後方腕組みで傍観を決め込む背景モブの僕、【怪文書】の差出人だと密かにバレて破滅予定の悪役令嬢に粘着された。 作:ぜんはいざ
「いつものこととはいえ、今日も言いたい放題だったわね」
「ええ……いい加減、うんざりよ」
午前の授業を終え、昼休み。
食堂で昼食を摂りながらソロプレイを満喫していると、後ろから女子生徒達の会話が聞こえた。
ん? 友達と一緒に食事をしないのかって? 余計なお世話だ。
そもそも僕は一人が好きだし、人に合わせて愛想よくするのは好きじゃない。これが一番楽なんだよ。
……別に早口だからって、ボッチの言い訳をしているわけじゃないぞ。本当だぞ。
「それにしても、ヴァイオレット様ってどうしていつも、あんなに彼女を
「ほら、先日の定期試験でも、エステルさんが一番だったじゃない? なのにヴァイオレット様はかろうじて十位。要は才能に嫉妬しているんでしょ」
「そうかも。実際、ヴァイオレット様ってすごいのはご実家だけで、彼女自身は大したことないでしょうし」
ヴァイオレットも、陰では言われたい放題だな。
『すてでき』での彼女の評判は、エステルに断罪されて初めて地に落ちるという展開だったが、実際は物語冒頭から他の生徒達から嫌われていたのか。
周りの生徒からすれば、悪役令嬢が主人公ヒロインを
とはいえ、エステルがトップの成績を取ることができたのは、死に戻りによって試験の出題内容を覚えているからというのも理由の一つで、果たして本当の実力なのかと問われれば怪しいけどな。
まあでも。
「人を見下したいなら、せめて自分が勝ってから言えよ」
「? あなた、何か言った?」
「いや、別に」
振り向き、不思議そうに尋ねる女子生徒に、僕は澄ました表情で適当に返事をして、そそくさと席を立つ。
つい心の声が漏れてしまった。気をつけないと。
前世でもお節介を焼いて、
「ハア……行こ」
溜息を吐き、食堂を出て教室に戻る。
まだ昼休みは時間が半分以上も余っており、さすがに手持ち
などと考えていると。
――ドン。
「あっ」
後ろから誰かにぶつかられてしまい、僕は少しよろめく。
可愛らしい声からして、きっと女子だろう。今日は良い日かもしれない。
だけど、基本的に影の薄い僕は、ぶつかってきた人に逆に怒られることが往々にしてあるので、おそるおそる振り返ってみると。
「ごめんなさい、大丈夫かしら?」
なんと、ぶつかったのは悪役令嬢のヴァイオレットだった。
てっきり偉そうに怒られるのかと思ったのに、何だよその反応。ギャップがすごいぞ。
「だ、大丈夫です」
「そう? ならいいけど……」
心配そうに顔を
というか、ちょっと近すぎじゃないか?
だけど。
(悪役令嬢とはいえ、さすがはメインキャラの一人だな……)
長いまつ毛に、母親譲りのルビーのように輝く真紅の瞳。
小さな桜色の唇に、どこまでも透き通るような白い肌。
認めよう。ヴァイオレットは、まごうことなき美少女であると。
背景モブに過ぎない僕とは、スペックがまるで違うということを。
「あら……どうしたの? わたくしの顔をそんなに見つめて」
「っ!?」
気づけば、ヴァイオレットが不思議そうな表情で、こちらを見つめている。
見惚れるのはいいが、これじゃ変態みたいじゃないか。
「い、いえ、別に……」
「本当かしら。その割には顔も赤いですし、やはりどこか体調がすぐれないのでは……」
彼女は首を
クッソいい香りもして、これ以上はプレッシャーで吐きそう。
「ほ、本当に大丈夫ですから!」
「あっ」
耐えられなくなり、僕は逃げ出すようにその場を離れた。
ヴァイオレットは手を伸ばし引き留めようとしていたが、ここは全力で気づかないふりをさせてもらうとしよう。
というか。
(そもそもヴァイオレットは、そんなキャラじゃなかっただろ……)
それが『すてでき』での彼女の役割だというのに、キャラがブレまくっているんだが。悪役令嬢が悪役令嬢してない。
「……ま、関係ないか」
ようやくヴァイオレットの視界から消えることができたタイミングで、僕は頭を
◇◆◇◆◇
「さて、帰るか」
一日の授業が終わり、僕は後片付けを済ませて
ここ王立学院は全寮制のため、帰るといっても敷地内に併設された寄宿舎だけどな。
なので、友人達と一緒に帰宅するというようなイベントは存在しない……って。
「ねえねえ、王都にできた新しいカフェ、行ってみたいんだけど」
「お、じゃあ行くか」
……フン。学生の本分は勉強だっていうのに、男子が女子と遊びほうけるなんてな。その間に、この僕に成績で大きく水をあけられた時に後悔するがいい。
は? 同じように女子と遊んだりしないのか、だって?
孤高の背景モブに、女子なんて不要。言っておくが、負け惜しみじゃないぞ。本当だぞ。
ということで、僕はこれからカフェに行くという男女に過去最大級(日々更新中)の呪いをかけつつ、学院を後にしようとして。
「あれは……」
周囲を警戒しながら校舎裏へと向かう、二人の男女がいた。
一人は『すてでき』の主人公であるエステル。
もう一人は、黄金色の髪に琥珀色の瞳、端整な顔立ちだからこそ冷たさを感じさせる、長身のイケメン。
彼こそが、ブレトワルダ王国の第一王子にして、エステルを支えカヴェンディッシュ家の復讐に加担する、冷血ヤンデレヒーロー。
――オズワルド=オブ=ブレトワルダ。
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