後方腕組みで傍観を決め込む背景モブの僕、【怪文書】の差出人だと密かにバレて破滅予定の悪役令嬢に粘着された。   作:ぜんはいざ

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二通目の手紙 ※ヴァイオレット=ヴァイデンフェラー視点

■ヴァイオレット=カヴェンディッシュ視点

 

「もう……トマスったら……」

 

 寄宿舎の自室に帰ってきたわたくしは、机に向かい溜息を吐く。

 ですけど、やっぱり彼はとても優しい人。

 

 わたくしがお父様から呼び出しを受けたことに、あんなにも(いきどお)ってくださったんですもの。

 実家での話がどんな内容だったのか、全てではないにしろ気づいたのでしょうね。

 

 そう……わたくしはお父様から、隣国アブスブルゴ帝国の皇太子〝アルフォンソ=デ=レアル=アブスブルゴ〟が、王立学院にお忍びで在学していることを教えられた。

 加えて、皇太子アルフォンソを見つけ出し、恋仲になって籠絡(ろうらく)するようにとの指示を受けましたの。

 

 もちろん、彼を通じてアブスブルゴ帝国との関係を、盤石にするために。

 

 ええ、ええ、ずっと前から気づいておりましたわ。

 お父様が今の地位に飽き足らず、不敬にもブレトワルダ王家の権力そのものに興味がおありだということを。

 

 何より、王国に秘密で不正な商売を繰り返していることを。

 

 もちろん、そんなことが許されるはずもありません。

 エステルのこともありますが、わたくしはカヴェンディッシュ家の末裔として、王国に弓引こうとしているお父様の暴挙を許してはいけませんの。

 

 ですけど、残念ながら今のわたくしには、それを止める力がない。

 

「だからこそ、こうして努力を続けているのですけど、ね……」

 

 少なくともカヴェンディッシュ家の次期当主として周囲から認められるだけの成果を上げれば、お父様も無視することはできなくなるはず。

 何せ、お父様だって人である以上はいずれ寿命がまいりますもの。なら、手に入れた権力を遺し続けるためにも、後継者は必ず必要ですわよね。

 

 幸か不幸か、先日の新入生歓迎パーティーの一件で、お父様からは過分な評価を受けました。

 だからこそ次の一手が、アルフォンソ皇太子の籠絡(ろうらく)であり、それをわたくしに任されたのですわ。

 

 だけど。

 

「こんなの、受け入れられるわけがないじゃない……っ」

 

 アルフォンソ皇太子を籠絡(ろうらく)するということは、つまりカヴェンディッシュ家を手に入れることができないということを意味する。

 

 それ以上に――生まれて初めて心の内に芽生えた、この想い(・・・・)が叶わないことを。

 

 だからわたくしは、お父様からの指示を全力で拒否しますわ。

 それにより評価を下げ、カヴェンディッシュ家を手に入れる機会が遠のいてしまうとしても。

 

 まあ、それはさておいて。

 

「本当に、嘘も感情を隠すのも、どちらも下手ですわね。あれじゃ、すぐに見抜かれてしまいますわよ」

 

 このブレトワルダ王国は、生き馬の目を抜く貴族社会。腹芸の一つもできなければ、簡単に食い物にされてしまいます。

 なのにトマスったら、普段は周囲を遠ざけるように斜に構えた態度を取るくせに、簡単にぼろを出してしまうんですもの。心配で仕方ありませんわ。

 

「……これでは、わたくしが(そば)で守ってあげるしかありませんわね」

 

 そう(つぶや)くと、机の引き出しから取り出したものを見つめ、わたくしは頬を緩めます。

 あの歓迎パーティーでの出来事から救うために送られた、わたくし宛の手紙。

 

 差出人は記されていませんけど、右肩下がりで丸みを帯びた特徴的な文字からは、()の優しさが(にじ)み出ておりますわ。

 

 何故、どういう意図で、どのような方法で手紙を送ってくださったのかは分かりません。

 でも……それでも、この手紙は一人きりで戦い続けてきたわたくしに、たくさんの勇気と希望、何より見守ってくれている御方がいることを教えてくれた。

 

 だからわたくしは、これから先も頑張れる。

 

「ですけど、少々心配ですわね……」

 

 トマスの話ですと、マライアが彼に接触して、わたくしから距離を置くように忠告したとのこと。

 わたくしに悪い虫がつかないようにという、お母様の指示だとは思いますけど、まさか彼女が彼に懸想(けそう)しているとか、そんなことはありませんわよね?

 

 それに、今日彼と一緒にいたのは、あの(・・)カイル=オブライエン。

 敬虔(けいけん)な大神官の令息でありながら女性にだらしない彼は、所構わずいつも令嬢方に声をおかけになっていますわ。

 

「あのような男が(そば)にいたら、トマスが悪い影響を受けてしまうじゃない……っ」

 

 あまり人付き合いが好きではない彼なら心配はいらないと思いつつも、それでも殿方なわけですし、顔だけは優れているあの男に群がる令嬢方に目を奪われて、いずれただならぬ雰囲気に……。

 

「だ、駄目ですわ! 絶対に認めませんわよ!」

 

 トマスが有象無象の女と一緒にいるなんて、絶対に許せない。

 彼の本当の素晴らしさを知っているのは、わたくし一人だけで充分ですのよ。

 

「まずはマライアが彼に近づかないようにしっかりと言い聞かせて、あの男……カイル=オブライエンも排除しませんと」

 

 そう(つぶや)き、わたくしは仄暗(ほのぐら)い笑みを浮かべていると。

 

「本当にもう……お人好し」

 

 いつの間にか机に置かれていた差出人不明の手紙を手に取り、わたくしはつい口元を緩めた。




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