カードの精霊が見えるプレイヤー相手に、『コントロール奪取』戦法をヤッたら絵面が酷すぎる件について   作:コイントスは先行が良い

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第七話 魔導士からの警告

 

 

 私――桜井カナデは、今日紆余曲折を経てできたばかりの友達である少女、シオリと帰り道の途中で別れ、その際に連絡先の交換及び、九条院さんには明日改めて話をしに行こうと相談して決めた。

 ……と言っても、私は九条院さんに何を話すべきかは微塵も定まっていない。何時間も目が覚めなかった体調を慮るべきか、私だけではなくシオリのカードを盗ろうとしたことへの文句、謝罪を要求すべきなのか。

 それに、シオリのカードを取り戻してくれた初等部の少女へお礼の件もある。

 様々な考えが過ぎり、それ以外のことが疎かになってしまう。そんな不調を見抜かれたのか、廊下ですれ違った母親に「どうかしたの?」と心配そうに尋ねられる。

 

 

「あはは……大丈夫だよ、お母さん」

「……もしかして、学校で何かあったのかしら?」

「……っ!?」

 

 

 曖昧な返事から即座に原因を言い当てられ、動揺が僅かばかり表情に出てしまう。母親の勘と言うべきものだろうか。

 ……とはいえ、悩んでいるのは大した問題ではない。それに、ただでさえ転校してきたばかりの学校で厄介事に巻き込まれたと余計な心配をかけたくなかった。

 

 

「えーと……今日友達ができて、明日からどうしようかなーって考えごとをしてただけだから」

「……なら良いけど。お友達は大切にしなさいね」

 

 

 我ながら苦しい言い訳だが、まるっきり嘘ではない。そのことは母親も分かっているようで、渋い表情をしつつもそれ以上の追求をしてくることはなかった。

 

 

 学校からの課題や軽い予習、仕事から帰ってきた父親を交えた夕食。そして入浴で一日の疲れを癒した後、私は後回しにしていた『もう一つの問題』に向き合おうと気を引き締める。

 パジャマに着替え、椅子に腰をかけた状態で私は自室の机の上に、自分の分身とも相棒とも武器とも呼べる存在――デッキを広げる。

 見慣れた光景――であるはずなのに、その中の……『思い出』の一枚は昼間までとは別物のように感じられた。ただの無機物から、まるで密かに息づいているような。

 これは、決して思い込みや勘違いではない。

 他人から同じことを言われたら、その人の正気を疑ってしまうだろう。だが、今の私にはそんなことは思えなかった。

 

 

「……ねえ、九条院さんとの時に話しかけてくれたのって、あなた?」

 

 

 ある種の確信を持って、そのカードへと話しかける。普通であれば、昨日までであれば何も起こらない。――そのはずであった。

 

 

『――はあー……ようやくきちんとお話できそうですね、マスター』

 

 

 待ちわびたといった感じの少女の声が、どこからともなく――いや、目の前のあの(・・)カードから聞こえてくる。

 昼間、九条院さんに負けた際、もう一度立ち向かおうとする意思を固める為の切っ掛けとなった『声』だ。

 

 

『……力を使い過ぎると疲れちゃうので、あんまりやりたくないのですが、せっかくマスターと初めての対面ですからね! 私もハリきっちゃいます!』

 

 

 そう呟かれ、その意味を私が尋ねようとする直前に一際強い光が一瞬、部屋の中を満たす。眩しさのあまり、思わず目を瞑ってしまった。

 

 

『ふう……これで完了です。マスター、目を開けてください』

「うっ……!?」

 

 

 恐る恐る閉じていた瞼を持ち上げると……そこには一人の『少女』がいた。反射的に喉から漏れそうになった声を、慌てて両手で口を塞ぐことで抑え込む。

 その『少女』が突如として現れたことも驚いたことの要因の一つではあるが、それとは別に二つ程の異常な点があった。

 その内の一つは『少女』の体が半透明であること。いつも見慣れているもの――『レゾナンス・ギア』の『バトルフィールド』内に投影される立体映像に近いと感じた。

 だが、あれがカードのイラストを単純に――技術的には全く簡単ではないだろうが――再現した無機質な虚構であるのに対し、私の正面を得意げに胸を張りながら漂う『少女』は生きている人間そのものと見紛うほど。

 

 

 残りの一点は、その『少女』の容姿が光の発生源であるユニットカードのイラストと寸分違わず同じ――これについてはある程度の予想はしていた――であったこと。

 

 

 背丈は今の私と同じくらいだろうか。汚れなき白を基調とした長めの魔導士風といった感じのローブ。腰まで届く淡い銀白色のロングヘア。その頂点に、ちょこんと鎮座するローブと同色のとんがり帽子。

 両手で抱えるように握られている、『少女』よりも白銀色の太めの杖。先端には透明な六角形のクリスタルが埋め込まれ、半透明な状態であるにも関らず光っているように見えた。

 それらの要素と調和する、幼さと知性を感じさせる瞳の同居した整った顔立ち。

 

 

 私と比べるのも烏滸がましい程の美少女っぷりに、カードイラストや『バトルフィールド』内で見飽きているはずなのに――目を奪われてしまっていた。

 私の異変に気づいたのかそうでないのか、『少女』は得意げに名乗りを――既知の――上げる。

 

 

『えーと……初めましてになります? 私は《白の魔導士セレナ》です! よろしくお願いします、マスター』

 

 

 『少女』――《セレナ》は、ふんわりと微笑んだ。

 

 

「こ、こちらこそ……よろしく《セレナ》」

 

 

 私はおずおずと口を開き、自分の名前を告げる。そうすると、《セレナ》はより笑みを深めた。まるで野に咲く花が、蕾をさんさんと降り注ぐ太陽に向け大きく開くように――。

 

 

『ま、マスターが私と面と向かった状態で、名前を呼んでくれるなんて……! こうしてお話しできるようになるなんて、全く想像もしてませんでした……!』

 

 

 幸せを噛み締めるように喜ぶ《セレナ》に対して、色々と尋ねたいことが脳裏を過ぎる……も、真っ先に思い浮かんだことを素直に伝えることにした。

 あの時のように(・・・・・・・)、一切の後悔や悔いが残らないようにする為に。

 

 

「昼間の時には……ありがとうね。二度とも助けようとしてくれて」

 

 

 もちろん、一度目は九条院さんとの敗北で心が折れそうになった時。……それを無駄にするようなことになって、《セレナ》やシオリに今も申し訳ない気持ちで胸でいっぱいだが。

 二度目は九条院さんと戦っていた少女が使役していた《魔女》に魅入られそうになってしまった時。《セレナ》に引き戻してもらえなければ、私も九条院さんのように呑まれてしまっていたかもしれない……九条院さんが他人のカードを奪うのにはまた別の理由がありそうだが。

 

 

 私の言葉をどう受け取ったのか、照れたように顔を横に逸らす《セレナ》。私はそんな彼女の表情を肴にしつつも、次の質問の内容を纏めていた。

 先ほども触れた通り、通常ではあり得ない存在の彼女には、聞きたいことが山ほどあるからだ。

 

 

 だが、そんな私の目論みはあっさりと潰える。先ほどまでとは一転して、表情を険しいものにし声のトーンも一段階低くなる。

 

 

(……あれ? 私、気に障るようなことでも――)

 

 

『――それはそれとして、マスター。貴女はどうして危険なことに首を突っ込もうとするのですか? ……それがマスターの魅力的な……いえ、素敵な所ではあると重々承知しています。

 ですが、マスターの傍にいる『精霊』としては言いたいことはたくさんあります。人助けは結構ですけど、あんな危険な『精霊』(・・・・・・・・・・)が近くに来たら――』

「ちょ、ちょっと待って、セレナっ!?」

『……何でしょうか? 言い訳なら、後で聞いてあげますけど』

 

 

 《セレナ》の言葉に割って入り、彼女の話を止める。説教が中断されたせいで、彼女の目つきは少しキツいものに変わる。

 けれど、その瞳の奥に宿るのは私を思いやる優しい色。本来であったら、止めるべきではないのだろう。

 しかし直感的にここで一旦止めないと、このお説教が何時間コースなりそうな予感があった。

 

 

「……ごめんね、途中で話を遮っちゃって。あの……《セレナ》みたいなカードの『精霊』って珍しくないの? もしかして、私の他のカードにも宿ってたりする?」

『……いいえ。マスターのデッキで『精霊』が宿っているのは私だけです。そもそも『精霊』という存在は、そう簡単に生まれるものではありません。持ち主の思いや時の運などが上手く作用した偶然の産物に過ぎない……はずです。

 ……私もちゃんとした自我ができたのは最近ですので、このぐらいしか知りませんが……』

「その辺の知識って、誰かから聞いたの?」

『いえ、不思議と始めから常識?として備わっていました』

 

 

 《セレナ》から聞かされた『精霊』についての基礎知識。不可解な点は多々あれど、それらを埋める為に質問を続ける。

 

 

「九条院さんやあの女の子にも『精霊』っていた?」

 

 

 彼女達のバトルの光景を回想する。主人を守る為に、剣を振るう誇り高き白銀の戦乙女。その誇りを汚すかのように、戦乙女を掌中に収め、守るべき主に剣を向けさせた禁忌の魔女。

 両者ともに、ただの立体映像では説明しきれない『違和感』があった。けれど、それらも《セレナ》との対面でほぼ解消されつつある。

 

 

『……多分、そうでしょうね。お二人とも、今の私のように半実体化すらしていなかったので確実なことは言えませんが』

「そういう曖昧な感じなんだ。てっきり『精霊』同士はテレパシーか何かで会話できるのかなって」

『……残念ながらできません。『精霊』としての力や格が低ければ。主人に才能がなければ、肝心の主人どころか『精霊(同類)』にすら言葉を届けられませんので。

 それができるとしたら、相当に強力な『精霊』だけでしょう。

 ……私も、マスターとこうしてお話しできているのも運が良かっただけ。マスターが『精霊』と話せる才能持ちで助かりました……それでも私という意識が芽生えてから、今日までずっと寂しかったです。どれだけ一生懸命にマスターに話しかけても、全然言葉が届かなくて……』

 

 

 とても辛そうに切々と語る《セレナ》。その悲しげな表情が、記憶の中にいる『誰か』と重なる。衝動的に彼女の体を抱きしめようとしてしまう――が、結果的に虚空を掴むだけに終わってしまった。

 

 

『――大丈夫ですよ、マスター。こうやって直接貴女と思いを通じ合わせることができただけで、私は幸せ者ですから』

 

 

 そう《セレナ》は儚げな微笑をたたえる――も、それは一瞬のみ。

 

 

『――だから、マスターには危ないことに踏み込んでほしくないんです。昼間の二人……特に《魔女》の方には絶対に関わらないでください。私の『精霊』としての本能が、あの《魔女》はとてつもなく危険な存在だと』

「だったら、ずっと一緒にいるあの女の子はどうなるの!? 助けてあげなくて良いのっ!?」

 

 

 シオリにカードを返す際の、少女の物寂しげな表情が思い起こされる。記憶の『誰か』とタブってしまう。

 声を荒げるようにして、《セレナ》に問い質した。

 

 

『――いつからあの《魔女》が目覚めているか分かりませんが、どちらにせよ手遅れかと。た(・)と(・)え(・)《(・)魔(・)女(・)》(・)自(・)身(・)に(・)悪(・)意(・)が(・)な(・)か(・)っ(・)た(・)と(・)し(・)て(・)も(・)、関係ありません。

 あの禁忌の力は所有者や周囲の人間を巻き込んで不幸をもたらすでしょうから』

 

 

 《セレナ》の真剣な声色に、私は言葉を詰まらせることしかできなかった。

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