後方腕組みで傍観を決め込む背景モブの僕、【怪文書】の差出人だと密かにバレて破滅予定の悪役令嬢に粘着された。   作:ぜんはいざ

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二人目のイケメンヒーロー(つまりエネミー)

「珍しいな……」

 

 次の日の昼休み。生徒達が仲の良い友人達と食堂へ向かう中、僕は自分の席で一人佇(たたず)んでいる。

 というか、いつもならチャイムと同時にヴァイオレットが教室に入ってくるのに、今日に限って来ないとはどういうことだ。

 

 これじゃまるで、嘘告されて待ちぼうけを食らった陰キャ童貞男子みたいじゃないか。……悔しいが、何一つ間違ってないな。

 

「い、いやいや、今日はたまたま用事があったんだろう」

 

 ヴァイオレットは泣く子も黙るカヴェンディッシュ公爵家の令嬢なわけだし、家のことで忙しかったりして当然、むしろ今まで僕に付きまとっていたほうがおかしい。

 というか、久しぶりにお一人様を満喫できるんだから、ここは全力で喜ぶべきだ。

 

 そういうことなので、僕はすごすごと教室を出て食堂へと向かう。

 

 すると。

 

「よお」

「っ!?」

 

 胸元のシャツがはだけたチャラそうな、茶髪碧眼のイケメン男子生徒に声をかけられ、思わず固まってしまう。

 

(ハア……なんで背景モブに過ぎない僕が、こうも絡(から)まれるんだよ……)

 

 こめかみを押さえ、僕は盛大に溜息を吐いた。

 というか、普段から気配を消して生活しているのに、このエンカウント率の高さ。絶対にデバフがかかっているに違いない。

 

 そうだよ。もう気づいていると思うが、目の前のチャラ男も『すてでき』に登場するイケメンヒーローの一人。

 

 ――『ブリギット神教』の大神官の子息、〝カイル=オブライエン〟。

 

 このブレトワルダ王国は女神ブリギットを崇める『ブリギット神教』を国教としており、その最高指導者に位置するのがカイルの父親だ。

 厳格な家庭に育ったため、その反動としてカイルはチャラ男となるが、根は真面目で王立学院随一どころか、王国屈指の回復魔法の使い手でもある。

 

 『すてでき』では女性に節操がない軽薄な男を演じ、その実一目惚れしたエステルを一途に想い続けているというギャップから、女性読者の人気もそれなりに高いのだと、公式サイトに載っていた。

 

 なお、僕にとってこの世の全てのイケメンは敵である。敵なのである。

 

 で、だ。

 どうして僕は、この男に呼び止められたのだろうか。

 

「今から昼メシ? なら一緒に食おうぜ」

「断る」

「即答!?」

 

 昼食に誘ってきたのは、言うまでもなくヴァイオレットに関係してのものだろう。

 何せ彼女は、姉でありながらカイルが横恋慕しているエステルを執拗(しつよう)に虐(いじ)める悪女。

 

 ここ二、三週間とはいえ、休み時間の度にヴァイオレットと一緒にいる僕のことを、この男が気になるのも無理はない。

 

「そんなこと言わずにさー、俺と楽しく優雅にランチを……」

「断固拒否だ」

「また即答!? しかも強めに言われた!」

 

 恨むなら、『すてでき』のメインキャラである自分を恨め。

 そもそも面倒事であることが確定しているのに、わざわざ付き合うわけがないだろ。

 

「じゃあな」

「あ、おい! 待てよ!」

 

 誰が待つかバーカ。

 ということで、後ろで叫んでいるカイルをひたすら無視し、僕は一人食堂で昼食を楽しむ……。

 

「なあなあ。お前、どうやってヴァイオレット嬢と知り合ったんだ?」

「…………………………」

 

 どれだけ無視を決め込もうと、カイルの奴は正面に座り、構わず大きな声でしゃべり続けていた。

 これでのんびり昼食を楽しむなんて、できるわけないだろ。

 

「つーか、今まで誰も彼女にまともに相手してもらえなかったんだぜ? なのにお前ときたら、彗星のごとく現れて……」

「ああもう、うるさい。僕の食事の邪魔をするならどっか行け」

「お、ようやく返事をしたな」

 

 そう言うと、カイルはニカッ、と笑う。

 周囲にいた女子生徒の一部から黄色い声が聞こえたような気がするが、この男へのイライラも含め、殺意を覚えるレベルだ。イケメン死すべし。

 

「ちなみに俺の話し相手になってくれなかったら、今日だけでなくずっと付きまとってやるぞ」

「ほぼストーカーレベルじゃないか」

 

 つい性分で、ツッコミを入れてしまった。

 無視を決め込むはずだったのに、気づけばこの男に乗せられているとは。おのれ、姑息な真似を。

 

「ま、そういうわけで俺としては気になったワケよ。一体どうやって、あの(・・)ヴァイオレット嬢を変えちまったのかってな」

 

 先程までとは打って変わり、カイルは真剣な表情で告げる。

 なんだよ。結局コイツは、『すてでき』のカイル=オブライエンのキャラ設定どおり、ヴァイオレットを敵視しているってことじゃないか。

 

「そうか。なら僕も、貴様に答える義理はない」

 

 僕だって、教室や図書室での呟(つぶや)きを聞かなければ、悪役令嬢としての彼女しか知らなかった。

 だから本当は、この男の物言いに怒る資格はないのかもしれない。

 

 とはいえ、ヴァイオレットをちゃんと見ようとしない奴に、好き勝手言われるのも気に入らないんだよ。

 

「これ以上、僕に付きまとうな」

「…………………………」

 

 僕は食器のトレイを手に立ち上がると、睨むカイルを一瞥(いちべつ)し席を移った。

 

 そして。

 

「よお、一緒に帰ろうぜ」

 

 ……なんでこの男は、拒絶したはずなのに放課後まで付きまとってくるんだよ。




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