後方腕組みで傍観を決め込む背景モブの僕、【怪文書】の差出人だと密かにバレて破滅予定の悪役令嬢に粘着された。   作:ぜんはいざ

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課外授業でも悪役令嬢はクッソ可愛い

「どうしてこうなった」

 

 朝、寄宿舎を出て校舎へと向かう中、僕は心からの叫びを口にする。

 そもそも、転生した時に『すてでき』の世界を、背景モブとしてリアルで、しかも安全圏から楽しむはずじゃなかったのか。

 

 だというのに。

 

「! トマス、遅いですわよ!」

 

 気づけばこうして、そわそわしながら待ち構えていた、悪役令嬢のヴァイオレットに粘着されているし。

 

(正直、彼女に好かれる理由が何一つないんだが)

 

 何度も言うが、スキル【怪文書】は差出人を絶対に特定できない仕様。

 実は彼女に正体がバレているとか、そんなことはあり得ない。

 

 なので、僕としては首を傾(かし)げるばかりだ。

 

「と、ところで、来週は王都で学年合同の課外授業ですわよね? クラスが別でも、好きに班を決めてもよいことになっておりますけど……」

 

 そう言うと、ヴァイオレットがメッチャ僕の顔を覗(のぞ)き見してくる。

 これはあれか? その課外授業、一緒の班になれって言っているのか?

 

「い、いえ、悪いですけど僕は……」

「よお! 親友! 来週の課外授業、一緒の班になろうぜ!」

「ゴホッ!?」

 

 いきなり思いきり背中を叩かれ、僕はむせ込んでしまう。

 誰の仕業かって? そんなの、カイルに決まってるだろ。

 

「こ、断る! そもそも僕は……」

「そうですわよ! トマスは、このわたくしと同じ班ですの! あなたはお呼びじゃありませんわ!」

 

 僕が言い切る前に、ヴァイオレットは強引に腕を取り、カイルを睨(にら)みつける。

 だがちょっと待て。誰と同じ班になるかはともかく、僕の右腕を挟(はさ)んでいる彼女のおっぱい、かなり大きいのでは? 普段は制服で隠れているから気づかなかった。

 

 なるほど……ヴァイオレットは、着痩せするタイプか。

 感触を含め、脳裏に焼き付けておこう。

 

「ですわよね! トマス!」

「へ? え、ええ……」

「ほら見なさい!」

 

 ちょっと待て。どうして素直に頷いているんだよ。

 そもそもおっぱいで僕の理性を奪うなんて、反則じゃないか。ありがとうございます。

 

「いや、俺は別にヴァイオレット嬢が同じ班でも、全然構わねーんだけど」

「何を言ってらっしゃいますの。あなたみたいな不潔な男、願い下げですわよ」

 

 大人な対応のカイルに対し、ヴァイオレットは子供のように勝ち誇り、ドヤ顔で追い払うような仕草を見せる。

 意外とこの二人、本当は仲が良いのでは。

 

「そういうことですから、残念でしたわね。課外授業はあなた一人で楽しんでくださいな」

「えー……」

「……言っておきますけど、わたくし達の邪魔をしたら、ただではおきませんわよ」

「ヒッ!?」

 

 悪役令嬢らしく、凍えるような微笑を浮かべて告げるヴァイオレット。

 さすがのカイルも、これには慄(おのの)いてしまったようだ。

 

 僕? さっきから彼女のおっぱいに夢中で、正直それどころじゃないぞ。

 

     ◇◆◇◆◇

 

「トマス、次は向こうに行きますわよ!」

「ちょっ!?」

 

 王都での課外授業当日。

 案の定というか、僕はヴァイオレットに振り回されっぱなしである。

 

 彼女は真面目な性格のようで、学院から与えられた課題をてきぱきとこなしていた。

 もちろんそれは、同じ班の僕もなんだが。

 

 というか、僕と彼女の、たった二人だけの班だけどな。

 

 それにしても。

 

「あのー……あれ、本当にいいんですか……?」

 

 物陰から恨めしそうな視線を送る、ヴァイオレットの取り巻きのマライア。

 そのすぐ後ろには、ニヤついた表情のカイルと、つまらなそうにするもう一人の取り巻き、ジュリアがいた。

 

 課外授業が始まってからというもの、あの三人はずっとあの調子で僕達を見張っているのである。

 

「もちろんですわ。同じ班でもないのですし、いちいち構う必要なんてなくってよ」

「それはまあ……」

「そんなことより!」

「うおっ!?」

 

 いきなり僕の顔を両手で挟むと、ヴァイオレットは強引に身を乗り出した。

 クッソ可愛い彼女の顔が、吐息がかかってしまうくらい近いんだが。

 

「……そ、その、あなたのペアはわたくしなんですのよ? もっとこっちを見てくださっても、よ、よろしいのではなくて……?」

 

 そう言うと、恥ずかしそうに顔を背けるヴァイオレット。

 こんなの、チートすぎるだろ。

 

「……言われなくても、最初から(・・・・)ずっと(・・)見てますよ」

「っ!? トトト、トマス……ッ!?」

 

 見てるといっても、背景モブとして『すてでき』のストーリーを、って意味だぞ。

 だから、別に彼女に注目しているとか、そういうことじゃないからな。

 

 ……なんて、誰がどう聞いてもただの言い訳だよな。

 

 分かってる。

 悪役令嬢を演じる本当の理由を知ってしまってから、僕がずっと彼女ばかりを見ていることくらい。正直、悔しいけどな。

 

 でも……それでも、僕は傍観者でしかいられないんだ。

 『すてでき』のストーリーを破綻させたくないからとか、そんな理由じゃない。

 

 自分から首を突っ込んでおきながら何もできなかった、あの時(・・・)と同じ思いをしたくないから……って。

 

「ヴァ、ヴァイオレット様……?」

「お願いですから、そんな顔をしないでくださいまし……っ」

 

 気づけば、ヴァイオレットは今にも泣き出しそうな、とても悲しげな表情を浮かべていた。

 その鮮やかな真紅の瞳に、うっすらと涙を浮かべて。

 

(……まったく、これのどこが悪役令嬢なんだよ)

 

 主人公ヒロインである妹のエステルを執拗に虐(いじ)め、どこまでも惨(みじ)めに墜ちていって、悪役令嬢としての最期を迎えるヴァイオレット。

 彼女の本当の想いは、『すてでき』で最後まで語られることはなかった。

 

「ん……っ」

「あなたこそ、なんて顔をしてるんですか。らしくないですよ」

 

 真紅の瞳に溜まった涙を拭い、僕は苦笑する。

 態度だけは、どこまでも傲慢(ごうまん)かつ尊大なヴァイオレット。

 

 ここは『すてでき』がクッソ大好きな背景モブとして、いつもの彼女に戻ってもらわないとな。

 

「それより、次に行くんですよね。なら早くしましょうよ」

「も、もう……分かってますわよ!」

 

 口を尖(とが)らせるも、ヴァイオレットはすぐに気を取り直してはにかむと、僕の手を取って走り出す。

 肩を竦(すく)めつつ、僕はそんな彼女に引っ張られるままに駆け出した。




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