柴大将の息子   作:mukugawa

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ひっそり投稿。
よかったら見てください。


便利屋68、現る

 

「はあ、はあ……」

 

「ひ、ひどい目に遭った……」

 

 カタカタヘルメット団アジトにて。

 アビドスに敗れたヘルメット団たちは、ボロボロの体を引きずって帰ってきた。

 

「これからどうするの?」

 

「どうもこうもあるか! やり返しに行くんだよ!」

 

「でも、もう渡された武器は底をついて───」

 

「あれ? なんだ、このバック……」

 

 アジトの中に置かれた見知らぬボストンバッグ───それが、突如として爆発した。

 

『うわあああああ!?』

 

 それは瞬く間の出来事であった。

 爆発と共に建物に突入した4つの人影が、全てのヘルメット団員を無力化したのである。

 

「くそ……お前たちは……なんだ?」

 

 倒れ伏すヘルメット団員が4つの人影に問いかける。

 煙が晴れていく……

 

「あなたたちは用済みってこと。今後の仕事は────」

 

 月明かりに照らされて現れたのは、4人の少女。

 

「──私たち、便利屋68が引き継ぐわ」

 

 アビドスに新たな敵が迫る────

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 カタカタヘルメット団との一件から2日が経った。

 ヘルメット団の姿は今のところ見えない。

 まあ、あれだけやり返してやったのにすぐ戻ってこられても困るけれど。

 そんなこんなで、ここ2日は平穏無事な学校生活が続いている。

 今日は久しぶりの定例会議だ。

 

「では、アビドス対策委員会の定例会議を始めます。今日は先生にもお越しいただいているので、いつもより真面目に議論ができる……できると思います」

 

 ここでアヤネが言い切れない時点で、いつもの定例会議がどんな終わり方をしているかは先生も察しがついただろう。

 今まで定例会議がまともに進んだことなど片手で数えるほどしかないのだから。

 

「は~い☆」

 

「もちろん」

 

「何よ、いつもは不真面目みたいじゃない……」

 

 不真面目が問題ではないんだよセリカ。

 真面目にやった結果、とんでもない意見がでるのが問題なの。

 

「では、早速議題に移りましょう。今日の議題は私たちが抱える最大の課題「借金返済」についてです。ご意見のある方は挙手をお願いします」

 

「はい! はい!」

 

 元気よく手を上げたのは問題児その1のセリカだった。

 

「はい、1年の黒見さん。お願いします」

 

「とにかくっ! 対策委員会の会計担当としては、破産寸前の我が校の財政状況には速やかな改革が必要だわっ! このままじゃ廃校まっしぐら! みんなもわかってるわね?」

 

「うん、まあねー」

 

 まあ、正確な分析ではある。

 我が校が抱える借金の額は9億5746万。

 6人体制では利息分すらまともに払えていないのが現状だ。

 セリカは話を続ける。

 

「今まで通り、賞金首やアルバイトを続けるだけじゃ現状維持にしかならない! 借金問題を根本的に解決するには、もっとデカい一撃が必要なのよ!」

 

 うーん、もっともな意見だ。

 毎回セリカはここまではいいのである……ここまでは。

 

「デカい一撃……それはいったい?」

 

「これよっ!」

 

 セリカがバックから取り出したチラシを配り始めた。

 

「ふーん……ゲルマニウム麦飯石ブレスレットであなたも一攫千金、ねえ……」

 

「そう、これでガッポガッポ稼ごうよ!」

 

"え、えーと……"

 

 先生、わかっただろう。

 これが定例会議の問題児筆頭セリカだ。

 このチラシはどう見たってマルチ商法のそれである。

 セリカが毎度持ってくるものは100%マルチ商法。

 ひどいときは既に一個買った状態で勧誘してくるんだから、もう目も当てられない。

 そもそもゲルマニウムは電子部品に用いられるものだ。

 断じて運気アップのパワーストーンなどではない。

 

「却下ー」

 

「ええっ!?」

 

「儲かるわけない」

 

「セリカちゃん。これ完全にマルチ商法だよ……」

 

「えっ!? 私もう2個も買っちゃったんだけど!?」

 

「セリカちゃん、騙されちゃいましたね。可愛いです☆」

 

 これには一同猛反対。

 というか2個も買ったのか……多く買ったら効果倍増とか言われたんだろうな。

 まあ、二個の産業廃棄物はクーリングオフできるだろう。

 できなきゃヴァルキューレを呼べばいい。

 

「うう……せっかくお昼抜いて買ったのに」

 

「大丈夫ですよセリカちゃん。今度一緒にお昼を食べましょう?」

 

「ノノミせんぱぁいぃ……」

 

「で、では黒見さんからの意見はこの辺に……他に意見のある方は……」

 

「はい! はい! はーい!」

 

 元気よく手を上げたのはホシノ先輩。

 

「もう嫌な予感がしますが……どうぞ、3年の小鳥遊先輩」

 

「他校のスクールバスを拉致するんだよ」

 

「……はい?」

 

 アヤネの表情が固まった。

 

「ウチは生徒数の少なさが問題だと思うんだよねー。余所の学校みたいに生徒数をガツンと増やせれば、もっとお金も増えるはずー。そのための拉致だよ」

 

「……」

 

 アヤネは意見のインパクトに固まったままである。

 再起動に時間がかかりそうだから、進行は俺が引き継ごう。

 

「先輩、拉致ってどうする気です?」

 

「アビドスへの転入届にサインしないと下ろせないようにしちゃうのさー。これで仲間が増えるよ、やったねヨモギくん!」

 

「その話、詳しく聞かせてほしい。狙うのはどこ? トリニティ? ゲヘナ?」

 

「おい馬鹿止めろ」

 

 シロコも乗っかってくるんじゃない。

 お前がくると冗談めいた作戦がマジになるから、

 

「……はっ! そんなことやったら拉致した学校の風紀委員会が黙ってませんよ! 却下です!」

 

「うーん、それじゃあ駄目か……」

 

 再起動したアヤネによりホシノ先輩の案は却下された。

 妥当な判断である。

 

"あ、あはは……"

 

 先生の苦笑いを見るのはこれで二度目だ。

 思っていたよりも数倍はトンチキな会議だろうが、どうか終わるまで付き合ってもらいたい。

 さて、ここまでは許容範囲内。

 セリカのマルチ商法、ホシノ先輩のボケに続くのは恐らく───

 

「いい考えがある」

 

 スッと手を上げたのはシロコであった。

 またしても嫌な予感がする。

 しかし、言う前から否定するのも酷だ。

 話だけは聞いてやろう。

 

「……はい。2年の砂狼シロコさん」

 

「銀行を襲うの」

 

「はいっ!?」

 

 予想の斜め上だった。

 真顔で犯罪を提案するんじゃない。

 

「確実かつ簡単な方法。ターゲットも選定済み。市街地にある第一中央銀行。金庫の位置、警備員の動線、現金輸送車の走行ルートは事前に把握しておいたから」

 

「待て待て待て……」

 

 いったいどうやってそんな情報を手に入れたのか?

 聞きたいが聞きたくない。

 というかガチが過ぎる。

 お前には放心して虚空を見る先生の姿が見えないのか……?

 

「さっきから一生懸命に見てたのはそれですか!?」

 

「5分で1億は稼げる。はい、覆面も用意しておいた」

 

 驚くアヤネを置いてきぼりにして、シロコがごそごそとバックから取り出したのは色とりどりの目出し帽。

 番号が振られたそれをシロコは淡々と配っていく。

 

「いつの間にこんなものまで……」

 

「うわー、これ、シロコちゃんの手作りー?」

 

「わあ、見てください! レスラーみたいです!」

 

 呆れるアヤネと対称的にホシノ先輩とノノミは目出し帽を手に取る。

 ノノミに至っては迷うことなく被った。

 

「いやーいいねえ。人生一発でキメないと。ねえ、セリカちゃん?」

 

「そんなわけあるか!? 却下よ却下ー!!」

 

「そっ、そうですっ! 犯罪はいけませんっ!!」

 

 後輩たちよ。よく言ってくれた。

 2人に静かに親指を立てる。

 確かにウチは崖っぷちだが、犯罪をやったら本末転倒だ。

 もはやまともに学生生活を送ることはできない。

 全員揃って矯正局行きだ。

 

「と、いうわけで却下だ。そんなふくれっ面をしても駄目だぞ」

 

「むう……」

 

 むうじゃねえ。

 

「……みなさん、もうちょっと真面目に議論をしてください」

 

 まずいな。

 アヤネの怒りゲージが溜まってきている。

 ここはもう議論を打ち切るか、俺が当たり障りのない意見を……

 

「はい! はい! 次は私です!」

 

 言おうとしたらノノミに先手を打たれた。

 だが、ノノミは前の3人に比べればマシだ。

 突飛な意見は言うが、犯罪になることはないだろう。

 

「はい。2年の十六夜さん……くれぐれも、犯罪と詐称は抜きでお願いします……」

 

「うふふ! 大丈夫ですよ、アヤネちゃん。これほどクリーンかつ確実な方法はありませんから」

 

 ノノミは席を立ちあがると、ホワイトボードに大きく文字を書き込んだ。

 スクールアイドル、と。

 

「そう! 時代はアイドルを求めているんですよ!」

 

「ア、アイドル……?」

 

「そうです! アニメで見たんですけど、学校復興の定番はやはりアイドル! 私たち5人がグループで、ヨモギくんがソロでアイドルデビューすれば……」

 

「「却下」」

 

 俺とホシノ先輩の声が重なった。

 

「あら、これも駄目なんですか?」

 

「ホシノ先輩なら特定のマニアから受けそうだけどね。それにヨモギ先輩も……」

 

「うへー、こんな貧相な体が好きとか言っちゃう輩は人間としてダメでしょ」

 

「俺もダメだ。絶対にダメだ」

 

 冗談ではない。歌って踊るなんて。

 そんなきらきらとしたオーラなんて、自分には縁遠いものだ。

 俺以外の5人はともかく、俺のソロデビューだけは絶対に回避する。

 

「決めポーズも考えていたんですよ? ほら、水着少女団のクリスティーナで~す♧」

 

 くるっと回って手で眼鏡の形を作るノノミ。

 それはアイドルの決めポーズとしてどうなんだ?

 売れない芸人みたいだぞ。

 いや、そんなことはどうでもいい。

 そろそろアヤネの怒りが爆発する。

 なんで誰もプルプルと怒りに震えるアヤネに気づかないんだ……!

 

「じゃあ、次は俺が───」

 

「先生はどう思うー?」

 

"わ、私っ? じゃあ、アイドルで──"

 

「いい加減にしてくださーいっ!!」

 

 遅かったか……

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

「いやぁ、悪かったってば、アヤネちゃん。怒らないでー」

 

 無言でラーメンを啜るアヤネにホシノ先輩が語りかける。

 場所は柴関ラーメン。

 怒りの限界を超えてしまったアヤネを鎮めるため、俺たちはラーメン屋にやってきたのである。

 

「怒ってません……」

 

「はい、お口を拭きますよ☆」

 

「赤ちゃんじゃありません……」

 

「アヤネ、チャーシューもっと食べる?」

 

「ふぁい」

 

 みるみるうちにアヤネの機嫌が治っていく……やはりラーメン、ラーメンは全てを解決する。

 親父のラーメン万能説が頭を過ぎったその時、店の戸が開いた。

 

「いらっしゃいませー! 何名様ですか?」

 

「あ、あの。この店で一番安いメニューはなんですか?」

 

 珍しいことを聞く客に興味が湧いて、チラッと見る。

 黒を基調とした制服を着ているあたり、ゲヘナ学園の生徒だろうか。

 帽子を被った少女がおどおどした様子でセリカに話しかけていた。

 

「一番安いメニューは、580円の柴関ラーメンですよ。看板メニューなんでおススメです」

 

「ありがとうございます」

 

 セリカの答えに満足したのか、少女は一度外に出て戸を閉めた。

 店の外からは話し合っている声が薄っすら聞こえる。

 苦学生の集まりだろうか?

 それとも誰が奢るのか、じゃんけんでもしているのだろうか。

 少しして、4人の少女がラーメン屋へと入ってきた。

 

「いらっしゃいませ! 4名様ですか? 席にご案内しますね」

 

「いやいや、いいよ。どうせ1杯しか頼まないんだし。テイクアウトでいいよ」

 

 白い髪をツインテールにまとめた少女が答える。

 

「でも、どうせならごゆっくりどうぞ。席も空いてますし」

 

「親切な店員さんだねえ。それじゃあ、お言葉に甘えて。あ、我儘ついでに箸も4膳よろしく~」

 

「え!? まさか一杯を4人で分けるつもり!?」

 

 苦学生とかいうレベルじゃなかった。

 まさかの生活困窮者にセリカが驚きを隠せないのも無理はないだろう。

 しかし、親父は一切表情を変えていない。

 流石はベテランだ。どんな素性だろうが、お客様はお客様ってわけだ。

 静かに親父は、一杯の丼にラーメンを盛り始める。

 しばらくして、セリカの手で配膳されたラーメンを見て、4人の少女は驚いた。

 丼に4人分くらいはありそうな、特盛の柴関ラーメンである。

 

「オ、オーダーミスじゃありませんか……?」

 

「いやいや、これであってますって。580円の柴関ラーメン並み。ねえ、大将?」

 

「ちょっと手元が狂っちまってな。せっかくだ、食べていってくんな」

 

 親父は本当に変わらない。

 ボロボロのクソガキを拾ったあの日のままだ。

 そんな親父が、あの4人に普通のラーメンなんか出すわけないことなどわかりきっていた。

 4人が笑顔でラーメンを口に運んでいく。

 

「「「「おいしい!」」」」

 

「でしょ、でしょ! ここのラーメンは最高なんですよ☆」

 

「わかるわ……これほどのラーメンは中々お目にかかれないもの」

 

 ノノミが話しかけたことを皮切りにゲヘナの生徒との会話が始まる。

 やはりラーメン、ラーメンは全てを繋ぐ……!

 

「あれ? 君、もしかして男の子? 初めて見たかも!」

 

「近い……」

 

 感心していたらツインテールが近くまで来ていた。

 初対面で距離感バグりすぎだろ……いや、これが最近の学生の距離感なのか?

 

「ねえ、せっかくだし名前を教えてよ。私は浅黄ムツキ。君の名前は?」

 

 無視すると感じ悪いな。

 こっちも社交モード全開でお相手しよう。

 

「俺はヨモギ。狒々上ヨモギだ」

 

「ヨモギくんか……よろしくね!」

 

 どうも彼女たちは仕事の都合でアビドスまで足を運んだらしい。

 先ほどの帽子を被った少女が、伊草ハルカ。

 目つきの鋭い少女が、鬼方カヨコ。

 高そうなコートを羽織った少女が、陸八魔アル。

 ラーメンが繋いだ縁が良縁であることを祈りながら、俺たちはゲヘナの少女たちとの交流を始めた。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 翌日。

 アビドスは襲撃された。

 

「この恩知らずーー!!」

 

 セリカの叫びが木霊する。

 先日、柴関ラーメンを訪れたゲヘナの4人。

 彼女たちが傭兵を率いてやったきたのだ。

 

「あははは。その件は本当に感謝してるよ? でもこっちも仕事なんだよね~」

 

「公私混同はしない。受けた仕事はキッチリこなす」

 

 浅黄の言葉を肯定するように鬼方が拳銃を構える。

 平和的に解決しましょうなんてムードではなさそうだ。

 

「……そう! それが私たち、便利屋68よ!」

 

 陸八魔が啖呵を切る。

 さっきは気まずそうな顔をしていたような気がしたが、どうやら気のせいだったらしい。

 まあ、敵ですとはっきり言ってくれるなら、こっちも引き金が軽くなるというもの。

 

「にしても昨日の今日でかよ……敵陣のど真ん中で食事とは、中々肝の据わった連中じゃねえか」

 

「ヨモギ。感心してる場合じゃない」

 

 わかってるよシロコ。

 傭兵共はとにかく、あの4人は手練れのようだ。

 気は抜けない。

 

「もう! 学生ならもっとちゃんとしたアルバイトがあるでしょう!」

 

「ア、アルバイトじゃないわよ! ちゃんと肩書はあるんだから!」

 

 ノノミの言葉にコートを羽織った少女「陸八魔アル」が答える。

 

「私が社長で、ムツキが室長。カヨコが───」

 

「そんなこと言うと余計に薄っぺらさが目立つ……」

 

「こいつら漫才でもしにきたのか?」

 

「漫才じゃないわよ!」

 

「では遠慮なく」

 

 リボルバーを構える。

 

「え──あいたっ!?」

 

 放たれた弾丸は陸八魔の脳天に命中したというのに倒れなかった。

 凡百の雑魚とはやはり違うようだ。

 

「ア、アル様をよくも……許さない許さない──!」

 

 伊草が激昂して突っ込んでくる。

 狙いは俺か。

 

「ちゃっちゃっと片付けようよ」

 

「もちろん」

 

 伊草の突撃を援護するように傭兵共の射撃が始まる。

 そっちの方はシロコたちに任せるか。

 

「──死んでくださいっ!!」

 

「やなこった」

 

 伊草のショットガンによる射撃を躱す。

 散弾は躱すのにコツがいる。

 無数の弾丸の中心を見極めることが重要だ。

 それをしくじると避けきれない。

 だがその心配はなそうだ。

 

「狙いが真っ直ぐ過ぎる」

 

「躱された!?」

 

 動揺する伊草の眉間にリボルバーの照準を合わせるが、

 

「おっと」

 

 頭部にピンポイントで向かってくる弾丸を避ける。

 傭兵共に紛れて飛び出してきた鬼方の射撃だ。

 おかげで伊草を倒し損ねた。

 

「ハルカ、前に出過ぎ!」

 

「す、すみません……」

 

 伊草が下がっていく。

 敵の主力を叩く貴重なチャンスを逃してしまったな。

 

「ヨモギくん! 後退してください!」

 

 ノノミの言葉に従う。

 先生からの指示のようだ。

 籠城戦に切り替えるらしい。

 

「……まあ、傭(・)兵(・)だしな」

 

 流石は先生だ。

 目の付け所が違う。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 夕暮れ時である。

 我がアビドス高等学校の校門前にバリケードを設置し、戦闘を繰り広げてから既に4時間は経っている。

 

「もういい加減帰れよー!」

 

「やーだよー!」

 

 浅黄から返ってくる元気な返事。

 ただその手に持った収束手榴弾は下ろせ。

 そう思った俺を嘲笑うように投げられた手榴弾の束が、轟音と共にバリケード前で爆発する。

 

「そっちの方こそ降参しなよー!!」

 

「できるわけないでしょっ!!」

 

「私たちの学校は、絶対に守り切って見せます!!」

 

 浅黄の言葉にセリカとノノミが答えた。

 戦況は膠着している。

 こちらの目論見通りではあるが、気を抜けば学校内に踏み入れられる。

 傭兵共はとにかくとして、便利屋の実力は本物だ。

 前線に伊草。その援護に爆弾使いの浅黄と鬼方。そして後衛にスナイパー持ちの陸八魔。

 こちらが守りに徹しているとはいえ、バランスのいいパーティーを切り崩す隙を終ぞ見出すことができなかった。

 流石、便利屋を自称するだけのことはある。

 しかし、

 

「勝ちはもらっていくぜ。だろ? 先生」

 

"うん。そろそろ時間だ”

 

 先生の言葉を合図にしたかのように鐘の音が鳴る。

 17時を告げる学校のチャイムだ。

 

「あ、時間だ」

 

 バリケードに撃ち込まれていた弾丸の雨が唐突に止む。

 傭兵たちが一斉に武器を収め、撤収の準備を始めたのだ。

 

「傭兵が次々と撤退していきます!」

 

 喜色に染まったアヤネの声が右耳のイヤホンから聞こえた。

 

「ちょ、ちょっと待ちなさいよ! あと一歩のところなのよ!?」

 

「いや、関係ないから」

 

「残業代はもらってないし、時間通りに帰らせてもらうよ」

 

 陸八魔がどうにか傭兵たちを呼び止めようとするが、相手にされていない。

 これを待っていたのだ。

 傭兵共の定時の時間まで頑張れば、戦況は一気にこちらに傾く。

 

「まあ、傭兵は金にしか従わないからね~」

 

「時間切れ。私たちの勝ち」

 

 ホシノ先輩とシロコがバリケードを飛び越える。

 俺も続くようにバリケードを乗り越え、リボルバーの照準を陸八魔に合わせた。

 数の脅威が去った今、もはや籠城する必要はない。

 便利屋68にはアビドスから消え去ってもらおう。

 

「アルちゃんどうする?」

 

「傭兵ありきでもあれだけ手こずった。このまま続けても勝算は低い」

 

「ア、アル様……」

 

 部下3人の目線を受けて、陸八魔は決断したようだ。

 俺たちに指を刺し、

 

「うう……あなた達! これで勝ったと思わないことねっ!」

 

 おお、なんということだ。

 

「シロコ、見ろ。金を払っても、こんな小悪党のお手本はそうそう見れないぜ」

 

「うん。気分がいい。もっとやって」

 

「笑うなー! もう、覚えてなさいよぉおおーー!!」

 

 三流の小悪党のような台詞を口走りながら、去り際は鮮やかであった。

 追撃するには骨が折れるだろう。

 

「な、なんだったんでしょうか……」

 

「気にすんなアヤネ。ただの小悪党だ。塩を撒いとけ」

 

"あはは。悪霊扱いは止めてあげてね……"

 

 にしても便利屋68か。

 茶化しはしたが、厄介な連中を差し向ける奴がいるものだ。

 恐らくはヘルメット団に武器を提供していた黒幕とでも呼ぶべき誰か。

 俺たちは、少ない手がかりを糧にそいつを探し出さないといけない。

 アビドスを取り巻く環境が、一気に変わりつつあることをおれは感じずにはいられなかった……

 

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