傭兵にヤンデレロリは荷が重い 作:アマルガム周平
ロルと出会って二年が経過し、いよいよ金が底を尽きかけていた。というわけなので今日はセンの元に顔を出している。
「というわけだ。気前の良いミッションはないか」
「……お前も遠慮が無くなってきたな」
「で、あるんだろ」
「アルケーモス社の護衛が一件、機械人部隊の襲撃が一件ある」
「そうか。……じゃ、護衛にするか」
「……!?」
「なんだよ」
「お前が、襲撃を選ばない……!? お前、本当にヒャカか!?」
「結構なこと言ってくれるな」
……まあ、確かに俺は変わってしまった。それは良いことなのか知らんが。
「……何があったか知らんし、追求するつもりも無いが……お前、『生きた』目になったな」
「……そうか」
まったく、俺はいつからこんな甘っちょろい人間になってしまったんだ?
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「というわけだから一日空ける。食料はまとめて買ってあるから好きに使え」
「うん。分かった」
ロルは俺の『仕事』についてとやかく言うことはない。そういった気遣いもまた、快かった。
「ヒャカ」
「ん」
胸に突撃され、背に腕を回される。依頼を受ける前は必ずこうされるようになっていた。
「無事に帰ってきてね」
「……まあ、できる限りは生きる」
約束はできない。できないが、生きることは諦めないつもりだ。
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「へー、生身の人間を護衛に選ぶくらいアルケーモス社は逼迫してるんだ」
「…………」
仕事のパートナーは機械人だった。いつもの俺なら挑発に皮肉を返すぐらいのことはしていたが……そんなことよりもロルの姿が脳内から離れなかった。
「ま、よろしく頼むよ劣等種族くん。精々足を引っ張らないようにね──えっ?」
「! 襲撃か……!」
護衛対象は俺たちが乗っている車──の中にある機密情報満載のコンピュータ。あまりにも秘匿されていたものだからデータログを別に送ったりバックアップを取ることすらしていないらしい。
挑発していた機械人は狙撃されて死亡。俺は生身の人間なこともあり、殺害優先順位が低かったのだろう。にしても運が良かった。
「……来るか」
俺はソラキリを起動した。
▫▫▫▫▫
「ハァ……任務、完了」
襲撃に遭ったがとりあえずミッションコンプリート。機密情報はアルケーモス社本社に届けられた。
機械人のテリトリーに長居するつもりはない。さっさと帰って報酬を受けと──ロルが目の前に現れた。
「……おい。今は任務中だぞ」
「アジトにたくさんの兵士がやってきて……!」
「……なんだと?」
胸騒ぎに襲われ、センに連絡を取ろうとした刹那、向こうから着信が。
「……セン? そっちで何があった」
「お前、しばらく潜った方がいい。かなりの勢力がお前の元に向かってる。理由は知らないが……報酬は口座に振り込んでおくから、ほとぼりが冷めるまで隠れてろ」
「何があったんだ」
「オレもよく知らない。だが一つ確定しているのは、お前が狙われてるということだ」
「……分かった」
通話を切り、ロルを見据える。また面倒事がやってくる。更にこれは中々重大そうだ。俺は嘆息した。
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「そっちで何があったんだ」
「分からない。けどどこに転移しても兵士が待ち構えてて……。ヒャカの所に行くしかなかった」
「……お前、今まで俺が帰る前に外出したことはなかったか」
「ヒャカが危なくなった時以外ないよ」
「…………」
思惟に入る。どこに行っても兵士がいるということは、俺たちが今まで訪れた場所を知っている誰かがいるということだ。
……センがバラしたか? いや、センはロルを知らない。第一あいつにメリットが無い。
情報が少ない。ひとまず考えるべきは、今日の宿はどうしようという問題。
「……ハァ。とりあえずモーテル行くか」
「……うん」
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「寒くないか」
「大丈夫だよ」
安っぽいモーテルはエアコンが弱く、俺たちは身を寄せ合って体を温めていた。
「ごめん、ヒャカ」
「何を謝ることがある」
「わたし、ヒャカのアジト守れなかった」
「過ぎたことは仕方ない。それより明日の飯のことでも考えろ」
「お金、どれくらいある?」
「かなり潤ったからしばらくは大丈夫だ」
俺の胸に顔をうずめるロル。……匂いとか平気なのか?
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モーニングコールは破砕音だった。
「ッ!?」
枕元に忍ばせていたソラキリをアクティブに。俺は部屋に突撃してきた侵入者を見やった。こいつは……オートマタか。
「
「させっか……!」
瞬く間に銃を切り落とす。手狭なモーテルだったことが幸いして多人数相手でも戦いやすかった。
「ロル! 隠れてろ!」
「う、うん」
これでも俺は武闘派だ。突入してきた五体を斬り伏せ、情報収集を始めた。
「これは……」
ロルの研究所のオートマタと同タイプのもの。まさか、生き残りがいたのか? いや、俺が全て殺してきた筈。となると……
「──あの依頼人か」
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「さて、そろそろ気づいた頃かな?」
パソコンに何かを打ち込む男。彼は止まらない笑い声を抑えようともせず、目の前の光景を眺めていた。
「これだけの兵士を用意したんだ。目覚めてもらわないと困るよ」
彼こそが、ヒャカにロルの研究所壊滅を依頼した者である。彼は狂気的な毒笑を顔面に湛えたまま、新たにオートマタを起動した。
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「ハァ、ハァ、クソ……!」
「ヒャカ……!」
兵士自体は大したことない。問題はその勢力。いくら斬っても蛆虫のように湧いて出る。
元凶は誰か知っている。しかしそいつがどこにいるのか、どうして俺たちの居場所を探れるのか、何故ここまでも兵力を確保できているのか、一切が不明だった。
「ぐあっ!」
「っ! ヒャカ!」
内臓は……外れている。しかし、弾丸を一発貰ってしまった。
「クッソ……! 邪魔だぁっ!」
斬る。斬る。壊す。殺す。斬る。
ロルの転移で逃げようにもこいつが行ったことある場所は既にマークされている。故に意味が無い。
「ハァッ、ハァッ、ハァッ……!」
「ヒャカ……!」
「……大丈夫だ。止血は済ませた」
だが、マズい。このまま人海戦術に押し流されれば、俺たちは死ぬ。
俺が死ぬのはいい。どうせ地獄行きは確定しているからな。
だが、ロルは自分の人生を歩み始めたばかりだ。こいつは太陽の下で健やかに生きるべき人間だ。
「……!」
兵が……三倍に増えた。これはいよいよ辞世の句を詠むべきか……?
「ダメえっ!!」
「な、ロル……!?」
瞬間、ロルの体から放たれた光が、オートマタをまとめて蹴散らした。
「……ヒャ、カ……? わたし……」
「ロル!」
「……ハァ。ここまでやったんだから見逃してくれてもいいだろ……」
敵兵はまだ残っている。気絶したロルを庇ってどこまで戦えるか……。
「……?」
と、考えていると兵士たちは引き上げていく。何故だ? 俺を殺すなら今が絶好のチャンス。それとも……他に何か目的があったのか?
「……ぐ、熱……」
危機を脱して最初に痛みが押し寄せた。弾丸は貫通している。これはしばらく傷を癒さなければ……。
「……ロル」
生きている。俺も、こいつも。今はそれを噛み締めろ、と俺は自分に言い聞かせた。