買い出しを終えて鎮守府へ戻った夕方。
鈴谷に押し切られる形で、絵名は買ったばかりの新しい私服で執務室へ向かっていた。
「やっぱり、ちょっと恥ずかしいかも。浮かれてるって思われないかな……」
廊下でそわそわと服の裾を気にしていると
向かいから夕食の準備をしていたらしい川内と満潮が歩いてくる。
「あ、提督お帰り〜!備品買え……た……」
川内の足がピタッと止まる。隣にいた満潮もおたまを持ったまま目を見開いた。
「え…なに、その服っつーか、提督……?」
「っ! な、なによ……!変なら着替えてくるけど!」
赤くなって身構える絵名に、川内が弾かれたように距離を詰めてくる。
「変なわけないでしょ!!え、ちょっと待って、私服の提督めちゃくちゃ可愛くない!? モデルさんかと思ったんだけど!」
「ちょっと川内、近すぎよっ、ま、まあ似合ってなくはないんじゃない。制服の時よりずっと、年相応で……その、可愛いわよ……」
満潮は顔を背けながらブツブツと呟き、川内は「鈴谷グッジョブすぎるー!」と大はしゃぎ。
そこへ騒ぎを聞きつけた金剛や加賀も通りかかり、大絶賛の嵐となる。
「Oh!! 素晴らしいデス! まさに大和撫子! 提督の愛らしさに胸がキュンキュンしちゃいます!」
「よく似合っています、提督。いつもの制服もキリっとして素敵ですが、そちらの方が貴女らしさが出ている気がきてとても良いと思います」
加賀にまっすぐ見つめられて、絵名は顔が爆発しそうなくらい真っ赤になった。
(……可愛いって言われ慣れてるはずなのに、なんでこんなに照れるのよっ...)
元の世界でもSNSに自撮りを投稿しており「可愛い!」「美少女」と言われることには慣れていたはずなのに____
自分を指揮官としてではなく「一人の女の子」として温かく認めてくれた艦娘たちの言葉が
胸の奥をじんわりと温かく満たしていった。
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その夜。
みんなが寝静まった執務室で絵名は一人、机の上に広げられた「鎮守府編成表」と「建造申請書」を見つめていた。
大本営からは「戦力増強のため、速やかに工廠で『建造』を行い、6隻目の艦娘を着任させよ」という指示が出ている。
資材の準備も整っており、艦娘を呼ぶことができる状態だった。
(新しい艦娘……建造……)
絵名は建造ドックの書類を手に取るがペンを持つ手がピタリと止まる
胸の中に、理由のない違和感が渦巻いていた
出撃の最大編成は「6隻」
だが、この鎮守府には今、加賀、川内、満潮、金剛、鈴谷の「5隻」しかいない
大淀に「出撃はあの5隻だけです」と言われた時の、あの静かすぎる空気。
そして何より——
誰一人として、「ここにいたはずの6隻目」の話題を出そうとしないこと。
(普通なら『昔はもう1人いたんだけどね』とか『新しい子が来たら嬉しいな』とか、誰か言ってもおかしくないはずなのに……みんな、まるで『6隻目』という存在そのものを避けてるみたい……)
絵名はペンを置き自分の額を押さえた
この鎮守府に漂うあの言葉にできない歪んだ空気感。
ただ「仲間が欲しい」からといって軽々しく建造ボタンを押してしまえば、残された5人の心の傷を足蹴にしてしまうのではないか?
(……この空席には、きっと私がまだ知らない『闇』がある)
絵名は艦娘たちの傷ついた過去に想いを馳せ、静かに建造申請書を畳んだ。