「…...よし。今月の提督給与、これで全部か」
手元に残った給料袋の重みをたしかめながら、私は小さく息を吐いた。
大規模な改装工事と連日の出撃で鎮守府の資材庫はすっからかん。
資源を溜め直すために、みんなは連日、嫌な顔ひとつせず何度も遠征に足を運んでくれていた。
海から戻ってきた彼女たちの靴底に砂がついているのを見るたび、胸の奥がキュッと痛む
(私は指揮台の上で声を出すことしかできない。だから……せめてこれくらい、させてよね)
買い出しをしに、一人で鎮守府近くの城下町へと向かった。
日用品の調達を素早く済ませた後、私が向かったのは、小さな細工物や装飾品を扱う雑貨屋だった。
「うーん、これじゃないな。
もっと落ち着いた色で・・・」
既製品をテキパキ買うつもりだったのいざ店に入ると絵描きとしての癖が出てしまう。
全員に同じものをあげるなんて、私のプライドが許さなかった。あの子達はそれぞれ全然違う魅力があるんだから。
——加賀には弓を引く時に邪魔にならない、濃紺の絹糸で編まれた帯留めチャーム。
冷たそうに見えて誰よりも情があつい彼女の、深い海みたいな青。
——川内さんには、夜戦で走っても解けないように丈夫な、深い朱色の手首用リストバンド。いつだって一番前を走る、あの眩しい情熱の色。
——金剛さんには、英国風の優雅な雰囲気に似合う、小さなアンティーク調の髪留めクリップ。みんなを照らす太陽みたいな彼女にピッタリな金色の輝き。
——鈴谷には、いつもおしゃれに気を配っている彼女の足首に映える、細いアンクレット。
軽やかで、でも本当はすごく気遣い屋さんな彼女に似合うパステルカラー。
——満潮には、素直になれない強がりな横顔を引き立てる、小さな小さな赤リボンのヘアピン。
そして_________
「……阿武隈さんには、これかな」
透き通るような薄桃色と藤色が混ざり合った
繊細なかんざし。
柔らかくて、でも胸の奥に強い覚悟を秘めている彼女の雰囲気に、驚くほどぴったりだった。
自分の財布は一気に寂しくなったが、お店を出る私の足取りはなんだかすっかり軽くなっていた
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「これ。・・・いつも遠征、がんばってくれてるから。私からのお礼」
その日の夜。
遠征から戻り、疲れた顔で執務室に集まったみんなの前に、私は丁寧に包んだ小箱をいくつか並べた。
「え……提督?これ、なに?」
満潮が怪訝そうに目を丸くする。
「開けてみればわかるでしょ。別に大した物じゃないけど一応、みんなの顔を思い浮かべながら選んだんだから」
照れくささを隠すように横を向くと、みんなはおずおずと箱を開け始めた。
「これ……アンクレット!?えーっ、提督めっちゃセンス良くない!?鈴谷、超気に入ったんだけど!」
「まあ!この髪留め、とってもチャーミングデース!」
「あはは、リストバンドか!夜戦の時にも邪魔にならないし、カッコいいじゃん!」
歓声が上がる執務室。
加賀さんは静かに帯留めを手のひらに乗せ
愛おしそうに指先で撫でていた。
「……提督。このようなお心遣い、指揮官としての責務を超えていますよ」
「いいのっ!私が渡したくて渡したんだから」
むっと顔を膨らませる私に、加賀さんはふっと柔らかい笑みを浮かべた。
「ありがとうございます。大切にしますね」
そんなやり取りを少し離れた場所で見つめていた阿武隈に私は最後に残った小さな箱を手渡した。
「阿武隈さん。はい、これ」
「え…私に、ですか……?」
箱を開けた阿武隈は中に入っていた薄桃色のかんざしを見て、ハッと息を呑んだ。
「阿武隈さんって、すごく柔らかくて優しい雰囲気だけど本当は誰よりも芯が強い人だなと思ってだから、この色が一番似合う気がしたの」
「提督、これは…提督の貴重なお給料で……?」
「いいの。私、料理も作れないし戦闘も代わってあげられないでしょ? …だから、これくらいしかできないから」
笑ってみせる私の言葉に、阿武隈はかんざしをぎゅっと胸に抱きしめた。
その目から、ぽろぽろと大きな涙がこぼれ落ちる。
「あ、ちょっと……!?なんで泣いてるの!? 私、変な物選んじゃった?」
焦る私に、阿武隈さんは首を激しく横に振った。
「ち、違いますっ、提督……っ!うれしくて…
すごく、嬉しくて……っ!!」
(こんなに温かい人に。こんなに私のことを見てくれている人に……私は……)
涙で視界が滲む中、阿武隈は胸の中で何度も何度も自分を責めていた。
大本営に提出する「報告書」の重みが、彼女の胸を押し潰しそうになっていた。