入渠を終えた加賀、川内、満潮が執務室へ報告に向かう
絵名は冷めたお茶を用意して待っていてた。
「みんな、無事でよかった」ぎこちなく声をかける。
作戦の反省会をする中で、川内が絵名の机の上に転がっている食べかけの乾パンを見つける
「ちょっと提督!まさかここに来てからずっと、こんなパサパサした乾パンで凌いでたの!?」
執務室の机に散らばる乾パンを見つけ、川内が声を張り上げる。
「えっ!? あ、いや…だって、私新入りだし
厨房の使い方もよく分からないし……」
「ダメに決まってるでしょーが!ここは戦場だよ」
オロオロする絵名の腕を強引に引っ張り、川内は夜の厨房へと連行する
後ろからは「たく、世話が焼けるわね」と不機嫌そうに満潮がついてくる。
厨房に入ると、そこには夜食を探していた鈴谷と金剛がいた。
「ん?あれ、川内たち?って、提督!? なになに、こんな夜遅くにみんなどうしたのー?」
鈴谷が目を丸くして、エプロン姿のまま振り返る。
「聞いてよ鈴谷、うちの提督着任してからずっと乾パンしか食べてなかったんだって」
「えぇーっ!? マジで!? 提督ちゃん、それだめだよ〜痩せちゃったらウチらが大本営に怒られちゃう」
鈴谷が距離感を一気に詰めてきて、絵名の肩をポンポンと叩く
さらに奥から、大きなマグカップを持った金剛が身を乗り出してきた。
「Oh...!! 提督食事はEnergyの源デス! 頼んでくれれば、私がSpecialなイングリッシュ・ブレックファストを作ってあげたのに」
「い、いや…金剛さんの朝食は夜中に食べるには重すぎると思う...っていうか、みんな距離近くない!?」
急に賑やかになった雰囲気に、絵名は圧倒されて思わず後ずさりする
でもリビングで家族と居る時、ニーゴのメンバーといる時とは、違うどこかガヤガヤとした温かさに、胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じていた。
「はいはい、金剛さんのハイテンションは置いておいて。鈴谷、なんかすぐ出せる温かいものない?」
「任せて〜! お昼のお出汁が残ってるから、サッとにゅうめん作ってあげる! 提督ちゃん
そこに座って待ってて!」
手際よくお鍋を火にかける鈴谷。
金剛は「Teaも淹れますネ!」とお湯を沸かしはじめ、満潮は「…あーもう、見てられないわね」と文句を言いながらもお椀や箸を並べ始める
数分後、絵名の前に湯気が立つ温かいにゅうめんが出された。
「ほら、提督冷めないうちに食べな!」
川内に促され、絵名はおそるおそる箸を伸ばし、出汁を一口すする。
「…ッ、…あったかい……」
胃の中にじんわりと広がる温かさと出汁の優しさ。
異世界に来てからずっと張り詰めていた緊張
がむしゃらに勉強していた疲れが一気に溶け出していくようだった
気づけば、絵名の目にはうっすらと涙が浮かんでいた。
「…美味しい……すごく、美味しい……」
「でしょ〜? 鈴谷特製だもん!って、えっ!?
提督ちゃん泣いてる!?」
「ちょっと川内、アンタが無理やり連れてくるから泣いちゃったじゃない!」
「私のせい!? 私はご飯食べさせようとしただけだし!」
「Oh, No! 提督、泣かないでくだサーイ!」
パニックになる3人をよそに、冷たいお茶を飲んでいた加賀がふっと小さく吐息を漏らした。
「騒々しいですね。ですが…悪くない夜です」
満潮もそっぽを向きながらボソッとつぶやく。
「…明日からは、ちゃんとお腹空いたら言いなさいよ。アンタが倒れたら、困るんだから」
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絵名が涙を拭いながら、みんなの顔を順番に見つめる。
「ありがと。あ、あのさ。私、みんなの名前…
大本営から渡された資料で見て知ってはいたの。加賀さんに、金剛さんに、鈴谷さん、川内さん、満潮ちゃん」
資料で覚え込まれていた自分の名前を呼ばれ、鈴谷が一瞬びっくりしたあと、照れくさそうに笑う。
「あはは、正解!でもさー、資料の文字で覚えられるのってなんか味気なくない?
改めまして!重巡・鈴谷だよ。提督ちゃんよろしくね!」
鈴谷が最初にピースサインや差し伸べた手で名乗ってくれたことで、場に流れていた硬さが
一気に溶ける。
それに続いて金剛が胸を張ってポーズを決める。
「YES! 私は戦艦金剛デース! これからは資料の中じゃなくて、本物の私をいっぱい頼ってネ、提督!」
川内も腕を組んでニッと笑う。
「川内だよ!まあ夜戦のことなら任せてよね」
満潮はフンと横を向きつつも、
「……駆逐艦の満潮よ。間違えても『ちゃん』付けで呼ばないでよね。べつに、名前くらい覚えてたって驚かないんだから」
最後に、静かに見守っていた加賀が、一口お茶を飲んでから絵名を真っ直ぐ見つめる。
「航空母艦、加賀です。…東雲提督。資料の知識ではなく、本当の私たちを知る覚悟があなたにあるのなら……私たちはあなたの盾となり矛となりましょう」