後方腕組みで傍観を決め込む背景モブの僕、【怪文書】の差出人だと密かにバレて破滅予定の悪役令嬢に粘着された。 作:ぜんはいざ
「それで、改めてお伺いしますが、ヴァイオレット様はどうして、僕をお茶に誘ってくださったんですか……?」
「さっきも言ったじゃない。先日ぶつかったお詫びだと……」
「本当は違いますよね」
少し呆れ気味のヴァイオレットの答えを
もしぶつかったことを申し訳なく思っているというなら、もっと早くに誘っていたはず。
わざわざ歓迎パーティーの翌日に謝罪しているのだから、意図があるのは明らかだ。
可能性は万に一つもないが、もし【怪文書】の差出人が僕だと疑われているのなら、全力で否定しておかないと。
そうじゃないと、スキルの存在だけでなく、手紙の内容から僕が『すてでき』の未来を知っていることがバレてしまう。
「……意外と鋭いですのね」
「不審に思わないほうがおかしいですよ」
どこかジト目で見つめるヴァイオレットに、僕はそうきっぱりと言い放つ。
「それで、どうして僕を……」
「大したことではありませんわ。……しいて言うなら、パーティー会場でのあなたの様子が気になったから、かしら」
「僕の様子が、ですか……?」
ヴァイオレットが頷く。
おかしい。背景モブとしての僕の存在感は、ステルス機能が搭載されていると言っても過言ではないと自負している。
だから、余程こちらを意識していない限り、印象に残ったりすることなんてないはずだが……って。
「それ」
「え……?」
「おそらく癖なのかしら。あなた、パーティーの時も同じように、親指で唇をなぞっていましたわよ」
「っ!?」
ヴァイオレットに指摘され、初めて気づく。
確かに僕、親指で唇をなぞってたわ。
「その癖、考え事をすると無意識に出てしまうといったところかしらね」
「よ、よく気づかれましたね……今までそんなこと、誰からも指摘されたことなかったですし、僕自身も知りませんでしたから」
「フフ、意外とそういうものですわよ。わたくしだって、ひょっとしたら自分では気づかない癖があったりするかもしれませんし、身近な人であれば、逆に癖と認識できないかもですわ」
そういう意味では、ヴァイオレットにも癖がある。
エステルの手によって
ということで、僕はちらり、と彼女の手を見る。
思ったとおり、他の指の爪が綺麗に整えられているのに対し、親指の爪だけは短く、かつ、ささくれていた。普段から爪を噛んでいるのは明白だ。
「それで?」
「え? そ、それでって……?」
「あなたが何を考えていたのか、教えてくださるかしら」
ヴァイオレットの真紅の瞳が、僕を
表情も柔らかく責めるような視線ではないが、それでも、心の中を見透かされているように感じた。
これ、下手な回答をしたら追及されそう。
「そうですね……ヴァイオレット様の洞察力に驚いていました。それと」
「それと?」
「公爵令嬢であるあなたは、それが当たり前の世界にいらっしゃるんだなー、と、悩みとは無縁の子爵子息に過ぎない僕は、月並みな感想を抱いたりもしまして……」
僕の知るヴァイオレットは、死に戻ったエステルにいつもやり込められ、すぐにヒステリックを起こす悪役令嬢。
異世界恋愛ラノベあるあるの、まさにざまぁされるために存在するようなキャラだった。
ところが目の前にいる彼女はどうだ。
パーティーで主人公ヒロインを見事にやり込めた姿といい、むしろ権謀術数に長けた、ザ・公爵令嬢という印象なんだが。
「フフ……誉め言葉として受け止めておきますわね」
「ええ、そうしていただけると助かります」
微笑むヴァイオレットに、僕は愛想笑いを浮かべて頭を
人付き合いはあまり得意じゃないが、腐っても前世でも社会人経験のある子爵子息。これくらいの社交性は身に着けているのだよ。(ドヤ)
「さて……そろそろ行きますわね」
そう言うと、彼女は
それに合わせて、遠巻きに眺めていた取り巻き二人がこちらへとやって来た。
「今日は楽しかったわ」
「こ、こちらこそ……」
この場を離れようとするヴァイオレットに、深々と一礼する。
というか、さっきから取り巻き達の視線が痛々しいんだよ。目を合わせないようにするには、これが一番、なんだが。
「その……ま、また、お茶にお付き合いしてくださいまし」
消え入るような声でそんな言葉を残し、ヴァイオレットは今度こそ中庭を後にする。
慌てて顔を上げると、彼女の耳がほんのり赤く染まっているように見えた。
そして。
「はああああ……疲れた」
ヴァイオレット達がいなくなり、緊張が解けた僕は大きく息を吐いた。
あくまでも傍観者を決め込むことにしたはずなのに、なんでよりによって、悪役令嬢に興味を持たれているんだよ、僕。
などと思わずツッコミを入れてしまうが、とりあえず危機は去った。
今後は最新の注意を払って、絶対にヴァイオレットをはじめ『すてでき』のキャラと
そう固く誓い、僕はようやく寄宿舎へと帰路についた。
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