後方腕組みで傍観を決め込む背景モブの僕、【怪文書】の差出人だと密かにバレて破滅予定の悪役令嬢に粘着された。 作:ぜんはいざ
「ねえあんた、ちょっと話があるんだけど」
昼休みも終わり、ようやくヴァイオレットから解放された僕は、教室に入ろうとしたところで、取り巻きの一人の……名前は、たしかマライアとか何とか。とにかく彼女に呼び止められた。
アニメを五回も視聴したのにその程度しか記憶していないのかと思われるかもしれないが、ちょっと待ってほしい。
彼女は
それはともかくとして。
「えーと……僕か?」
「あんた以外、誰がいるっていうのよ」
腰に手を当て、眉間の
見た目がウェーブのかかった金髪サイドテールで健康的な小麦色の肌をした、ちょっとギャルが入っている感じだからだろうか。ある意味ヴァイオレットより態度がでかいし、何より言葉遣いが悪い。
……黙ってさえいれば、普通に美少女なんだがなー。
「悪いけど午後の授業も始まるし、また今度ということで」
シュタッと右手を上げ、僕はそそくさと教室の中に……やっぱり駄目かー。
というか、そんなに強く腕をつかまないでくれ。痛いんだが。
そうして僕はマライアに拉致され、連れてこられたのはさっきまでいた屋上。
せっかく授業を受けるために教室まで戻ってきたというのに、意味がなくなってしまった。
「どうしてあんたを呼んだか、分かる?」
「分かりません」
意味ありげに尋ねるマライアに、僕は即答してやった。
きっとヴァイオレットについてのことだということは理解できるが、そもそも関わり合いになりたくないので、適当に受け流しておくとしよう。
「ちょっと、ふざけないでよね。ヴァイオレット様のことに決まってるでしょ」
「はあ」
残念。火に油を注いでしまった。
生返事を返したが、これは話が長引く予感。
そういえば、前世でも適当に返事をしていたら上司がキレて、その日は深夜まで説教を食らったな。
今思えば、パワハラを理由にブラック企業もろとも労基に訴えてやるべきだった。
「いい? ヴァイオレット様は、あんたみたいなうだつの上がらない田舎の令息が、軽々しく口を利いていい御方じゃないの。分かったら、二度と近づかないでよね」
僕としてもそうしてもらえると大いに助かるが、きっと無理じゃないだろうか。
大体、そんなことができるなら、この二週間彼女に付きまとわれてはいないのだよ。
とはいえ。
「分かったよ。じゃあ君から、ヴァイオレット様に言っておいてくれ」
彼女の忠告を素直に受け入れる僕。
ただし、その役目はマライアに丁重に丸投げしようではないか。
「は? どうしてこのあたしが、そんなことしないといけないわけ?」
「こういうのは言い出しっぺがやるものだと、昔の偉い人が言っていた」
残念ながら『すてでき』の世界の歴史については公式サイトでも情報がなかったので、それが本当かどうかは知らんがな。
「ふ、ふうん、それなら仕方ないわね」
おいおい、信じるのかよ。
見た目ギャルで口は悪いくせに、やけに素直だな。
「とにかくそういうことだから、あんたは絶対にヴァイオレット様に近づかないで」
「向こうから来た場合はどうすればいい?」
「そ、それはあんたが自分でなんとかしなさい!」
ビシッ! と指差してそう告げると、マライアは屋上を去った。
結局のところ、ヴァイオレットの扱いを丸投げされてしまった。
きっちりぶん投げてやったはずなのに、見事にカウンターを食らう始末。
この世界も、
◇◆◇◆◇
「トマス、帰りますわよ」
その日の放課後、チャイムと同時に教室まで迎えにきたヴァイオレット。
扉の隙間からは、忌々しげな表情で遠巻きに僕を睨む二人の取り巻きの姿が見える。
というかマライアよ、僕に近づかないように彼女に釘を刺す話はどうなった。
ああいや、この場合はヴァイオレットからやって来たわけだから、こっちでなんとかしないといけないのか。面倒くさい。
「えーと……ヴァイオレット様、やっぱりこういうのはよろしくないのでは……」
「っ!? ……急にどうしたのかしら。昨日までは、そんなこと言ったりしなかったのに」
いや、僕は何度も忠告したぞ。
だけど全然聞く耳を持たないというか、そもそも忠告として受け止めてくれなかったというか、オブラートに包み過ぎたせいで伝わってなかったというか。
……どうやら悪いのは、僕なのかもしれない。
「ですけど、昼休みにもエステルさんから忠告されましたし、ヴァイオレット様が生徒達の風聞に
「……じゃあ、あなた自身はどうですの?」
「? どうとは?」
「その……周囲から、そ、そのように思われたりすることについて、ですわ」
つまり、マルグリットの恋人認定をされることについてってことでOK?
「いやいや、さすがにあり得ませんよ。ヴァイオレット様と僕じゃ、釣り合わないにも程がある」
彼女は悪役令嬢で、僕は背景モブ。
家格も公爵家と子爵家では雲泥の差過ぎて、比べるのもおこがましい。
つまり最初からヴァイオレットの恋人ポジに収まるとか、天地がひっくり返ってもあり得ないし、そもそも僕は『すてでき』のストーリーに関与しないと心に決めている。
なので、たとえ夢や妄想の世界であったとしても、決して起こり得ない未来というわけだ。
だというのに。
「…………………………そう」
どうしてヴァイオレットは、そんな思いつめた表情をしているんですかね。
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