——東雲絵名という少女は、どこまでも歪で
そして恐ろしい。
翌朝、執務室にやってきた彼女が「できたわよ」と差し出してきたのは1冊の戦果報告書。
私はそれを事務的に受け取り、いつものように目を通し始めた。
最初は素人が必死に学んだ形跡のある稚拙な
文章だと思って目を通していた。
だが——1ページ、2ページとページをめくる指が、次第に固まっていくのが自分でも分かった。
(…なんなのですか、これは、)
背筋を冷たい汗が伝う。
そこに書かれていたのは、単なる戦闘の経過や弾薬の消費数ではなかった。
『加賀は左側からの攻撃に対して一瞬反応が遅れる。過去のトラウマか、艤装の関節部の微妙な摩耗が影響している可能性がある』
『深海棲艦の侵攻ルートは効率性を欠いていた。まるで、特定の領域へ私達を近づけさせないための「誘導」のように見えた』
『5隻編成における索敵の死角。満潮の警戒限界時間を考慮した交戦時間の再設計について』
_____息を呑んだ。
軍学校を優秀な成績で卒業した参謀すら見落とすような戦況の「本質」と、艦娘たちのわずかな「心の揺らぎ」。それを、素人だったはずの少女が、たった一度の戦闘で完全に読み切っていた。
彼女は大本営が送り込んだ、「扱いやすい捨て駒」のはず___。
だが、この少女が持っているのは知識ではない。相手を深く観察し、その奥にある歪みや情景までをも見抜いてしまう——異常なまでの『洞察力』。
「…大淀?どうしたの、黙っちゃって。変なこと書いてあった?」
デスクの向かいで不安そうに私を見つめる絵名
彼女自身は、自分がどれほど異常で恐ろしい「異能」を発揮しているのかまったく自覚していない。
その無垢な瞳を見て、私はハッと正気に戻った
もし——もしも、この報告書がそのまま大本営の連中の手に渡ったらどうなるか。
『使えない素人』として捨て置かれるはずだった彼女は、一転して『危険で便利な実験体』として扱われる
より過酷な最前線へ送られ能力を極限まで絞り尽くされ、最悪の場合は都合のいい軍事兵器として身柄を拘束されるだろう。
(…させてなるものですか)
私は無言のままデスクの引き出しを開け、太い赤ペンを取り出した
そして、彼女が血の滲むような思いで書き上げた鋭い分析の数々の上に、容赦なく真っ赤な横線を引いていく。
「え…っ!?ちょっと、大淀!? なにするのよ!私、ちゃんと事実を書いたのにッ!」
絵名が身を乗り出し、怒りとショックの混ざった声を上げる
私は赤ペンを止めることなく、彼女の鋭すぎる考察をすべて塗りつぶし、どこにでもある『運良く勝てただけの拙い報告書』へと書き換えていった。
「静かにしていて下さい。東雲提督」
低く静かに言いはなつと、絵名が息を呑んで言葉を詰まらせた
私は書き換えを終えた報告書をパタンと閉じ、眼鏡のブリッジを押し上げながら、彼女を真っ直ぐに見据えた。
「これは、あなたを守るための措置です」
「私を守る……?」
「いいですか。大本営はあなたを『何も知らない素人』だからこそ、この荒れ果てた鎮守府に放り込みました。もしあなたが、大本営の精鋭アナリストすら凌駕する洞察力を持っていると知られたら…どうなるか分かりますか?」
絵名はその大きな瞳を揺らしじっと私を見つめている。私は残酷な現実を淡々と突きつけた
「あなたは自由を奪われ、大本営の地下室で戦術計算だけをさせられるか、あるいは『生きて帰れない最前線』の指揮官として使い潰されます。…軍という組織は、自分たちの理解を超えた存在を恐怖し、コントロールしようとする生き物なのです」
「っ…………」
絵名の手が、ぎゅっと自分のスカートを握りしめた。
「私はね、大淀。昨日の夜、みんなとご飯を食べて名前を教えてもらったの。あの子たちはただの兵器なんかじゃない。ちゃんと生きてて、傷ついて、笑う女の子たちだって分かった」
「……ええ。」
「だから、嘘をつきたくなかったの。
みんなの傷も、戦術の欠陥も、全部ちゃんと
大本営に伝えて、良くしてもらおうって…」
絵名のまっすぐな言葉。
真剣で気高い目に私は胸の奥が熱くなるのを覚えた。
……かつて、こんなにも純粋に艦娘たちと向き合おうとした提督がいただろうか
私は小さく息を吐き、静かに首を振った。
「その優しさは大本営には届きません。ですが、、」
私は改ざんした報告書をファイルに収め、絵名に向かって薄く笑みを浮かべた。
「その『目』は、あの子たちのためだけに使って下さい。大本営の前では、今まで通り『ちょっと勉強しただけの未熟な提督』を演じるのです。裏で戦術を組み直すのは参謀である私の役目ですから」
絵名は目を丸くしたあと、ふっと肩の力を抜き照れくさそうに視線を外した。
「分かったわよ。参謀様がそう言うなら従わ。
...ありがと、大淀」
「礼には及びません。さあ、偽装工作は終わりました。次の作戦に向け参謀と提督の本当の打ち合わせを始めましょうか」
大本営を騙す、たった二人の共犯関係。
この冷たい執務室で、私と東雲絵名の本当の戦いが始まったのだ。
ここで絵名の設定を少し
東雲絵名
いつも通りの日常。
自室でパソコンを開きニーゴの作業をしていたときにパソコンから光が反射し、起きた時には知らない場所にいた。
これは絵名が小さいながらセカイを構築していたため(無意識)
セカイ(想い)と艦娘の念波が引き寄せた必然だった。
この世界での提督としての東雲絵名
絵に対する熱量は変わらず持っているからその延長線で作戦だったりも妥協したくないので書物だったりで難勉してる。
絵は描きたいけどトラウマで描くに描けない状態です。
SAN値結構ヤバめです。
解読の理由
「絵描きの目」と「美術の知識」
書物は暗号化されていたり、古い軍事図面や図解が中心の特殊なノートも多く。
普段から構図や色覚、視線誘導などを徹底的に学んでいる絵名には、「矢印の配置、地形の陰影、陣形図のバランス(構図)」から「これは敵の死角(セーフゾーン)と潮の流れを利用した奇襲・離脱のルートだ」と視覚情報(図面)として一瞬で構造を理解できたため。
また幼い頃、父の書斎や家にあった古い美術書や戦前の文献で見覚えのある旧字体・特殊な図記号だったため、絵名は理解することが出来る。