相手は東海第一シニア。
派手なスター選手がいるというより、守備と走塁が徹底されているチームだ。大きなミスが少なく、少ないチャンスを確実に得点へ変えてくる。
ここまでの試合を見ても、接戦になればなるほど強い。
「行くぞ!」
「はい!」
先頭に立つ橘さんの声に、全員で応える。
城東は先攻。
このチームで戦う、最後の試合が始まった。
◇
1回表。
先頭の橘さんがフルカウントまで粘り、四球を選ぶ。ノーアウト1塁。
2番、三上はきっちり送りバント。ワンアウト2塁で俺の第1打席が回ってきた。
東海第一の先発は右投手。130km/h前半のストレートに、スライダーと縦の変化球を使う。
初球は外角ストレート。
「ストライク!」
2球目の低めは見送ってボール。3球目、内角へ来たストレートを振る。
カァンッ!
高く上がった打球をセンターが捕った。ツーアウト2塁。
続く黒田もセカンドゴロ。
初回は無得点に終わった。
「次だな」
「うん」
まだ始まったばかり。
◇
1回裏。
玲がマウンドへ上がる。
先頭打者への初球は140km/h。
バァンッ!
「ストライク!」
2球目は141km/h。打者が振る。
カァンッ!
左中間を破られた。
いきなりのツーベース。ノーアウト2塁。
東海第一の2番は迷わず送りバント。玲が処理してワンアウト3塁。
さっそく、相手の形に持ち込まれた。
高瀬が一度マウンドへ行き、短く話して戻ってくる。
3番。
初球の141km/hをファウル。次は少し速度を落とし、最後はチェンジアップ。
カァンッ!
センターへの大きなフライ。
橘さんが捕る。
3塁ランナーがスタート。
「セーフ!」
0対1。
少ないチャンスをきっちり得点に変えてきた。
でも、玲は変わらない。続く4番を速い球で追い込み、最後は141km/h。
ブンッ!
「ストライク! バッターアウト!」
それ以上は取らせなかった。
「1点」
「うん」
「十分」
「分かってる」
ベンチへ戻ってきた玲は、いつも通りだった。
◇
2回表。
先頭は5番、高瀬。
カァンッ!
センター前ヒット。
ノーアウト1塁。
6番は初球を打った。
カンッ!
ショート正面。
「セカンド!」
パァンッ!
「アウト!」
そのまま一塁へ。
パァンッ!
「アウト!」
ダブルプレー。
7番もレフトフライに倒れ、チェンジ。
走者は出た。
でも、東海第一の守備は簡単に崩れない。
◇
2回裏。
玲は5番から。
速い球を2球続けて追い込むと、最後は高速落下球。
ブンッ!
「ストライク! バッターアウト!」
6番にも141km/hを意識させ、高速落下球を挟んでから最後はもう一度速い球。
空振り三振。
7番はセカンドゴロ。
三者凡退。
初回に1点を取られたことなんて、もう残っていないように見えた。
◇
3回表。
8番がセカンドゴロ。
9番もライトフライ。
あっという間にツーアウト。
それでも橘さんがセンター前へ運ぶ。
「ナイス!」
ツーアウト1塁。
三上は四球を選んだ。
ツーアウト1、2塁。
俺の第2打席。
東海第一の投手が何度も2塁を確認する。
初球の外角ストレートはボール。2球目のスライダーも外れた。
ツーボール。
3球目、内角ストレートをファウル。
ツーボール、ワンストライク。
4球目。
外角。
ストレート。
「そこ」
踏み込む。
振り切る。
カァァンッ!
打球は右中間へ。
抜けた。
「回れ!」
橘さんが3塁を回る。
ホームへ。
「セーフ!」
1対1。
三上は3塁で止まる。
俺は2塁へ。
パァンッ!
「セーフ!」
同点のタイムリーツーベース。
拳を握る。
「ナイス、成瀬!」
ベンチから声が飛ぶ。
続く黒田は四球。
ツーアウト満塁。
追加点のチャンスだったが、高瀬はセカンドゴロ。
チェンジ。
それでも、試合は振り出しに戻った。
◇
3回裏。
先頭の8番にセンター前へ運ばれた。今日2本目のヒット。
ノーアウト1塁。
9番は送りバントの構え。
玲は速い球を続け、バントをファウルにさせる。
ツーストライク。
高瀬が低めへ構えた。
高速落下球。
ブンッ!
「ストライク! バッターアウト!」
4つ目。
1番はライトフライ。
2番はショートゴロ。
俺の正面。
前へ出る。
捕る。
一塁へ。
パァンッ!
「アウト!」
無失点。
1対1。
◇
4回表。
6番から始まる。
6番はライトフライ。
7番はセカンドゴロ。
8番もセンターフライ。
三者凡退。
東海第一の先発も崩れない。
◇
4回裏。
東海第一は3番から。
玲は初球から141km/h。
空振り。
もう一度速い球。
ファウル。
最後は高速落下球。
ブンッ!
「ストライク! バッターアウト!」
5つ目。
4番はセンターフライ。
5番はショートゴロ。
三者凡退。
試合が進むほど、玲のテンポが良くなっている。高瀬のサインを見る時間も短い。
《尻上がり》。
準々決勝で見せた投球が、今日も始まっていた。
◇
5回表。
9番はショートゴロ。
橘さんもセンターフライ。
三上はセカンドゴロ。
こちらも三者凡退。
1対1のまま、試合は終盤へ入る。
◇
5回裏。
先頭の6番にセンター前へ運ばれた。
今日3本目のヒット。
ノーアウト1塁。
7番は送りバント。
でも、打球が少し強い。
玲が前へ出る。
「2塁!」
パァンッ!
「アウト!」
ワンアウト1塁。
走者を進ませない。
8番。
高速落下球を続けて追い込み、高めの141km/h。
ブンッ!
「ストライク! バッターアウト!」
6つ目。
9番はセカンドゴロ。
三上が処理してチェンジ。
5回を終えて、1対1。
あと2回。
◇
6回表。
先頭は俺。
初球、内角。
避ける。
バシッ!
「デッドボール!」
肘のガードに当たった。
「大丈夫?」
「うん」
ノーアウト1塁。
黒田が打席へ。
カァンッ!
センターフライ。
ワンアウト1塁。
高瀬がセンター前へ運び、ワンアウト1、2塁。
チャンス。
でも、6番の打球はショート正面。
カンッ!
二塁へ。
パァンッ!
「アウト!」
一塁へ。
パァンッ!
「アウト!」
ダブルプレー。
得点できない。
東海第一は、最後まで守備で崩れなかった。
◇
6回裏。
玲の球は、今日一番強く見えた。
先頭の1番。
141km/h。
ファウル。
もう一度速い球。
ファウル。
最後は高速落下球。
ブンッ!
「ストライク! バッターアウト!」
7つ目。
2番はセカンドゴロ。
3番。
140km/h。
ファウル。
141km/h。
またファウル。
打者の意識が完全に速い球へ寄った。
高瀬のサイン。
チェンジアップ。
ブンッ!
「ストライク! バッターアウト!」
8つ目。
三者凡退。
あと3つ。
◇
7回表。
先頭は7番。
初球。
カァンッ!
センター前へ抜けた。
ノーアウト1塁。
8番は送りバント。
コツンッ。
一塁側。
「アウト!」
ワンアウト2塁。
9番。
粘った。
でも、最後は低めの変化球。
ブンッ!
「ストライク! バッターアウト!」
ツーアウト2塁。
橘さんが打席へ向かう。
「橘さん!」
三上が声を飛ばす。
「お願いします!」
黒田も続く。
高瀬と俺は、何も言わなかった。
昨日。
橘さんが言った。
俺たちにも仕事を残せ、と。
だから、ただ見ていた。
初球は外角ストレート。
ボール。
2球目は内角。
ファウル。
3球目。
低め。
振らない。
ツーボール、ワンストライク。
4球目。
外角ストレート。
橘さんが振る。
カァァンッ!
打球は右中間へ。
抜けた。
2塁ランナーが3塁を回る。
「回れ!」
ホームへ。
パァンッ!
「セーフ!」
2対1。
勝ち越し。
橘さんは止まらない。
1塁を蹴る。
2塁を蹴る。
「3つ!」
返球が来る。
橘さんが滑り込む。
ザザァッ!
パァンッ!
「セーフ!!」
タイムリースリーベース。
橘さんが3塁ベースの上で拳を握った。
「よっしゃあ!」
ベンチが揺れる。
続く三上への初球。
ボールが高く抜けた。
バシッ!
捕手のミットを弾く。
「行け!」
橘さんがスタート。
ホームへ。
ザザァッ!
「セーフ!!」
3対1。
ワイルドピッチ。
橘さんが、自分で3点目まで取った。
三上はその後セカンドゴロ。
チェンジ。
ベンチへ戻ってきた橘さんを、全員が迎える。
「ナイスです!」
「さすがっす!」
俺も手を出す。
パンッ!
橘さんがそのまま俺の肩を軽く叩いた。
「言っただろ」
「何がです?」
「仕事残しとけって」
「……本当に決めましたね」
「先輩だからな」
橘さんが笑う。
「お前、最近右にも打つようになったよな」
「はい」
「だったら全部使えよ。右も左も真ん中も」
少し前にも聞いた言葉。
グラウンド全部。
「全部使える打者になれよ」
橘さんはグラウンドを見る。
「野球も、お前1人でやるもんじゃないからな」
今日、俺が同点にした。
玲が抑えた。
でも、勝ち越したのは橘さん。
少しだけ間を置いて答える。
「……はい」
3対1。
日本一まで、あと3つ。
◇
7回裏。
玲がマウンドへ向かう。
俺はショート。
橘さんはセンター。
高瀬がマスクを被る。
いつもの守備位置。
でも、このメンバーで守る最後のイニング。
先頭は4番。
初球の141km/hを捉えられた。
カァンッ!
センター前。
今日4本目のヒット。
ノーアウト1塁。
スタンドの音が大きくなる。
玲は変わらない。
高瀬もタイムを取らない。
5番。
141km/h。
空振り。
高速落下球。
ファウル。
ツーストライク。
最後も高速落下球。
ブンッ!
「ストライク! バッターアウト!」
9つ目。
ワンアウト1塁。
6番は初球を打った。
カァンッ!
ライト。
「オーライ!」
捕球。
ツーアウト。
あと1つ。
7番。
初球、141km/h。
「ストライク!」
2球目は140km/h。
ファウル。
ツーストライク。
高瀬のサインに玲が頷く。
高速落下球。
カンッ!
バットに当たった。
打球はショートへ。
俺の正面。
前へ出る。
捕る。
一塁へ。
パァンッ!!
ボールがファーストのミットに収まる。
「アウト!! ゲームセット!!」
一瞬。
何も聞こえなかった。
そのあと、一気に音が戻ってきた。
「うおおおおおお!」
ベンチから全員が飛び出す。
俺も走った。
マウンドの玲へ。
高瀬が玲に抱きつく。
黒田がその上から飛びつく。
三上も。
橘さんも。
みんな。
「日本一だ!」
誰かが叫んだ。
3対1。
全国大会決勝
東海第一シニアに勝った。
城東シニア。
全国優勝。
日本一。
玲は7回4安打1失点。
四球0。
奪三振9。
俺は2打数1安打。
二塁打1本、1打点、死球1。
これで全国大会の打撃成績は、
13打数10安打。
打率 .769。
二塁打5本。
本塁打2本。
打点8。
そして。
日本一。
◇
整列を終えたあと。
橘さんが少し離れたところでグラウンドを見ていた。
「橘さん」
「おう」
目が少し赤い。
でも、それには触れなかった。
「最後、すごかったです」
「最後くらい先輩に決めさせろよ」
「決めましたね」
「だろ?」
橘さんが笑う。
「成瀬」
「はい」
「楽しかったか?」
答えはすぐに出た。
「楽しかったです」
橘さんがもう一度笑う。
「ならいい」
それだけ言って、みんなのところへ戻っていった。
俺も、その後を追う。
全国大会。
日本一。
その瞬間。
能力値のことは、考えていなかった。
誤字報告ありがとう御座います!
これからもよろしくお願いします!!