『五等分の花嫁 〜転生した俺は、五月の笑顔を守るために動き出す〜』   作:夜幻

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第9話 休日、偶然の出会い

休日。

 

朝。

 

神城蓮はベッドの上で大きく伸びをした。

 

「……よく寝た」

 

カーテンを開ける。

 

窓から差し込む日差しが、部屋の中を明るく照らした。

 

「今日は休みか……」

 

学校はない。

 

勉強会もない。

 

つまり。

 

「暇だな」

 

蓮はベッドに倒れ込んだ。

 

「……いや、何かしろよ俺」

 

自分で自分にツッコミを入れる。

 

せっかくの休日。

 

部屋でゴロゴロして終わるのももったいない。

 

「よし」

 

蓮は着替えることにした。

 

昼前。

 

蓮は駅前の商店街を歩いていた。

 

目的は特にない。

 

本屋でも覗いて。

 

適当に昼飯を食べて。

 

帰る。

 

それくらいの予定だった。

 

「……ん?」

 

商店街の角を曲がったところで。

 

見覚えのある赤い髪が目に入った。

 

「……五月?」

 

赤みの強いロングヘア。

 

ぴょこんと跳ねた大きなアホ毛。

 

両側の髪につけた星型のヘアピン。

 

間違えるはずがない。

 

中野五月だった。

 

ただ。

 

「……」

 

五月は一人で。

 

店の前に立っていた。

 

しかも。

 

その視線は。

 

ショーケースの中に釘付けだった。

 

「……」

 

蓮は思わず苦笑する。

 

「やっぱり食べ物か」

 

五月がショーケースを見つめている。

 

そこには、色とりどりのケーキが並んでいた。

 

「……」

 

五月は一歩近づく。

 

「……」

 

さらに一歩。

 

そして。

 

「……」

 

ガラスに顔を近づける。

 

「近い近い」

 

思わず声をかける。

 

「ひゃっ!?」

 

五月が飛び上がった。

 

「か、神城君!?」

 

「驚かせてごめん」

 

「い、いえ……」

 

五月は胸に手を当てる。

 

「びっくりしました」

 

「それより」

 

蓮はショーケースを見る。

 

「そんなにケーキ食べたいの?」

 

「……」

 

五月は黙った。

 

「?」

 

「……はい」

 

小さな声。

 

「ものすごく」

 

「正直だな」

 

「ですが」

 

五月は少し恥ずかしそうにする。

 

「今日は節約しようと思っていたので……」

 

「なるほど」

 

「見るだけです」

 

「……」

 

蓮はショーケースを見る。

 

ケーキ一個くらいなら。

 

「買えば?」

 

「え?」

 

「俺が奢る」

 

「いけません!」

 

五月が即座に首を横に振る。

 

「そんなに何度も奢っていただくわけにはいきません」

 

「別にいいって」

 

「よくありません」

 

「じゃあ――」

 

蓮は少し考える。

 

「一緒に食べる?」

 

「……」

 

五月が固まる。

 

「一緒に?」

 

「ああ」

 

「……」

 

「嫌ならいいけど」

 

「いえ!」

 

五月が勢いよく首を横に振った。

 

「嫌ではありません!」

 

「じゃあ決まり」

 

「……はい」

 

五月は少し恥ずかしそうに頷いた。

 

二人はケーキを買い。

 

商店街の近くにある小さな公園へ向かった。

 

ベンチに並んで座る。

 

「いただきます」

 

五月が嬉しそうに手を合わせる。

 

「いただきます」

 

蓮も続く。

 

五月がケーキを一口。

 

「……!」

 

目が輝く。

 

「おいしいです……!」

 

「そんなに?」

 

「はい!」

 

もう一口。

 

「……」

 

さらに一口。

 

「……」

 

蓮が気づいたときには。

 

ケーキの半分が消えていた。

 

「早っ!」

 

「?」

 

五月が顔を上げる。

 

「どうしました?」

 

「いや……」

 

蓮は笑う。

 

「本当に食べるの速いな」

 

「おいしいですから」

 

「理由になってないだろ」

 

「なっています」

 

五月は真剣だった。

 

「神城君は、休日は何をしているんですか?」

 

「俺?」

 

「はい」

 

「今日は特に予定なかったから、ぶらぶらしてた」

 

「そうなのですか?」

 

「うん」

 

「では……」

 

五月は少し考える。

 

「私と会わなかったら?」

 

「本屋行って、昼飯食って帰ってたと思う」

 

「……」

 

「どうした?」

 

「いえ」

 

五月はケーキを食べながら。

 

「偶然って、不思議ですね」

 

「確かにな」

 

「私も今日は、たまたまここに来ただけです」

 

「そうなの?」

 

「はい」

 

「何しに?」

 

「……」

 

五月は少し恥ずかしそうに。

 

「新しい参考書を買いに」

 

「真面目だな」

 

「勉強は大事ですから」

 

「休日まで勉強か」

 

「はい」

 

「偉いな」

 

「……」

 

五月が少し嬉しそうに笑う。

 

「ありがとうございます」

 

「褒めると本当に嬉しそうだな」

 

「……褒められるのは嬉しいです」

 

「そっか」

 

蓮は笑った。

 

「じゃあ、これからも頑張れ」

 

「はい」

 

ケーキを食べ終わる。

 

「ごちそうさまでした」

 

五月が手を合わせる。

 

「どういたしまして」

 

「……」

 

五月が空になった箱を見る。

 

「もう一つ……」

 

「ん?」

 

「いえ」

 

「食べたい?」

 

「……」

 

「顔に出てる」

 

「……はい」

 

「じゃあ、もう一個買う?」

 

「いけません!」

 

「なんで?」

 

「今日は一つと決めていました」

 

「偉いじゃん」

 

「ですが……」

 

五月はケーキの箱を見る。

 

「……」

 

「……」

 

蓮は笑いを堪える。

 

「五月」

 

「はい」

 

「もう一個食べたいなら、食べてもいいぞ」

 

「……」

 

「我慢しすぎるのも良くないだろ」

 

「……」

 

五月はしばらく悩んだ。

 

そして。

 

「……では」

 

「うん」

 

「もう一つだけ」

 

「よし」

 

「ありがとうございます!」

 

五月は嬉しそうに立ち上がった。

 

「……」

 

蓮は思う。

 

本当に食べるのが好きなんだな。

 

でも。

 

その笑顔を見ると。

 

「まあ、いいか」

 

そんな気持ちになった。

 

二個目のケーキを食べ終えた頃。

 

五月がふと口を開いた。

 

「神城君」

 

「ん?」

 

「今日……楽しいです」

 

「俺も」

 

「……」

 

「休日にこうやって誰かと過ごすの、久しぶりだから」

 

「そうなのですか?」

 

「うん」

 

五月は少し驚いた顔をした。

 

「神城君にも、そういうことがあるんですね」

 

「俺をなんだと思ってるんだよ」

 

「何でもできる人だと思っています」

 

「……」

 

「勉強もできますし、運動もできますし、人に教えるのも上手です」

 

「いや、そんな――」

 

「それに」

 

五月が蓮を見る。

 

「優しいです」

 

「……」

 

蓮の顔が赤くなる。

 

「……そういうの、反則だろ」

 

「え?」

 

「何でもない」

 

「?」

 

五月は首を傾げる。

 

その後。

 

二人は本屋へ向かった。

 

五月は参考書を真剣に選んでいる。

 

「これと……これ」

 

「二冊買うの?」

 

「はい」

 

「頑張るなあ」

 

「せっかく教えていただいているので」

 

「俺は別に――」

 

「私が頑張りたいんです」

 

五月は参考書を胸に抱えた。

 

「もっと勉強ができるようになりたいです」

 

「……」

 

蓮はその表情を見る。

 

冗談でもない。

 

誰かに言われたからでもない。

 

本気で頑張ろうとしている。

 

「……じゃあ」

 

蓮は笑う。

 

「俺も付き合うよ」

 

「え?」

 

「勉強」

 

「……」

 

五月の目が少し大きくなる。

 

「これからも?」

 

「ああ」

 

「……」

 

五月は参考書を抱えたまま。

 

嬉しそうに微笑んだ。

 

「ありがとうございます」

 

「どういたしまして」

 

本屋を出る。

 

夕方には少し早い時間。

 

駅へ向かって二人で歩く。

 

「そういえば」

 

五月が言う。

 

「はい?」

 

「今日は、姉妹には秘密にしておきませんか?」

 

「え?」

 

蓮が驚く。

 

「なんで?」

 

「……」

 

五月は少しだけ頬を赤くする。

 

「その……」

 

「うん」

 

「二人で会っていたことを知られると……」

 

「またからかわれる?」

 

「……はい」

 

「なるほど」

 

蓮は笑った。

 

「じゃあ秘密な」

 

「はい」

 

五月が嬉しそうに頷く。

 

「二人だけの秘密です」

 

「……」

 

その言葉に。

 

蓮の心臓が跳ねた。

 

「……二人だけの秘密、か」

 

「はい」

 

「なんかいいな」

 

「……私もです」

 

二人は顔を見合わせる。

 

そして。

 

同時に笑った。

 

駅前。

 

「じゃあ、また明日」

 

「はい」

 

「参考書、ちゃんと使えよ」

 

「もちろんです」

 

「無理しすぎるなよ」

 

「はい」

 

「ちゃんと寝ろよ」

 

「神城君は、お父さんみたいですね」

 

「そこまで言う?」

 

五月がくすっと笑う。

 

「では……」

 

「うん」

 

「また明日」

 

「また明日」

 

五月が歩き出す。

 

数歩進んだところで。

 

「神城君!」

 

「ん?」

 

振り返る。

 

「今日は……」

 

五月は少しだけ恥ずかしそうに。

 

「誘ってくださって、ありがとうございました」

 

「こっちこそ」

 

「……はい」

 

五月は笑った。

 

そして今度こそ。

 

家へ向かって歩いていった。

 

蓮も反対方向へ歩き出す。

 

「……」

 

足取りが軽い。

 

今日は偶然だった。

 

本当に偶然。

 

それなのに。

 

「また会いたいな」

 

自然とそんな言葉が出てきた。

 

一方。

 

帰宅した五月は。

 

「ただいま戻りました」

 

「おかえり、五月」

 

一花が声をかける。

 

「今日はどこ行ってたの?」

 

「……」

 

五月が固まる。

 

「?」

 

二乃が振り返る。

 

「どうしたの?」

 

「……いえ」

 

「なんか嬉しそうじゃない?」

 

一花が笑う。

 

「そう?」

 

「うん」

 

「……」

 

五月は少し考えて。

 

「今日は、いい休日でした」

 

「へぇ」

 

一花の目が細くなる。

 

「何かあった?」

 

「……」

 

五月は答えない。

 

ただ。

 

口元だけが。

 

ほんの少し。

 

嬉しそうに緩んでいた。

 

その日の夜。

 

ベッドの中。

 

五月は昼間の出来事を思い出していた。

 

一緒にケーキを食べた。

 

本屋にも行った。

 

勉強の話もした。

 

そして。

 

『二人だけの秘密です』

 

自分で言った言葉を思い出す。

 

「……」

 

五月の顔が赤くなる。

 

「……二人だけの、秘密」

 

枕に顔を埋める。

 

「……なんだか、嬉しいです」

 

まだ。

 

五月自身は。

 

その気持ちを恋だとは知らない。

 

ただ。

 

神城蓮と過ごす時間が。

 

少しずつ。

 

大切なものになっていることだけは。

 

もう、気づき始めていた。

 

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