後方腕組みで傍観を決め込む背景モブの僕、【怪文書】の差出人だと密かにバレて破滅予定の悪役令嬢に粘着された。   作:ぜんはいざ

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チャラ男に粘着された

「おいおい、俺を置いていくなよ」

「うるさい。ついて来るな」

 

 無視して校舎を出てもなお追いかけてくるカイルに、僕は辟易(へきえき)しながら言い放つ。

 ここまで明確に拒絶しているっていうのに、どういうつもりなんだ。僕に構ってないで、『すてでき』のアニメ第四話みたいに女子生徒をナンパしに行けよ。

 

「ところでよー」

「…………………………」

あれ(・・)、どうするんだ?」

「っ!?」

 

 絶対に無視してやるつもりだったのに、予想外の光景を目の当たりにして、僕は息を呑み反応してしまった。

 だけど、あれ(・・)は反則だろ。

 

 だって。

 

「…………………………」

 

 校門の陰に隠れて、ヴァイオレットが恨めしそうに僕を見ているんだぞ? なんだあのクッソ可愛い悪役令嬢は。

 

「あのー……何をされているんですか?」

「っ!? べべ、別に何もしていませんわ! ただ、あなたが珍しく、他の男子生徒と楽しそうに下校されていたので……」

 

 楽しそう? 彼女の目は腐っているんだろうか。

 

「そんなわけないじゃないですか。そもそもこんな男、赤の他人です」

「おいおい、冷たいことを言うなよ。俺達はダチだろ?」

「やめろ」

 

 馴れ馴れしく肩を組んできやがったので、僕はカイルの腕を振り払う。

 結局コイツ、何が目的なんだよ。

 

「それより、ヴァイオレット様はどうされたんですか? 昼休みも教室にいらっしゃいませんでしたし」

「実家から呼び出しがあって、少々帰っていただけですわ。内容も、大したことありませんのよ」

 

 そう言って苦笑し、肩を(すく)めるヴァイオレット。

 なるほど。実家に呼び出された、ねえ……。

 

 たしか『すてでき』でも実家に呼び出されるシーンがあったけど、二週間前のパーティーでの失態の叱責を受けつつ、隣国の皇太子がお忍びでこの王立学院に入学しているという情報を入手した父親が、隣国の皇太子を手懐けるよう彼女に指示したんだよな。

 

 何せ彼女の父親は、隣国が保有する東方への海路を通じて入手した絹などによって利益を得ている。

 ……というのは建前で、実は帝国貴族の一人と不正に取引を行っているのだ。

 

 それは、王国が禁止している薬物や、人身売買といった非合法なもの。

 

 カヴェンディッシュ公爵は絹と不正取引で巨額の富を築き、王国を簒奪(さんだつ)するために有力な貴族達を買収。その地位を盤石なものにしていた。

 なので、帝国との繋がりは彼にとってなくてはならないもの。関係強化を望むのも当然だろう。

 

 あ、言うまでもなくその隣国の皇太子は『すてでき』のヒーローの一人。つまり逆ハーレム要員だ。

 

 当然ながら死に戻っているエステルは、隣国の皇太子のことや父親がヴァイオレットを使って彼と関係を強化したいことを知っており、先回りして不正取引をはじめとしたカヴェンディッシュ家の悪事の数々を事前に皇太子に暴露し、敵対するように画策する。

 

 その結果、ヴァイオレットはようやく隣国の皇太子の正体を突き止め接触を図ろうとするも、けんもほろろにされて籠絡(ろうらく)に失敗するどころか、不興(ふきょう)を買ったカヴェンディッシュ家は隣国との取引を全て停止されてしまう。

 

 それどころか不正取引の数々が調査を行った皇太子により王国に露見し、ヴェンディッシュ家は窮地(きゅうち)に立たされるのだ。

 

 こうなった原因は籠絡(ろうらく)に失敗したヴァイオレットにあると、父親から『無能』の烙印を押されてしまう。

 

 いずれにせよ。

 

(よくよく考えたら、ヴァイオレットも不遇だよな)

 

 エステルが死に戻る前は父親から厚遇されていたが、主人公が死に戻ってからの彼女はやることなすこと全て失敗に終わり、家族からも見限られて不幸のどん底。

 

 本当の彼女は、妹を守るために心を鬼にして(いじ)めを行い、公爵家を手に入れるために必死に努力しているというのに。

 

(……なんだよそれ。いくらなんでも理不尽(・・・)が過ぎるだろ)

 

 などと考えていると。

 

「お、おい!? 急に険しい顔して、どうしたんだよ!」

「へ……?」

 

 両肩をつかみ困惑した様子で尋ねるカイルに、僕は理解できず呆けた声を漏らした。

 見ると、この男だけでなくヴァイオレットも。

 

 というか彼女の場合、困惑しているというより、どこか申し訳なさそうというか、逆にちょっと嬉しそうというか、どう(とら)えていいか分からない複雑な表情だ……って!?

 

「まったく……何を考えているかは分かりませんけど、わたくしのことなら心配いりませんわ。だから、そんな顔をしないでちょうだい」

 

 ずい、とその綺麗な顔を近づけると、ヴァイオレットは真紅の瞳で見つめ、柔らかい笑みを浮かべた。

 

「い、いや、別に心配なんて……」

 

 気恥ずかしくなり、慌てて顔を逸らす。

 だけど待て。どうして僕が心配していると、彼女はそう思ったんだよ。

 

「ですけど……やっぱり学院に顔を出して正解でしたわ。おかげで、少しだけ元気が出ましたもの」

「は、はあ……」

 

 ヴァイオレットはくるり、と(ひるがえ)って背を向けたかと思うと、僅かに振り返ってはにかんだ。

 表情といい仕草といい、悪役令嬢というよりヒロインムーブが過ぎる。というかクッソ可愛い。

 

「それでは、ごきげんよう」

 

 そう言うと、いきなり現れた取り巻き二人を従えて、彼女はこの場を去って行った。

 最後にほんの少し、寂しそうな笑みを浮かべて。

 

「つーかお前、どんな手を使ったんだよ!? ヴァイオレット嬢のあんな顔、初めて見た……」

「うるさい。……だけど、話が聞きたいなら僕の話に付き合え」

「お、おお……」

 

 僕は若干戸惑うカイルを引き連れ、頼み事(・・・)をするべく校舎裏へと場所を移した。




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