後方腕組みで傍観を決め込む背景モブの僕、【怪文書】の差出人だと密かにバレて破滅予定の悪役令嬢に粘着された。   作:ぜんはいざ

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幕間 悪女ブレンダ

「……報告は以上となります」

「そう」

 

 王都にあるカヴェンディッシュ公爵家の屋敷でも、特に豪奢な内装が施された一室。

 跪(ひざまず)き首(こうべ)を垂れる、ヴァイオレットの取り巻きの一人であるジュリア=サットンの報告を受け、黒のドレスを身に纏(まと)った女が満足げに頷く。

 

 彼女の名は、〝ブレンダ=カヴェンディッシュ〟。

 ヴァイオレットの実母であり、エステルを今なお苦しめ続ける張本人。

 

「だけど、あの小娘がオズワルド殿下と通じていたなんて、予想外だったわ。ヴァイオレットが機転を利かせて殿下の立場を悪くしたことで、事なきを得たけど……」

 

 そう言うと、ブレンダは親指の爪を噛む。

 どうやらヴァイオレットの癖は、母親譲りのようだ。

 

「これから、いかがなさいますか……?」

「とりあえず、新入生の歓迎パーティーでのことは、私から公爵閣下に報告しておくわ。あなたは引き続き、ヴァイオレットを傍(そば)で支えてあげてちょうだい」

 

 傍(そば)で支えると言えば聞こえはいいが、彼女はジュリアにそんなものを求めてはいない。

 ヴァイオレットはあくまでも、都合の良い駒(・)に過ぎないのだから。

 

 そう……ブレンダ=カヴェンディッシュは、何よりも自分だけを愛する。

 それ以外の者は、全て路傍(ろぼう)の石以下の存在。

 

 実の娘の、ヴァイオレットでさえも。

 

 だが、かつて彼女の心をかき乱す者がいた。

 その者の名は、ルシア=カヴェンディッシュ。カヴェンディッシュ公爵の前(・)夫人。

 

 ルシアは彼女にないもの全て持っていた。

 地位も、財産も、人徳も。

 

 何より、他の誰よりも優れていると信じて疑わなかった美貌でさえも、ルシアには及ばなかったのだ。

 

 だからこそブレンダは、この世の誰よりもルシアを嫌悪する。

 その憎しみは今、成長するにつれ彼女と瓜二つの美しさになっていくエステルに向けられていた。

 

(だけど、危険ね……)

 

 もしエステルがオズワルドの庇護(ひご)を受けているとなれば、今までのように彼女を苦しめることが難しくなる。

 何より、そのせいでカヴェンディッシュ公爵の足を引っ張ることとなれば、せっかく手に入れた公爵夫人という今の地位が脅(おびや)かされかねない。

 

「あ、あの、私は……」

 

 そのまま部屋を出て行こうとするブレンダに、ジュリアはおずおずと声をかける。

 学院ではヴァイオレットをはじめ、子息令嬢達のことを心の中でことごとく見下している彼女も、ブレンダに対しては畏(おそ)れを抱いていた。

 

「……もう一度説明しないと理解できないのかしら」

「っ!? い、いえ、失礼いたしました!」

 

 ブレンダが冷めた視線を向け、抑揚のない声で告げる。

 彼女の機嫌を損ねたことに気づいたジュリアは、慌てて平伏し謝罪した。

 

「まったく……」

 

 溜息を吐き、ブレンダは今度こそ部屋を出て行った。

 

     ◇◆◇◆◇

 

「ほう。エステルとオズワルド殿下が、な……」

 

 執務室にてブレンダの話を聞き、カヴェンディッシュ家当主でありヴァイオレットとエステルの父親、〝バーナード=カヴェンディッシュ〟は興味深そうに顎をさする。

 

「そうなんです。……オズワルド殿下といえば、反カヴェンディッシュの急先鋒。エステルと通じているのは、きっと閣下を追い落とすために……」

「フン、あの青二才に何ができる」

 

 ブレンダの言葉を遮(さえぎ)り、カヴェンディッシュ公爵は鼻を鳴らす。

 王国内で今の権力を築き上げるために、王国内で海千山千の怪物達と渡り合ってきた彼からすれば、まだ若干十八歳のオズワルドのことなど、歯牙にもかけていなかった。

 

「ですが……よろしいのですか? エステルは、まがりなりにもこの家の息女。それなのに、よりによってオズワルド殿下と関わりを持つなんて……」

「構わん。それに、オズワルド殿下にはちょうど婚約者もおらんしな。なら、エステルが見初められれば、その時はカヴェンディッシュ家も王家の外戚になるのだ。悪い話ではあるまい」

「それは、まあ……」

 

 正直、ブレンダからすれば面白くない。

 これがエステルではなく、ヴァイオレットであればむしろ諸手を上げて喜んだことだろう。

 

 そうなれば、彼女の地位は盤石となるのだから。

 

 だがよりによって、憎き女の娘が、ややもすればこの国の第一王子……いや、未来の国王の妃になると考えると、心中穏やかではないのは当然だった。

 

 一方で、カヴェンディッシュ公爵はほくそ笑む。

 これまで王室を脅(おびや)かしかねないほどの自身の勢力もあり、国王から目を付けられている彼にとって、二人の関係は大きな意味を持つ。

 

 もしエステルがオズワルドの妃となれば、外戚として王家に対し大きな影響力を手に入れることができる。

 仮に破談になったとしても、王家はカヴェンディッシュ家に対し負い目を感じることとなり、強く出ることができなくなるだろう。

 

 いずれにせよ、彼にとってこれほど都合の良い話はない。

 何せ彼の最終目標は、王国の簒奪(さんだつ)なのだから。

 

 そう……カヴェンディッシュ公爵は、少年の頃から許せなかった。

 自らよりも遥かに劣る、取るに足らないあの男(・・・)が、どうして自分よりも上の存在で、この世に生を受けた時から全てを手にしているのか、と。

 

 だから彼は奪い続ける。

 あの男(・・・)が欲するもの全てを。あの男の(・・・)大切なもの全てを。

 

「さて……ルシアを奪われた挙げ句、王国も奪われたのなら、あの男(・・・)はどんな顔をするかな」

 

 窓の外を眺め、カヴェンディッシュ公爵はくつくつと嗤(わら)う。

 そんな彼を、ブレンダは忌々(いまいま)しげに見つめた。

 

 その美しい顔を、醜悪に歪(ゆが)めて。




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