後方腕組みで傍観を決め込む背景モブの僕、【怪文書】の差出人だと密かにバレて破滅予定の悪役令嬢に粘着された。 作:ぜんはいざ
「よお。あんな感じでよかったか?」
「ああ、助かる」
こちらへとやって来たカイルに、僕は表情を変えずにサムズアップした。
「しっかし、お前からアイツの正体を聞かされて、しかもあのタイミングで明かしてこいって頼まれた時は、驚き過ぎて訳が分かんなかったぜ」
【怪文書】ではアルフォンソとは距離を置くようアドバイスしたものの、ヴァイオレットの父親の指示や、何よりあの男が『すてでき』のスパダリヒーローである以上、接触は不可避となる恐れもある。
だから僕はそうなることを想定し、カイルを利用してアルフォンソ、そしてヴァイオレットの目の前でその正体を明かすことで、あの男が身動きを取れないようにしてやった。
それに。
(その正体をネタに、ヴァイオレットが公爵家を手に入れる際に協力させることもできる)
何せアプスブルゴ帝国は、カヴェンディッシュ家の取引先。彼女の父親も、無下にはできない。
公爵家を手に入れた後も、引き続き
「僕は一体、何をやっているんだ……」
「トマス?」
膝から崩れ落ちる僕に、カイルが不思議そうに声をかける。
いけない。自己嫌悪に
「それで、報酬としてどうやってヴァイオレット様を変えたのかを教える、だったか」
「あー。それ、もういいや」
「いいのか?」
頭を
あれだけしつこく付きまとっておきながら、どういう心変わりだろうか。
「当たり前だろ。散々見せつけやがって、このお節介野郎」
「うおっ!?」
カイルはいきなり僕の頭に手を乗せ、満面の笑みでわしゃわしゃと乱暴に
誰がそんなことしてもいいと言ったんだよ。というかやめろ。
「んなことより、早く教室に入ろうぜ。授業が始まっちまう」
「馴れ馴れしく肩を組むな」
「別にいいだろ。俺達はダチなんだし」
「誰が友達だ」
満面の笑みを浮かべそんなことを
大体、『すてでき』のメインキャラと、これ以上関わり合いになる気はないんだよ。
ヴァイオレットのことだって、あくまでも
だけど。
「教室に行ってもいないと思ったら……あなたのせいですわね! 今すぐトマスから離れなさい!」
「ちょ!? ダチなんだから別にいいだろ!?」
「ハア!? あなたが彼の友人ですって!? そんなの、絶対に認めませんわよ!」
背景モブとして平穏に過ごしたい僕の願いなんて、この世界の神にとってはどうでもいいらしい。チックショウ。
◇◆◇◆◇
「トマス、よろしいですこと? 友人は慎重に選ばないといけませんわよ」
「ムググッ!?」
一週間後の昼休み。いつものようにお弁当のおかずをこれでもかと僕の口に詰め込みつつ、ヴァイオレットが
やはり彼女は、カイルのことがかなり嫌いのようだ。
ん? カイルの奴はどうしたのかって?
「……俺もいるってのに、相変わらず言いたい放題じゃねーか」
「うるさいですわね。不特定多数の令嬢に言い寄っている
「風評被害も甚だしい!?」
とまあ、昼休みが始まってからずっと彼女に罵倒され続けているぞ。
というか自業自得の部分があるとはいえ、今までの静かだった僕のランチタイムを返してほしい。
ちなみにだが、あのひと悶着の後、アルフォンソは王立学院を退学してアプスブルゴ帝国に帰ってしまった。
何もそこまでしなくてもと思ったが、エステルだけでなくヴァイオレットとカイル……いや、下手をしたらそれ以上の生徒に知られている可能性があると考えれば、帝国と自身の身を守るためにも当然の選択かもしれない。
まさか『すてでき』の本編開始早々、スパダリヒーローの一人が退場する羽目になるとは思いもよらなかったが、とりあえず僕は悪くない。悪くないからな。
(そういえば、アルフォンソはどうして王立学院にお忍びで入学したんだろうか)
残念ながら『すてでき』ではそのあたりの背景が語られるシーンはなかったため、僕の中では結果的に周囲に迷惑をかけるダメ皇太子という評価だ。
「大体、俺とトマスはダチなんだ! ヴァイオレット嬢こそ少しは遠慮してどっかに……」
「僕は友達と認めた覚えはない」
「ほらごらんなさい。トマスもそう言ってますわよ」
「酷ぇ!?」
まったく……ヴァイオレットもだが、どうしてカイルにまで
しかも。
「……あたし、言ったよね? ヴァイオレット様に近づくなって」
取り巻きのマライアまで追加されてるし。もう収集がつかない。
「だったら君は、ヴァイオレット様に言ったのか? 『トマスに近づかないように』って」
「そ、それは……」
はい論破。
こんな簡単に言いくるめられるなんて、彼女を守る取り巻きとしてどうかと思うぞ。
「それならあんただって、ヴァイオレット様が近づいたらなんとかしなさいって、あたし言ったわよね!」
「むむ……」
痛いところを突いてくるじゃないか。
だがな、そんな口約束を受け入れた覚えはない……って。
「……トマスはいつから、マライアとそんな仲良しになったんですの?」
「「っ!?」」
ヴァイオレットは頬を思いきり膨らませ、
マライアがその姿に
い、いやいや。【怪文書】で助け舟こそ出したが、基本スタンスはあくまでも傍観者。
たとえ彼女がクッソ可愛かろうと、決して
まあ、だけど。
「……ちゃんと説明しろよ」
「あ、あたしに丸投げしないでよ!」
ジト目で睨みながらそう言ってやると、マライアは僕の
そもそも、君が
「トマス」
「っ!? は、はい!」
「放課後、ゆっくりお話しましょうね。二人きりで」
「はい……」
どうして僕だけ責められるのか解せないが、額に青筋を立てたまま笑顔のヴァイオレットが怖いので、今回は甘んじて受け入れることにしよう。
そんな中。
「…………………………」
もう一人の取り巻きであるジュリア=サットンは、遠くから僕達に向け冷ややかな視線を送っていた。
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