「城東シニア、優勝!」
アナウンスが球場に響く。スタンドから大きな拍手が送られる中、俺たちはホームベースの前に並んでいた。
全国大会決勝。3対1で東海第一シニアに勝った。
全国優勝。日本一。
分かっているのに、まだ少し変な感じがする。
「成瀬」
「何?」
「顔」
「顔?」
「もっと嬉しそうにしろよ」
「嬉しいよ」
「見えねえ」
「黒田こそ固いけど」
「マジ?」
慌てて口角を上げる黒田を見て、思わず笑った。
「それ変」
「お前が笑えって言ったんだろ!」
前にいる高瀬の肩が揺れている。聞こえてる。
◇
表彰式。
名前を呼ばれ、橘さんが優勝旗を受け取りに前へ出る。大きな拍手の中、優勝旗を手にした橘さんが振り返った。
ニッ。
いつもの笑い方。
「橘さん、決めたな」
「うん」
隣の黒田が小さく言った。
最後の試合。勝ち越しのタイムリースリーベースを打ち、そのままワイルドピッチで3点目のホームまで帰ってきた。
最後に決めたのは3年生。
なんだか、それがよかった。
◇
表彰式が終わると、そのまま記念撮影になった。
「3年生、前! 2年、後ろ詰めろ!」
監督の声に従って、俺は玲の横へ入る。
グイッ。
後ろから押された。
「ちょっ」
「入らねえんだよ」
「押さなくても入るでしょ」
「成瀬細いからいける」
「意味分かんない」
「伊織、こっち」
「ありがとう」
「水城まで俺を邪魔者みたいに扱うなよ!」
玲が少し横へずれる。
「黒田、前見ろ!」
「はい!」
全員が前を向く。
優勝旗。メダル。ユニフォーム。
「撮りますよー!」
カシャッ!
もう一枚。
カシャッ!
「はい、OKです!」
撮影が終わってから、スマホに届いた写真を見る。全員、笑っていた。
俺も。
思っていたより、ちゃんと笑っていた。
◇
グラウンドを出る前、橘さんがセンターの守備位置まで歩いていった。俺も少し遅れて追いかける。
「橘さん」
「おう」
橘さんが足元の土をスパイクで軽く蹴る。
ザッ。
「ここで最後か」
「ですね」
「あっという間だったな」
「俺はまだ2年ですけど」
「来年、お前も同じこと言うよ」
「そうですかね」
「言う言う」
橘さんが笑う。
少しして、高瀬、黒田、三上、玲もやってきた。3年生も集まる。
「お前ら、来年連覇しろよ」
「任せてください!」
「お前が言うと不安だな」
「なんでですか!」
黒田の返事に笑いが起きる。
橘さんは高瀬を見る。
「キャッチャー、頼んだぞ」
「はい」
「三上、内野も」
「はい!」
「玲、来年も抑えろ」
「うん」
最後に俺を見る。
「成瀬」
「はい」
ポンッ。
肩を叩かれる。
「全部使える打者になれよ」
「はい」
「あと、1人で全部やろうとすんな」
「……はい」
今日の試合。俺が同点にして、玲が抑えた。でも、勝ち越したのは橘さんだった。
その前に塁へ出た7番もいる。送った8番もいる。守ったみんなもいる。
1人じゃ、日本一にはなれなかった。
「分かりました」
「ほんとか?」
「多分」
「多分かよ」
バシッ。
今度は背中を叩かれた。
「痛っ」
「来年頑張れ」
「はい!」
先に歩いていく橘さんの背中へ、今度は大きな声で返した。
◇
宿舎へ戻るバス。
さっきまで騒がしかった車内も、今は静かだった。寝ている選手もいる。
隣では玲が窓側で目を閉じている。
俺はスマホを開いた。家族や学校の友達から通知がいくつも並んでいる。
その中に、詩織。
『日本一おめでとう!』
すぐに返す。
『ありがとう』
少し考えて、もう一つ。
『今日も楽しかった』
送信。
ピコン。
すぐに返ってきた。
『知ってる笑』
「……何で」
思わず声が出た。
玲が少しだけ目を開ける。
「何?」
「何でもない」
「そう」
また目を閉じた。
『なんで分かるの?』
『試合見てたから』
『最近、野球してる時すごく楽しそう』
指が止まる。
最近。確かにそうかもしれない。
勝ったから。打てたから。能力が上がったから。
それもある。
でも、真田との試合も今日の決勝も、結果が出る前から楽しかった。
『そっか』
少しして返信が来る。
『うん。なんか安心した』
安心。何に?
聞こうとしたけど、やめた。窓の外へ目を向けると、街の景色が流れていく。
そのままスマホを閉じた。
◇
夜。
部屋に戻り、ベッドへ座る。机の上には金色のメダル。
手に取る。
ずしっ。
思ったより重い。
首に掛けて鏡を見る。
「……日本一か」
今度は、少し実感があった。
ピコン。
視界の端にシステムが浮かぶ。
【全国大会が終了しました】
【大会成績を集計します】
画面を開く。
【打撃成績】
13打数10安打
打率 .769
二塁打 5
本塁打 2
打点 8
四球 2
死球 1
「……10安打」
1回戦から決勝まで。真田から打った逆方向へのホームラン。今日の同点ツーベース。
数字にすると、全部並ぶ。
【投手成績】
12回
被安打 10
失点 3
与四球 1
奪三振 13
打って、投げて、守った。
そして、日本一。
悪くない。
いや、かなりいい。
【経験値を獲得しました】
【各能力に経験値が加算されます】
数字が並び始める。
いつもなら、そのまま最後まで見る。どれだけ上がったか。次はどこを伸ばすか。効率がいいのはどこか。
ドンドンドンッ!
「成瀬ー! 集合写真撮るぞー!」
「さっき撮ったでしょ!」
「宿舎でも撮るんだよ! 早くしろー!」
システムを見る。
まだ通知は続いている。
「続きはあとでいいか」
画面を閉じる。メダルを机に置き、ドアを開けた。
「遅い!」
「今行くって」
廊下の向こうでは、みんなが騒いでいる。
俺もそこへ向かう。
数字は、あとからでも見られる。
今日のこれは。
今しかない。