後方腕組みで傍観を決め込む背景モブの僕、【怪文書】の差出人だと密かにバレて破滅予定の悪役令嬢に粘着された。   作:ぜんはいざ

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差出人不明の手紙 ※ヴァイオレット=カヴェンディッシュ視点

■ヴァイオレット=カヴェンディッシュ視点

 

「まだ……まだ、足りませんわ……っ」

 

 カーテンの隙間から月の光が差し込む、深夜〇時。

 わたくしは今夜も、カヴェンディッシュ家の当主となるべく机に向かって勉学に励んでおります。

 

 特に、先日の定期試験ではエステルが一位だったのに対し、わたくしは十位。これで当主になると(のたま)ったところで、誰が認めてくださるものですか。

 わたくしは何としてでも、カヴェンディッシュ家を手に入れなければなりませんの。

 

 どうしてか、ですって?

 フフ……でしたら、少々わたくしのお話にお付き合いいただかなくてはなりませんわね。

 

     ◇◆◇◆◇

 

 元々、お父様の愛妾(あいしょう)に過ぎなかったお母様が、エステルのお母様……つまり、カヴェンディッシュ夫人が十年前にお亡くなりになられたことより、妻の座を手に入れましたわ。

 

 それからは、今の地位を守るため、あえて正妻の娘であるエステルに、酷い仕打ちをしていらっしゃるの。

 

 ……いいえ。彼女を(ないがし)ろにする理由は、それだけではありませんわね。

 侯爵家の血筋であるエステルのお母様に対し、わたくしのお母様は没落寸前の男爵家の生まれ。つまり、嫉妬しておられますのよ。

 

 そのせいで――わたくしとエステルの関係は、引き裂かれることになったの。

 

 意外かとお思いになるかもしれないけど、これでも幼い頃は、お互い仲がよかったわ。

 同い年だし、一緒の家に住んでいて物心ついた時からずっと(そば)にいるんですもの。当然でしょう?

 

 それに、あの子の隣にいるのは居心地がよかった。……って、少々違いますわね。

 正しくは、エステルのお母様の〝ルシア〟様がいらっしゃったから。

 

 あの御方はとても聡明で、女神のようにお美しくて、(めかけ)の子に過ぎなかったわたくしにもとても優しくしてくださって、いつも微笑んでいらっしゃったわ。

 

 わたくしは、ルシア様に憧れていますの。

 それは、今なおずっと。

 

 だから、本来カヴェンディッシュ家を継ぐべきなのは、エステル。

 でもお母様は、ルシア様がお亡くなりになられたのをいいことに、我が物顔で振る舞い、残された彼女を追い詰めましたのよ。

 

 そのおかげで、わたくしはあれほど仲の良かった妹に嫌われて。

 いつしか、怨嗟(えんさ)を込めた視線を向けられるようになって。

 

 でも、その程度で済むのであればまだましだった。

 お母様は、わたくしにもエステルを(いじ)めるよう、強要いたしましたの。

 

 しかも、ご丁寧に監視までつけて。

 

 ご存知かしら? わたくしの(そば)にいる、二人の取り巻きを。

 カヴェンディッシュ家傘下の貴族令嬢を、お母様があてがったのよ。

 

 ちゃんと指示どおり、エステルを(いじ)め、(おとし)めているかどうか、ね。

 

 もちろん、本当はそんなことしたくない。

 ルシア様がお亡くなりになられてすぐの頃は、わたくしも嫌だとはっきり意思表示いたしましたわ。

 

 すると、どうなったと思います?

 お母様はあろうことか、古参の使用人達を全て解雇して、新しく雇い入れた者達に、エステルを(いじ)めるように仕向けましたのよ。

 

 エステルの食事をみすぼらしいものに変え、無視をすることなんて日常茶飯事。酷いものでは、着替えの衣服に針を仕込むなんてものもありましたわ。

 それを止めたくても、子供に過ぎないわたくしの声なんて、お父様やお母様、それどころか使用人達にすら聞き入れてもらえなくて、彼女からはわたくしも敵だと思われるようになって。

 

 だから、ね。

 わたくしは率先して、エステルを(いじ)めることにしましたのよ。

 

 そうすれば、他の使用人達による、彼女への(いじ)めもなくなると思ったから。

 『エステルを(いじ)めるのは、姉であるわたくしの特権』だと宣言したこともあって、お母様も満足し、彼女に関して全てわたくしに委ねてくださるようになりましたわ。

 

 その結果、使用人達はエステルへの(いじ)めをやめ、事務的に接するだけになりましたの。

 当然でしょう? 下手に手出しをしてわたくしの不興(ふきょう)を買えば、それはお母様に逆らうということ。結果、屋敷から追い出されてしまうのだから。

 

 あとはわたくしが、盛大に、誰が見ても分かるくらい、エステルを(いじ)めるだけ。

 実際は派手に罵るだけで直接的な危害を加えたりはしませんから、彼女の生活に支障はないはず。

 

 カヴェンディッシュ家の当主であるお父様は、そのことについてどう思っているのか、ですって?

 

 フフ……お母様が女王気取りで振る舞っている時点で、お察しですわ。

 あの人にとって大事なのは、王国における自身の権力の拡大。家族になんて、微塵も思い入れなんてありませんの。

 

 そういうことですので、わたくしは悪役を演じ続け、いずれカヴェンディッシュ家を手に入れてみせますわ。

 そして、全てを手に入れたあかつきには、エステルに残らず譲って差し上げますの。

 

 たとえ彼女に恨まれたまま、わたくしが全てを失うことになったとしても。

 

 この十年もの間、それだけのことを妹にしてきたのも事実なのだから。

 

     ◇◆◇◆◇

 

「ふう……」

 

 深夜二時を過ぎ、わたくしはペンを置いて大きく息を吐く。

 さすがにこれ以上の夜更かしは、明日の授業に響いてしまいますわ。

 

 でも、一刻も早くカヴェンディッシュ家を手に入れるためには、休んでいる暇はありませんの。

 だから、眠気で閉じてしまいそうになる目を(こす)り、再びペンを取ろうとして。

 

「あれ……?」

 

 机の端に置いてある手紙が、視界に入る。

 

「手紙なんて、ここにあったかしら……」

 

 わたくしは手紙を手に取り、しげしげと見つめます。

 差出人は……どこにもありませんわね。

 

 不審に思いつつも、わたくしは封を切り、手紙を読みました。




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