『五等分の花嫁 〜転生した俺は、五月の笑顔を守るために動き出す〜』   作:夜幻

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第8話 五月の変化に気づいた姉妹たち

翌朝。

 

「……おはようございます」

 

教室に入った五月は、いつもと変わらない声で挨拶をした。

 

「おはよー、五月!」

 

四葉が手を振る。

 

「おはよう」

 

三玖も続く。

 

「おはよ、五月」

 

二乃が振り返る。

 

一花は机に頬杖をつきながら、五月を見る。

 

「おはよ、五月」

 

「はい。おはようございます」

 

いつも通り。

 

何も変わらない。

 

……少なくとも。

 

本人はそう思っていた。

 

「……」

 

五月は席につく。

 

鞄を机の横に置く。

 

教科書を取り出す。

 

そして。

 

ちらり。

 

隣の席を見る。

 

「……」

 

まだ空いている。

 

「……」

 

もう一度見る。

 

「五月」

 

「はい!?」

 

突然声をかけられ、五月は肩を跳ねさせた。

 

一花がニヤリと笑う。

 

「そんなに気になる?」

 

「な、何がですか?」

 

「隣の席」

 

「……」

 

五月は黙る。

 

「神城君、まだ来てないね」

 

「……そうですね」

 

「待ってる?」

 

「待っていません」

 

即答。

 

「ふーん」

 

一花は楽しそうに笑った。

 

数分後。

 

ガラッ。

 

「おはよう!」

 

蓮が教室に入ってきた。

 

「おはようございます!」

 

五月が勢いよく顔を上げる。

 

「……」

 

一花。

 

「……」

 

二乃。

 

「……」

 

三玖。

 

「……」

 

四葉。

 

全員が五月を見る。

 

「……?」

 

五月は不思議そうに首を傾げた。

 

「どうしました?」

 

「いや」

 

一花が笑う。

 

「別に?」

 

「……?」

 

五月はますます首を傾げる。

 

蓮が席につく。

 

「おはよう、五月」

 

「おはようございます、神城君」

 

「昨日の問題、どうだった?」

 

「全部復習しました」

 

「おお、偉い」

 

「……」

 

五月が少し嬉しそうに笑う。

 

「ありがとうございます」

 

「今日も帰りにやるか?」

 

「はい!」

 

その瞬間。

 

四葉が机を叩いた。

 

「やっぱり!」

 

「うわっ!」

 

「五月、神城さんと勉強するの楽しみにしてますよね!?」

 

「……!」

 

五月の顔が赤くなる。

 

「そ、そんなことは……」

 

「だって今、すごく嬉しそうでした!」

 

「普通です!」

 

「普通じゃないです!」

 

「普通です!」

 

「普通ですよ!」

 

「どっちなんだよ!」

 

蓮が思わず突っ込む。

 

一花が笑い出した。

 

「ふふっ。五月、分かりやすいね」

 

「一花姉さんまで……」

 

二乃も呆れたように言う。

 

「確かに最近、機嫌いいわよね」

 

「そうですか?」

 

「そうよ」

 

三玖が淡々と頷く。

 

「昨日も帰ってきてから、ずっと上機嫌だった」

 

「……三玖」

 

「何?」

 

「それは言わないでください」

 

「事実だから」

 

「……」

 

五月は机に突っ伏した。

 

「もう……」

 

昼休み。

 

五人はいつものように一緒に昼食を食べていた。

 

「いただきます!」

 

四葉が元気よく手を合わせる。

 

「いただきます」

 

一花、二乃、三玖、五月も続く。

 

五月は弁当を開く。

 

「……」

 

しかし。

 

一口食べたところで。

 

「そういえば」

 

一花が五月を見る。

 

「昨日、神城君と帰ったんでしょ?」

 

「……」

 

五月の箸が止まった。

 

「はい」

 

「何か話した?」

 

「勉強のことです」

 

「それだけ?」

 

「……」

 

五月が少し考える。

 

「パン屋さんにも寄りました」

 

四人の動きが止まる。

 

「パン屋?」

 

二乃が聞き返す。

 

「はい」

 

「二人で?」

 

「はい」

 

「……」

 

一花が口元を押さえる。

 

三玖が五月を見る。

 

四葉が目を輝かせる。

 

「デートですか!?」

 

「違います!」

 

五月が即座に否定する。

 

「勉強を頑張ったので、ご褒美にパンを買っていただいただけです!」

 

「神城君が奢ってくれたの?」

 

「はい」

 

「何個?」

 

「……」

 

五月が視線を逸らす。

 

「……四個です」

 

「四個!?」

 

四葉が驚く。

 

「一人で!?」

 

「はい」

 

「すごいです!」

 

「そこ褒めるところ?」

 

二乃が呆れる。

 

一花は笑っている。

 

「五月らしいねぇ」

 

「……」

 

五月は少し頬を膨らませる。

 

「食べることは大切です」

 

「またそれ言ってる」

 

三玖がぼそっと呟いた。

 

「……でも」

 

三玖が少し考える。

 

「パンを食べたことより」

 

「?」

 

「神城君に奢ってもらったことのほうが嬉しそうだった」

 

「……!」

 

五月の顔が真っ赤になる。

 

「そ、そんなことはありません!」

 

「そう?」

 

「はい!」

 

「……ふーん」

 

三玖はそれ以上追及しなかった。

 

放課後。

 

昨日と同じように。

 

五人と蓮が教室に集まる。

 

「よし」

 

蓮が黒板の前に立つ。

 

「今日は何からやる?」

 

「数学!」

 

四葉と五月が同時に手を挙げた。

 

「じゃあ数学から」

 

「はい!」

 

「はい!」

 

二人が嬉しそうに返事をする。

 

蓮は黒板に問題を書く。

 

「まず、この問題」

 

「……」

 

五月が集中してノートを書く。

 

四葉も必死に書いている。

 

「ここまで分かる?」

 

「はい!」

 

「はい!」

 

「じゃあ次――」

 

「神城さん!」

 

四葉が手を挙げる。

 

「ここです!」

 

「うん」

 

蓮が四葉のところへ行く。

 

その間。

 

五月は一人で問題を解いていた。

 

そして。

 

「……」

 

五月はちらりと蓮を見る。

 

四葉に教えている。

 

「……」

 

また問題を見る。

 

「……」

 

また蓮を見る。

 

「……」

 

何故か落ち着かない。

 

「……五月」

 

三玖の声。

 

「はい?」

 

「神城君が気になる?」

 

「……!」

 

五月が固まる。

 

「ち、違います」

 

「そう」

 

三玖はそれ以上言わない。

 

しかし。

 

五月は気になって仕方がない。

 

「……」

 

蓮が四葉に説明している。

 

「ここをこうすると――」

 

「なるほど!」

 

四葉が頷く。

 

「分かりました!」

 

「よかった」

 

蓮が笑う。

 

「……」

 

五月の胸が、少しだけざわついた。

 

「五月?」

 

「はい!」

 

「この問題、できた?」

 

「……」

 

五月は自分のノートを見る。

 

「はい!」

 

「見せて」

 

「どうぞ」

 

蓮がノートを確認する。

 

「正解」

 

「……!」

 

「昨日よりずっと速い」

 

「……ありがとうございます」

 

「頑張ってるな」

 

「……はい」

 

五月は嬉しそうに笑った。

 

その瞬間。

 

二乃がぼそっと言う。

 

「……分かりやす」

 

「何がですか?」

 

「なんでもない」

 

「?」

 

一花も笑っている。

 

「五月ってさ」

 

「はい」

 

「神城君に褒められると、すごく嬉しそうだよね」

 

「……」

 

五月の顔が赤くなる。

 

「そ、そういうことでは……」

 

「じゃあ、嬉しくない?」

 

「……」

 

「?」

 

「……嬉しいです」

 

小さな声。

 

「ほら」

 

一花が笑う。

 

「やっぱり」

 

「ですが!」

 

五月は慌てて付け足す。

 

「勉強を頑張って褒めていただいたので、嬉しいだけです!」

 

「うんうん」

 

一花は笑顔で頷く。

 

「そういうことにしておこうか」

 

「……」

 

五月は何も言い返せなかった。

 

勉強会が終わる。

 

「じゃあ、また明日」

 

四葉が手を振る。

 

「またね」

 

一花も続く。

 

「……また明日」

 

三玖。

 

「じゃあね」

 

二乃。

 

そして。

 

「神城君」

 

五月が振り返る。

 

「はい?」

 

「……」

 

少し迷って。

 

「今日も、ありがとうございました」

 

「おう」

 

「明日も……」

 

「もちろん」

 

「……はい」

 

五月は笑った。

 

四人が先に帰っていく。

 

蓮と五月だけが教室に残る。

 

「……」

 

「……」

 

静かな教室。

 

「じゃあ、俺たちも帰るか」

 

「はい」

 

二人で廊下を歩く。

 

すると。

 

「五月」

 

「はい?」

 

「最近、なんか楽しそうだな」

 

「……!」

 

五月が足を止める。

 

「そうでしょうか?」

 

「ああ」

 

「……」

 

五月は少し考える。

 

「そうかもしれません」

 

「やっぱり?」

 

「はい」

 

五月は夕暮れの窓を見る。

 

「学校に来るのが、少し楽しみになりました」

 

「それは良かった」

 

「……神城君」

 

「ん?」

 

「神城君がいるから、かもしれません」

 

「……」

 

蓮の足が止まった。

 

五月も立ち止まる。

 

「……」

 

二人の視線が重なる。

 

五月の頬が、少し赤い。

 

「……なんて」

 

「……」

 

「すみません。変なことを言いました」

 

「いや」

 

蓮は慌てて首を振る。

 

「嬉しいよ」

 

「……」

 

「俺も、五月と会えるの楽しみだから」

 

「……!」

 

五月の顔が一気に赤くなる。

 

「そ、そうですか」

 

「ああ」

 

「……」

 

「……」

 

二人とも黙る。

 

けれど。

 

どちらも嫌ではなかった。

 

少し離れた廊下の角。

 

「……」

 

一花がこっそり顔を出していた。

 

その隣には二乃、三玖、四葉。

 

「……」

 

四人は黙って二人の様子を見ている。

 

四葉が小声で言う。

 

「……なんだか、いい雰囲気ですね」

 

「そうね」

 

二乃が腕を組む。

 

「五月、完全に意識してるじゃない」

 

「……うん」

 

三玖も頷く。

 

一花は楽しそうに笑った。

 

「ふふっ」

 

「一花姉さん?」

 

「いやぁ」

 

一花は四人を見る。

 

「これは、しばらく見守る価値がありそうだなって」

 

「?」

 

四葉が首を傾げる。

 

「どういう意味ですか?」

 

「そのうち分かるよ」

 

「?」

 

その頃。

 

何も知らない蓮と五月は。

 

並んで帰り道を歩いていた。

 

五月の胸の中には。

 

まだ名前のついていない感情があった。

 

そして蓮も。

 

その感情を、少しずつ自覚し始めていた。

 

二人の関係は。

 

「勉強を教える友達」から。

 

少しずつ。

 

それだけではないものへと。

 

変わり始めていた。

 

 

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