後方腕組みで傍観を決め込む背景モブの僕、【怪文書】の差出人だと密かにバレて破滅予定の悪役令嬢に粘着された。   作:ぜんはいざ

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悪役令嬢と二人でお茶する罰ゲーム開催のお知らせ

 ヴァイオレットとエステル、オズワルドの一連のやり取りはあったものの、新入生の歓迎パーティーは滞りなく終わった。

 

 僕はどうしていたのかって? そもそも群れたりするのは嫌いなんだ。

 だから一人、壁に擬態してやり過ごしていたぞ。

 

 ……何度でも言うが、僕はあえてソロプレイを満喫していたんだからな。

 

 ちなみに、パーティーではあの三人のやり取りのインパクトがすこぶる強かったようで、生徒達は終始その話題で持ち切りだった。

 特に新入生は、みんなヴァイオレットのことを口々に噂していたぞ。

 

 ただしその評判は、『すてでき』での悪役令嬢として受けていたものとは程遠く、むしろ羨望と憧れに満ち(あふ)れたものだったが。

 しかも一部の新入生(全て女子)からは、ファンクラブを作ろうなんて話があったりなかったり。

 

 一方で、すこぶる評判が悪いのはオズワルド。

 大事な第一王妃のドレスを軽々しく新入生の歓迎パーティーで貸し与えるなんてせず、生徒会長としてドレスコードに配慮し、制服での参加を義務付けておけば、エステルが恥をかくこともなかったと、これまた陰口を叩かれまくっている。

 

 生徒会には苦情が相次いでいるだけでなく、生徒会長の解職(リコール)を要求する生徒までいるとかいないとか。

 

 で、だ。

 なんで僕が、その後の顛末(てんまつ)について詳しく知っているのか、ということなんだが。

 

「フフ……あまり緊張なさらないで」

「っ!? いい、いえ! そんな!」

 

 パーティーから三日経った放課後、何故か僕は学院の中庭で、目の前に座るヴァイオレットに、お茶をしながら色々と教えてもらったからというわけで。

 

 どうしてこうなった。

 

「そのー……ところで、何故僕はヴァイオレット様にお呼ばれしたのでしょうか……?」

 

 優雅にカップに口をつける彼女に、僕は上目遣いでおずおずと尋ねる。

 そもそもヴァイオレットと接点が一切ないのだ。こうしてお茶に呼ばれる理由がない。

 

 となれば、今回のエステル達の企みを忠告する【怪文書】を送ったことが原因だと考えられるが、差出人の特定は不可能。だから、決して僕の仕業だと分かるはずがない。

 

「大したことではありませんわ。……ほら、先日廊下でぶつかってしまったことがあったでしょう? あの時は満足にお詫びもできませんでしたもの。なのでこうして、改めて謝罪の席を設けさせていただきましたの」

「そ、そんな! 滅相もない!」

 

 僕は勢いよく立ち上がり、わたわたと手を振る。

 あんな程度でここまで大袈裟に謝罪される(いわ)れはない。

 

 というか、そもそも『すてでき』の悪役令嬢となんて、関わり合いになりたくないし。

 そんなことになれば、スローライフが遠のくどころか、下手をしたら破滅まっしぐらだ。

 

「な、なので全然! 全く! お気になさらず! ……ということでー、僕はそろそろ……」

「……あなたはわたくしとお茶をするのが、そんなに嫌なのかしら」

「っ!?」

 

 静かに告げるヴァイオレットの低い声に、僕は背筋が凍り直立不動になる。

 あ、これ、クッソキレてるぞ。

 

「まま、まさか、そんなことあるわけないじゃないですか! むしろ光栄過ぎて、恐縮してしまうというか……」

「なら、早く椅子にお座りなさい。お茶が冷めてしまいますわ」

「で、ですよねー……」

 

 こうなったら、彼女の言葉に従うという選択肢以外はない。

 下手に逆らってみろ。『すてでき』のラストを迎えるよりも遥かに早く、僕の人生終了のお知らせである。

 

 何せヴァイオレットは、王国最大規模の勢力を誇るカヴェンディッシュ公爵家の令嬢。一方で僕はといえば、しがない田舎の子爵子息。(にら)まれでもしたら、家の没落待ったなしだ。

 

 それはさておき。

 

「えーと……お付きのご令嬢方が、遠巻きから(にら)んでくるのですが……」

「放っておきなさい。それに、このわたくしが二人には何も言わせませんわ」

 

 意外にもヴァイオレットは、離れた席に座り様子を(うかが)っている取り巻き達に、厳しい視線を向ける。

 あれ? 実はひょっとして、彼女達と仲が悪いとか?

 

「それより」

「っ!?」

「わたくし、あなたのことをもっと知りたいですわ」

 

 ずい、とテーブルに身を乗り出し、ヴァイオレットが微笑んで告げた。

 

(……こんな表情するんだ)

 

 今まで見たことのない彼女の柔らかい表情に、僕は不覚にもときめいてしまう。

 『すてでき』では、常にエステルを嘲笑(あざわら)うか、ヒステリックに怒る姿ばかりだっただけに。

 

「そのー……僕は王国の東側の、小さな田舎町を治めるリトルトン子爵家の長男で……」

 

 求められるままに、僕は自分のことについて訥々(とつとつ)と語り出す。

 実家が治める領地は何もないところで、秋になれば立場も関係なく小麦の収穫に駆り出されたり、領民から事あるごとに揶揄(からか)われていたりと、全く領主の息子としての扱いを受けていないことを……って、あれ? 話していて切なくなってきた。泣いていいかな。

 

「フフ……あなた、領民に好かれていますのね」

「そ、そうでしょうか……?」

 

 くすり、と笑うヴァイオレットの言葉に、僕は思わず首を(かし)げた。

 どう考えても領民達は僕への扱いが酷いし、とてもそんなふうには思えないんだが。というか納得しかねる。

 

「ところで、あなたのお名前……トマス=リトルトンの、スペルを教えてくださるかしら」

「ええと、頭文字はTで……」

「口で説明するより、書いてみたほうが早いのではなくて?」

 

 そう言うと、ヴァイオレットはどこからか取り出したペンと羊皮紙を、僕に差し出した。どうやらこれに書けってことらしい。

 

「ありきたりな名前だと思うんですけど……」

「いいから」

 

 急かされるまま、僕は自分の名前を書く。

 背景モブに相応しく、特徴のない平凡な名前である。

 

「右肩下がりで丸みがあって、可愛らしい字ですわね」

「そうですか?」

「フフ……ええ」

 

 ヴァイオレットははにかむと、何故か嬉しそうに羊皮紙を抱きしめた。

 これ何? どういう意味があるんだ?

 

 まあ、それはさておき。

 

「それで、改めてお伺いしますが、ヴァイオレット様はどうして、僕をお茶に誘ってくださったんですか……?」

「さっきも言ったじゃない。先日ぶつかったお詫びだと……」

「本当は違いますよね」

 

 少し呆れ気味のヴァイオレットの答えを(さえぎ)り、僕はそう告げた。




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