便利屋68の襲撃の翌日。
俺たちはヘルメット団が使用していた型番のない武器の出所を求めて、とある場所にやってきた。
ブラックマーケット。
キヴォトスを管理する連邦生徒会の手が及ばない闇市。
その様相は決して薄暗いものではなく、多くの人で賑わう一つの街であった。
「すごい賑わいですね☆」
「ああ。こうして見るとただの街なんだけどな」
ノノミの言葉を肯定する。
武器から服、アクセサリーショップに雑貨屋。
露店で買ったであろうフランクフルトを片手に談笑する生徒たちの姿。
ここがブラックマーケットだと知らなければ、本当にただの街に見える。
「気を抜かないでください。ここは違法な武器が取引されている危険地帯なんですから」
イヤホンから聞こえるアヤネの声に気を引き締め直したその時だった。
耳を叩いたのは銃声。
「近い……誰かがこっちにくる」
シロコの目線を追えば、遠くから白い制服を着た少女が全力疾走でこちらに向かってきていた。
後ろにはスケバンの格好をした生徒が2人。
「つ、ついてこないでくださいー!!」
「そうはいくかよ!」
「へへ、待ちなお嬢ちゃん!!」
走る白い少女は追ってくる二人に気をとられて、前にいる人間に気づいていなかった。
「わわっ!?」
「うおっ!?」
俺だった。
ぶつかった少女が倒れる前に手を掴んで引き戻す。
「ご、ごめんなさい!」
「大丈夫……なわけないよな。追われてるみたいだし」
「ええっと、それは……」
シロコとのアイコンタクト。
「……ん」
俺たちは白い少女を庇うように前に立つ。
「なんだ、お前らは! そこをどきな! あたしたちはそこのトリニティの生徒に用がある!」
「あ、あの、私の方には用はないのですが……」
「私たちにはあるんだよ。トリニティといえば金持ちの筆頭みたいな学校じゃねえか。身代金でたんまり稼がせてもらうぜ!」
リボルバーを構える。
「なんだ? お前らも一枚嚙みたいなら───」
トリガーを引いた。
べらべらと喋る不良に向かって。
「ぐべえっ!?」
「な!? てめえ──」
地面に無様に倒れ伏す相方を見て激昂する不良は、手に持つアサルトライフルを構えるが、
「遅い」
それよりも速くシロコの銃撃が不良を襲った。
「ばあっ!?」
仲良く地面に並ぶ不良コンビから視線を切る。
あっさりしすぎてちょっとこっちが拍子抜けしてしまった。
「あ、ありがとうございました。私、阿慈谷ヒフミといいます。みなさんのおかげで学園に迷惑をかけずにすみました……それにこっそり抜け出してきたので、何か問題を起こそうものなら……うう」
トリニティの少女も方向性は違うが、かなりのアウトローのようだ。
トリニティ総合学園といえばかなりのお嬢様学校。
そこを抜け出してまでこんな危険地帯にくるとは……
「ヒフミちゃんか、よろしくね~。でも、なんでトリニティのお嬢様がこんな所に?」
ホシノ先輩が阿慈谷に尋ねた。
「そ、それはですね。実は探し物がありまして……もう販売されてはいないものなんですが、ここでは密かに取引されているらしく……」
「もしかして戦車?」
「違法な火器とか?」
「生物化学兵器ですか?」
戦車や火器はともかく、生物化学兵器はどこも売ってないぞ。
違法とかいう問題じゃなく、あれは味方も巻き込む可能性があるからな。
「え? いえいえ、違いますよ! 私が探してるのはペロロ様の限定グッズです」
シロコとホシノ先輩、ノノミと続いた怒涛の質問の答えは意外なものだった。
「ペロロって?」
「はい! これです!」
セリカの問いにスマホの画面が提示される。
そこに写っていたものは───
「これが、ペロロ」
それは鳥の死骸だった。
いや、それをデフォルメしたキャラクターと言うべきか。
口にミントチョコのアイスと思わしきものが突っ込まれ、目があらぬ方向を見ている。
一言では言い表すことのできない複雑な感情を引き出される人形であった。
「わあっ☆ モモフレンズですね! 私も大好きです。ペロロちゃん、可愛いですよね?」
ノノミが阿慈谷の手をとった。
どうやらこの不可思議物体のことを知っているらしい。
「わかってくれますか!」
「はい☆」
「いや~おじさんにはさっぱりだな~」
ホシノ先輩の感想に同意する。
これが最近の「カワイイ」というヤツなのだろうか?
ちょっと俺には理解できないかもしれない。
「ところで、みなさんはどうしてここに?」
"私たちも探し物があるんだ"
「そう。ここで取り扱ってると聞いてきた」
先生とシロコが答える。
「そうですか……なんだか似てますね」
"グッズを買うためにきたのに災難だったね"
「その、色々と危険な所とは知っていたのですが、連邦生徒会の手が届かないことをいいことに企業が好き勝手やっていると聞きましたし、ここ専門の金融機関や治安機関もあるとか……」
どうやら阿慈谷はブラックマーケットについてそれなりに詳しいようだ。
ホシノ先輩の阿慈谷を見る目が変わる。
「ふ~ん、ヒフミちゃんは本当に物知りだね~」
「いえ、それほどでも……」
「じゃあ、助けてあげたお礼に私たちの探し物、手伝ってもらおうかな~」
「……ええー!?」
ホシノ先輩の突飛な申し出に驚いた阿慈谷の声が、ブラックマーケットの中に消えた。
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そして3時間。
ブラックマーケットの地理について知る阿慈谷の先導で散策をしてみたのだが、目ぼしい手がかりは何一つ掴むことができなかった。
「ここまで探して手がかりゼロか……」
先ほど買ったたい焼きを齧りながら呟く。
本当に奇妙な街だ。
売っているものはおいしいのに。
「絶対あるはずなんですけど、出てきませんね……販売ルートに保管記録。すべて何者かが意図的に隠している。そんな気がします」
「何者かが意図的に?」
阿慈谷の言葉に聞き返す。
「はい。いくらここを牛耳っている企業だとしても、ここまでやることは難しいと思います」
「異常なことなの?」
シロコの言葉に阿慈谷は頷く。
「ここの企業はある意味開き直ってますから、変に隠すようなことをしないんですよ」
そう言って阿慈谷は一つの建物を指差す。
「あれがブラックマーケットの中でもひときわ有名な闇銀行です」
「随分と目立つ建物だな」
この周囲にこれ以上の高さの建物は見当たらない。
本当に隠すつもりなどないのだろう。
「聞いた話で、正確な統計ではないでしょうけど、キヴォトスで行われる犯罪に関わる資金の約15%があそこに流されているそうです」
「15%……結構な金額だな」
「はい。多くの犯罪で獲得されたお金が闇銀行に流れ、今度は武器や兵器に変えられて他の犯罪に使われる……そんな負の循環が続いているんです」
「それじゃあ、犯罪を銀行が助長しているようなものじゃないですか……」
ノノミの言葉に阿慈谷は頷き、
「はい。ここでは銀行も犯罪組織の一つなんです」
そう答えた。
俺たちは少し、表向きの雰囲気に惑わされていたのかもしれない。
ここはブラックマーケットだ。
土台からビルの天井まで、全てが犯罪の温床。
見た目がどれほど普通の街に見えようと、本当の意味で普通に生きる学生には縁遠い場所に違いはないのだ。
「……あ、あれは」
驚いた様子の阿慈谷の目線を追うと、武装したバイクに囲まれて一台の車が走ってくるのが見えた。
「知ってるのか?」
「あれがマーケットガードです。ブラックマーケットの治安部隊の最上位……」
「車を護送しているみたい」
シロコの声を聞き、4輪の車の方へ眼を凝らす────
「──マジかよ」
"ヨモギ?"
車には所属を表す名が刻んであった。カイザーローンと。
カイザーローンはアビドスの借金の返済元だ。
今日もちょうど月の返済料を回収するために車が来ていた。
それを思い出したのは偶然などではない。
なぜなら、
「あれ、今日ウチにきたカイザーローンの車じゃないか……!」
『!?』
場の空気が凍りつく。
車は闇銀行の前で止まる。
中から現れたアンドロイドは、今朝顔を会わせたカイザーローンの社員に間違いなかった。
「カ、カイザーローン!?」
俺の呟きに阿慈谷が反応する。
「ヒフミちゃん、知ってるの?」
ホシノ先輩の声に阿慈谷は頷いた。
「カイザーローンは悪名高いカイザーコーポレーションが運営する高利金融業者です。みなさん、もしかしてそこから融資を……?」
「借りたのは俺たちじゃないんだがな。悪名高いってことはカイザーローンもか?」
「はい……カイザーコーポレーション自体が犯罪とそうでないことの間、グレーゾーンを利用する多角化企業ですから」
"褒められたところではないってことだね"
先生がそこまで言うのなら、間違いなく真っ黒な企業だろう。
視線の先のカイザーローンの社員は銀色のケースを闇銀行の職員に手渡した。
あの中に入っていたのはおそらく、俺たちが集めた返済金だろう。
「返済が振り込みではなく現金だけだったのは、履歴が残らず足がつきにくいから……?」
「それじゃあ、私たちは犯罪資金を提供し続けてたってことっ!?」
ノノミの呟きに大きく反応したのはセリカだった。
「ま、まだ断定はできません。カイザーローンが闇銀行にお金をいれたという証拠がありませんから……」
「……でも、集金の際は受領証明書が出ますよね。その発行の記録が見つかれば証拠になりませんか?」
阿慈谷が解決の糸口を見つけ出した。
「それだ! それさえ手に入れれば……」
「あ、でも書類は銀行の中ですし、もうどうしようもないですよね……」
……銀行の中。
「シロコ」
「用意はできてる」
いつの間にか取り出していた覆面をシロコから受け取る。
「あ、あれ、お二人ともなにを──」
俺たちは覆面を被り、シロコは宣言した。
「残された方法はただ一つ。銀行を襲う」
「まあ、それしかないよね~」
「その手がありましたね☆」
ホシノ先輩、ノノミと覆面の人間が増えていく。
「ヨ、ヨモギ先輩? マジでやる気なの?」
「マジだ。ここは腹を決めろ」
「……そうですよね。これ以外に方法がないっていうのなら!」
セリカが覆面を被った。
ついに先生と阿慈谷以外の全員が覆面を被った。
ここがブラックマーケットでよかった。
じゃなきゃ、この珍妙な集団はヴァルキューレに即通報されてただろう。
"まあ、これ以外にはないか……"
先生の了承も得られたところで、最後の一人を勧誘しよう。
いけ、シロコ。
「ごめん、ヒフミ。私の見通しが甘かったせいで、ヒフミの分の覆面はない」
「い、いや。私の分のものなんて───」
「仲間外れはよくありませんよね☆」
「あ、あの私は遠慮したいといいますか……ノノミさん、その紙袋は?」
「どうぞ☆」
「あう」
スポリと紙袋が阿慈谷の頭に収まった。
「も、もしかして私もご一緒する感じですか……?」
「なに言ってんのさヒフミちゃん。さっき約束したじゃん、今日は私たちを手伝うって」
銀行強盗まで手伝うことになるとは思ってもみなかっただろうが、ここで会ったのが運の尽き。
今さら途中下車はなしだ。
どうせなら最後まで付き合ってもらおう。
「先生はどうする?」
シロコの問いに先生は苦悶の表情を浮かべながらも頷いた。
"私もやるよ。みんなのお金が犯罪に使われているなら大問題だからね”
「よし☆ メンバー全員集合です。ターゲットは闇銀行! GO! 覆面水着団!」
ノノミの号令を合図に俺たちは闇銀行への襲撃を敢行する……
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その日、陸八魔アルはブラックマーケットの闇銀行を訪れていた。
先日のアビドス襲撃の際、多数の傭兵を雇ったことで資金が底を尽いたのである。
ここで闇銀行を頼ることを愚行と知りながらも、アルには闇銀行に行かざるをえない事情があった。
ゲヘナの不良として名高い彼女たち、便利屋68は公の銀行口座を凍結されていたのである。
「お待たせしました、お客様」
「ええ。待ちに待ったわ……それで、結果はどうなの?」
融資を受けられなければ依頼の継続どころか、所有する事務所すら手放すことになるかもしれないアルにとって、期待する言葉はただ一つであった、
「誠に残念ながら、今回はご縁がなかったということで」
しかし、現実は非常である。
銀行員の返答は力一杯のNoであった。
「ちょ、ちょっと待って! それって融資できないってこと!?」
「さようでございます」
「ちゃんと事務所も構えてるのよ!?」
「事務所は賃貸、資産と呼べるものは銃火器類のみ。これでは融資のしようがありません」
「そ、そんな……」
当然である。
融資の条件を満たせないことはアルも薄々気づいてはいた。
胸を張って実績と呼べるものがない自分達に信用などあるはずもない。
「まずは気管工でもやってみたらいかがです?」
(む、むかつく……!)
相手にするのも時間の無駄だと言わんばかりの銀行員の態度にアルの怒りのボルテージが上がる。
闇銀行を襲撃してしまおうかと思うほどに。
しかし、闇銀行に手を出すということはブラックマーケット全体を敵に回すということ。
たった4人で街全体を敵に回すことがどれだけ無謀かわからないほど、アルは正気を失ってはいなかった。
(こんなのアウトローじゃない……)
現状を嘆き、立ち去ろうとする銀行員を眺めることしかできないアル。
───その時であった。
「?」
アルは闇銀行のシャッターがゆっくりと閉まったことに気づいた。
瞬間、闇銀行内の電灯が消える。
「な、なに!?」
狼狽える銀行内の人々を次に襲ったのは爆発音であった。
客の悲鳴が上がるが、それを掻き消すように発砲音が上がった。
アルは爆発のあったほうから歩み出てきた、6人に目線を吸い寄せられる。
目出し帽を被った5人と、紙袋を被った1人。
青い目出し帽を被った人物が天井に向かって発砲を終えると、
「全員武器を捨てて、その場に伏せて!」
そう宣言した。
「言うことを聞かないと痛い目に遭いますよ☆」
「ほらっ! ちゃんと床に伏せなさい!」
緑の目出し帽を被った人物の持つミニガンが、応戦しようとしたマーケットガードを狙っていた。
すかさず赤い目出し帽を被った人物がマーケットガードを無力化し、武器を取り上げる。
アルが思わず見惚れてしまうほど、手際のよい制圧であった。
青い目出し帽を被った人物が受付の銀行員に銃を突きつける。
「全員、無駄な抵抗は推奨しない。さっき到着した現金輸送車の───」
「わ、わかりました! なんでも差し上げます! 差し上げますから撃たないで!」
「いや、私たちが欲しいのは集金記録だけ」
銀行員がバックの中にブツを詰めていく中、アルは羨望の眼差しで強盗犯たちを見つめていた。
(や、やばーい! ブラックマーケットの銀行を襲うなんて! 無茶苦茶手際いいし、超プロフェッショナル! 痺れるわ! これこそ私が目指す真のアウトロー……!)
「で、できました!」
「よし」
青い目出し帽を被った人物はバックを回収すると、素早く銀行の外へと脱出した。
「ま、待って!」
アルはその背中を無意識に追いかけ始めていた……
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「派手にやっちまったな……」
「うう……」
"こ、これでよかったのかな……"
俺と阿慈谷、先生は後悔の念に苛まれている。
だって銀行強盗である。
俺たちは借金塗れではあっても、品行方正な学生で通っていたというのに……まあ、これ以外に策はなかったので仕方ないか。
しかし、阿慈谷と先生は本当にご愁傷様です。
「シロコちゃん。集金記録は?」
ホシノ先輩に呼びかけられたシロコは持ち出したバックのチャックを開いた。
中には集金記録……だけではなかった。
いくつもの札束がぎっしりと詰められていたのだ。
「シロコ、お前……」
「違う。勝手に詰められたみたい」
「脅し過ぎちゃったみたいだね。おじさんもこれにはびっくりだよ。軽く1億はあるね~」
「やったー! 早く持って帰ろ!」
"セリカ、ちょっと待って!"
先生が持ち帰ろうとしたセリカを制止する。
「なに? これがあれば借金を───」
「そんなことしちゃダメだよ! セリカちゃん!」
アビドスで待機するアヤネの声がイヤホン越しに響く。
「なんでよ! これはそもそも私たちが汗水流して稼いだお金じゃん! それが悪人に利用されるところだったんだよ! 奪い返してなにが悪いの!?」
「私もセリカちゃんに賛成です」
ノノミが口を開いた。
「悪いことに使われるお金なら、いっそのこと私たちが……」
"それでいいの?”
先生の言葉に2人が固まる。
2人の気持ちはもっともだ。
あのバッグの中には間違いなく俺たちが稼いだお金が入っている。
借金さえなければ、俺たちのものだったお金だ。
それが闇銀行に流れて犯罪に使われるくらいなら、俺たちが使うべきだという気持ちは痛い程よくわかる。
「……ヨモギ先輩は、どう思うんですか」
セリカが俺に問いかける。
この金があれば返済がどれだけ楽になるだろうか……俺の答えは決まっていた。
「……確かに、俺たちが稼いだお金がこの中に入ってる」
「だったら───」
「だが、置いていくべきだ。そうだな、シロコ」
俺の問いにシロコは頷いた。
「うん。私もそう思う」
「どうして!? 悪い人たちのお金になっちゃうんだよ!?」
「セリカちゃん」
これまで沈黙していたホシノ先輩が、バックを手に持ったセリカの前に進み出た。
「今回は悪人のお金だからいい……じゃあ、次は? その次は? これに慣れちゃったら、次も仕方ないって言いながらやっちゃいけないことに手を出すと思うんだ」
「……」
「おじさんとしては、後輩がそうなっちゃうのは見過ごせない。こんな手を使うくらいなら、最初からノノミちゃんのゴールドカードに頼っていたしね」
ノノミの実家は大のつく金持ちである。
ノノミが持つゴールドカードにはアビドスの借金を一撃で消し飛ばすことができる力がある。
それを使わなかったのは、健全な支払い方ではないから。
生徒の力ではない大人の力で全てを解決するのは、アビドスの返済ではない。
返すのなら、みんなが稼いだお金で。
それがアビドスが口にせずとも決めていたルールだった。
"それじゃあ、持ち帰るのは書類だけってことでいいかな?"
「……わかった。先輩にそう言われちゃったらね」
「このお金は置いて行きましょう」
セリカとノノミも納得してくれたようだ。
「よかったです」
事の次第を見守っていた阿慈谷がほっと息を撫で下した。
「事情はよく知りませんが、このお金を持っているとトラブルに巻き込まれるかもしれません。災いの種みたいなものですから───」
「ちょっと待って!!」
一件落着かと思いきや、この場に思わぬ人物が現れた。
便利屋68の社長、陸八魔である。
「し、心配しないで! 私は敵じゃないわ!」
「な、何の用でしょう……」
動揺するノノミ。
闇銀行で見かけたような気がしたが、まさかここまで追ってくるとは。
「さっきの襲撃、見させてもらったわ! ものの数分で攻略して、見事に撤収……稀に見るアウトローぷりだったわ! わ、私も頑張る! あなたたちのような法律や規律に縛られない本当の意味での自由な魂! そんなアウトローになりたいから!」
いったいなんの話をしているのかさっぱりわからんが、戦いに来たという訳ではないらしい。
興奮した様子の陸八魔の言葉は続く。
「そういうことだから、あなたたちの名前を教えて欲しいの! 私が今日の雄姿を心に深く刻んでおくために!」
「仰ることはよくわかりました☆ そういうことなら! 私たちは──」
バッと決めポーズ……という名の眼鏡のポーズをとったノノミは、
「覆面水着団です!」
「覆面水着団!? やばっ! 超カッコいい!」
どこがだよ。
5つの漢字のどこにかっこよさを感じたんだ。
アウトローのアの字もないだろ。
ただの覆面被った水着の集団だぞ。
ていうか今は水着でもないし……
「フフフ……目には目を歯には歯を! 無慈悲に孤高に我が道の如く魔境を行く! それが私たちのモットーだよ!」
ホシノ先輩も乗ってきたし、こりゃあもう駄目だね。
セリカ、助けを求めるようにこっちを見ないでくれ。
俺はもうこの状況に突っ込むのも面倒くさいんだ。
「それじゃあ、アデュー!」
ノノミのセリフを合図に俺たちはその場を走り去ったのだった……
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
アビドスの部室にて。
俺たちが手に入れた集金記録の内容には、敵の正体がはっきりと表れていた。
アビドスからの返済金の次の項目にこうあったのだ。
カタカタヘルメット団任務補助金と。
「つまり、私たちの敵はカイザーローンだったてことよ……!」
怒りを滲ませたセリカが言葉を吐き捨てた。