後方腕組みで傍観を決め込む背景モブの僕、【怪文書】の差出人だと密かにバレて破滅予定の悪役令嬢に粘着された。   作:ぜんはいざ

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主人公、無理してない?

「まさかお姉様が、殿方とこのようなところで仲睦まじく昼食をいただいておられるとは、思いもよりませんでした」

「あら……わざわざ(いじ)められに来たの?」

 

 悪役令嬢の仮面を貼りつけたヴァイオレットは振り返り、小馬鹿にするような態度で尋ねる。

 

 不敵な笑みを浮かべ見下ろす、妹のエステル=カヴェンディッシュに。

 

 だけど。

 

(これ、ちょっと無理してない?)

 

 少なくともエステルがヴァイオレットに表立って敵対するのは、『すてでき』の中盤以降。

 それまではざまぁこそしつつも、あからさまにこんな態度を取ることはなかった。

 

 というか、ちょっとわざとらしい気がする。

 

(ひょっとして、僕が【怪文書】を送ってヴァイオレットを助けたから……?)

 

 そのせいでシナリオが改変されたのだとしても、不思議ではない。

 だとするなら、僕はなんてことをしてしまったのだろうか。

 

 ……なんて、別に後悔なんてしないけどな。

 だって、オズワルドのあのやり口は、到底看過できるようなものじゃなかったし。

 

「それこそまさかです。今日はお姉様に、ご報告があって来たんです」

「わたくしに報告?」

 

 エステルの言葉に、ヴァイオレットは怪訝(けげん)な表情を浮かべる。

 気づけば離れた場所にいた取り巻きの二人が(そば)にいて、エステルを(にら)んでいた。いつの間に。

 

「はい。この度、生徒会長のオズワルド殿下に改めてお誘いいただき、生徒会役員を拝命いたしました」

 

 胸に手を当て、エステルはお辞儀をする。

 その表情は、どこかやる気に満ちていた。

 

「あらそう。精々他の役員の皆様のご迷惑にならないようにね」

「肝に銘じます」

 

 お互い笑顔ではあるものの、バトルマンガ的表現で例えるなら、二人の間の空間が、ぐにゃあ、と歪んで見えるような、そんなイメージ。

 

 で、だ。

 部外者の僕としては、この場から立ち去りたい。今すぐ。即座に。

 

「では早速ですが、生徒会役員としてお姉様に一言だけ」

「あら、何かしら」

「あまり学院内で、婚約者でもない男性と二人きりになるのはどうかと思いますが」

 

 え? 主人公がそれを言うのか?

 『すてでき』では自発的ではないにせよ、イケメンヒーロー達と事あるごとに二人きりになっていたくせに。

 

 何なら最近まで、オズワルドと二人で悪巧みしていたじゃないか。あれ、知らない奴が見たら、逢引きしているようにしか見えないから。

 

 それはさておき、なんで僕はエステルからこんなに(にら)まれているんだ?

 ヴァイオレットに苦言を呈しているはずなのに、矛先がこっちに向けられるなんて解せない。

 

「……ご学友と一緒に食事をすることの、何が悪いというのかしら」

「私はお姉様を心配しているんです。噂なんて、本人が意図しない形で広まってしまいますから」

 

 ヴァイオレットにしては珍しく、怒りに満ちた表情で(にら)みつける。

 一方のエステルも、譲らないとばかりに食ってかかった。

 

 えーと、原因が僕ということなら、ここは退散したほうがいいかもしれない。いや、すべきだな。

 そもそも、『すてでき』のメインキャラと関わるつもりなんて、最初からなかったのだし。

 

「じゃ、じゃあヴァイオレット様。僕はこれで……」

「どこに行きますの。エステルのくだらない言いがかりに屈して離れるなんて、それこそ自分に非があると認めているようなものですわ」

「で、ですよねー」

 

 おのれ。ヴァイオレットは僕を逃すつもりはないらしい。

 だけど、彼女の言っていることもごもっともなので、大人しく座り直すことにしよう。

 

「ではあなた……ええと、お名前は……」

「リトルトン子爵家の長男、トマスです」

 

 胡乱(うろん)な目を向け尋ねるエステルに、僕は少々わざとらしく、胸に手を当てて名乗ってみる。

 それが彼女の(かん)(さわ)ったようで。

 

「トマスさんも貴族のご令息であるなら、婚約者でもない令嬢と二人きりでいることがどのような問題を生むか、分からないわけではありませんよね?」

「い、いやいや、それこそ無用の心配でしょう。僕ごとき田舎の子爵子息が、カヴェンディッシュ公爵家の令嬢であらせられるヴァイオレット様と釣り合うなんて、誰も思わないでしょうし」

 

 などと、自虐交じりに僕は無実であることを主張してみるが。

 

「だったらなおさら、このようなことは控えるべきでしょう。……それこそお姉様の()が下がってしまいます」

「お待ちなさい。あなたにわたくしの()について、とやかく言われる筋合いはありませんわ」

「ありますよ。お姉様はご自身の立場というものを、あまりご理解されてないのでは?」

 

 この女、言いたい放題言いやがって。

 ちょっと頭にきたぞ、コノヤロウ。

 

 しかも、何が気に入らないのか知らないが、部外者の僕を引き合いに出してヴァイオレットを責めるとはどういうことだよ。

 ならこっちも、黙っている筋合いはない。

 

 そんな理不尽(・・・)を、この僕が受け入れるはずがないだろ。

 

「いやー、すみませんね。実は僕が我儘(わがまま)を言って、いつも相談に乗ってもらっていたんですよ」

「……相談?」

「ええ。さっきも言ったとおり、うちの実家は王国でも群を抜いて田舎なもので、先日の新入生歓迎パーティーでも恥をかいたものですから、貴族としてのマナーを教わっていたわけでして」

 

 そう告げた瞬間、エステルの胡乱(うろん)な表情がますます険しくなった。

 当然だよな。あのパーティーを引き合いに出せば、自分の恥も(さら)すことになるわけだから。

 

「なので、どうかご容赦いただけませんかね……?」

 

 僕は(へりくだ)るように、手を揉み上目遣いでおずおずとお願いしてみる。

 この卑屈な態度、彼女からすれば皮肉以外の何物でもないだろうな。そのつもりで振る舞っているんだけど。

 

「……あまり誤解を生むようなことは、これからは慎んでください」

「分かりましたー」

 

 ぷい、と不機嫌そうに(きびす)を返したエステルに、僕は敬礼ポーズを取り軽口で返事をした。

 

 そして、エステルが屋上からいなくなると。

 

「トマス」

「は、ははー……やり過ぎましたかね」

 

 ヴァイオレットに鋭い視線を向けられ、僕は許しを()うように愛想笑いをして顔色を(うかが)う。

 きっと彼女のことだ。二人の間に口を挟み勝手な真似をしてことに、大層お怒りだろうな。

 

 だけど、こっちからすれば姉妹喧嘩に巻き込まれていい迷惑なんだ。

 あの程度のことは許容してもらわねば。

 

「ハア……まあいいですわ。次から出しゃばるようなことはなさらないで」

「はい……」

 

 案の定怒られてしまった。

 ちょっと納得できないが、悪役令嬢としてのアイデンティティでもあるだろうし、ここは甘んじてお叱りを受け入れておくことにしよう。

 

「……このお節介(ボソッ)」

「へ……?」

「な、なんでもありませんわっ!」

 

 聞き取れない声で何かを呟いたかと思うと、ヴァイオレットは顔を真っ赤にしてぷい、と顔を背けてしまった。

 なんだこのクッソ可愛い生き物は。




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