傭兵にヤンデレロリは荷が重い 作:アマルガム周平
「ハァッ、ハァッ……ロル、生きてるか」
「……う、ん」
なんとか敵の本拠地を脱した俺たちは追跡されながら森の中に逃げていた。
出血が止まらない。いくつか弾をもらってしまった。ロルは俺より比較的軽傷だが、下手すれば命に関わる。
元研究所員のあいつが死んだということは、ロルを手中に収める手段がなくなったということ。五つの異能を使えるこいつを放っておける程向こうに余裕は無い。
手に入らないのなら殺してしまおう。まったく、合理的で反吐が出る選択肢だ。
「っ、あ」
背負ったロルごと倒れ込んでしまう。もう、体に力が入らない。意識が、乱れる。寒い。寒い。
「ヒャカ」
「……なんだ」
「わたし……ヒャカに出会えてよかった」
「急になんだよ。今際の際でもないだろ」
ロルは、微笑んでいた。俺も、その結末を受け入れかけてしまっている。
「ヒャカ」
「なんだ」
「……さむいから、あたためてくれる?」
「いくらでもしてやるよ」
抱きしめる。力の入らない両腕を絡め、それでも強く、抱きしめる。
「……ふふ、あったかいね」
「……そうだな」
瞬間、俺は理解した。
本当に求めていたもの。焦がれ続けていた正体。それは、これだったのか。
「……ロル。少し、休もう」
「……うん」
確かな温もりと答え。それが分かっているから、きっと大丈夫だ。
目を閉じる。そして幸せな、夢を見る──
「おい、ヒャカ。まだ生きてるか?」
「──ぇ?」
殆ど死に体の頭を起こして声のした方向を見やる。そこにいたのは……
「……師匠」
俺の師匠、『カタラ』。何故ここに……いや、そういえば俺……いざというときのために連絡していたのだったか……。
「よく頑張ったなヒャカ。可愛い弟子の窮地となれば、吾輩が救ってやろうではないか」
「……相変わらずキャラ濃いな、師匠」
その会話で完全に力尽き、俺は意識を投げ出した。
▫▫▫▫▫
「ん……」
意識が、戻る。喉が渇く。
「っ! ロル……!」
意識を失う直前、ロルは傷を負っていた。あいつはどうした……?
──と、跳ね起きようとして体中に痛みが走る。そういえば俺はロル以上に重体だった。
「ここは……」
転骸区の病院ではない。しかし清潔な病室だった。
白いベッド。絹色の部屋。俺は何度か、ここに来たことがある。師匠の修行で幾度も世話になった。
「起きたか、愛弟子」
「……師匠」
また動き出そうとして痛みに喘ぐ俺を、カタラ師匠は見据えていた。
「おぬしは相変わらず無茶をする。吾輩の言うとおり傭兵稼業など辞めればよかったものを」
「……その方が、性に合ってたんで」
「いいや、合っていない。おぬしは優しすぎる。人間を殺せない甘さはいずれ本当におぬしを殺すぞ」
「……起き抜けに説教は勘弁してくださいよ」
ロルはどうした? 俺の脳内を占めるのはあいつだけだった。
「ロル……いや、連れのガキはどうしたんですか」
「気を失っているが生きている。もうすぐ起きるだろう」
その言葉で張り詰めていた緊張がほどけ、俺は今度こそベッドに体を預けた。
▫▫▫▫▫
「それで、これからどうするつもりだ」
「金は死ぬほど稼げたんで、転骸区でロルと共に生きるつもりですよ」
「……いいの? わたし、これからも狙われるよ?」
目覚めから数ヶ月経ちようやく傷も癒え、俺とロルと師匠で三者面談が行われていた。
「……なるほど。おぬしも生き甲斐を見つけたか」
「まあ、そんなところですよ」
ロルが隣にいてくれるのであれば、俺はもう何も望まない。
「でもわたしの所為でまたヒャカが襲われたら、わたし嫌だよ」
「……ハァ。俺が今更お前を放っておくかよ。言っただろ。攫いに来たって」
「本当に、いいの?」
「今更お前無しで生きていけるか。死ぬまで隣にいさせてやる。拒否権は無い」
「……うん。分かった」
「話はついたようだな。さて、ヒャカ。誰かの命を背負うにはおぬしはまだまだ弱い。その子を守ると吠えるなら──その
斯くして、俺は再び修行の日々を送ることになったのだった。
▫▫▫▫▫
「……というのが俺とロルの関係だ」
「……お前、いつの間にロリコンになったのか」
「斬るぞ」
一段落つき、俺はことのあらましをセンに説明していた。
金はあの敵によってかなりの貯蓄がある。二人で生きていくにも十分すぎる程だ。
しかし俺は傭兵。師匠の元で修行してようやく二流といったところか。そんなんでも、矜持がある。
というわけでこれからもくだらなくとも仕事は続けることにした。いざとなればロルは俺の元へ転移すればいい。
「じゃ、今日も頼むぞ、セン」
「……本当に変わったな、お前」
▫▫▫▫▫
ロルと俺は狙われて
「帰ったぞ」
「……! よかった……生きてる……」
俺とロルは繋がっている。これまでよりも強固に。
だから、この繋がりを失わないためにも、俺は生きる。生きて、まっとうに死ぬ。……なんて、人殺しがそんな恵まれた死を遂げられるか、疑問ではあるけれど。
それでも俺は生き様を決めた。なら、いつも通りそれを遂行しよう。
「ねえヒャカ、今日も絵本読んでくれる?」
「……お前は変わらないな」
▫▫▫▫▫
「おやすみ、ヒャカ」
「……ああ」
繋がれた手。その温もりが、俺を人として在らしめる。
明日もこうやって眠れればいいなと思いながら、意識を溶かしていく。
これからも狙われることはあるだろう。それでも今日を生きた分、俺たちの勝ちだ。
目を閉じる。そしていつまでも続く、夢を見る。