後方腕組みで傍観を決め込む背景モブの僕、【怪文書】の差出人だと密かにバレて破滅予定の悪役令嬢に粘着された。 作:ぜんはいざ
「よお、奇遇だな」
「うるさい。こんな奇遇があってたまるか」
学院から示された課題も一通り終わり、休憩がてらヴァイオレットと大通りのカフェに入った途端、カイルと取り巻き二人が、わざわざ僕達の隣の席に座りやがった。
どうやらさっきまでのように、こそこそ隠れることはやめたらしい。
「……あなた達、これはどういうことですの? どうしてわたくし達の邪魔をするのかしら」
「「っ!?」」
ヴァイオレットに睨まれ、息を呑む取り巻き二人。
マライアの奴は、『早くなんとかしろ』と、目で訴えてくる。クッソ
だけど、そんなことがどうでもいいくらいに、もっと面倒な連中が現れた。
「お姉様」
「エステル……」
絡んできたのはエステル。
隣に、生意気そうなダウナー系イケメンを
もちろんこのイケメンも、『すてでき』に登場するヒーローの一人である。
名前はサイモン=マーカス。王国の魔法使いの頂点に立つ魔塔主の息子で、彼自身も凄腕の魔法使いだったりする。
それはともかくとして、このイケメンも滅べばいいと思う。
「あら、わたくしに構っていていいのかしら? ちゃんと課題をこなしているのか、姉として心配だわ」
「ご心配なく。既に全部終わらせていますので」
そう言うと、エステル達はこれ見よがしに僕達の隣の席……つまり、カイル達とは僕達の席を挟んで反対側な。そっちに座りやがった。
「お姉様こそ、同じ班の人が彼でよろしいのですか? とてもじゃないですけど、お姉様のお役に立つとは思えませんが」
「……言葉に気をつけなさい。トマスはとても優秀ですわ」
エステルの皮肉に、ヴァイオレットは怒りを
だけど、僕の存在が攻撃の糸口になってしまったようで、ちょっと居たたまれない。
関わり合いにならないためにも、ここはヴァイオレットと離れソロプレイに移行すべきだとは思うが、残念ながら今日の課外授業は、班での成果を求められている。
つまり、最後まで別行動を取るわけにはいかないのだ。
「本当にそうでしょうか。たかが子爵令息の分際で、お姉様の
「黙りなさいッッッ!」
とうとう我慢できなくなったヴァイオレットは勢いよく立ち上がると、エステルを
だけど、ひょっとして僕、主人公にクッソ嫌われていないか? 一体何をしたっていうんだよ。
大体、エステルはカヴェンディッシュ家に対しては容赦ないが、基本的に誰に対しても優しく接していたはずなのに。どういうことだ、これ。
「もう一度同じ
「……お姉様は、どうしてそこまで彼に目をかけておられるのですか?」
詰め寄るヴァイオレットに、エステルは憎々しげに僕を見つつ、尋ねる。
それについては僕も知りたいところだが、同じくらい彼女が僕を嫌う理由も知りたい所存。
「そ、それは……」
何故か顔を真っ赤にし、ヴァイオレットは、ちらり、と僕を見やる。
何これ。まさかとは思うが、転生先の背景モブにモテ期到来? そんな馬鹿な。
でも、もしそうなのだとしたら嬉しい反面、『すてでき』の悪役令嬢に好かれた時点で人生終了のお知らせ。
しかも、主人公にクッソ嫌われるというオマケ付きで。バッドエンド不可避なんだが。
ただまあ、一つだけ確認させてもらおうか。
「あのー……」
「……チッ、なんですか?」
おっと、おずおずと声をかけただけで、エステルが舌打ちしながら
だが、その程度で臆する僕じゃない。こんなの、前世でブラック企業の上司の不始末を押し付けられた挙げ句、
「僕の見た限りですけど、エステルさんはヴァイオレット様のことが嫌いなんですか?」
「「っ!?」」
あえて空気を読まない僕の言葉に、エステルだけでなくヴァイオレットも息を呑む。
それもそうだろ。エステルはヴァイオレットのことを誰よりも憎んでいるし、ヴァイオレットはといえば、実はエステルのために公爵家を手に入れようと、努力している。
ならせっかくの機会だ。実際にエステルがどう思っているのか、ここではっきりさせてやる。
そうすれば、ヴァイオレットは無駄な努力をせずに済む。
……まあ、彼女のことだから、エステルの評価がどうであれ、引き続き頑張るような気がするが。
この世界に転生して気づいたけど、この悪役令嬢、クッソ不器用だから。
そういうところ、
「……そんなこと、あなたに答える義理はありません」
「つまり、ヴァイオレット様のことが嫌いということでいいんですね?」
「っ! 誰もそんなこと言ってないでしょう!」
エステルにしては珍しく、感情的になり声を荒らげる。
こんな姿、『すてでき』では一度も見たことがないかもしれない。
「おっと、こんなくだらないやり取りをしている間に、そろそろ集合時間みたいですよ。話はこれまでですね」
「勝手に話を振っておきながら……っ」
怒りを
そんなことは知ったことじゃないので、彼女にはさっさとこの場から去っていただこう。
「……もういいです。サイモン様、行きましょう」
「あ、ああ……」
そういえば、そんなイケメンヒーローもいたなあ。完全に空気だった。
もちろんそれは、呆気に取られているカイルや取り巻き二人も同じだが。
「ヴァイオレット様、僕達も行きましょう」
「え、ええ……」
戸惑うヴァイオレットに声をかけ、僕達はカフェを出ようとして。
「……よかったですね。エステルさん、あなたのことが嫌いじゃないみたいです」
「っ!? ……もう……っ」
そう耳打ちすると、ヴァイオレットは、ぷい、と顔を背けてしまった。
でも、口元を緩め、涙を
だけど。
(これで、ますます分からなくなった)
『すてでき』では、間違いなくヴァイオレットに対し憎しみを抱いて死んだエステル。
死に戻った後のストーリーでも、彼女が姉に対して情を見せるシーンなんて、どこにもなかった。
なら、彼女の心境に変化があったということだろうか。
あんな死に方……ヴァイオレットの裏切りを知り、絶望の中で毒を
……いや、ちょっと待て。
そもそもこれ、おかしくないか?
だってヴァイオレットは、エステルのためにカヴェンディッシュ家を手に入れようと、頑張っているんだぞ?
そんな彼女が、妹を死に追いやるような真似を、果たしてするだろうか。
(どう考えても、あり得ない……)
僕は無意識に、指で唇をなぞる。
思い出せ。『すてでき』の中にある、矛盾点を。
「……トマス」
「…………………………」
「トマス!」
「っ!? は、はい!」
いきなり大声で呼ばれ、僕は思わず直立不動で返事をした。
「もう……何を考えていたのかは分かりませんけど、早く行きませんと集合に間に合いませんわよ」
「あ……はは、そうですね」
苦笑するヴァイオレットにつられ、僕も頭を掻いて苦笑した。
お読みいただき、ありがとうございました!
「続きが気になる」や「面白い!」と思ってくださった方は、高評価、感想を頂けると更新のモチベに繋がるのでよろしお願いします。