後方腕組みで傍観を決め込む背景モブの僕、【怪文書】の差出人だと密かにバレて破滅予定の悪役令嬢に粘着された。 作:ぜんはいざ
新入生の歓迎パーティーが行われた日から、二週間が経った。
あれほど噂されたヴァイオレット達三人のやり取りの話題はすっかり消え去り、学院内はいつもの日常を取り戻して……取り戻して……いや、取り戻しているのか?
というのも。
「今日もいいお天気ですわね、トマス」
初めて一緒にお茶をして以降、僕は話題の渦中の人だったヴァイオレットと、毎日のように一緒にいるのだから。どうしてこうなった。
「え、ええ……ですけど、何度も申し上げていますけど、そのー……いいんですか?」
「? 何がかしら?」
「こうして二人きりでいることが、です」
最初の数日は放課後にお茶をする程度だったが、気づけば今では、休み時間を含め常に彼女と一緒にいる。というか粘着されている。
そのせいで、周囲から変に噂される始末。
背景モブとして傍観者を決め込む予定だったはずなのに、どうしてこうなった。(二回目)
「あら、何か問題でも?」
「大ありですよ。僕はともかく、ヴァイオレット様は公爵家のご令嬢で、あまりよからぬ噂を立てられるようなことをするのは、避けたほうがいいのでは……」
「余計なお世話ですわ。……それより、いつになったらあなたは、敬語をやめてくださるのかしら」
「え、ええー……」
どうやらヴァイオレットは、僕ともっと気安い関係を構築したい模様。
だが待ってくれ。向こうは公爵令嬢で、こっちはしがない田舎の子爵子息。そもそも家格が釣り合っていないのだから、そんなことできるはずがない。
何より彼女は、悪役令嬢とはいえメインキャラなんだぞ? 背景モブの僕は、軽々しく関わっちゃいけないんだよ。
「ハア……まあ、時間も限られていますし、これ以上は追及しませんけど。それより、こちらはいかがかしら?」
「ちょ!? 一人で食べられますから!」
そういえば、まだこの状況について説明してなかったな。
僕は今、昼休みの校舎の屋上で、ヴァイオレットと昼食を共にしている。
しかも、だ。
カヴェンディッシュ公爵家の料理長自慢の弁当を、周囲の視線も
つまり、彼女のいない童貞男子なら誰もが憧れる、『あーん』ってやつだ。
え? 本当は嬉しいんだろって?
もちろん嬉しいさ。ヴァイオレットが『すてでき』の悪役令嬢ではなくて、かつ、離れた場所から取り巻きの二人が殺気を向けてこなければな。
「むう……仕方ありませんわね」
頬を
『すてでき』では一度も見せたことのない、あまりに可愛らしい姿に、不覚にも僕は目が釘付けである。
「と、ところで、トマスに聞きたいのだけれど……」
「? 改まってなんです?」
「あなたには、その……好きなご令嬢とか、い、いらっしゃるのかしら……?」
「ブフォッ!?」
口に入れたお肉を思いきり吹き出してしまった僕は、何一つ悪くないと思う。
頬を染めて上目遣いでそんなことを尋ねられたら、童貞男子なら誰でもこうなるはず。
「い、いるわけないじゃないですか! そもそも僕なんかが、他の令嬢を好きになるなんておこがましいというか!」
悔しいが、前世を含めると彼女いない歴が通算四十数年の僕は、そういうのはもう諦めているんだ。
お願いだから、あまり傷口を
「そ、そう? まあ、確かにそうかもしれませんわね」
「そこは『そんなことないよ』とか言って、僕を慰めてくれるところでは!?」
やけに楽しそうな彼女が、
おかしい。どうしてこの僕が、こんな
(そういえば、あれ以来エステルを見ないな……)
以前はヴァイオレットがエステルに
というか、そもそもエステルを見かけないのだ。
さすがに学院に来ていないということはないと思うが、それにしても背景モブの僕以上に気配を消すなんて、主人公としてあるまじきこと。もっと存在感を示していかないと。
つまり何が言いたいのかというと、ヴァイオレットの矛先がこの僕に向いてしまっていることが問題なのだ。こんなことなら、あの時ぶつかったりするんじゃなかった。
そう心から後悔するものの、むしろぶつかられた側なので、過失割合は十対〇でヴァイオレットが悪い。
などとくだらないことを考えていたから、
「お姉様」
「「っ!?」」
背後から、ヴァイオレットを呼ぶ女の声。
「まさかお姉様が、殿方とこのようなところで仲睦まじく昼食をいただいておられるとは、思いもよりませんでした」
「あら……わざわざ
悪役令嬢の仮面を貼りつけたヴァイオレットは振り返り、小馬鹿にするような態度で尋ねる。
不敵な笑みを浮かべ見下ろす、妹のエステル=カヴェンディッシュに。
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