後方腕組みで傍観を決め込む背景モブの僕、【怪文書】の差出人だと密かにバレて破滅予定の悪役令嬢に粘着された。 作:ぜんはいざ
「相変わらず、見るに
「…………………………」
さわやかな朝の空気に包まれる、ブレトワルダ王立学院の二年B組の教室。
そんな平和な学生生活を送る生徒達に水を差すかのように、二人の令嬢が言い争っていた。
……いや、その表現は正しくない。
何故ならこれは、一人の令嬢が一方的に、もう一人の令嬢を
「聞こえませんこと? あなたのような者は、この王立学院に……カヴェンディッシュ家に相応しくありませんの」
黒髪の令嬢の名は、ヴァイオレット=カヴェンディッシュ。
西方諸国にある列強国の一つ、ここブレトワルダ王国で最大の権力を誇る貴族、カヴェンディッシュ公爵家の令嬢だ。
そして。
「……………………………」
唇を噛み、悔しそうにヴァイオレットを見つめる、ホワイトブロンドの長い髪の令嬢。
彼女の名は、エステル=カヴェンディッシュ。
言わずもがな、この『死に戻りの公爵令嬢は、実家を捨て氷の王子に溺愛される』の世界の主人公である。
かくいう僕は、背景モブである子爵子息の〝トマス=リトルトン〟。
後方腕組みしながら、物知り顔で解説していたりする。
それにしても、まさかアニメ最終話の視聴中(通算五回目)に死んでしまって、こうして『すてでき』の世界に転生するとは、思いもよらなかった。こんなこと、本当にあるんだな。
ちなみに、前世の記憶を取り戻したのは十年前。つまり七歳の時だ。
ただ、ここが『すてでき』の世界だと知ったのは、この学院の入学式で主人公と悪役令嬢を目撃した時であって、それまではただのファンタジー世界への転生だと思っていたのは内緒だ。
好きだったんなら、国名で気づけよ、僕。
まあ、それはともかくとして、好きだった『すてでき』の世界に転生できたのは、きっと前世で頑張ってきたご褒美なのだろう。
その証拠に。
――僕はこの世界でただ一人、スキル
そもそもスキルなんてものは、『すてでき』の世界に存在しない。
もちろん剣や魔法、魔物なんかも登場したりするものの、スキルに関しては最初から設定されていなかった。
なのに、どうして僕だけ存在しないはずのスキルを持っているのか。
おそらくは、転生したことによる初期ボーナスだと思っている。
ラノベなんかでも、転生者だけ特典を与えられてスキル持ちなんてことは、よくある話だし。
で、肝心のスキルについてだけど、名前は【怪文書】。これは僕が命名した。
能力の使用は一日一回限定だが、いつ、どこへ、誰にでも手紙を送ることができるというもの。
たとえ宛先が分からなくても、相手を思い浮かべるだけで届けることができる。
ただし制約があり、差出人――つまり僕の名前を記すことができない。
他にも、手紙に書ける文字数は最大一四〇文字しかなく、初めてこのスキルを試した時は『よく炎上するSNSみたいだな』なんて思ったりもした。
受け取る側からすれば、差出人不明の、しかもどうやって届けられたのか分からない手紙なんて、不審かつ不気味でしかないだろ。
だからこそ、僕はスキルの名前を【怪文書】にしたわけだが。
ただ、そんな制約があったとしても、このスキル能力は破格だと思う。
考えてみてくれ。ここは中世ヨーロッパ風の世界なんだ。
当然ながら通信手段なんて郵送か伝書鳩くらいしかなく、すぐに情報を届けることはできない。
一方で、僕の【怪文書】なら時間にも、距離にも、場所にも縛られず、誰にも気づかれずに手紙を届けられるんだ。
つまり誰よりも早く、確実に情報を共有することができるということ。
そんな有用なスキル、使わない手はないと思うだろ?
だけど僕は、あえて封印することに決めた。
考えてもみてくれ。このスキルの存在を、仮に国の偉い人達に知られたらどうなるか。
僕は権力者達に散々利用され、その後は余計な情報を知り過ぎたとして消されるのがオチだ。
そういうことなので、せっかく異世界転生したことだし、前世ではできなかった平凡なスローライフを送るためにも、【怪文書】のスキルは秘密にして墓場まで持って行かないと。
そして僕は、せっかく機会を得られたこの『すてでき』のリアルストーリーを、後方腕組み転生者として傍観を決め込むとしよう。
余談だが、僕は前世の現代知識チートをフルに活用して、実家のリトルトン子爵家をクッソ発展させた。土地だけが無駄にある田舎だったために、できることといえば最初は農地改革くらいだったが。
その甲斐あって、実家の領地は王国最大の穀倉地帯となり、向こう百年は何もしなくても食べていけるだけの財産を蓄えることができた。前世で成し得なかった、勝ち組の世界がここにある。
え? 主人公ヒロインや登場キャラ達と関わったりしないのかって?
当たり前だろ。そもそも僕は、背景モブなんだ。二次創作じゃあるまいし、余計なことをしたらストーリーが破綻するじゃないか。
そういうことなので、引き続き僕は、背景モブという特等席で物語を楽しむとしよう。
ここが主人公の死に戻る前か、それとも死に戻った後なのか、そういう細かいことは置いといて。
「ハア……もういいわ。目障りだから早くここから消えてちょうだい」
どうやら一通り罵倒し終えたようで、ヴァイオレットは少し疲れた表情を見せ、追い払うような仕草をする。
エステルは、ゆっくりと立ち上がると。
「……分かりました。
「っ!?」
ゆっくりと顔を上げたエステルが、薄ら笑いを浮かべ告げた。
ヴァイオレットは、いつもと違う彼女の雰囲気に目を見開き、息を呑む。
というかこの世界、既にエステルが死に戻った後だったわ。
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