轟音が去り、海に静寂が戻る。
立ち上る黒煙と、海面に漂う敵の残骸。
ボロボロになった艤装を抱えながら、5隻の艦娘たちは呆然と立ち尽くしていた
全員、生きている。
『大破進撃』で仲間の死を見送るしかなかった過去の惨劇が嘘のように、誰一人欠けることなく、圧倒的な敵群を打ち破ったのだ。
「…勝った……? 私たち…本当に……?」
満潮が自分の両手を見つめ、震える声で呟く。
その時、静まり返った海域にノイズ混じりの通信音が響いた。
『——みんな!? 無事なの!? 応答して……お願いだから、誰か返事をして……っ!!』
執務室からの絵名の声だった。
その声は、指示を出していた時の必死さとは違い、完全に限界を迎えて震えていた。
安否を気遣い、怖くてたまらない……そんな、年相応の1人の少女の素の声。
加賀はゆっくりと通信機を口元に寄せる。
「…こちら一航戦、加賀。敵艦隊の撃滅を確認。当方、全員健在です。提督」
『っ………………よかった………………!!』
通信の向こうで、絵名が溢れ出た涙と一緒に、崩れ落ちるような大きな安堵の息を漏らすのが聞こえた。
『よかった……本当に、誰も沈まなくてよかった……ッ……うぁ……っ』
声を押し殺して泣き出す絵名。
「提督」としての威厳も何もない、ただ目の前の命が助かったことにボロボロと涙を流す少女の泣き声が、通信機を通して艦娘たち全員の耳に届く。
「……ハッ、なによそれ。勝ったのはアタシたちなんだから、泣かないでよ」
満潮がプイッと横を向く。だが、その目にも小さな光が浮かんでいた。
「……あの提督、本気で泣いてるデスね」
「ねー。アタシたちのためにあんなにボロボロになってさ……ちょっとかっこいいじゃん」
金剛と鈴谷が顔を見合わせて微笑む。
「加賀さん……」
川内が静かに加賀を見上げる。加賀は通信機の向こうの泣き声に、静かにそして優しく問いかけた。
「……提督。なぜ、そこまで私たちに固執するのですか。私たちはただの兵器で、あなたにとって恐怖の対象の存在のはずです」
絵名は鼻をすすりながら、涙声で、けれど芯のある声ではっきりと答えた。
『…貴方たちは...兵器なんかじゃないわよ…ッ! 傷ついて、悔しがって、戦って……そんなの、ただの道具なわけないじゃない!』
『私は……私はね、どんなに絶望しても立ち上がって、諦めない奴が好きなの! あなたたちが必死に生きようとしてる姿を……私は、無かったことになんて絶対にさせないんだから……!』
それは絵名の泥臭くも純粋な情熱。
「道具」として扱われ、心を閉ざしていた艦娘たちの胸の奥に、絵名の言葉が温かい光となって染み込んでいく。
「……まったく。手の焼ける『お飾り』さんデスね」
金剛が愛おしそうに空を見上げる。
「帰りましょう、私たちの鎮守府へ。
新しい提督が、待っているデス!」
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絵名side
『当方、全員健在です、提督』
通信機から加賀さんの声が聞こえた瞬間、全身の力が一気に抜けた
握りしめていたペンが手から滑り落ち、デスクにカランと乾いた音を立てる
(よかった……っ、誰も……誰も沈まなかっ
た……!!)
安心したと同時に、今まで我慢していた恐怖が一気に押し寄せてきた。
______本当は怖くてたまらなかった。
自分が立てた拙い作戦のせいで、誰かが命を落とすかもしれない。そんな重圧に押し潰されそうになりながら、必死に平気なフリをして自分を保ちながら指示を出していた。
「っ、ふう……ッ、うぁ…っ」
一滴溢れた涙は止まることを知らない__
拭っても拭ってもボロボロと溢れてくる。
自分は軍人でもなんでもない、ただの女子高生だ。
通信の向こうで艦娘たちが何か話してる声が
するけど今の私には涙を止めることすらできなかった。
(泣いてる場合じゃないでしょ、私っ!早く……早くみんなのところに行かなきゃ……!)
袖でぐしゃぐしゃと乱暴に顔を拭い、震える足で立ち上がる。
勉強しただけの知識じゃ足りない怪我の手当だって満足にできるか分からない。
でも、部屋でじっと待ってるなんて私は絶対に嫌だった。