後方腕組みで傍観を決め込む背景モブの僕、【怪文書】の差出人だと密かにバレて破滅予定の悪役令嬢に粘着された。 作:ぜんはいざ
■エステル=カヴェンディッシュ視点
「そう願ったはずなのに、どうして……っ」
アルが帰国したことを知った日の夜、私は寄宿舎の自室で机に向かいながら、唇を噛む。
協力者がいなくなってしまったことによる悔しさでも、ましてや親友との別れへの悲しみでもない。
これは、誰よりも憎んでいるはずのヴァイオレットへの復讐を
新入生の歓迎パーティーも、第一王妃殿下のドレスを馬鹿にしたお姉様を
それはお姉様の機転によって阻止されてしまったけど、あの時、私は間違いなく安堵していた。そう……安堵してしまったの。
アルに関しても、死に戻る前にあの二人から得た情報――彼が帝国の皇太子であること、さらにはカヴェンディッシュ公爵が帝国貴族と不正取引を行っていたことを交渉のカードとして、彼の協力を得た。
でも、大神官の令息カイル=オブライエンの何気ない一言によってアルの正体が露呈してしまい、結果、政治的に利用されることを懸念し帰国してしまう。
それだって、私はむしろよかったとさえ思ったの。
だってそうでしょう? 大切な親友を、復讐に巻き込まなくて済んだのだから。
……いいえ、違う。
私は、お姉様をこの手で
「……これでお姉様に復讐したいなんて、何を言っているのかな」
本当に、自分自身の中途半端な甘さに嫌気がさす。
あの女は、この私を死に追いやった張本人だというのに。
「よしっ!」
私は未練を断ち切るように、両頬を思いきり叩く。
優しかった……憧れていた、お姉様への想いは、今度こそおしまいにしよう。
楽しかった、幸せだった過去も、今度こそ決別してみせる。
それはさておき。
「あの男……ちょっとお姉様に対して、馴れ馴れし過ぎじゃないですかね」
新入生の歓迎パーティー以降、お姉様に急速に接近してきた男子生徒。
リトルトン子爵家の三男、トマス=リトルトン。
朝夕の登下校や休み時間も常に一緒にいて、昼休みなんてお姉様に直接食べさせてもらうなんて、あり得ない。
私だって、そんなことをしてもらったのはお母様が生きていらっしゃった、七歳までだというのに。
何より――お姉様の、あんなに幸せそうな顔を見たことがない。
「やっぱりお姉様より先に、あの男……トマスを排除するほうが先です」
どういう意図があって近づいているのか分からないけど、あんな男、お姉様には相応しくない。
そのためには、何としてでも二人を引き離さないと。
「オズワルド殿下のお力を借りれば、簡単ですが……」
ただ、私とオズワルド殿下は、あくまでもカヴェンディッシュ公爵を失脚させるため、協力しているに過ぎない。
無関係なトマス=リトルトンを排除するために、あの御方は力を貸してくれるだろうか。
「……駄目だった場合は、まだ他にも協力してくれそうな方はいますし」
ブレトワルダ王国の第二王子でオズワルド殿下の弟君、〝エドウィン=オブ=ブレトワルダ〟。
魔塔主である大賢者マーカス様のご令息で一番弟子、〝サイモン=マーカス〟。
オズワルド殿下と協力関係にあるため、エドウィン殿下にお力をお借りするのは難しいかもしれませんが、サイモン様なら可能性はある。
そのために、死に戻ってからお友達として関係を構築し続けてきたのだから。
大神官のご令息のカイル様? 最初はご協力をお願いしようかと思っていましたけど、あの男と仲が良いようなので当然却下です。
むしろ敵でしかありませんので、邪魔をするなら彼も除外対象ですね。
「見ていなさい、トマス=リトルトン。あなたをきっと、お姉様の
目的が完全にすり替わっている? 何を言っているんですか。
お姉様への復讐に集中するためにも、目障りなものは先に取り除かないと。
なので、順番的にも何一つ間違っていません。
これは決定事項です。
ということで、私は決意を新たにし、拳を強く握りしめた。
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