『五等分の花嫁 〜転生した俺は、五月の笑顔を守るために動き出す〜』   作:夜幻

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第5話 五つ子にバレた勉強会

翌日の放課後。

 

「……できました!」

 

五月が勢いよくノートを差し出した。

 

「おお!」

 

蓮は思わず声を上げる。

 

そこには、昨日まで苦戦していた数学の問題が、きちんと最後まで解かれていた。

 

「正解!」

 

「……!」

 

五月の顔がぱっと明るくなる。

 

「本当ですか?」

 

「ああ。完璧」

 

「……やりました!」

 

五月は小さく拳を握った。

 

「昨日、家に帰ってからも復習したんです」

 

「マジか」

 

「はい」

 

「偉いじゃん」

 

「……」

 

五月が少しだけ照れたように俯く。

 

「ありがとうございます」

 

「じゃあ、ご褒美だな」

 

「!」

 

五月が顔を上げる。

 

「好きなものを奢っていただけるんですよね?」

 

「覚えてたのか」

 

「もちろんです」

 

即答だった。

 

「何食べたい?」

 

「……」

 

五月は真剣な顔で考え始める。

 

「ラーメン……」

 

「おっ」

 

「カレー……」

 

「うん」

 

「ハンバーグ……」

 

「……」

 

「パフェも捨てがたいです」

 

「食事とデザートを同列で考えるなよ」

 

「重要な問題です」

 

「数学より真剣じゃん」

 

「当然です」

 

五月は胸を張った。

 

そのとき。

 

ガラッ。

 

教室の扉が開いた。

 

「五月ー?」

 

四葉だった。

 

「……あ」

 

五月の動きが止まる。

 

四葉は教室の中を見回し。

 

そして。

 

蓮と五月が並んで座っていることに気づいた。

 

「……」

 

「……」

 

「……?」

 

四葉が首を傾げる。

 

「何してるんですか?」

 

「勉強」

 

五月が答える。

 

「二人で?」

 

「はい」

 

「毎日?」

 

「……」

 

五月が止まった。

 

四葉の目が丸くなる。

 

「毎日なんですか!?」

 

「声が大きい!」

 

五月が慌てて立ち上がった。

 

「ちょっと待ってください、四葉!」

 

「えっ、でも昨日も一緒に帰ってましたよね?」

 

「それは……」

 

「一昨日も放課後に一緒にいました!」

 

「四葉!」

 

「え?」

 

四葉が首を傾げる。

 

「違うんですか?」

 

「……」

 

五月は黙り込んだ。

 

「……」

 

「……」

 

蓮は嫌な予感がした。

 

「五月」

 

「なんでしょう」

 

「これ、言い訳するほど怪しくなるやつだぞ」

 

「分かっています!」

 

「分かってるんだ……」

 

四葉は目を輝かせた。

 

「もしかして!」

 

「違います」

 

五月が即座に遮る。

 

「まだ何も言ってませんよ!?」

 

「何を考えているか分かります!」

 

「じゃあ言わなくていいです!」

 

「はい!」

 

四葉は元気よく頷いた。

 

しかし。

 

この騒ぎを聞きつけて。

 

さらに二人がやってきた。

 

「ちょっと、何騒いでるの?」

 

二乃。

 

その後ろには三玖もいる。

 

「……五月」

 

三玖が五月を見る。

 

「何してるの?」

 

「勉強です」

 

「……蓮と?」

 

「はい」

 

「二人で?」

 

「……はい」

 

三玖の目が少しだけ細くなった。

 

「へぇ」

 

「なんですか、その反応は」

 

「別に」

 

「絶対何か思っていますよね?」

 

「思ってない」

 

「……」

 

「……」

 

「思ってますよね?」

 

「少し」

 

「やっぱり!」

 

その横で二乃が腕を組む。

 

「ふーん」

 

「二乃まで……」

 

「別に?」

 

二乃は五月と蓮を交互に見る。

 

「最近、放課後になると五月がいなくなると思ったら……」

 

「……」

 

「こんなところで男と二人きりねぇ」

 

「男と二人きりという言い方はやめてください!」

 

五月が真っ赤になる。

 

「だって男じゃない」

 

「そうですけど!」

 

「じゃあ何?」

 

「神城君です!」

 

「それを男って言うのよ」

 

「……!」

 

五月が言葉に詰まった。

 

蓮は思わず吹き出した。

 

「ははっ」

 

「神城君!」

 

「悪い悪い」

 

「笑い事ではありません!」

 

「いや、二乃の言い方が面白くて」

 

「そこ笑うところじゃないでしょ」

 

二乃が蓮を睨む。

 

「それにしても、あんた」

 

「俺?」

 

「五月に勉強教えてるの?」

 

「ああ」

 

「ふーん」

 

「なんだよ」

 

「……別に」

 

二乃は少し考える。

 

「まあ、五月が自分から頼んでるならいいけど」

 

「二乃……」

 

「何よ」

 

「ありがとうございます」

 

「礼を言われるほどじゃないわよ」

 

二乃は顔を逸らした。

 

「妹が勉強するようになったんだから、それくらいはね」

 

三玖がぽつりと言う。

 

「五月、最近ちょっと楽しそう」

 

「……!」

 

五月が固まる。

 

「そう?」

 

「うん」

 

三玖は淡々と答える。

 

「前より勉強の話をするようになった」

 

「……」

 

「それに」

 

三玖は蓮を見る。

 

「神城君と話してるとき、五月はよく笑ってる」

 

「……!」

 

五月の顔が一気に赤くなった。

 

「み、三玖!」

 

「事実」

 

「そういうことを言わないでください!」

 

「なんで?」

 

「なんでもです!」

 

「……ふーん」

 

三玖は首を傾げた。

 

「じゃあ、神城君」

 

「ん?」

 

「五月のこと、よろしく」

 

「え?」

 

三玖は真剣な顔だった。

 

「五月、頑張り屋だから」

 

「……ああ」

 

蓮も頷く。

 

「分かってる」

 

「ならいい」

 

「三玖……」

 

五月が少しだけ驚いたように三玖を見る。

 

そのとき。

 

「へぇ~」

 

一花が教室の入口から顔を出した。

 

「なんか楽しそうじゃん」

 

「一花!?」

 

「お姉さん、聞いちゃった」

 

一花は楽しそうに笑う。

 

「五月が毎日、神城君と勉強してるんだって?」

 

「……」

 

「……」

 

五月が俯く。

 

「……はい」

 

「ふふっ」

 

一花は五月の隣まで歩いてくる。

 

「よかったね、五月」

 

「え?」

 

「勉強教えてくれる人が見つかって」

 

「……」

 

「それに、なんだか嬉しそうだし」

 

「そんなことありません」

 

「本当に?」

 

「本当です」

 

「じゃあ、神城君」

 

「俺?」

 

一花がニヤニヤしながら聞く。

 

「五月って、勉強中どんな感じ?」

 

「真面目だぞ」

 

「ほかには?」

 

「よく頑張る」

 

「ほかには?」

 

「……食べる」

 

「やっぱり」

 

一花が笑う。

 

「五月らしいね」

 

「余計なことを言わないでください!」

 

「でもさ」

 

一花が少しだけ優しい顔になる。

 

「五月が楽しそうなら、お姉さんは嬉しいよ」

 

「……一花」

 

「だから、これからもよろしくね」

 

「……はい」

 

五月は小さく頷いた。

 

その場にいた四葉が突然手を挙げる。

 

「はい!」

 

「何?」

 

「私も勉強したいです!」

 

「え?」

 

「神城さん、私にも教えてください!」

 

「もちろんいいけど」

 

「やったー!」

 

四葉が飛び跳ねる。

 

「私、数学苦手なんですよ!」

 

「知ってる」

 

「なぜ!?」

 

「顔に書いてある」

 

「そんなー!」

 

四葉が頭を抱える。

 

「私、そんなに分かりやすいですか!?」

 

「かなり」

 

「うう……」

 

その横で三玖が手を挙げる。

 

「私も」

 

「三玖も?」

 

「うん」

 

「歴史なら教えてほしい」

 

「歴史?」

 

「戦国時代」

 

三玖の目が少し輝く。

 

「神城君、詳しそうだから」

 

「まあ、それなりに」

 

「……じゃあ、お願い」

 

「おう」

 

さらに。

 

「ちょっと待って」

 

二乃が口を挟む。

 

「あたしまで勉強する流れになってない?」

 

「二乃は?」

 

「……」

 

二乃は腕を組む。

 

「別に、あたしはいいわよ」

 

「そう?」

 

「でも」

 

二乃は蓮を指差す。

 

「五月ばっかり贔屓したら許さないから」

 

「贔屓?」

 

「そうよ」

 

「してないって」

 

「ならいいけど」

 

一花が笑う。

 

「じゃあ、五人で勉強会?」

 

「楽しそうです!」

 

四葉が両手を上げる。

 

「私は賛成」

 

三玖も頷く。

 

二乃も肩をすくめる。

 

「まあ、たまになら」

 

そして。

 

全員の視線が五月に集まる。

 

「……」

 

五月は黙っていた。

 

「五月?」

 

四葉が呼ぶ。

 

「……」

 

「どうしました?」

 

「……私は」

 

五月がちらりと蓮を見る。

 

「……」

 

そして、小さく息を吐いた。

 

「別に、構いません」

 

「やったー!」

 

四葉が喜ぶ。

 

しかし。

 

蓮には分かった。

 

五月はほんの少しだけ。

 

残念そうだった。

 

「……」

 

蓮も少しだけ笑う。

 

「まあ、五人でやるのも楽しそうだな」

 

「……はい」

 

五月は笑って答えた。

 

その表情は明るい。

 

けれど。

 

ほんの少しだけ。

 

蓮には寂しそうにも見えた。

 

そして翌日。

 

放課後の教室には。

 

六人分の机が並んでいた。

 

「じゃあ、まず数学から!」

 

四葉が元気よく宣言する。

 

「待って。私、数学より歴史がいい」

 

三玖が言う。

 

「私は数学です」

 

五月が続ける。

 

「あたしは料理の勉強がしたいんだけど」

 

二乃が言う。

 

「それは学校でやらなくてよくない?」

 

一花が笑う。

 

「じゃあ、神城君」

 

「ん?」

 

「どうする?」

 

五人の視線が蓮に集まる。

 

蓮は頭を抱えた。

 

「……俺、一人しかいないんだけど」

 

「「「「「知ってます」」」」」

 

五人の声が重なった。

 

「……だよな」

 

こうして。

 

蓮の静かな放課後は。

 

あっという間に終わりを告げた。

 

ただ一つ。

 

蓮は知らなかった。

 

この「五人との勉強会」が。

 

これから始まる五つ子との日々を、大きく変えていくことを。

 

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