2本目。

 

ノーアウト1塁。

 

4番、黒田。

 

打席へ向かう前に俺を見る。

 

「返せばいいんだろ?」

「お願いします」

「だから何で敬語なんだよ」

 

真田が投げる。

 

初球のスライダーはボール。

2球目、135km/hをファウル。

 

3球目。

 

外角のストレート。

 

黒田が振り切る。

 

カァァンッ!

 

左中間。

 

「抜けた!」

 

走る。

 

1塁を蹴り、2塁へ。

 

外野が打球を追っている。

 

3塁コーチが腕を回した。

 

「回れ!」

 

3塁を蹴る。

 

ホームへ。

 

返球。

 

滑る。

 

「セーフ!」

 

3対2。

 

勝ち越し。

 

黒田が2塁上で拳を握る。

 

「よっしゃあ!」

 

ベンチが沸く。

 

立ち上がって黒田を見る。

 

「ナイス!」

「言っただろ!」

 

打ったのは俺じゃない。

黒田だった。

 

でも、すごく嬉しかった。

 

後続は倒れ、3対2のまま最後の守備へ入る。

 

◇

 

7回裏。

 

俺はショートへ戻る。

 

マウンドには3年生の投手。

 

打順は8番から。

 

3対2。

あと3つ。

 

8番をセカンドゴロ。

 

ワンアウト。

 

9番はレフトフライ。

 

ツーアウト。

 

あと1つ。

 

打席には1番。

 

初球をファウル。

2球目はボール。

 

3球目。

 

カンッ!

 

打球が俺の方へ来る。

 

ショートゴロ。

 

前へ出て捕る。

 

1塁へ。

 

「アウト!」

 

「ゲームセット!」

 

その瞬間、ベンチから全員が飛び出した。

 

3対2。

 

全国大会、準決勝。

 

勝った。

 

決勝進出。

 

◇

 

整列を終える。

 

武蔵野の選手たちと挨拶をする。

真田が俺の前に来た。

 

「……負けた」

「うん」

「ホームラン、あれ反則だろ」

「何が?」

「外のスライダー、ライトに入れるなよ」

「入ったから仕方ない」

「腹立つ」

 

そう言いながら、真田は笑っていた。

 

「次は絶対勝つ」

「うん」

「水城にも」

「玲にも?」

「当たり前だろ。お前ら2人とも倒す」

 

真田らしい。

 

「じゃあ、またやろう」

「絶対な」

 

差し出された拳に、俺も拳を当てた。

 

春とは違う。

全国大会の準決勝。

 

それでも、また野球をやりたいと思った。

 

◇

 

家に帰って、システムを開く。

 

今日の打撃結果。

 

【3打数2安打】

【本塁打 1】

【打点 2】

 

続けて表示が変わる。

 

【逆方向への本塁打を記録しました】

【長打経験を大量に獲得しました】

【打撃経験を獲得しました】

 

そして。

 

【パワー経験値が規定値に到達しました】

 

「お」

 

次の表示を見て、思わず声が出る。

 

【パワー C69 → B70】

 

70。

 

B。

 

小学生の頃から何度も見てきた数字の変化。

それでも、ランクが1つ上がる瞬間はやっぱり嬉しい。

 

今日のホームランを思い出す。

 

外角。

真田のスライダー。

ライトスタンド。

 

「……Bか」

 

まだ伸ばせる。

もっと強く、もっと遠くへ。

 

でも、今日はそれより先に。

 

全国大会、決勝進出。

 

日本一まで。

 

あと1勝だった。

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