後方腕組みで傍観を決め込む背景モブの僕、【怪文書】の差出人だと密かにバレて破滅予定の悪役令嬢に粘着された。 作:ぜんはいざ
「……ふうん。ヴァイオレットが、ねえ」
王都にあるカヴェンディッシュ家のタウンハウスの応接室で、夫人のブレンダは意味深な笑みを浮かべる。
理由は、最近ヴァイオレットが、一人の男子生徒と関わりを持つようになったという報告を受けてのもの。
彼女に伝えたのは、もちろん。
「そうなんです。しかも相手は、よりによってトマスという田舎の子爵令息。とてもではありませんが、ヴァイオレット様には釣り合いません」
二人……いや、マライアと大神官の子息のカイルを含めた四人のやり取りを、冷ややかな目で見ていたジュリアである。
「それで? そのことを私に告げて、何がしたいの?」
「い、いえ……ヴァイオレット様にはまずやるべきことがあるのに、うだつの上がらない男を構っている暇はないと、その……」
「聞こえなかったのかしら。
「っ!? す、すみません!」
ブレンダが僅かに眉根を寄せたところを見て、ジュリアは慌てて謝罪する。
「ヴァイオレット様はその子爵令息にかなりご執心で、私が申し上げても聞き入れてくださいません。ここはどうか、ブレンダ様からご忠言いただけないでしょうか」
「そうね……あの子には、もっと相応しい殿方がいるものね」
彼女にとってヴァイオレットは、カヴェンディッシュ家で夫人としての地位を守るための
なら、その
その方法の一つが、アプスブルゴ帝国の皇太子、アルフォンソと結ばれること。
元々は帝国との取引に加え、いずれ王国を手に入れる際の後ろ盾を期待したカヴェンディッシュ公爵の発案によるものだが、これはブレンダにとっても渡りに船だった。
「ヴァイオレットがトマスという子爵子息と仲が良いことは分かったわ。それで、肝心のアルフォンソ殿下は特定できたのかしら」
「……いえ。最近接触した男子生徒は、トマス令息を除けば大神官の令息のカイル=オブライエンだけです。出自もはっきりしておりますし、まだ見つかっていないようです」
「そう。……ではあなたの目で見て、アルフォンソ殿下だと思われる生徒はいる?」
「…………………………」
ジュリアは眉根を寄せ、無言で首を左右に振る。
ブレンダからアルフォンソの存在を聞かされて以降、ヴァイオレットの世話もかまけて捜しているものの、未だ見つかってはいなかった。
ただし彼女は、アルフォンソを見つけたとしても、ブレンダに、ましてやヴァイオレットに報告するつもりはない。
ジュリアが彼を捜しているのは、あくまでも自分自身が彼を利用するためなのだから。
「分かったわ。引き続きヴァイオレットを支えつつ、アルフォンソ殿下の特定を急いで」
「かしこまりました」
ジュリアは
「間違っても、出しゃばって余計な真似をしたりしないでちょうだいね。……あなたの実家のこともあるから、心配はしていないけど」
「……失礼します」
不意に背中に投げかけられたブレンダの言葉に、顔に悔しさを
今の彼女には、従う以外の選択肢がない。
サットン伯爵家を――家族を守るために。
◇◆◇◆◇
「それにしても……フフ、あの子もそんな年頃なのね」
部屋の窓から外を眺め、ブレンダは頬を緩める。
彼女にとって大切なのは何よりも自分自身ではあるものの、かといって娘に対し、母親としての情を持ち合わせていないわけでもない。
あくまでも、彼女の中における優先順位の違いに過ぎないのだ。
「だけど悪いわね。あなたのその初恋、叶うことはないの」
仮にアルフォンソが見つからず、あるいは
もっと高い家格の、それもカヴェンディッシュ家に利する者でなければならないのだから。
すると。
「ここにいたか」
応接室に現れたのは、カヴェンディッシュ公爵。
ただ、その表情はどこかすぐれない。
「公爵閣下、どうかなさったのですか? あまりご機嫌がよろしくないように思われますが……」
「鋭いな。……帝国の〝マルティネス〟伯爵から緊急用の伝書鳩で連絡があった。アルフォンソ皇太子が、帰国したそうだ」
「それは……」
苦虫を噛み潰した表情で告げるカヴェンディッシュ公爵。
ブレンダは、声を失った。
「伯爵の手紙によれば、王立学院で皇太子の正体が露見したそうだ」
「ということは、ヴァイオレットが何か……?」
「いや、『ブリギット神教』大神官の息子が、正体に気づいたらしい」
大神官の息子とはいえ、秘密裏に入学した皇太子に気づけるものなのだろうか。
ブレンダは
「……お前の言いたいことも分かるが、『ブリギット神教』が帝国でも布教されていることを考えれば、子息が皇太子と過去に接触する機会があったとしても、不思議ではない」
「そう……かもしれませんね」
公爵の言葉に、ブレンダは納得できないものの、表面上は頷く。
だが、それでも彼女の中には得も言われぬ違和感があった。
カヴェンディッシュ家にとって、よからぬことが起こるのではないか。
そんな不安を抱かせるほどに。
「そうなると、マルティネス伯爵との
「……念のため、しばらく
「はい」
気休めにも聞こえるカヴェンディッシュ公爵の言葉を受け、ブレンダはゆっくりと頷いた。
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