余命数年の私の元に現れたかぐや姫   作:グランドマスター・リア

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第12話:命をかけた戦い

 

 ツクヨミ特設スタジアム。

 普段なら大型大会の決勝戦などで使われる特別な戦場に、今私は立っている。

 

『注目のイベントが開幕!王者ブラックオニキスと超新星かぐや・いろPの運命をかけたKASSENが今まさに始まろうとしています!』

 

 忠犬オタ公の盛り上げによって、観衆のボルテージも上がる。

 まさか、野試合で当たった相手をボコすのを繰り返していただけの私が、この大舞台に立って戦える日が来るとは思わなかった。

 画面越しに、帝が破竹の勢いで駆けるのを見ているだけだった頃が嘘のようだ。

 

『この勝負の結果によってはかぐや・いろPの逆転もあり得ますよね』

 

『それに今回は、あの(・・)いろPもかぐやチームに参戦してますから……王者ブラックオニキスと言えど油断はできませんよ』

 

 二人の前口上をBGMに、目を閉じてコンディションをチェックする。

 昨日はちゃんとご飯を食べて、早めに寝たから、体調は悪くない。意識がアバターにのめり込み、集中力も程良い。

 無駄な力は抜いてリラックスし、もうちょっと深めに意識を落とす。

 ――そうそう、この感じだ。

 

「………好調。ってところかな」

 

 目を開くと、威風堂々と黒鬼の登場を待ち構えているかぐやと緊張した面持ちの真実が居る。

 これまでの戦いは、自分と相手、どちらのHPが先に消えるかの孤独な勝負でしかなかった。

 初めて、誰かに背中を預けて、連携して戦えることに形容し難い嬉しさを感じる。

 

「力みすぎないようにね、かぐや。重さのないこの世界では、堅いやつより、柔いやつの方が強いから」

 

 ぽんと彼女の肩に両手を置いて、笑いかける。

 

「りょー!リラックスだよね。リラックス!」

 

「そうそう。イイ感じ」

 

 どうせこっちが挑戦者側だ。

 緊張する必要なんてない。この戦い。私達に失うものはないが、向こうには失うものしかない。最初からプライド有利はこっちにある。考え過ぎるだけ無駄ってものだ。

 それに、あの兄の事だから、このイベントだって……

 

『来ました黒鬼です!』

 

 そこで、岩山が砕け散って、そこから虎バイクに乗った三人が現れる。

 

『黒鬼、ご来臨ーー!』

 

 相変わらず派手な登場だ。

 ファン大盛り上がりの演出に、苦笑する。

 それが生粋のエンターテイナーとしての賑やかしなのか、トッププロとして王者の風格を誇示しているのか、それを知るのはあの男だけだ。

 

 戦場に降り立った三人と向かい合う。

 

「どーも、今回は対戦受けてくれてありがと」

 

「オラァ!帝!勝負だ!ボコボコしてやるかんな!」

 

「前傾姿勢?かわいすぎ」

 

 それにしても、あの二人はどこでもあんな感じだな。

 リアルでは一週間に一度は顔を合わせてるはずなのに、かぐやと言えばいつも猫みたいに威嚇して、警戒しているのだ。

 何がそんなに癪に障るのだろう。確かに振る舞いは軽薄だが……

 と、いけない。その前にうちのチームに居る帝の大ファンを後ろに下げないと、

 

「あの私っ、ふぁふぁファンで!」

 

 いけないと思った頃にはすでに遅かった。

 

「まみ、悪いけど今日は手加減できない」

 

 飛ばされたメロいウインクがヒットすると、真実は撃沈した。

 えぇ、マジか。参加したいと本人からの強い要望があったから、この子を連れて来たんだけど、そんなことある?

 こうなった真実は基本的には起きない。

 試しにグルメな画像を見せるが、効果なしだ。

 

「え?真実、起きなくなっちゃったよ?どうするの?」

 

「うーん……どうしよ」

 

 他に当てなんてない。

 この場合はやはり棄権扱いになるのだろうか。二対三でやって勝てるわけないし、だからといって二対二にルール変更してもらうなんてのも、恰好が悪すぎる。

 

「補欠メンバーなんて、用意してないし……」

 

 そんな事を考えていると、空から玉手箱が落ちてきた。

 おっと、この演出は―――

 

「じゃじゃーん!呼んだ?」

 

 玉手箱の中から現れたのは、バトル用の衣装に身を包んだヤチヨだ。

 

「え、ヤチヨじゃん!かぐや達と一緒に戦ってくれんの?」

 

「もちのろんだよ。こんな大イベント、ヤッチョとしては参加しない手はないからね~」

 

 これは思わぬ助っ人だ。

 お助け仕様のヤチヨは、相手との戦力差によってステータスが強化される。

 彼我の格の違いを考えれば、それなりのバフは貰えているだろうし、それに加えて、ヤチヨ当人の実力はあの三人に匹敵、或いは超えている可能性すらある。

 

「ええー、ヤチヨちゃんが入るの?そっち、ちょっと強すぎじゃない?」

 

 いや初心者チームにガチ勝負ふっかけたそっちが言うか。

 

「ふふーん♪この前の大会では帝様についておりましてよ」

 

 ふわふわと浮かんで楽し気に笑うヤチヨと目が合う。

 すると、ふわっと笑って手を振ってくれた。そんな彼女に私も笑い返して小さく手を振る。

 

 さてと、顔合わせも済んだし、そろそろ互いの陣に下がって作戦会議かな。

 

「んじゃ、ぼちぼち始めるとすっか。あ、そうだ。かぐやちゃん、俺達が勝ったらマジで結婚してくれんの?」

 

 なんて思っていると、帝がそんなことを言ってきた。

 その言葉が妙に癇に触って、私は即座に武器を取った。

 

「する訳ないでしょッ!!!」

 

 振り下ろした剣はやすやすと避けられる。当たり前だけど反応早いな。

 

「おっと!こわ。てか結構はええな。流石はSETSUNAの狐先生ってとこか?」

 

「うっさい。変なちゃちゃ入れて来ないで。あとその名前で呼ぶな。もう行くよ、かぐや」

 

「え?う、うん!」

 

 そんな帝を今度こそ無視して、かぐやを連れて自陣にテレポートする。

 

 自陣の旗の前に来ると、肩の力が少し抜ける。

 意気込んで参戦した手前、実際に勝負が目前に迫るとかなり気が重い。これから私は、あの三人と戦って勝たなければならないのだ。

 

 さっきの余裕綽々で飄々としたブラックオニキスの振る舞いは、傲り高ぶりや慢心の類いではなく、単なる余裕だ。

 今回の勝負、悔しいが勝てる可能性はかなり低い。

 ヤチヨが入ったことで、辛うじてまともに斬り合えるレベルにはなったが、かぐやは天才肌とはいえ実力的にはまだルーキーだし、私も1on1ならいざ知らず、多人数戦は完全な初心者だ。

 

 一応、最低限の座学はやってきたとはいえ、相手はその道のプロ。

 付け焼き刃のセオリーなど通じないと見た方がいい。

 

「そんでかぐや、作戦は?」

 

「んー……バーンと櫓を落として!シュバババっと、天守を取る!」

 

 うん、ダメだな。

 ヤチヨは軽く「りょー」と納得しているけど、今ので一体なにが伝わったというのだろうか。

 

「あー、はいはい。それじゃあ、配置だけ私が口出すね。かぐやとヤチヨをトップレーンで、私が一人でボトム行くから」

 

「えー!なんで?かぐや、彩葉と一緒がいい!」

 

「私は多人数戦初心者だよ?かぐやと二人で行っても、上手く連携できるとは思えない。その点、ヤチヨならその辺りの機転も効くだろうし、一人なら私も、いつも通りやるだけでいい。これが最善なの」

 

 適材適所というものだ。

 一人で攻めるということは相手と2対1になる可能性があるけど、それくらいならまだ誰かに合わせるよりは上手くやれる自信がある。

 

「まあまあ、他に策もないんだし……ここは彩葉の提案通りに行こうよ。それともかぐやは、ヤッチョと一緒なのは嫌かな?」

 

「う、そういう訳じゃないけど……分かった。それでいこ」

 

 よし、ヤチヨの後押しのおかげもあってどうにか納得してもらえた。

 この作戦でも勝率は微々たるものだが、単独で動く私の頑張り次第では、番狂わせも狙える。

 やるからには絶対に勝つ。

 せめてあの兄に、一泡吹かせてやるんだ。

 

 

 

 『試合開始です!』

 

 法螺貝の音が響き、遂に試合が始まる。

 当初の予定通り、かぐやとヤチヨがトップレーンへと走り、私がボトムレーンへと進軍する。

 

 2Dマップ上では、トップレーンをお姫様二人が凄まじい早さで踏破している。

 かぐやが高速のハンマージェットに二人乗りして進み、降りてからはヤチヨのサカバン神輿に切り替えるため、進行速度はかなり早い。

 どうせ相手の出方を伺っても勝てないから、先手必勝の形だ。

 

 私はと言うと、途中までかぐやと同様に高速の乗り物で進んで、竹林地帯で徒歩に切り替える。

 

「黒鬼の方は、トップに帝。ボトムに乃依と雷の二人か……」

 

 想定通りの陣形だ。

 ワンチャンあの兄なら舐めプしてトライデントでもしてくるかと思ったけど、流石にそこまで侮ってはいないらしい。

 雷をバックアップに、乃依が前に出てきている。

 

「ということは―――ッ!!」

 

 竹林の木々の合間から、ヒュッという風切り音が聞こえたと同時に、ほぼ条件反射で剣を振る。

 すると、飛翔してきた矢が刀身によって弾かれた。

 

「ま、ここで奇襲だよね」

 

 視線の先には弓の射程圏内ギリギリの場所で乃依がスタンバイしているのが見える。

 この距離でこの精密さ、相変わらず恐ろしいまでの狙撃技術だ。

 見た感じ防御されると思っていなかったのか、当の本人は苦笑いを浮かべている。

 

「マジ?普通、いまの防ぐ?こりゃ、マトモに当てるのは無理そうだな……」

 

 ……とか言ってんだろうな。

 でも私だって、伊達に長い間対人戦をやってきたわけじゃない。

 今回みたいに広く遮蔽物の多いフィールドで弓使いと戦ったことだって何度もある。

 それに、今の狙撃で乃依の位置もある程度分かった。ここからは私が攻める番だと、竹林の合間をワイヤーと肢体の躍動を駆使してアクロバティックに跳びながら、一気に櫓へと向かう。

 

 いくら王者が相手だろうと、対人戦でそう簡単に負けてやるつもりはない。

 

 

 

□

 

 

 

 ヤチヨをジェットハンマーに乗せて、二人で櫓を落とすべく進む。

 その最中、実況のオタ公ががなり立てた。

 

『いろPが乃依と会敵ィ!しかも、あの完璧な奇襲を防いだ!』

 

『いやぁ、やっぱ強いっすねぇ、狐先生。おっそろしい』

 

 観衆はさぞ、彩葉の強さに盛り上がっていることだろう。当然だ。わたしの彩葉が負ける姿なんて、少しも想像が付かない。

 本人が言っていた通り、彩葉は一人で動いた方が強い。ヤチヨとかぐやで組んだ方がバランスもいい。頭では分かっている。

 

 それでも、私は彩葉と一緒に戦いたかった。

 納得した以上、そこでこれ以上ゴネるつもりはないけど、釈然としない思いは一つの疑問へと向く。

 

「ねえ、ヤチヨ。ずっと気になってたんだけどさ。あの”狐先生”っていうの……どういう意味なのか知ってる?」

 

「あー、まあ一応ね。結構ニッチなネタだから知らない人も結構多いんだけど、気になるの?」

 

「うん。彩葉に聞いても教えてくれないから」

 

 首肯すると、ヤチヨは少し考えたあと微笑みを浮かべて頷いた。

 

「いいよ。かぐやは知っててもいいと思うし……ただ、ファンの皆にバレるのは彩葉が可哀想だから、ボイスをかぐやにだけ聞こえるようにするね」

 

 ヤチヨが、ボイスを配信用から内部通信用に切り替える。

 これでヤチヨがこれから話すことは実況席や観衆には聞こえなくなった。

 しかし、そこまでする程の秘密となると、かぐやも自然と肩に力が入る。

 

「これでよしっと……それで、狐先生っていうのはね。KASSEN内で……特にSETSUNAでのあの子のあだ名みたいなものなんだ。カッコよく言うと、二つ名とも言えるね~」

 

 二つ名とは、また大層な言葉が出てきた。

 例えて言うなら、ブラックオニキスは常日頃から王者と呼ばれているけど、それと同じようなものかな。

 

「彩葉が1on1専門のスゴ腕プレイヤーなのは、かぐやも知ってるよね?」

 

「もちろん!争奪戦の時もめっちゃ強かったし!」

 

「ふふっ、そうだね。だけど、実際はそんな次元の話じゃないんだ」

 

 そこで一度言葉を切って、ヤチヨは目を細め、何かまだ遠い櫓の方を見据えながら続きを語った。

 

「この世界でのあの子の強さは……限界を超えているの」

 

「限界、を?」

 

 いまいちピンと来ない。

 なんとなく凄いっていうのは分かるけど、それにしても”限界を超えている”とはまた大層な言い方である。

 

「今は身の回りが忙しくて、あまりやらなくなったみたいだけど……丁度二ヶ月、かぐやが活動を始める前まで、彩葉はSETSUNAでほぼ無敵の最強プレイヤーだった」

 

「えっ、彩葉が?」

 

 驚くべき、というか意外と言うべきか。

 確かに、彩葉がSENGOKUやKASSENモードなどの多人数戦を全くやらず、ひたすら1on1だけをやっていたのは知っている。

 争奪戦で見せた動きから、めちゃくちゃ強いのも分かっていた。

 でも、まさかそこまでだったなんて……

 

「時折、唐突に降参することを除けば、あの子はどんな相手にも負けなかった。一対一が得意な一部の最上位プレイヤーですら、ね。しまいには、噂を聞きつけたプロまでランクマに潜って、あの子に挑んだんだけど……」

 

「も、もしかして……」

 

 なんとなく先の展開が読めた。

 

「そう、全員返り打ちにされた。清々しいくらい、だぁれも勝てなかったね~。そこまでになると、もう笑えて来るよ。ヤッチョですら驚きすぎて、何度もリプレイを見返したくらいだもん」

 

 苦笑しながらそう言うヤチヨに、わたしは唖然とした。

 しかしそこで、点と点が繋がる。争奪戦の時の彩葉の戦いぶりと、纏う雰囲気の異質さ。

 更には、帝がかぐやのチームを強すぎると称した事も含め、色々と理解できてくるのだ。

 

「そんなに強いのに、戦い方はとっても綺麗で、皆が憧れちゃうくらいにカッコイイときた。その結果、尊敬の念を込めて皆が付けたあだ名が……」

 

「”SETSUNAの狐先生”、と……」

 

「そういうこと♪」

 

 それはまあ、他人にあまり言いたがらないのも理解できる。

 経緯が経緯だし、呼び名もなんか物騒に思えてくる上に、彩葉は基本的に自己肯定感が高くないから、自らにそんな評価をくだされても困るだろう。

 彩葉自身、そんな事を望んでゲームをやっていた訳ではないはずだ。

 

 でも、その中で、一つだけ気になる事があった。

 

 

「……なんで、彩葉はそんなに、強いの?」

 

 

 ヤチヨは言った。

 この世界、つまり仮想世界における彩葉の強さは限界を超えていると。

 けれど、今語られたのはあだ名が付けられるに至った経緯だけで、その強さの理由については何一つとして明かされていない。

 

「それは―――」

 

 ヤチヨは一瞬表情を曇らせて、言うか言うまいか、そんな逡巡を感じさせる間を置いた。

 その時点で、なにかあると言っているようなもの。わたしは急かさず、その瞳を見つめて次の言葉を待った。

 しかし、そこで地上の方から何本もの矢がかぐや達に向かって飛んできたのだ。

 

「おっと、話しは一旦お預けだね。空を移動するライドは的になるから、そろそろ降りるよ」

 

「え!?ちょっと、待ってってば!」

 

 話を一旦切り、ヤチヨが先に空中に身を投げると、落下しながら着地点付近の雑魚敵を一掃する。

 そこに続いてかぐやも着地すると、ハンマーを振り回して敵を薙ぎ払う。プラン通りいくなら、このままヤチヨの乗り物に切り替える事になっている。

 が……

 

「ッ、かぐや!」

 

 銃声が聞こえたのと、ヤチヨがかぐやを庇う様に立つのは同時だった。

 傘を開き飛んできた銃撃を防ぐと、即座に折りたたんで、次弾が飛んでくる前に相手(・・)へと接近する。

 瞬刻、金棒と傘が衝突して、火花を散らした。

 

「やっぱ彩葉は単独行動か」

 

「残念そうだね~。私達じゃご不満かにゃ?帝様」

 

 帝アキラだ。

 こっちのルートに居るのは分かっていたけど、仕掛けてきたもこっちの落下を狙った絶妙なタイミングであり、ヤチヨが守ってくれなかったら危なかった。

 

「いや、むしろ燃えてくるってもんだ。今回はヤチヨちゃんともちゃんと戦えるからな」

 

 お互い一歩も引かない拮抗。

 そこにうなぎ砲を放つことで膠着状態が解かれ、二人の距離が一旦離れた。

 一見すれば彼我の戦力差は歴然、数的有利はこっちにある。だが、王者とまで呼ばれる彼、帝アキラという男はそう簡単に倒せる相手じゃない。

 

「今武器を合わせて分かった。ヤチヨちゃん、お助けバフ全然入ってないだろ?」

 

「っ……やっぱバレてたか~」

 

 その言葉にかぐやはぎょっとする。

 

「え、バフが入ってないって……でも、彩葉は、向こうのチームとの戦力差を考えたら、結構強くなってるはずだって言ってなかった?」

 

「お助けバフの上下は、ランクマッチの順位と大会の結果で決まるからね。彩葉のSETSUNAでの戦績を考えたら、まあ当然と当然なんだけど……」

 

 言葉通りに受け取れば、ヤチヨのステータスはほぼ一般プレイヤーと同じレベルってことになる。

 言われてみればそりゃそうだとしか思えないが、だとしたら、ヤチヨのステータス頼りの戦法とかは軒並み使えないってことだ。

 

 さて、どう攻めようか。

 そう考えていると、

 

「来ないなら、こっちから行くぜ!」

 

 帝が一気に距離をつめてきて、ヤチヨがそれを傘で迎撃する。

 速い。砂ぼこりが舞って、目の前で繰り広げられる一進一退の攻防、両者の技量は完全に互角だ。

 

「うりゃああああ!」

 

 そこにかぐやにカバーが加われば、優勢劣勢の天秤はこちらに傾く。

 しかし、それならと帝は距離を取りつつ、付かず離れず、こっちが攻め切れない間合いでの戦闘に切り替える。

 もっと距離が開けば、かぐやとヤチヨの遠距離攻撃で一瞬で倒せるのに、それが出来ない絶妙な塩梅だ。

 

 けれども、そこで焦って前に出過ぎると……

 

「っ、かぐや!前に出過ぎ!」

 

「え?うわああ!」

 

 器用に打ち返されて、へろへろにされる。

 そこで銃撃による追撃をされ、間一髪でヤチヨが防御してくれるけど、そのせいで帝が牛鬼の所まで辿り着いてしまう。

 

「動きが直線的!解釈一致!」

 

 ウルトを発動して、超加速した帝の斬撃によってあっという間に牛鬼が倒されてしまう。

 

『帝、牛鬼を瞬殺!だが、間髪入れずにいろPも牛鬼を撃破!ほぼ同時、かつ最速です!』

 

「彩葉!」

 

 凄い。彩葉は一度もSENGOKUをやったことがないはずなのに、この速さ。

 それなら、こっちの役目は帝を櫓まで行かせない事だ。

 ヤチヨもそれは分かっており、即座に帝の進路上に躍り出て、切り結ぶ。わたしもさっきの反省を踏まえて、うなぎ砲を活用しつつ、サポートする。

 

 彩葉ならきっと、向こうの櫓を取り切ってくれる。

 戦いはまだ始まったばかりだ。

 

 

□

 

 

 乃依の妨害を避けつつ、牛鬼のところまで辿りついた私は、速攻でウルトによる特殊斬撃とワイヤーアクションを駆使し、ワンコンボで撃破する。

 

 その分、ゲージをほぼ全て使い切ってしまったが……だからといってここでスキルを渋り、牛鬼との戦闘に時間をかけても、その分乃依に好き放題されて終わるのがオチだ。

 

 このワンターンキルも実はめちゃくちゃムズイんだけど、牛鬼との戦闘自体はSENGOKUモードの外でもできるから、今日の為に練習してきたのが活きた。

 ―――しかし、ここで気を抜いてはいけない。

 

「ふぅ……ッ、と!」

 

 短く息を吐き、地面を蹴って後方にステップすると、私が元居た場所を矢が通り過ぎた。

 岩に突き刺さった矢からは黄色いライトエフェクトが出ており、鈍足デバフの付与された特殊な矢である事が分かる。

 

「牛鬼を倒した瞬間に鈍足の矢でカウンターして足止め、ね」

 

 道中の妨害も手緩かったし、牛鬼にコンボを決めている時に横槍を入れて来なかった時点で察してはいた。

 後は集中を切らさず、周囲の”音”をよく聴くだけで良い。

 

「うっそ、これも当たんないの?」

 

 今のを避けられると思ってなかったのか、遠方の岩場に身を潜めている乃依の驚愕が目に浮かぶ。

 

「すぅ…………いくよ」

 

 スナイパーを仕留めるべく、疾走する。

 櫓を取りに行っても良いが、退避されてかぐやの方に行かれても厄介だ。ここで確実に仕留める。

 次々飛んでくる矢を回避し、時には剣で弾きながら、それでも前へ前へと出る。

 

 ――楽しい。

 

 体が思う以上に動く。

 現実の、ちょっと走っただけでくたびれ他人に迷惑をかける使い物にならない病気の体とはまるで違う。

 もっと、もっと。

 思う程にのめり込み、ようやく距離がこっちの銃撃が届く範囲まで迫る。

 

「狙撃はそっちの専売特許じゃないんだ…よッ!!」

 

 意気込んで、攻勢に転じようとした刹那。虎の子としてウルトを纏った矢が飛翔してきて、足場を破壊。このまま足を取られれば、折角詰めた距離がまた開いてしまう。

 だが、そこで私は瞬時に身を翻し、砕けた岩や瓦礫を足場に飛び上がる。

 

「マジで言ってる?」

 

 驚愕した乃依を見据え、外しようのない中空から銃撃する。

 

「くッ!」

 

 乃依はこれを軽い身のこなしで躱す。

 そしてカウンターの矢が飛んでくるが、それを剣で弾いて、逃がさないと双剣を連結しブーメランに変形させて、投げつける。

 

「それは、甘いんじゃない?」

 

 乃依はこれすらも、驚異のアクロバットで回避する。

 すかさずつがえられた矢。ワイヤーで剣を引き戻しても、着地のタイミングには絶対に間に合わない。

 

「焦ったね。狐ちゃん」

 

 丸腰の私に、放たれた矢が迫る。

 これを受ければたちまち鈍足状態が付与され、そこからコンボが入って終わる。

 

 絶体絶命の状況だ。

 

 しかし、私の思考は焦るどころか至って冷静で、思考すら挟まず私の頭は最適の回答を導き出した。

 

「ふッ!!!」

 

 瞬時、右足を勢いよく振り上げる。

 ここで放った渾身のサマーソルトは寸分の狂いなく、矢を捉え、シュパンッと蹴り飛ばした。

 

「はぁ!?」

 

『えええええええ!?』

 

 これには乃依も実況席も驚愕の声を上げた。

 

『え?あんな近い距離から飛んできた矢を、蹴り飛ばした?そんなことできんの?』

 

 ――良かった、成功した。

 やった本人である私も、内心ではヒヤヒヤだ。

 当然だが、サマーソルトでとんでくる矢を防ぐなんて今までやったことはない。

 他にできることがないからダメ元でやってみたが、成功してくれて良かった。

 

 そこからワンテンポ遅れて、ワイヤー引き戻した剣を回収。

 

「今度は、逃がさない!」

 

 裂帛の気合を迸らせて、斬りに行く。

 この間合いに入ってしまえば、いかに乃依と言えど防戦一方となる。あと一歩、あと拳一個分詰められれば、捉えられる。

 けど、これが途轍もなく遠い。

 猫のように器用に回避し、カウンターを繰り出してくる。

 

 ――コイツ、逃げるのがうますぎる……

 

 王者と言われるだけあって、接近できたからといって簡単には倒させてくれない。

 

『おーっと!ここで雷がトップレーンの櫓を占拠!一気に反対側の櫓へと向かう!』

 

「なっ」

 

 やられた。

 さっきからこっちに姿を見せないと思ったら、狙いはそっちか。それも、こっちが戦闘に集中してマップを見てないこのタイミング。

 私の悪癖だ。

 多人数戦なのを忘れて、目の前の敵に集中し過ぎた。

 

 どうする?

 ヤチヨとかぐやは帝に止められている。

 私が止めに行くしかないが、ここで乃依を無視すれば、雷と組まれて2対1の形を組まれ、こっちが圧倒的に不利になる。

 

「君、多人数戦初心者でしょ?ずっと俺しか見てなかったもんね」

 

「っ、ご明察!」

 

 やっぱりそこを逆手に取られてしまった。

 戦力差はほとんどなくても、このように戦略と連携の差はどうしても顕著に表れる。

 

「一対一は死ぬほど強いけど、それじゃあ俺達には勝てないよ」

 

 その通り、これがヤチヨが入っても尚、勝つのは厳しいと思っていた理由だ。

 分かっていた。分かってはいたけど……

 

『雷がボトムレーンの櫓を落とした!ブラックオニキス、両櫓占拠によりコールドです!』

 

 ダメだ。ダメ……

 めちゃくちゃ悔しい。

 

 命をかけ(・・・・)、時間という取り返しのつかない代価を払って戦い、負ける悔しさは、鋭い刃みたいに胸に突き刺さる。

 

 私はその重さで肩を落としながら、自陣へと戻った。

 

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