ドパガキ系転生者-異世界行ったら暇すぎる- 作:手に残ったおたまじゃくし
何も無いごくごく普通の田舎の風景だ。
田んぼが並び、馬が嘶きをあげ、星空が煌めいている。
刺激がない。ごくごく普通の長閑な景色。
「…………なんかイラついてきた」
俺はおもむろに下腹部に手を伸ばした。
指先がある場所に触れた途端、刺激の察知に脳がきらめく。
段々とそれに伴って硬度が増していく己の逸品に、俺はイライラがどんどん消えていくのを感じていた。
シュッ……シュッ……シュッ……!!
きもちいい。
別に何を想像してるわけでもない。
ただただ快楽によりドーパミンを摂取できている。
その事象が何よりのオカズでしかなかった。
「ふっ……ふっ……ん……んおおおおおっ♡」
緑色のパレットに純白の絵の具が解き放たれた。
◇◇◇
「……で、あるからして、魔法式というのは詠唱の長さこそが威力に直結するというのが最近の学説であり…………儀式魔法が戦略級魔法に該当するのは────2年前の研究によると……」
話が長すぎて耐えられない件について。
コイツらの講義って昨今の長文詠唱みたいに長いね。
そんなん言ってるから剣術学校の教師に「命懸けの戦いしてる時に詩を
だが残念ながら魔法学校に来て真面目に勉強するヤツは、どいつもこいつも詩人しかいないのである。
自衛とか強さを求めるために、って謳い文句で生徒集めてる割にはやってること暗記だぞ暗記。ふざけんなよ。
あぁ、そうだ。自己紹介を忘れていたな。
俺の名前はミン・パドガー。
現代日本のYou◯ubeSh◯rtsで育った生粋のドパガキであり、刺激の無い時間が自死を選ぶレベルで苦痛なZ世代転生者だ。
今だって、白い髭生やしたおっさんが分厚い魔術書(論文)片手にペラペラと何も入ってこない話を永遠にしてやがる。
当たり前のように俺は話を聞いていない。
だって耐えられないんだもの。普通に魔法を学びましょうとかなら刺激があるから良いんだけど、コイツらが言ってるのは長文詠唱するために暗記しましょうってこと。
無理だ。
長ったらしいクソみたいな古語をひたすら暗記する訓練とか無理だ。耐えられない。刺激が無い。退屈だ。
──ドーパミンが足りない。
この世界はドーパミンが足りなすぎる。
間違った。
こんなことなら剣術学校に入れば良かった。
562文字の詠唱を唱えて発生するのが小さな火の玉とかやってられん。効率が悪すぎる。学費が安いのってこういうのが理由か。
「まずい……」
俺は小さく呟いた。
このままだと俺は2週間で退学しかねない。
若者特有の諦めの早さが俺をずっと急かすんだ。
この世界にモー◯リが無いからまだ耐えられている。
退学代行というシステムがあったら秒で頼ってる。
くそ……何とかしないと……まずい……。
俺は自作した一個だけ印が描かれているサイコロをひたすら振りながらそんなことを思った。
お、当たり出た。
◇◇◇
「ミンくん、今日の授業ちゃんと聞いてた?」
「ん? おう、バッチリよ」
「でも、
呆れた目で俺を見ながらため息を吐くのは、同部屋になった茶髪碧眼のショタである。名をリュエル・タショという。
俺と同じ15歳には見えないほどの童顔である。
絵に描いたような真面目くんなリュエルは、どうやら俺が授業を微塵も聞いていないことにご立腹なようだ。
だって、346文字暗記してピカピカ光るボール生み出すのコスパ悪すぎるだろ。最後の確認テストみたいので俺だけ詠唱できなくて怒られたし。
この世界の人間って普通に暗記性能高くない?
俺がドパガキすぎるだけ? 5分で346文字覚えるのは普通に無理じゃない? こんなのが続くならやっていける地震無いぞ。
「なんかなぁ、詠唱が好きじゃないんだよなぁ……」
「教授の前でそんなこと言ったら2時間はお説教になるよ? まあ……分からないでもないけどさ。やっぱり僕たち魔法師って剣士に見下されてるし……」
リュエルは微かに目を伏せて言った。
……まあ、そだな。詠唱してる隙に叩き斬れば良いだけだしな。実際問題、この世界の個人のパワーバランスは肉体に能力振った人間が一番上なわけだし。
「でもね、いざ戦争になったら魔法師は大活躍なんだよ!? 三日三晩の儀式魔法で敵陣に戦略級魔法をバーン! って」
「でも儀式魔法してる位置バレしたら終わりじゃん。何回もそれでうちの国負けてっから最近の戦争じゃ剣士しか雇用してないし」
実際魔法師をクビにしてから勝ってるしな。
そんなこと早く気づけよと思わないでもないが、一撃で敵陣を壊滅させるロマン砲に頼りたくなる気持ちも分かる。
あれで勝てたらドーパミンの分泌エグそうだもんな〜。
「む、むむむ……じゃあミンくんは何で魔法師学校入ってきたの? 大体は魔法に興味を惹かれたからって理由だけど」
「いやぁ、なんか田舎暮らしが耐えられなかったからさ、適当に都会に来る理由を探してたら魔法師学校に行き着いたんだよ」
親も魔法師になるって言ったら喜んでくれたしな。
一応適性が無いとなれないらしいし、バカにされてるけど魔法師の給料自体は別に悪いもんじゃねぇ。
……それに、あの頃はまだ魔法に憧れがあったし。
まさかこんな退屈な詩人たちばっかとは思わなかったけど。
「……よし! 同室のよしみだ! 僕がミンくんの魔法の勉強を見るよ!! ミンくんだって授業についていけなかったら困るでしょ!」
「え、うーん。分かった。お願いするわ」
☆☆☆
「──魔法には相性があるんだ。中級魔法までは詠唱さえ覚えてしまえば基本的には撃てるんだけど、それ以上となると、どれだけ詠唱を覚えていても相性が悪かったら撃てない」
「おーん」
「だから古代魔法の類とかは詠唱が短いのがほとんどだけど、相性次第で発動しない。……まあ、よく分からない効果だったり、ふざけた魔法ばっかりだから古代魔法なんて誰も使わないけど」
……ん? 詠唱が短い?
古代魔法って立派な名前が付いてるんだし、長ったらしい詠唱があるもんだと思っていたけど……。
「古代魔法ってどういうのがあんの?」
リュエルの話を遮って問いかけると、彼は困った表情をしながら顎に人差し指を置いて思案する。
「うーん、あんまり詳しくないけど……先輩が言ってたのだと、触媒を消費して魔力を放つ魔法、とか? なんか、すごい低い確率で人一人消し飛ばせる威力の魔力が出るんだって」
──ぎゃ、ギャンブル魔法だコレ!!!
会心の◯撃システムなんじゃね!?
大体はスカだけど、低確率で会心が出て一撃で倒せる!
しかも短い詠唱!! めっちゃおもろそうじゃねーか!!
「おいリュエル!! その魔法の詠唱は!?」
「えっ、えぇ!? と、図書館とかにあるんじゃないかな?」
「分かった!! 今すぐ行ってくる!!」
「ちょ、まだ教えてる最中──」