後方腕組みで傍観を決め込む背景モブの僕、【怪文書】の差出人だと密かにバレて破滅予定の悪役令嬢に粘着された。   作:ぜんはいざ

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迎えた断罪パーティー ※ヴァイオレット=カヴェンディッシュ視点

■ヴァイオレット=カヴェンディッシュ視点

 

「今年の新入生は、あまりパッとしませんね」

 

 会場に入ってきた一人の女子生徒達を眺め、取り巻きの一人――伯爵令嬢の〝マライア=グローバー〟が、どこか小馬鹿にしたような表情でそう告げました。

 わたくしの取り巻きだからと増長しているのか知りませんが、少々言葉が汚いですわね。

 

「それも仕方ないのでは。同じ貴族といっても、王都の貴族と片田舎の貴族では、身分もセンスも違い過ぎますから」

 

 歯に衣を着せずそう言い放つのは、もう一人の取り巻き――同じく伯爵令嬢の〝ジュリア=サットン〟。

 いつも冷めた表情をしていて、常に人を見下すような物言いをしますけど、わたくしは嫌いではありませんわ。

 

 だって彼女、わたくしのことも見下しておりますもの。

 

 わたくしの成績は、いつもエステルよりも下。

 なのに偉そうに、妹のことを(いじ)めているのですから、そう思うのも当然ではなくて?

 

 だから、取り巻きでありながらそんな態度を隠さないところ、むしろ好感が持てますわ。

 

 とはいえ、お母様の子飼いの監視役でもありますので、邪魔な存在であることに変わりはありませんけど。

 

 そうして生徒達が全員入場し終えたところで、一人の令嬢が入ってきました。

 ホワイトブロンドの長い髪に似つかわしくない、時代遅れな濃いピンクのドレスを身に(まと)って。

 

「ぷ、ふふ……っ! ヴァイオレット様、ご覧になりました?」

「……さすがにあれ(・・)は、目に余るかと」

 

 マライアは令嬢を指差して思わず吹き出し、ジュリアは露骨に顔をしかめましたわ。

 見ると、他の子息令嬢達も、ひそひそと陰口を叩いている様子。あのような姿を見せられては、それも仕方ありませんわね。

 

 ですけど。

 

「全ての生徒が一堂に会す新入生の歓迎パーティーで、どうしてそのようなドレスを着ているのかしら」

 

 前に出ると、ピンクのドレスを着た令嬢に低い声で告げます。

 彼女に物申すのは……いいえ、(いじ)めるのは、わたくしの役割。

 

 だって。

 

「ねえ、早く答えて頂戴」

 

 その令嬢は、妹のエステルなんですもの。

 

「……仕方なかったんです。今日のパーティーは、生徒全員の参加が義務。ですけど私には、ドレスを用立てることもできなくて」

「あら? それはどうして?」

 

 顔を伏せておずおずと答えるエステルに、私は鋭い視線を向けて追及します。

 もちろん、実家のカヴェンディッシュ家が彼女に対し、学院生活に必要な経費を満足に渡していないことは知っていますわ。

 

 それでも、わたくしはあえて尋ねますの。

 

「……実家から、その……お金をいただいておりませんから」

「あらそう。だからといって、そのようなドレスを着てくるのはどういうつもりなのかしら」

「それは……」

 

 なおも追及すると、エステルは言い淀みます。

 残念ながらその顔を伏せているため分かりませんけど、今あなたは、どんな表情をしているのかしら。

 

 全生徒の前でわたくしに責められて、悔しそうに唇を()んでいるの? それとも、愚かなわたくしがまんまとあなた達の誘いに乗ったから、ほくそ笑んでいるの?

 

 それとも……って。

 

(さすがにそれは、虫が良すぎますわね)

 

 エステルのあり得ない表情を思い浮かべてしまい、わたくしは自虐的に笑うけど、すぐに気を取り直しました。

 

「エステル」

「わ、私のことを不憫(ふびん)に思われた優しい方が、お貸しくださいました」

「フン……」

 

 エステルの姿を見回して、わたくしは鼻を鳴らします。

 ですけど態度とは裏腹に、心中穏やかではありませんわ。

 

 だってここまで、全て(・・)手紙の内容(・・・・・)のとおり(・・・・)なんですもの……って。

 

「あら、何か言いたいことでもあるのかしら?」

「……お姉様は、私をお りになりますか? 『カヴェンディッシュ家の恥を(さら)した』、と」

 

 わたくしの顔を(のぞ)き込み、尋ねるエステル。

 その視線は、何を意味しているのかしら。

 

 早く(ののし)れと(あお)っているの?

 でしたら、その期待に応えて差し上げませんと。

 

「恥かどうかはともかく、少なくともそのドレスを今日のパーティーで身に(まと)うのは、相応しくありませんわね」

「っ!?」

 

 もう……そんな顔をしないの。

 ドレスを(けな)したからって、何だっていうのかしらね。

 

 その時。

 

「今の言葉、聞き捨てならんな」

 

 会場の扉が開け放たれ現れたのは、生徒会役員の四人を従え中央に立つ、一人の男子生徒。

 言うまでもなく、生徒会長のオズワルド殿下ですわ。

 

「オズワルド殿下……」

「エステル、大丈夫か?」

 

 救いを求めるような視線を向けるエステルに駆け寄る、オズワルド殿下。

 周囲の者達の目に映るのは、姉から(いじ)めを受けるヒロインを救いに現れた、王子様ってところかしら。事実、身分は名実共に王子様ではあるのだけれど。

 

 ですけど……フフ、本当に茶番ね。

 

「オズワルド殿下、聞き捨てならないとはどういうことでしょうか?」

「分からんか?」

 

 長身のオズワルド殿下がエステルを(かば)うようにして立ち、わたくしを見下ろします。

 その琥珀色の瞳は、どこか自信に満ちておりますわ。

 

 きっと、これからわたくしを糾弾(きゅうだん)できるとお思いなのでしょうね。

 

「彼女の身に(まと)っているドレスは、我が母〝オーガスタ〟第一王妃殿下が、若かりし頃に召しておられたものなのだぞ!」

 

 わたくしに指を突きつけ、怒りに満ちた表情のオズワルド殿下が言い放ちました。

 嫌ね。王子たるもの、もう少し上手く隠しなさいな。

 

 口の端が、吊り上がっていますわよ。

 

 でも……エステル。

 それがあなたの目的(・・)、なのね。

 

 もちろん、あなたの憎しみは理解しておりますわ。

 それだけのことを、わたくし達家族はしてきたんですもの。

 

 だけど、ね。

 

「そのような大切なドレスを、どうして今日の歓迎パーティーで、しかもエステルに着せていらっしゃるのかしら。その理由、是非ともお聞かせいただきたいですわ」

 

 カヴェンディッシュ家を手に入れるまでは、まだ(・・)それを甘んじて受け入れるわけにはまいりませんのよ。




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