後方腕組みで傍観を決め込む背景モブの僕、【怪文書】の差出人だと密かにバレて破滅予定の悪役令嬢に粘着された。 作:ぜんはいざ
「あれは……」
周囲を警戒しながら校舎裏へと向かう、二人の男女がいた。
一人は『すてでき』の主人公ヒロインであるエステル。
もう一人は、黄金色の髪に琥珀色の瞳、端整な顔立ちだからこそ冷たさを感じさせる、長身のイケメン。
彼こそが、ブレトワルダ王国の第一王子にして、エステルを支えカヴェンディッシュ家の復讐に加担する、冷血ヤンデレヒーロー。
――オズワルド=オブ=ブレトワルダ。
ちなみにオズワルドは、登場するヒーローの中でも比較的早い段階でエステルに目をつけ、接触する。
というのもこの男、権力を王家に集中させるため、王国内で最も力があり目障りな存在のカヴェンディッシュ公爵家を排除したいという思惑があるのだ。
何故この男が、そんなことを企んでいるのか。
それは弟であり第二王子の〝エドウィン=オブ=ブレトワルダ〟との王位継承争いに勝利し、王太子の座をつかみ取るため。
そのためには、国王にとって最も
お見込みのとおり、この国の王とカヴェンディッシュ公爵との関係は冷え切っており、互いに疎ましく考えている次第。
だが逆に、そんな思惑をエステルに上手く利用されてしまう。
死に戻りによってオズワルドの考えなど全てお見通しのエステルは、協力を取り付けようと、手紙を彼の机の中に忍ばせる。
内容はこうだ。
『カヴェンディッシュ公爵家を追い落とす方法を、私は知っている』
興味を抱いたオズワルドが手紙に記されていた場所へ赴くと、いるのはカヴェンディッシュ家の令嬢であるエステル。
当然ながらオズワルドは警戒するが、その手紙の内容の根拠や彼女の目的、何より自分しか知り得ないカヴェンディッシュ排除の思惑を正確に言い当てられ、半信半疑ながらひとまず手を結ぶこととなる。
そして互いに協力し合う中で、エステルの芯の強さ、
とにかく、二人がこうして人目を
まだ二人の間に距離があるように見受けられることから、時期的なことも含め、今は死に戻り後のストーリー序盤といったところか。
「ということは、きっと
一週間後、王立学院の生徒会主催で、新入生の歓迎パーティーが
そこでエステルは、流行遅れの古いドレスを着て参加するのだ。
するとヴァイオレットは、お約束とばかりに『みすぼらしい』だの『公爵家の恥』だのと、彼女を罵倒する。
カヴェンディッシュ家で冷遇されているエステルが、新しいドレスを仕立てるためのお金を用立ててもらえるはずもない。
そのことを分かっている上で、ヴァイオレットは彼女を
彼女が馬鹿にしたドレスが、実は第一王妃が若い頃に着ていたもの。
実の息子であるオズワルドは、ここぞとばかりに糾弾してみせるのだ。
母親の衣装にケチをつけられたのだ。彼にはヴァイオレットを責めるだけの大義名分がある。
どうしてそんなドレスをエステルが着ているのか不審に思うものの、馬鹿にしたことは事実。国王本人から直々に公爵家にクレームが入り、カヴェンディッシュ公爵は王国の政治から距離を置かれてしまう。
当然、そんな結果を招いた原因のヴァイオレットは、父親に叱責され家での立場が悪くなる。
とどのつまり、カヴェンディッシュ家没落のきっかけへの端緒を、彼女が作ってしまったというわけだ。
エステルの、巧妙な罠によって。
復讐のためとはいえ、主人公ヒロインにしてはやることが小さいような気もするけど、『すてでき』は異世界恋愛ラノベだし、こういうのでいいのかもしれない。
「……まあ、僕には関係ないけどな」
別に前世で『すででき』が好きだったからといって、エステルがこれから何をしようが、ヴァイオレットがどうなろうが、関わり合いになるつもりはない。
というか、むしろ好きだったからこそ、前世の知識チートを使ってストーリーを台無しにするわけにはいかないんだよ。
そういうことなので、二人を見て見ぬふりして、今度こそ寄宿舎に帰る……んだけど。
「あ……!」
ここで僕は思い出す。
教室に、今日の宿題のノートを忘れてきてしまったことに。
「ハア……なんでこの世界にも、宿題なんてものが存在するんだよ……」
などとぼやいてみても、あるのだからしょうがない。
王立学院の生徒である僕に、この宿題から逃れる
仕方なく校舎内に戻り、机の中のノートを
「っ!?」
この時僕は、自分でも驚いてしまうほどの速さで、教壇の下のスペースに隠れた。
何故って? ヴァイオレットが、思いつめた表情で教室にやって来たからだよ。
などと理由を説明してみたものの、そもそも隠れる必要なんてなかったんじゃないか?
そう思い至り、僕は恥ずかしさを覚えつつ、教壇の下からいそいそと出ようとする……んだけど。
「……ごめんなさい、エステル」
不意に聞こえた、ヴァイオレットの
そのせいで僕は、出るタイミングを逸してしまった。
(というか、どうして悪役令嬢の彼女が、毛嫌いしているはずのエステルへの謝罪を口にしているんだ……?)
不思議に思いつつ、僕は聞き耳を立ててヴァイオレットの次の言葉を待つ。
すると。
――パシンッ!
「ふう……くよくよ悩んでいても仕方ありませんわね。こうするって、自分で決めたことじゃない」
何かを叩いた音が響き渡ると、息を吐くヴァイオレットのどこか清々しささえ感じさせるような、そんな声が続く。
……いや、これは彼女の決意だろうか。
そして、ヴァイオレットは教室からいなくなり、僕はようやく教壇の下から姿を現した。
「ひょっとして、何か事情があるってこと?」
少なくとも僕の知っている『すてでき』のストーリーにおいて、彼女がエステルに対して謝罪をしたことなど一度もなかった。
断罪される場面でも、決して後悔することもなく、最後まで悪役令嬢を貫いていたんだ。
ただそれも、さっきの
「……まあ、僕には関係ない」
この世界に転生し、前世では味わえなかったスローライフをすると、僕は決めた。
だから、悪役令嬢にどんな思いがあろうと、知ったことじゃない。
無理やり自分にそう言い聞かせ、教室を後にした。
だというのに。
「……なんで僕は、こんなストーカーみたいなことをしているんだよ」
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