後方腕組みで傍観を決め込む背景モブの僕、【怪文書】の差出人だと密かにバレて破滅予定の悪役令嬢に粘着された。   作:ぜんはいざ

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取り巻きBの受ける理不尽

「っ! そんなの決まってるでしょ! あたしは……あたしは、ヴァイオレット様のお役に立ちたいの!」

 

 胸に手を当て、マライアは身を乗り出して訴える。

 へえ……意外だな。てっきりただの腰巾着程度だと思っていたのに。

 

「ヴァイオレット様はあたしの憧れなんだ! 子供の頃、大人ばかりのパーティーで、そんな大人達相手にもあの御方は堂々と振る舞って、どうしていいか分からなくて泣きそうだったあたしに優しく声をかけてくれて……っ!」

「そ、そうか……」

 

 ヴァイオレットのことをそう思っていることは分かったから、お願いだから胸倉をつかむのはやめろ。ちょっとビビっただろ。ただし、ほんのちょっとだけな。嘘じゃないぞ。

 

「なら、カヴェンディッシュ夫人への報告はどうしている? ……例えば、最近の彼女と僕との関係とか」

「不本意だけど、さすがにそんなの、報告できるわけないでしょ。あんたのことを認めるつもりはないけど、それでも、ヴァイオレット様を悲しませたくないし」

 

 さも当然とばかりに、マライアは言い放つ。

 

 ただ。

 

「それ、ジュリア令嬢はどうなんだろうな」

「……多分、報告してると思う。あの子は、ブレンダ様に逆らえないから」

 

 おっと、ここにきて新たな情報が。

 マライアは何気なく言ったんだろうが、僕がそれを聞き逃すはずがない。

 

「カヴェンディッシュ夫人に逆らえないっていうのは、どういう意味なんだ? それは、カヴェンディッシュ家傘下の貴族だから、ってことじゃないよな?」

「あ……っ」

 

 しまったとばかりに、マライアが慌てて口を手で押さえる。

 見た目もそうだが、そんな分かりやすい反応を軽々しく見せたら、魑魅魍魎が跋扈(ばっこ)する貴族社会で生きていけないぞ。

 

「マライア」

「っ! うちよりも家格が落ちるくせに、偉そうに呼び捨てにしないでよ!」

 

 怒られてしまった。

 だが、今はそれどころじゃないのでスルーしておく。

 

「……あの子の実家のサットン家、事業に失敗してカヴェンディッシュ家に多額の借金があるらしいの。それで……」

 

 この世界に限らずよくある失敗話だが、とりあえず事情は分かった。

 ジュリアとしては、実家を助けるためにも言いなりになるしかないってことか。

 

「その借金って、いくらくらいあるんだ?」

「詳しくは分からないけど……多分、数千万リブラはあると思う」

 

 リブラっていうのはブレトワルダ王国の通貨で、前世の貨幣基準に合わせると一リブラで約一円。貨幣価値は、前世とほぼ同じ。

 つまりジュリアの実家は、数千万円もの借金を抱えているということか。これはなかなかの額だぞ。

 

 だけどこの『すてでき』の世界は、ただの取り巻きモブに対しても理不尽(・・・)を背負わせるんだな。

 

 本当に。

 

「気に入らない」

「? なによ……」

「別に。なんでもない」

 

 なんとなくではあるが、それなりに事情は把握した。

 ヴァイオレットが、悪役令嬢を演じ続ける理由も。

 

 もちろん。

 

(まだ分からないことは、色々とあるけどな)

 

 どうしてヴァイオレットが、エステルを死に追いやったのか。

 これはカヴェンディッシュ公爵あるいはブレンダの陰謀による可能性が高いだろうが、じゃあ彼女はその時どこにいたのかってことだ。

 

 彼女なら、きっと全力で阻止しようとしたに決まっている。

 

 それと、死に戻ったエステルに両親もろとも断罪されるシーンでの、ヴァイオレットが寂しそうに微笑んだ理由。

 僕はあの表情にも、ずっともやもやしている。理由を知るまで、そう簡単に受け入れられるか。

 

 それらを踏まえた上で、まずやるべきことは。

 

(ヴァイオレットの母親――ブレンダにどんな思惑があるのか、調べる必要がある)

 

 王国簒奪(さんだつ)を狙うカヴェンディッシュ公爵の野望は、『すてでき』の中でエステルの手によって暴かれているから知っている。

 一方で、ブレンダに関しては一緒に断罪されヒステリックに取り乱していたシーンばかりが印象的で、ただの小物としか扱われていなかった。

 

 だが、取り巻き二人をあてがってヴァイオレットを監視させ、その内の一人……ジュリアを借金で縛って裏切らないようにしておくなんて、普通に考えておかしいだろう。

 

 何が言いたいかっていうと、最初から実の娘のことを信用していないということだ。

 

 だから――既にヴァイオレット母子(おやこ)の関係は、破綻している。

 

「とりあえず、聞きたいことは聞けた。その……助かったよ」

「な、なによ。素直にお礼を言われると、気味悪いんだけど」

「酷い言われようだな」

 

 露骨に顔をしかめつつも照れるマライアにジト目を向けると、もう用はないとばかりに踵(きびす)を返す……んだが。

 

「……ヴァイオレット様なら、君の本当の気持ちも含めて事情を話せば、きっと受け止めてくれると思うぞ」

「っ! よ、余計なお世話……って、この場合は『お節介』って言ったほうが正しいかもね」

「さあな」

 

 はにかんで肩を竦(すく)めるマライアに悪態を吐くと、僕は屋上から去ろうとして。

 

「…………………………」

 

 ……ヴァイオレットが、出入口からこちらをクッソ睨(にら)んでいるんだが。




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