柴大将の息子   作:mukugawa

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先生の来訪

 

「ただいまー」

 

「おかえりなさ……え、ヨモギくん。その方は?」

 

「先生だ。来てくれたぞ、アヤネ」

 

 ガタンと音を立てて立ち上がったアヤネは、眩い笑顔で先生の手をとる。

 キヴォトスを実質的に運営する立場にある「連邦生徒会」にアヤネが手紙を送って、既に2週間以上が経っていた。

 待ちに待った先生とのご対面に興奮を隠すことができないのだろう。

 まあ、無理もない。

 今は行方知れずの連邦生徒会長お墨付きの組織から支援を受けられるのだ。

 孤立無援のアビドスにとっては久しぶりの吉報。

 

「ようこそ! アビドス高等学校へ。私は奥空アヤネです」

 

"手紙をくれた子だね。私はシャーレの顧問先生だよ。よろしくね"

 

「はい! よろしくお願いします」

 

 そして始まる自己紹介タイム。

 次々とみんなが自己紹介をしていく中で、最後にホシノ先輩の出番が回ってくる。

 

「うへへ……3年の小鳥遊ホシノだよ。よろしくね、先生」

 

 ホシノ先輩は笑ってそう言った。

 目(・)は(・)完(・)全(・)に(・)笑(・)っ(・)て(・)な(・)ど(・)い(・)な(・)い(・)が(・)。

 表向きはフレンドリーな態度を装うとしているが、値踏みをする気満々である。

 気持ちはわかるが、もうちょっとその鋭い目を何とかしてほしい。

 昔の切れたナイフみたいな先輩に戻ったみたいだ。

 

「ヨモギくん。なんか失礼なことを考えてな~い?」

 

「はっはっはっ。滅相もありません」

 

「ほんとかな~?」

 

「そのようなことがあろうはずがございません。私がホシノ先輩に失礼なことなど……」

 

「いや、一人称変わってますよ先輩……」

 

 やかましいわセリカ。

 セリカの方を生暖かい笑顔で見ようと思ったその時であった。

 ダダダダッ!と発砲音が鼓膜を叩いた。

 聞こえたのは学校の外からである。

 

「あーあ、このパターンはきっと……」

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 カタカタヘルメット団、という連中がいる。

 ここ最近、アビドスにしつこく攻撃を仕掛けてくるクソや……不良集団である。

 ヘルメット団の名の通り、フルフェイスのヘルメットを被った人員で構成されている。

 

「ヒャハハハハハッ!!」

 

「攻撃、攻撃だ! 奴らは弾薬の補給を絶たれている! 襲撃せよ! 学校を占領するのだ!」

 

 相変わらずのやかましい声に顔を顰める。

 確かに奴らの言う通り、うちの弾薬は枯渇気味だが、ヘルメット団如きに負けるほど衰えてはいない。

 

「ヨモギくん」

 

「……わかってる」

 

 ノノミに諭され、無意識に握りしめていた拳を解き、リボルバーの弾薬をチェックする。

 その間にアヤネが先生と話をしていた。

 

「私がオペレーターを担当します。先生はこちらでサポートをお願いします」

 

"わかった。任せて"

 

 さて、先生のお手並み拝見と行こう……

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

「お、覚えてろーー!!」

 

 はい。勝ちました。

 アビドスはこれまで、消費する弾薬を気にして中々攻勢にでることができなかったのだが、先生の補給で状況はガラリと変わった。

 アビドスの戦法は、言ってしまえば5人による総突撃。

 ベテランのホシノ先輩がヘイトを引き受け、ミニガン持ちのノノミが後衛で援護。

 あとは俺たち3人が突っ込むというのが定石手段であった。

 これまではヘルメット団の消耗を待ってから慎重に動いていたのだが、先生の的確な指揮により先手必勝の戦いを挑むことが可能になったのである。

 ヘルメット団一人一人の練度は高くないので、苦戦などするはずもなく、戦闘は早期に決着を迎えたのであった。

 

「見たかっ! これが私たちの力よ!」

 

「勝っちゃいましたね☆」

 

 やっぱり資源って大事。

 余裕があれば手段も増える。

 手段が増えれば勝ち方も増えるというものだ。

 

「これが大人の力……豊富な資源と装備に戦闘の指揮まで。大人ってすごい」

 

「今まで寂しかったんだね、シロコちゃん。パパが帰ってきてくれたおかげで、ママは安心して眠れまちゅ」

 

「はは」

 

「ちょっと、なにか言ってくださいよヨモギ先輩。ホシノ先輩のツッコミ役はヨモギ先輩なんですからね」

 

 そんな担当はごめん被る。

 ホシノ先輩のボケは最近加速しすぎだ。

 専属なんてやったら、こっちが過労死してしまう。

 

「俺には過ぎた大役だ。ここは未来ある後輩に任せるとするよ。なあアヤネ」

 

「ええ!?」

 

「アヤネちゃんはみんなのツッコミ役ですよ。ホシノ先輩はヨモギくんが担当です☆」

 

「ツッコミ役は変わらないんですね……」

 

 アヤネの言葉にその歳に似合わぬ哀愁が漂っていた。

 安心しろアヤネ。

 ツッコミ地獄に落ちるなら多分、俺も一緒だ。

 

「にしても連中、本当にしつこいわね……」

 

「いつまでこんな消耗戦をしなきゃいけないんでしょうか……私たちには解決しないといけない問題がたくさんあるのに」

 

 セリカとアヤネの懸念の言葉には同意せざるを得ない。

 いい加減にヘルメット団を自治区から完全に排除しなければ、いくら補給をもらったところで焼け石に水だ。

 数で圧倒的に劣る俺たちは、いずれ学校を守れなくなる。

 

「というわけで、ちょっと計画を練ってみたんだよねー」

 

 ホシノ先輩の発言にギョッとする一同。

 普段がぽやぽやしてるから忘れがちだけど、アビドス戦においてはこの人ベテランだからな。

 多分、ずっと前から練っていた計画を先生の補給のおかげで実行できるようになったんだろう。

 

「その反応にはおじさんもちょっと傷ついちゃうな~。おじさんだってたまにはちゃんとやるのさー」

 

 たまには、だ。

 普段からもう少し、その頼れる先輩オーラを身に纏ってくれればこっちとしても言うことなどないのだが。

 ホシノ先輩が話を続ける。

 

「ヘルメット団はきっとまた、数日後に襲撃をかけてくる。ここのところずっとそうだからね。だから、消耗してる間に前線基地を叩いちゃおうと思ってさー」

 

「追撃戦ってことっすね」

 

「えへへ、その通り。先生のおかげで補給も気にしなくていいしね。やるなら今でしょ」

 

 ホシノ先輩の作戦は満場一致で可決された。

 ヘルメット団の拠点は、学校から30Kmほど先にある。

 手早く準備を終えた俺たちは、ヘルメット団追撃戦へと身を投じた……

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 不意を突いた攻撃は思った以上にうまくいったらしい。

 

「くっそー!! なんでこいつらが攻めてく───ぎゃああっ!?」

 

 ノノミのミニガンが迎え撃とうとしたヘルメット団を容赦なく襲う。

 既に戦闘部隊はボロボロの状態だ。

 まともに戦える戦力なんて、もうほとんど残っていないだろう。

 

「く、来るぞーー!!」

 

 しかし、粘り強いのは流石といったところか。

 こちらも追撃の手を緩めたわけではないのに、倒した先からどんどん敵が湧いて出る。

 

「いやー、今日は良い日になりそうだね」

 

 ホシノ先輩は自分の計画通りの光景にご満悦だった。

 

「アイツ、何発も喰らってるのになんで倒れないんだよーー!?」

 

 キヴォトスの生徒にはたいてい、弾丸への耐性がある。

 しかし、数を喰らえば怯みもするし、時には意識を失うこともある。

 ──だが、ホシノ先輩の耐久力は次元が違った。

 敵に包囲され、四方八方から弾丸を浴びせられてもなお、怯みすらしない。

 冷静に敵の包囲の一角を崩し、一人一人確実に意識を奪っていく。

 

「──次は君かな?」

 

「ひ、ひぃっ!?」

 

「に、逃げろっ!?」

 

 一言でいえば規格外。

 ホシノ先輩のレベルは少数精鋭のアビドス生の中でも、群を抜いて高い。

 きっと、キヴォトス全体を見てもトップクラスの実力があるはずだ。

 ホシノ先輩に恐れをなしたヘルメット団たちは、戦闘不能の仲間を連れて次々と撤退していった。

 

「ぐえあっ!?」

 

「なんなんだよアイツは!? あんなふざけた銃を使ってる癖に───」

 

「なにがふざけてるって?」

 

 シリンダーが回転し、再び撃鉄が打ち付けられる。

 ダブルアクションといえど、連射能力に関しては低いリボルバー。

 キヴォトスではあまり使われないロマン武器に位置づけられるリボルバーは、確かに普通の生徒からしたらふざけた武器なのかもしれない。

 

「数で押さえろっ! 相手はリボルバーだぞ!」

 

 リボルバーの威力の高さに怯んだヘルメット団が、指揮官の言葉で我に返った。

 敵が殺到する。

 向けられる銃口の数々から、俺目掛けて弾丸が発射される。

 それを最小限の動きで避ける。

 無数の射線にも弾丸が通過しない角度はある。

 そこに体をねじ込んだ。

 

「嘘だろ……」

 

「ところがどっこい。これが現実」

 

 ドンッ!と指揮官の眉間が、ヘルメットを貫通した弾丸によって弾かれる。

 

「か、勝てない……」

 

「うわあああああーー!?」

 

 俺たちの快進撃は続いた。

 カタカタヘルメット団の心が折れるのに、そう時間はかからなかった。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

「はい。終了」

 

 完全勝利である。

 散り散りに逃げていくヘルメット団を眺めるのはちょっと気分がいい。

 散々困らされた相手だ。

 これでアビドスにしばらくは近づかないだろう。

 

「なんか、ちょっと可哀想ですね」

 

「心が折れると人ってああなっちゃうんですね……」

 

 ヘルメット団の後ろ姿を気の毒に見つめるノノミとアヤネ。

 アビドス生の中でも優しさに溢れた2人には、ちょっと刺激が強かったかもしれない。

 

「まあまあ、迷惑な連中が出て行ってくれたことを喜ぼうよ」

 

"あはは……"

 

「先生が苦笑いしてる」

 

 シロコの言葉に振り返ると、引き攣った笑みを浮かべる先生の姿が。

 先生は銃撃戦が日常ではない外から来たと言っていた。

 先生には刺激が強すぎただろうか……でも、先生がキヴォトスの生徒全員の先生である以上、これくらいの戦闘を今後も経験する可能性は十二分にある。

 どうか心を強く持ってほしいと、俺は密かに願った

 

「と、ともかく! これで心置きなく借金返済に取り掛かれるってわけね!」

 

"借金?"

 

「……あ」

 

 セリカの言葉に反応する先生。

 そういえば、先生には借金のことは話していなかったな。

 どうせそのうち話すんだ。

 今話してもいいだろう。

 

「先生。実はうちには───」

 

「ま、待ってヨモギ先輩!」

 

 話そうとすると、慌てたセリカに遮られた。

 

「どうしたセリカ?」

 

「そのことは話さなくてもいいでしょ?」

 

「なんで? 別に隠すことでもないだろ」

 

「話すことでもないでしょ!? 先生だって結局は外の大人なんだから……」

 

 ここまで助けてもらっておいて、今さら外も内もないとは思うが。

 とはいえ、セリカの気持ちがわからないわけではない。

 同じアビドス自治区の大人すら諦めムードで、一つの手助けすらしてくれなかったのだ。

 その状況で、外からやってきた大人をすぐに信用しろと言われても難しいだろう。

 

「セリカ。先生は信用できると思う」

 

「先生でもパパッと解決するのは難しいと思うけどさ、こんな問題を聞いてくれる大人は先生しかいないよ」

 

 シロコとホシノ先輩が次々と声をかけるが、今は何を言っても逆効果だ。

 先生がどれだけいい人であるかは関係がない。

 これはセリカの納得の問題なんだから。

 

「私は、認めないっ!!」

 

 走り去っていくセリカ。

 どうしようかな……俺、このあと絶対に顔を会わせるんだけど。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 放課後。

 学校で解散した俺は一人、柴関ラーメンへと足を踏み入れた。

 引き戸を開けると、

 

「いらっしゃいま───」

 

 店員姿に着替えたセリカの姿があった。

 そう、セリカは柴関ラーメンでバイトをしている。

 2週間前からの勤務にも関わらず、制服姿を随分と着慣れたようでなによりだ。

 

「あの、先輩……」

 

「親父は?」

 

 何かを言いたげなセリカの言葉を遮って、親父のことを尋ねる。

 今話したところで、どうにもならないものは後回しだ。

 

「え? 大将なら、厨房にいますけど……」

 

「わかった。親父ー!」

 

 声を上げると厨房から姿を現す親父。

 

「どうしたヨモギ。お前、今日は用事があるとかって……」

 

 事実だった。

 今日はアビドスの外で賞金首を追うつもりだった。

 が、今はそんなことをやっている場合ではないだろう。

 

「予定変更。俺も入る」

 

「ん? まあ、構わねえけどよ」

 

 柴関ラーメンにおける俺の役目は厨房スタッフ兼接客スタッフである。

 セリカと接する機会も多いが、バイト中に無駄口を叩くほど、セリカは不真面目ではない。

 

「お、今日はヨモギくんもいるのかい?」

 

「看板娘と看板息子が勢ぞろいか! ちょっと写真をとってもいいか?」

 

「はいはい、着替えてくるからちょっとタイム。写真撮るんだから、なんか頼んでってくれよ?」

 

 顔なじみの常連からのリクエストを承諾して、俺はスタッフルームへと入った……

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

「「ありがとうございましたー!」」

 

 柴関ラーメンは人気店である。

 人口が減少を辿るアビドス自治区に店を構えているというのに、自治区の外からわざわざ足を運ぶ常連が大勢いる。

 今日も中々の客足であった。

 

「よっと」

 

 閉店の札を店の入り口にかける。

 

「後片付けは俺がやる。親父は先に帰っていいよ」

 

「……わかった。遅くなるなよ」

 

「おう」

 

 こちらの意図は話さずとも伝わったらしい。

 親父は足早に店を立ち去って行った。

 残されたのは俺とセリカだけ。

 

「……」

 

「……」

 

 俺からはなにも言わない。

 黙々と店の片づけを行うだけである。

 食器をすべて棚へとしまい、厨房の掃除へとかかろうとしたその時、

 

「先輩は、なにも言わないんですか?」

 

 セリカが口を開いた。

 

「なにが?」

 

「先生のことです……私に、なにか───」

 

「先生を信じろって? 言わないよ。俺も信じてるわけじゃないし」

 

「え?」

 

 そんな意外そうな顔で見られても困るんだけど。

 

「初めて会って、1日も経たない大人を信用できないなんて当たり前だろ」

 

 先生は良い人っぽいオーラを纏っているが、何を考えているかなどわからない。

 たった1日で信用できるあいつらの懐が広すぎるのだ。

 セリカの考えは間違いではない。

 

「……じゃあ、先輩はどうするんですか?」

 

「疑う」

 

「疑う?」

 

「とことん疑って、疑いまくって……それでも裏切らないようなら、信じてみるさ」

 

 信頼なんてそんなもんだ。

 怪しいなら信じられるまで疑い続けるまでである。

 今の俺にできるのは、セリカに選択肢を提示することだけだろう。

 

「……ヨモギ先輩って、疑り深いんですね」

 

「知らなかったか?」

 

「はい。ちょっと意外でした……でも、ありがとうございます」

 

 そう言ったセリカの表情はどこか吹っ切れたように見えた……

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 翌日。

 

"おはよう、セリカ"

 

「……おはようございます」

 

 セリカの先生に対する態度は厳しいままだったが、その存在を無視するような形ではなかったことに少しホッとする。

 先生の存在を徹底的に認めずに逃げるのではなく、許容したうえで疑っているようだ。

 ここから信頼関係を築けるかどうかは先生のコミュニケーション力にかかっているだろう。

 まあ、ホシノ先輩が問答無用で追い返さなかった時点で及第点は超えている。

 時間をかけて、ゆっくりと信頼を築いていってほしい。

 ……そう思っていたのだが。

 

「いらっしゃいま────わわっ!?」

 

 ごめんな、セリカ。ホシノ先輩がお前のバイト先を知っていたことをすっかり失念していたよ。

 

「な、なんでみんながここに……!?」

 

"どうも"

 

「せっ、先生まで……やっぱりストーカー!?」

 

「あはは、先生のせいじゃないよ。セリカちゃんのバイト先といえばここしかないからね」

 

「まさか、セリカちゃんがラーメン屋でバイトをしてるなんて思いませんでした☆」

 

「ん。セリカは隠し事が下手」

 

「ごめんね、セリカちゃん」

 

「アヤネちゃん……ヨモギ先輩ぃ……」

 

 そんな目で見るなって。

 バレたらもうしょうがないだろ。

 頑張って接客するしかないってば。

 

「うう、ご、ご注文はお決まりですか……」

 

「私はチャーシュー麺をお願いします」

 

「私は塩」

 

「じゃあ、私は味噌で……」

 

「私はねー、特性味噌ラーメン! 炙りチャーシュートッピングで!」

 

"ふむ……私は柴関ラーメンを"

 

 にしてもメニューが多いな。

 俺はメニューを頼まず、一人立ち上がる。

 

"ヨモギ?"

 

「運ぶの手伝うぞ」

 

「え? でも……」

 

「今は忙しいだろ」

 

 来た時間はちょうど休憩中の社会人が殺到する時間帯だ。

 セリカ一人で捌くのは骨が折れるだろう。

 

「あれ、ヨモギくんもここで働いてるの?」

 

「セリカのことは知ってるのに俺のことは知らないんだ……まあ、そんな感じです」

 

「ヨモギ先輩……!」

 

 そこまで感謝されることはしてないぞ、セリカ。

 今の状況はここに来られる想定を怠った俺の責任でもあるわけで。

 

「ま、気にせず食っちゃってくださいよ。味は保証しますから」

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

「ホントみんな嫌い! 死んじゃえ―!」

 

 退店した俺たちに捨て台詞を吐き出し、セリカはトボトボと店の中へ戻っていった。

 

「うん。元気でよかったよー」

 

「ちょっと悪い気もしますけどね……」

 

「ユニフォーム姿のセリカちゃん……ハッ! 閃きました。これはアビドス復興に生かせるかもしれません☆」

 

「何を閃いたかは聞かないぞ……」

 

 前の定例会議でアビドスアイドル化計画なんて恐ろしいモノを企てたノノミ。

 ああ……次の定例会議が不安だ。

 

「ヨモギは残らなくてよかったの?」

 

 シロコがそう尋ねてきた。

 

「臨時のヘルプだからな。一番忙しい時間は過ぎたし。それに……今は一人にしてやりたい」

 

"ヨモギはセリカのことをよく見ているんだね"

 

「まあ、学校以外で顔を会わせることも多いんで」

 

 セリカがどういう性格なのかはわかっているつもりだ。

 流石に中学からの付き合いであるアヤネには及ばないだろうが。

 

"ヨモギはいつから柴関ラーメンで働いてるの?"

 

「あー、接客だけなら10年前から?」

 

「「「10年!?」」」

 

 驚きの声が重なった。

 そこまで驚くことだろうか。

 

「まあ、家の仕事なんで」

 

"家……あれ、そういえばヨモギ、大将のことを「親父」って……"

 

「ああ、そうですよ。柴大将は俺の親父です」

 

「「「ええええええええええええ!!」」」

 

 ……そんなに驚くことか?

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 その夜。

 セリカが家に帰っていないという連絡がアヤネから回ってきた。

 親父が言うには既にシフトはあがって帰ったという。

 そして、セリカは夜遅くに出歩くタイプではない。

 なら、答えは一つだった。

 

「セリカちゃんが攫われた!?」

 

「そう考えた方がしっくりくる」

 

 先生に調べてもらったところ、セリカの携帯端末は旧市街地……今は廃墟になっているエリアで反応が途切れているという。

 そんなことをする連中にも、俺たちは心当たりがある。

 

「ヘルメット団の仕業だと思う」

 

 シロコが放った言葉が、場の空気をピリッとしたものへと変える。

 ヘルメット団は出してはいけないものに手を出したのだ。

 アビドスは身内に手を出すものを絶対に許さないし、絶対に逃がさない。

 

「みんな。やることは一つだよね」

 

 ホシノ先輩の言葉に全員が頷いた。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 暗い場所で目が覚めた。

 

「こ、ここどこ!?」

 

 ガタガタと揺れる音がする。

 

「ここ、トラックの荷台? 私、攫われたの?」

 

 武器は近くにない。

 携帯も……ない。

 

「この……!」

 

 荷台の壁に拳を叩きつけた。

 

「うう……」

 

 駄目だ、ビクともしない。

 荷台の扉も外から鍵をかけられていて開かない。

 

「開いて、開いてよ……」

 

 何度も拳を叩きつけたところで気づく。

 私はもう、なにもできないのだと。

 

「……」

 

 膝から崩れ落ちる。

 これからいったいどうなるのだろう。

 攫ったのは間違いなくカタカタヘルメット団だ。

 自分を人質になにを要求するのだろう……

 

「……ぐすっ」

 

 なんでも同じだ。

 私がみんなの足を引っ張った。その事実は変わりない。

 悔しさに涙が滲む。頭が熱い……

 

「うっ───」

 

 ──爆発。

 

「うひゃあっ!?」

 

 横転するトラック。

 私は荷台の中をドラム式洗濯機内の洗濯物のように転がる。

 

「ううう、なんなのよ……」

 

 ……ガチャリとドアが開いた。

 差し込む光に目を細める。

 そこには、

 

「半泣きのセリカ発見」

 

 シロコ先輩の姿があった。

 

「なにぃー!? ウチの可愛いセリカちゃんが泣いてただとー!? そんなに寂しかったの? ママが悪かったわ、ごめんねー!!」

 

 駆け込んできたのはホシノ先輩だ。

 頼むから泣いていたことを大声で叫ぶのは止めてほしい……!

 

「なっ!? べ、別に泣いてなんか───」

 

「嘘! この目でしっかり見た!」

 

「泣かないでください、セリカちゃん! 私たちがその涙を拭いますから!」

 

 ああ、もう。シロコ先輩もノノミ先輩もやめてほしい!

 お願いだから泣いていたことに触れないで──!

 

「はいはい、そこまで」

 

 この状況に困りきっていると、パンパンと手を叩いてヨモギ先輩が現れた。

 

「とりあえず、連中を叩き潰すぞ。話は後だ」

 

 ヨモギ先輩が差し出したのは、私のアサルトライフル。

 

「──はい!」

 

 私は銃を受け取って、敵の方へ銃口を向けた。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 セリカは怪我をしていない。

 痛めつけられるようなことはされなかったようだ。

 まあ、怪我の有無に関わらず、ヘルメット団はもう絶対に許さないが。

 

「シロコ、セリカ、行くぞ」

 

「うん」

 

「はい! 先輩!」

 

「私が先行するね」

 

 既に作戦は先生から指示されている。

 ホシノ先輩が一番槍として、敵陣に斬り込んだ。

 

「私も怒ってるからさ……本気で行くよ」

 

 ホシノ先輩の動きが変わる。

 敵のヘイトを誘うゆっくりとした動きから、敵を翻弄する超速へ。

 目にも止まらぬ速さで敵集団まで駆け抜けたホシノ先輩の精密な射撃が、俺たちを狙っていた戦車に穴を空けた。

 

「撃ちます!」

 

 混乱するヘルメット団にノノミのミニガンが襲い掛かった。

 

"今だよ!"

 

 先生の号令に従って、ノノミの射撃と同時に俺たちは走り出す。

 敵陣で暴れまわるホシノ先輩とノノミの圧倒的火力にヘルメット団が敷いていた陣形は完全に崩壊していた。

 

「いくぞおおーー!!」

 

 セリカの叫び。

 それが俺たち3人の攻撃の合図になった。

 一塊になった俺たちはホシノ先輩の開けた穴に突っ込む。

 

「殲滅する」

 

 シロコのドローンとアサルトライフルによる二重の攻撃が。

 

「借りは返してやるんだからーー!!」

 

 セリカの怒りをまとった突撃が。

 そして俺のリボルバーによる射撃が、次々と敵を打ち倒していく。

 前線基地を失ったヘルメット団にとっては、これが起死回生の策だったのだろうが、そんなことは知らん。

 ここで徹底的に潰す。

 それがアビドス生の総意だった。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 戦闘は10分もかからなかった。

 ヘルメット団は敗走し、息も絶え絶えでアビドスから去って行った。

 残されたのは連中が使っていた武器やその残骸のみ。

 不法投棄だと文句を言ってやりたいが、このゴミは使えるゴミだった。

 

「戦車に迫撃砲まで……こんなもの、ヘルメット団が手に入れることができないはずです」

 

 アヤネの言葉に頷く。

 いくら銃火器が広く流通しているキヴォトスでも、戦車なんかは手に入れるルートが限られる。

 型式番号なんかでみっちり管理されているはずだ。

 しかし、これらの兵器にはそれがない。

 

「ヘルメット団に兵器を渡している奴らがいるのかもな……」

 

「調べてみましょうか」

 

 裏に誰がいるのか。

 アビドスを狙う敵の正体に近づく手がかりになればいいのだが……

 

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