傭兵にヤンデレロリは荷が重い   作:アマルガム周平

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第五話

「……そろそろ限界だな」

 

 

 目減りしていく報酬金。あれから数ヶ月が経っていた。俺たちは各地を転々としながら、センの連絡を待っていた。あいつがいなきゃ金稼ぎもできない。

 

 

「ヒャカ? 今日はどこ行くの?」

 

「……別の国の転骸区に行くか」

 

 

 コネがないわけではない。このご時世傭兵稼業はありふれている。

 

 どこか部屋借りられれば……欲を言えば手頃な廃墟があればいいんだが……。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「ふう、とりあえずここに住むか。異論は?」

 

「わたしはヒャカと一緒にいられるならどこでもいいよ」

 

 

 新たなアジトはスラム街の中。まとまった金を渡し、一軒『家』を借りた。家っつっても粗末なものだが。

 

 

「後は稼ぎ口だな。銃は持ってきてるか?」

 

「うん。いつでも撃てるよ」

 

 

 万が一、俺の不在中に襲われでもしたらロルはひとたまりもない。前のアジトにいる頃から銃は常備させていた。……こいつが人殺しになるのは避けたかったが、背に腹はかえられない。

 

 

「じゃあ今日も稼ぐか……」

 

「無事に帰ってきてね、ヒャカ」

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「フー……くだらない任務だったな」

 

 

 日銭を稼ぎ、センからの連絡を待つ日々。豊かさも、優雅さもない埃にまみれた日常。しかし『生きている』という実感は強く持てた。

 

 

「帰ったぞ」

 

「あ、おかえり。ご飯できてるよ」

 

 

 異国という点を含め、食事も様変わりしていた。しかしどうも、俺はこの時間を求めているようで。

 

 

「いただきます」

 

「……いただきます」

 

「美味しい?」

 

「……悪くない」

 

 

 俺が死のうが困る奴はいない。そう思っていたが……。

 

 

「へ~、ここが今の君たちの住み家かあ」

 

 

 そいつは音もなく現れた。

 

 

「「ッ!?」」

 

 

 一目見て分かる。こいつは、強い。

 

 

「……誰だ、お前は」

 

 

 ソラキリを起動してロルを背に位置取りを確保。冷や汗が一筋、頬をつたう。

 

 

「あの研究所を壊滅させるよう君に依頼した張本人、って言えば分かるかな」

 

「……!」

 

 

 ロルが息を吞む。俺はソラキリを構え直した。

 

 

「何故ここが分かった」

 

「その子の脳波を受信できるようにしてあるんだ。ああ安心して。健康には全く害ないし僕にしか分からないから」

 

 

 ……こいつ、言動もそうだが、雰囲気がなんか気持ち悪い。

 

 

「……で、そのクライアント様が俺たちに何の用だ」

 

「率直に言うと、その子が欲しい」

 

「……渡すと思うか?」

 

「ああ、もちろん相応の対価は支払おう。一生遊べるだけのお金を、ね。僕の兵士や上層部にも君を襲わせないよう取り計らってあげる」

 

「…………」

 

 

 こいつの話が本当であれば、ロルはこいつから逃れられない。……って、何を考えてるんだ俺。他人なんて、元よりどうだっていい筈だろ。

 

 

「断ると言ったら?」

 

「君たちを地の果てまで追い詰める。僕ならそれができる」

 

「…………」

 

「ヒャカ。君も分かっているんだろう? 異能持ちを抱えて生きていくには不都合が多すぎるって」

 

「…………」

 

 

 ロルは道具だ。頷けばいい。そうすれば、働く理由も無くなる。

 

 

「付け加えるけど、その子を殺しはしないよ。十分な安全を確保することを約束しよう」

 

「…………俺は──」

 

「ヒャカ」

 

 

 俺の言葉を遮りながら、ロルは俺の正面に立つ。

 

 

「わたし、行くよ」

 

「……お前……」

 

「わたし、ヒャカが拾ってくれてすっごく嬉しかった。ヒャカのためならどうなってもいいって思った。だけどわたしは、ヒャカにとって重荷になる。だから、バイバイ」

 

「交渉成立、かな?」

 

 

 待てよ。まだ俺は何も言ってないだろうが。

 

 そう思いながらも結局何もできず、研究所員に連れ去られていくロルをただ黙って見ていた。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「口約束とはいえ、守るんだな」

 

 

 包囲網がなくなり、俺は前にいた転骸区のアジトに帰ってきた。口座に振り込まれた金は俺が一生かけても稼げない額だった。

 

 五体満足、働く必要も無くなった。ただ在るのは、どうしようもない侘しさ。

 

 

「……ロル」

 

 

 俺は三流の傭兵だ。気まぐれで拾ったガキに絆されるばかりか、救われてしまった。

 

 

「……待ってろ、ロル」

 

 

 三流には三流の意地がある。俺はソラキリを背に、センの元へ向かった。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「セン。『アレ』出してくれ」

 

「いいのか? まだ試作段階だぞ? っていうか帰って早々無茶を言うなお前は」

 

「力が要るんだ。頼む」

 

「……死ぬなよ」

 

 

 俺とロルは同調の異能で繋がっている。故に、どこに向かえばいいか考える必要もなかった。

 

 

 

 

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

 

 

 

 

「ふふふ……やっと、やっとだ! やっと君を手に入れた!」

 

 

 何がおかしいのか、研究所の人はわたしを眺めながらずっと笑っていた。この人の所に来て一週間はずっとこの調子だった。

 

 

「ふっフフフ……喜びに浸るのも飽きたな。さて、そろそろ君の力を確かめ──」

 

 

 わたしがいる施設に警報が鳴り響く。まさか、いや、だって。

 

 同調を使う。この反応は──

 

 

「ヒャカ……?」

 

 

 広い実験場の扉が切り裂かれ、その人は現れた。

 

 

「よう。お前を、攫いに来たぜ」

 

 

 

 

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

 

 

 

 

「やあっと実験体を確保できたのに、何の真似かな、ヒャカ?」

 

「ロルは俺のもんだ。所有物を取り返しに来て何が悪い」

 

「なるほど……君はやっぱり、僕の想像通りの人間だったね」

 

「ヒャカ……! ダメだよ、わたしの傍にいたら、また襲われる……!」

 

「お前の意見なんざ求めてない。俺は自分のために、お前を取り返す」

 

 

 それに、俺は目の前の男(こいつ)がどうも気に入らない。首の一本落としてやらなければ気が済まなかった。

 

 

「で、想像通りの人間だったって、どういうことだ」

 

「機械人以外は殺せない傭兵。その時点で君が何かしらの信念……この場合は″甘さ″かな? それを抱えているのを悟った」

 

「分かったような口を……」

 

「分かるさ。君が実の父親を殺したことも、僕のデータに入ってる」

 

 

 ……会話するのもうっとうしいな。さっさと黙らせるか?

 

 

「あの研究所でやれることには限界があった。新たな異能に覚醒させるためには新しい刺激が必要だった。でも、僕以外の所員は保守的で邪魔になったから。だから君に襲撃を頼んだ。僕が望むのはその子の成長、なんだよ。その子の飛躍を僕はずっと待ってたんだよ」

 

「随分と回りくどいことする。お前が直接奪えばよかっただろ」

 

「君の命を人質に異能を使わせるためだよ。研究所員の僕には懐きそうになかったからね。いやー、君がその子を助けるかは賭けだったけど、『君は人間を殺さない』って情報を信じてよかった~」

 

「……よく分かった。お前は俺が斬る」

 

「君が僕を否定するのか? 散々犯罪を犯してきた君が?」

 

「俺は所詮人殺しだ。道理を説く権利は無い。だが、お前は個人的に気に入らない。それだけのことだ。……ロル。お前は手を出すな」

 

 

 言葉はもう要らない。俺はソラキリを構えた。

 

 

「──ッ!」

 

「わあ、速いね。ただの人間にしては随分強い──けど、僕には勝てないよ」

 

 

 ……俺は今確かに斬った筈。なのだが、傷が瞬く間に治った。

 

 

「僕は機械人の中でも特別なんだ。親に恵まれてね、ああ、あの二人を殺すのは楽しかったなぁ……」

 

「くっちゃべるのはあの世でしてろ」

 

 

 剣と剣で打ち合う。こいつ、近接戦闘もイケる口か……。

 

 斬っても治る。なら、刺突はどうだ。

 

 

「やっぱりそう来るよね。でも残念。僕の体は一定以上の衝撃を受けると硬くなるんだ」

 

「チッ、ダイラタンシー体か……」

 

 

 切り札を使うべきか。しかし敵は目の前のこいつだけではない。消耗しすぎては……

 

 その迷いが、剣を鈍らせた。

 

 

「が……ッ」

 

「ヒャカァッ!!」

 

 

 ま、ずい。胸を貫かれた。これは心臓に行ったか……?

 

 ごぽ、と口から血液がとめどなく流れ出る。

 

 まずい、ひじょうに、まずい。

 

 治す、不可能。立つ、不可能。戦う、不可能。くそ、切り札はこの時のために持ってきたのに何を躊躇ってたんだ俺は……。

 

 倒れ込んだ俺をロルが抱える。血で、ロルが汚れていく。

 

 

「ろる、にげろ。おまえは、あたたかいばしょでいきろ」

 

「嫌! ヒャカがこの世界にいないと、わたしは……!」

 

 

 あー、クソ。あんだけ格好つけておいて、判断ミスによる死亡なんてダサすぎるぞ俺……まあ三流の傭兵らしい死に方か……。

 

 

「治れ、治れ治れ治れ!」

 

「ッ!?」

 

「……?」

 

 

 光が俺を包み込み、傷口が塞がっていく。まさか、これが五つ目?

 

 

「──素晴らしい。最後の異能に目覚めるとは!」

 

「助かった。さあ、第二ラウンドだ」

 

 

 ロルに助けられた。なら、今度こそ俺はロルを救おう。

 

 

「学ばないのかい? 僕に斬撃は効かないよ?」

 

「なら、効くようにするまでだ。──アルファ、起動」

 

 

 『アルファ』。センの伝手を借り作成した、外付けの機械装甲。

 

 一回でダメなら百回刃を通す。要するにゴリ押しだ。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「が、ぐふ、つよ、いね、君ィ……!」

 

 

 斬る。ただひたすらに、刃を振るう。それでも尚、攻めあぐねている。こうしてもうかなりの時間が経過していた。地味にだが反撃もされている。アルファのエネルギー残量は心許ない。長期戦になれば敗北は必至。

 

 

「ロル」

 

「うん」

 

 

 必要なのは一瞬の隙。合図はそれで十分だった。こちらの意思は異能で同調されるため、作戦共有は問題なし。

 

 転移で、俺を庇うように躍り出るロル。

 

 

「!?」

 

 

 敵はそれで動きを止める。当然だ。所有物にしたいモノを壊すわけにはいかないからな。

 

 その刹那。僅かな一瞬で、準備は完了する。

 

 

「出力最大」

 

「なっ──」

 

 

 百回から、千回。絶死の斬撃に曝された敵は、今度こそ死に絶えた。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「ハァッ、ハァッ、ハァッ……殺ったか。ロル。異能使えるか」

 

「……あと二時間あればできるよ」

 

「そうか。……ま、やれるだけやってみるか」

 

 

 敵はあいつだけではない。足音が聞こえる。増援はもうすぐそこまで来ている。

 

 アルファは使用限界。反動で膝が笑い、指先が痺れる。それでも生きている。

 

 俺はソラキリを構えた。

 

 

ここで終わりにしようかとも考えましたが不完全燃焼感があるのでアンケートを取ります

  • ビターエンド(超短い)
  • ハッピーエンド(短め)
  • ここで終わりにしよう
  • 二つとも書けばいいのでは?
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