後方腕組みで傍観を決め込む背景モブの僕、【怪文書】の差出人だと密かにバレて破滅予定の悪役令嬢に粘着された。 作:ぜんはいざ
■エステル=カヴェンディッシュ視点
――一度目の人生で、私は大好きだった姉に裏切られた。
カヴェンディッシュ公爵家の次女として生まれた私は、幼い頃は毎日が幸せだった。
優しくて綺麗なお母様と、私よりもほんの少し誕生日が早かっただけで、何かとお節介を焼くお姉様が
でもそんな日々は、七歳の誕生日を迎える直前に、終わってしまった。
お母様の、突然の死によって。
その後、カヴェンディッシュ家における私の扱いは一変した。
お父様の
お母様を慕っていた使用人達は全て解雇され、代わりにやって来た新しい使用人はあの悪女の言いなり。
残された私は、悪女ブレンダと新しい使用人達から日々
でも、それ以上に。
「あなた達、誰に断ってエステルを
「ヴァ、ヴァイオレット様……ですが、これは奥様のご指示で……」
「関係ありませんわ。妹を
あのお節介で、優しくて、お母様に負けないくらい大好きだったお姉様が、カヴェンディッシュ家の誰よりも率先して私を
そしてあの人は、今まで聞いたことのないような、心無い言葉を浴びせ続けるの。
しかも、自分が
お母様が生きていた頃の、あのお姉様はもういない。
そう、思っていたのだけれど。
お姉様と私が王立学院に入学したばかりのこと。
ブレンダにより制服すら満足に与えられず、みすぼらしい格好をしていたせいで、私は他の生徒達から陰で悪口を言われていた。
その時。
「あなたがそんな格好をしているせいで、カヴェンディッシュ家の品位を疑われていますのよ。少しは申し訳ないと思ったらどうなの」
お姉様は腕組みをして尊大に言い放つと、取り巻きの令嬢の一人……マライアという名前だったと思う。彼女に指示をして、制服をプレゼントしてくれたの。
しかもお姉様ったら、『誰かのお古』だと言っておきながら、寄宿舎の自室で確認してみれば、どう見ても新品で、それどころか、まるで私のために仕立てたかのように寸法もぴったりだった。
何より、私は見てしまった。
校舎裏で涙を
謝罪の理由は何なのか、誰に向けてのものなのか、それは分からなかった。
ただお姉様は、『ごめんなさい』という言葉を繰り返し続けていただけ。
でも、私にはそれだけで充分だった。
思えばお姉様に
導き出された答えは、実はお姉様が私を守ってくれていたのではないか、ということ。
そう考えると、全ての
目立つように
少しでも私に優しくするところを見せてしまったら、ブレンダの息のかかった他の人が、私に危害を与えてくる可能性を恐れて。
実際、お姉様の
だから私は、甘んじてお姉様の
そのナイフのような鋭い言葉の先にある、お姉様の不器用な優しさを感じながら。
だけど。
「貴様、よくもやってくれたな」
「っ!? 誤解です! 私は何もしていません!」
十九歳の誕生日の前日、私は
鉄
「黙れ。貴様が王立学院の在学中から、隣国アプスブルゴ帝国の皇太子アルフォンソと通じ、王国の情報を流していることは明白だ。その証拠もある」
そう言うと、カヴェンディッシュ公爵は一通の手紙を懐から取り出した。
「それ、は……っ」
「貴様が皇太子に宛てたものだ」
確かに私は、公爵が持つ手紙を送った。
学院で周囲から
だけど、まさか彼が隣国の皇太子だったなんて思いもよらなかったし、何より、手紙の内容は
王国の秘密とは一切関係なく、当たり
そのはず、なのに。
「では、これはどういうことだ」
「え……っ!?」
公爵に手渡され改めて読んだ瞬間、目を疑った。
そこには、人身売買や禁止薬物など、帝国との不正取引の内容や、王国の機密情報が記されていたのだから。
だけど、これは私の字じゃない。
私は慌てて見上げる。
そこには、無表情に冷徹な目で見下ろす公爵と、後ろでほくそ笑むブレンダがいた。
(ああ……そういう、こと……)
考えるまでもない。
要は、私は
目の前にいる、親とは名ばかりの悪人達に。
「……これが、父としての最期の慈悲だ」
そう言うと、公爵は懐から小さなガラスの小瓶を出す。
中には、鮮やかな赤色の液体が入っていた。
その色はまるで、お姉様の瞳のよう。
「それを飲めば、苦しまずに済むわ」
公爵から小瓶を受け取ったブレンダが
つまり、毒を飲んで私に死ねということ。
考えるまでもない。
この連中は、自身の悪事を全て私になすりつけ、口封じをするつもりなのだ。
「……このこと、お姉様はご存知なのですか……?」
「もちろんよ。だってその手紙も、薬も、全てあの子……ヴァイオレットが手配したんだもの」
「っ!? 嘘です!」
あの優しいお姉様が、そんなことをするはずがない。
これはブレンダが、お姉様の仕業だと思わせるための嘘に決まっている。
「ほら、よくご覧なさい。
「……っ」
手紙の文章の最後に、見覚えがあった。
通常はピリオドを打つのに、これには小さな丸が記されている。
お姉様の、文章を書く時の癖。
「ね? 分かったでしょ」
「あ……あああ……っ」
お母様がいないこの世界に、私の味方なんて誰もいなかった。
その事実が、かろうじて
「フフ……心配しなくても、仲良しのヴァイオレットと、
「あああああああああああああああ……っ!」
心の支えを失った私は、ブレンダの言葉も耳に入らず、絶望しか残されていないこの世界から逃げ出すため、小瓶の毒を
父に、継母に、私を
何より。
――ヴァイオレット=カヴェンディッシュに、心からの憎しみを込めて。
お読みいただき、ありがとうございました!
「続きが気になる」や「面白い!」と思ってくださった方は、高評価、感想を頂けると更新のモチベに繋がるのでよろしお願いします。