一ラウンド目
「さて、と……」
ゲームが始まってしまった。契約書のためにも、私自身の尊厳のためにも、絶対にこの勝負には勝たなければいけない。
カス谷の方に目をやると、もう作戦は立ててあるのか、鼻歌まで歌って余裕の様子だ。
「ポンポン進めていきたいんだけど、もう準備いいかなあ」
「女の子を合法的に脱がすためだけにこんなゲームを夜な夜な考えていたあなたと違って、私は初見なの。少しぐらい考える時間を頂戴」
「君絶対脱がせてやるから!」
カスが何か言っているが無視無視。
まずこのゲームにおいて一番考慮しなければいけないのが、「グー」の扱い方だ。勝っても相手を一枚しか脱がせないくせに、負けたらこちらのほとんどの服を脱がされてしまう。持ち札の半分を占めるこのゴミ札をいかに消費できるかが勝敗を分けるはずだ。
逆に一番強い手札は「チョキ」だ。一見、一気に五枚脱がせることができるパーに目が行きそうなものだが、パーと違い、チョキは負けのリスクが少ない。少ないリスクで勝負できる使いやすい手だ。
「パー」は強力な切り札かつ、価値の可能性が一番高い手札ではあるが、使用可能回数が二回しかない。これがパーのパワーバランスを絶妙に保っている。このゲームは手の数が制限されている都合上、一度同じ種類の手を使い切ったら二度と出すことができなくなる。序盤でパーを二回使い切ってしまった場合、相手はグーを出しているだけで負けが無くなる。だからパーを使えるのは実質的には一回だけ。確実に相手のグーが来ると確信したときにしか使えない。
そこまで考えをまとめると、もう一度カス谷の顔を見る。相変わらずろくでもない事を考えていそうな顔だが、逆に言うとあいつは必ず何か考えがある。カス谷はカスだが無能ではないし、愚かだがアホではない。つまり今考えたこのゲームの前提の考え方は共有できているはず……
「ねえねえ、流石にちょっと考えすぎかなあ。もうそろそろいいですかあ?」
「ええ、いいわよ」
「おっ、ようやくですか。それじゃあお待ちかねの第一戦!」
私は「チョキ」を出すことにした。パーが重要である以上、序盤には切りづらいため、初手はグーが出しやすい。だがそれは奴も分かっている。それを見越した初手パーが奴ならば十分あり得ると考えたためだ。それにチョキなら仮に負けてもダメージは小さい。カス谷がどういうスタンスで来るかを見極めるためにも、ここはチョキが最善のはず。
「もちろん掛け声はわかるよね?」
「……分かるけれど、そう聞かれるのは癪ね」
「まあまあ。分かるなら早速いきましょう!せーの」
野球~するなら こういう具合にしやしゃんせ アウト セーフ ヨヨイノ――
「「よい!」」
カス谷の手はパーだった。
「よしっ」
「ぐわあぁぁぁぁ。僕の完璧な作戦がぁぁぁぁ」
「何やってんだカスー!!」
チョキにして正解だった。まさかほんとに初手からパーを出してくるとは。やはり奴はしっかりと考えてこのゲームに臨んでいる。だが、今回は私の方が上だったな。
初手パーという奇策を制し見事勝利できたことに私はほっと胸をなでおろす。幸先のいいスタートを切れた。
カス谷は隣に並び立っていたゴミ川とともに、しばらくギャアギャア騒いでいたものの、すぐに普段の様子に戻りけろっとしていた。
「それじゃ、チョキに負けたから二枚だね」
そう言うとそそくさと学ランとシャツを脱ぎ、ズボンにタンクトップの姿になる。
「どうして上から脱ぐのかしら。もしかして自分の体を私に見せたいがためにこのゲーム仕掛けてきたのではないでしょうね。汚らわしい」
「聞き捨てならないなあ。僕を五味川君みたいな変態と一緒にしないでよ。僕は至ってノーマルさ。上から脱いだのは床に裸足で立ちたくなかったからさ」
「おい!さらっと俺の事ディスんなよ!」
自身のの性癖をばらされやゴミ川がカス谷とじゃれ合っている。大変仲が良いようでよろしくないことである。
「さっさと二戦目に移らせてもらえるかしら。あまり長い時間ここにいたくないから」
私が急かすと、カス谷はしぶしぶとこちらに向き直る。
「へいへい。それじゃあ一ラウンド目は委員長さんが見事勝利ということで、二ラウンド目に移ろうか」
二ラウンド目
このラウンドはさっきとは状況が大きく異なる。なんせ相手はもうパーを使ってしまったのだ。しかも敗北という最悪の形で。こうなると相手はもうほぼ半分パーは使えないようなものだ。ここでパーを使い切ってしまえば、私はグーを出し続けるだけで負けなくなるのだから。
そうなるとあっちが使えるのは当然グーかチョキの二択のみ。安定の選択肢はチョキだが、さっきの手を見て確信した。あいつは安全策を取ってくるような奴じゃない。人の裏をかいて気持ちよくなりたいだけだ!となればここはグーの可能性が高いはず。ゲームが進めば進むほど手は読みにくくなっていく。この序盤で勝負を決める!
「準備はできているみたいだね。それじゃあいくよ」
カス谷も既に準備が整ったらしい。再び私たちは間抜けな音頭で歌いだす。
野球~するなら こういう具合にしやしゃんせ アウト セーフ ヨヨイノ――
「「よい!」」
私が出した手はパー。そして、カス谷が出した手もまたパーだった。
「ぐわあああ!!」
一番予想外であった展開に、私は目を疑っていた。
いったい何を考えているのだ、こいつは。いくら意表を突きたいからと言って、それは悪手だろう。これで奴はもうパーを全て消費した。この先私は奴の手をたった二択の手から予想すればいい。格段に手が読みやすくなるのだ。加えて、もう私はグーで負けることがない。一気に五枚脱がされることが無くなったのだ。どう考えても、私が圧倒的有利な状況になったことは間違いない。
さすがにこの結果にはショックを受けたのか、カス谷は珍しく余裕のない表情で考え込んでいる。確かに、ここで私がグーを出す可能性は十分あった。なんせパーが来ないという前提であれば、グーを出せば負けないのだから。それでも私はグーを出さなかった。完全に読み勝ったのだ。困惑が一気に余裕へと変わっていく。
「残念だったわね。これであなたの勝ちはもうほぼなくなったわ」
「くっ」
いつものように軽薄な反論もない。間違いない、私は完全に奴を追い詰めている!このまま相手にペースを渡すことなく、ちゃっちゃとこのゲームを終わらせる!
「さあ、早く第三ラウンドに移りましょう。あなたの身ぐるみを剥ぐのが少し楽しみになってきたわ」
私は自身に満ちた表情で、そう言い渡した。
三ラウンド目
先ほどまでとは打って変わり、カス谷はじっくりと次の手を考えこんでいた。軽薄な笑顔はとうとう消え失せ、焦りと不安が半々の表情だ。
一方私は既に次の手を決め、悠々とその姿を眺めていた。次に出す手はグーだ。理由は言わずもがな、グーを出しておけば絶対に「負けない」からだ。相手は既にパーを使い切っているのだ。有利は圧倒的に私にある。ならば私は無理をせず、安定した立ち回りをするだけでいい。手を読み、考えなければいけないのはあちらだけなのだ。
「もういいかしら」
カス谷を倣って、急かして相手の思案を妨害してみる。
「くっ。そんなに急かさないでよ。性格悪いな」
カス谷は顔をしかめながら言う。いつもムカつかされている奴がムカついている姿を見るのは中々気分が良かった。少しだけこのゲームをやってよかったと思えたかもしれない。
「決めた。もういいよ」
しばらく待って、カス谷は手を決めたようで、こちらに顔を向ける。果たして彼はどちらに手を決めたのだろうか。こちらの安定択を読んで相子にするためのグー?それともここで私が打って出ると読んでのチョキ?ほぼほぼ前者だろうが、こちらとしてはどちらでもいい。せいぜい必死に考えて、神経をすり減らしてくれればこの先の読み合いが有利になる。
先ほどまでと同じように、私とカス谷は向かいあう。勿論カス谷の横にはゴミ川が、同じく真剣な面持ちで並ぶ。
そして三度目の掛け声――
野球~するなら こういう具合にしやしゃんせ アウト セーフ ヨヨイノ――