余命数年の私の元に現れたかぐや姫 作:グランドマスター・リア
今日、バイトをやめる相談をした。
理由は、体調の悪化と、かぐやの手伝いのためだ。
かぐやの配信を手伝うために一度シフトを減らし、更にこの前倒れてからは大事を取って週二まで削ってもらったのだ。
しかし、このまま行けば、それですら怪しくなってくる。
分かるのだ。
前までは半日程度で治っていた不調も、今は一日か、酷い時は二日以上寝たきりになることがある。
着実に、体は弱っていっている。今はまだ大丈夫かもしれないが、半年後も同じことを言えるかというと、否だ。
高校に入学してからの実に一年と半年、病人である私がこうして最低限の稼ぎを得られていたのは、ひとえに店長や一緒に働いてた皆の優しさのお陰だ。
余命数年。
加えて、いつ来るかも分からない発作。
それを知っていながら雇用し、世話になった場所を離れるのは心苦しいし、申し訳ないけど、これ以上は本当に迷惑になってしまう。
意外なことに、惜しまれての退職だった。
―――今までありがとう。酒寄さんのお陰で本当に助かった。
その言葉を送られて、私は初めて、こんな自分でも誰かの役に立てていたんだと実感した。
でも、コラボライブに向けての区切りとしては、丁度良かったのだろう。
色んな事に向き合い始めて、戸惑って、グルグルしていた私の思考は一旦それなりのまとまりを見せた。
コラボライブの曲も、それなりの難易度だけど問題ない。
これまでバイトに充てていた時間を、これからは練習やかぐやのサポートに使えるから、一つのことに集中できる分気持ち的には楽だ。
パフォーマンスの練習だって、ヤチヨが直々に教えてくれるし、準備は着々と進んでいる。
ただし、私は病人だ。
楽しい事ばかりではいられない。この体は、どうしたってしがらみなしには生きられないのだから。
それは、コラボライブを二日後に控えた、定期健診の日。
「発作の頻度が増えていますね。少し薬の量を増やして、様子を見ましょうか」
「はい……」
そう言った医師に、私は特に落胆するでもなく、平坦な表情で頷いた。
前の健診から、今日までの経過を考えれば、当然の処置である。
「体調の悪化自体は、近頃の猛暑による一時的なものでしょう。ここ一ヶ月ほどは、食事もよくとられているようですし、この時期に入っても比較的健康なのはそのお陰です。ただ……」
そこで一度言葉を切って、医師は問診表を見ながら眉をひそめた。
「抑制剤の使用が増えていますね。一応、使用限度の範囲内ですが、無理は禁物ですよ」
「分かってます。でも、今より減らすのは難しいです」
「と、言いますと?」
「……実は―――」
問われて、近々あるイベントのことや、最近の生活のことを伝える。
食事のこともかぐやとの同棲の事と合わせ、抑制剤の使用もライブがある以上はどうしようもない。
だが、幾ら体調を崩したって、それだけは絶対に手を抜けないって事も。
「……なるほど、そういう事でしたか」
なにを馬鹿なって、そう言われたって仕方がない。
命にかかわる事なんだ、これは。それなのに、ライブだのライバー活動だの、何を言ってるんだって話なのは、私が一番分かってる。
けれど、私に希望を見せてくれたかぐやの為に、今やめるわけにはいかない。
まだ、ダメなんだ。
「良いと思いますよ」
「え?」
それなのに、返って来たのはそんな言葉だった。
「使用限度を破っている訳でもありませんし、毎日の薬も忘れずしっかり飲んでいます。酒寄さんは、既に生きる為に出来るだけのことをしている。その中で、病に負けずやりたいことを見つけた」
――生きる為に、出来るだけのことを?
その自覚はなかったけど、そうか、私はちゃんと生きようとはしてたらしい。
決められたことだから、薬を飲んで、死んだように過ごす日々。
果たして、それを生きていると言っていいのか、ずっと疑問に思っていた。
私自身、心の中では『本当に生きたいのか』も分からなくなっていて。そんな私が、生きる為に出来る事を最大限にやっている、だなんて……
ちょっとおかしな話だ。
医師はそんな私に、言葉を続ける。
「我々のすべきことは、患者さんができる限りそれを叶えられるように、一緒になって考えることです。だから酒寄さんも、私にできることがあれば、何でも相談してください」
「……ありがとう、ございます」
医者の”こういう言葉”をちゃんと聞いたのなんて、初めてだった。
もしかしたら、今までも、そういう事を何度か言ってくれていたのかもしれない。覚えていないのは、私に聞くつもりがなかったからだ。
そう思うと、過去の自分がいかに、人を人として見ていなかったのか分かる。
だとしたら、ちょっと待て。
そうじゃないか。
「ははっ……あの頃の私って、耳までおかしかったんだ」
病院からの帰り道、自分の耳を押さえながら自嘲する。
色がない世界で、味のない料理を食べて、聞こえもしない人々の声を聞く。
胸中に根差す孤独感は、私の体を隅々までおかしくしていたらしい。そりゃ、仮想空間が居心地いい訳だ。
これから帰って、自宅の扉を開けたら、かぐやが笑顔で出迎えてくれる。
「ただいま」
そう言うと、ドタドタと一生懸命に金髪の少女が駆けてくるんだ。
「おかえり!彩葉!」
挨拶代わりに抱き着いてきて、私はそれを受け止めて、幸福に浸りながらどんどん想いを募らせていく。
例えば、こんな日々が数年先も、数十年先も続いていれば、どれだけ……
そんなに多くの日々が、時間があれば、お母さんともちゃんと話せて、お兄ちゃんと一緒にゲームする時間もあって、芦花や真実とも心を通わせることができて……
全部できそうなのに、そうやって思い描いた場所へと繋がる道は、ある時を境に唐突に消えてしまう。
未来の憧憬は、そのまま遠ざかっていく。
そこには、私がどれだけ手を伸ばしたって届かない。
✧・゚: *✧・゚:*
そして、日を跨ぎ、とうとうコラボライブを翌日に控えたこの日。
久しぶりに、私はとあるアドレスにメッセージを送った。
『今から会いたい』なんて、付き合いたてのカップルみたいな文面に対して、返って来たのは『分かった。いつもの場所で』と一言。
月が綺麗なこの場所に訪れると、いつもそこにあなたがいる。
「こんばんは、彩葉。ここでこうして会うのは、久しぶりだね」
コラボライブの前日なんて、企画者のヤチヨは大忙しのはず。
それなのに、こうして時間を取ってくれる。ずっとそうだ。あの日、この場所であなたと出会ってから、ヤチヨが私の呼びかけを拒否した事は一度もなかった。
どんな時でも、一度メッセージを送り、出向くと、ヤチヨはここに居てくれる。
「一週間ぶりくらい、かな。ごめんね、コラボライブも明日で、ヤチヨも忙しいのに……」
「いいの、いいの。準備は大体終わってるし、配信も今日はお休みだからさ。むしろ、こうして眠る前に彩葉と会えてラッキー☆的な?」
「ふふっ、なにそれ……」
私が幼かった頃から変わらない、ヤチヨの笑顔。
こうして話し、触れられるようになって、その美しさはより形を持って私の心に溶け込んだ。
一緒にチームを組んでKASSENをして、明日はコラボライブ、気が付けば、私とかぐやの近くには彼女が居るのが当たり前になっていた。
距離が遠かった頃は予想だにしなかった関係。
けれども、今更私はこれを手放すことはできない。あまりにも、私の心にとって、ヤチヨという存在は大きすぎる。
ヤチヨは、そんな私の想いに気付いているのだろうか。
「……それで、今夜はどうしたの?もしかして、緊張で眠れない?」
「うっ、まあ、そんな感じ……凄いね、ヤチヨには全部分かっちゃうんだ」
いつもそうだ。
彼女の目は、私の全部を見透かしているようで、実際その通りな事を口にする。
病気の事も知っていて、それでも尚こうして最適な距離を保ってくれている。その優しさにも、最近気づいた。
「遠足の前日みたいでしょ?ヤッチョも分かるなー、その感じ。でも、こんな時間から練習とかはしちゃダメだよ。しっかり寝ること」
「分かってる。流石にそんな無茶しないよ」
自分の体では徹夜でライブに出るなんて到底無理なのはわかっている。
それに、今回も抑制剤を飲んでの出演になる。せめて、体調管理くらいはしっかりしておかないと、後になって泣きを見るのは私自身だ。
じゃあこんなことせずに早く寝ろって話だけど……どうしても、コラボライブの前に、彼女に伝えたいことがあった。
「……今日は、眠れないのもそうだけど……ヤチヨに、改めて『ありがとう』って伝えたくて……」
「え……?」
感謝の言葉だ。
今まで私が、無下にしてきた想い。拒絶してきた優しさへの後悔。それらの殆どは、これが言えなかったことに尽きる。
届かなかった想いは、行き場を失い、やがて悲しみに変わる。そんな事が、たった一言、それを言えただけで違ったかもしれないんだ。
「なんか、今じゃないとダメな気がしてさ……言いたいって思ったら、気付けば、ヤチヨにメッセージを送ってた。もう、一秒も先延ばしにしたくなかったんだ」
余命まで、あと一年。
それは、この先一年は健康に過ごせるという保証ではなく、そこが一旦の上限だという指標でしかない。
今この時、私は息をして、生きている。この奇跡が繋がっているうちに、やれる事をやっておきたい。
「私は今まで、私に優しくしてくれた人達の想いを、ずっと見ないようにして……無下にしてきた。そんな事したって、どっちも苦しくなるだけなのにね……」
「それは、仕方がないでしょ。一番大変だったのは、彩葉なんだし……」
仕方がなかったと、そう言ってしまうのは簡単だ。
精神が追い詰められた人間ほど、他人の優しさに冷たく当たってしまう。ありがちな話ではあるが、それを本人が免罪符にしていい訳じゃない。
「……かもね。でも、それを私自身が言っちゃったら、また同じことを繰り返すことになる」
自分の生きる意味が見つからず、苦しみ続けて早三年。
ここに来てようやく、自分の間違いに気付いて後悔したって、残り時間を見れば全てが手遅れなのは目に見えている。
それでも、まだ、私は生きている。
息をして、ここに居る。
「死ぬまでそのままで居るのか、生きてる間だけでも向き合う努力をするのか……それは、私次第でしょ?」
「……強いね、彩葉は……」
病人らしくないだろうか。
でもこれでいい。結末が変わらなくても、過程を変えていく事は出来るはずだから。
「そんな事ないよ。まだ歩き始めたばかりで、かぐやにすら秘密を打ち明けられてない。全部これから……でも、最初は、どうしてもヤチヨが良かった」
「それは、どうして?」
あどけない表情を近くまで寄せて、少しばかり前のめりな格好で聞いてくる。
その姿がまるで誰かさんに似ているようでおかしくて、私は微笑みながらその理由を語った。
「誰よりも長く……そして、いつも私の心の支えになってくれた人だから、だよ」
お父さんが死んだあの日以降、抱えた孤独感と母の正しさの板挟みで心が壊れそうになっていた私が、ここまで生きて来れたのは、ヤチヨのお陰だ。
「どこにも逃げ道がない。暗闇の世界で、勝手だけど、ヤチヨだけは味方で居てくれるって……そう思って、ここじゃない電子の世界に思いを馳せていた」
詩的に言うなら、それこそ運命だったのだろう。
更に、ヤチヨは私がチャットで相談した内容も全部覚えていた。そして、今はこうして隣で話を聞いてくれている。
「あの頃も、今も、媒体や距離は変わったけど、こうしてヤチヨは私の話を聞いてくれてる。それは、今も昔も変わらず、私の生きる力になってるんだよ」
彼女の声を聞かなかった一年余りがその証明だ。
病気が発覚してから上京まで、地獄のような日々。その中で、もしもヤチヨの言葉を、声を聞く選択肢が私の中にあったなら、こんなに遠回りにはならなかったかもしれない。
最近はそういうたらればや後悔の連続で、けれど、それが分かるようになった事こそ、私にとっての幸せなんだ。
「……やだなぁ、彩葉。そんなの、ヤチヨには勿体な過ぎる言葉だよ」
照れて恥ずかしそうに俯くヤチヨ。
綺麗に色づいたこの世界で、私達二人だけのこの時間で、月明かりに照らされたお姫様に感謝を伝えるこの瞬間、ようやく、城の外から見上げていただけの時間と今が繋がる。
あの時も、ヤチヨは城の上から、私を見ていて、私達は遠い距離を挟んで見つめ合っていたのかなって。
「ヤチヨはね。電子の存在なの。彩葉から見ようとしないと、透明人間と同じ。私から、あなたに会う事はできない。決して、交わらないの。そんな私でも、彩葉は、いいの?」
「だからこそ、だよ。ヤチヨが電子の世界に居てくれたから、私はあなたを好きになれたの」
少なくとも、以前の私にとってはそうだった。
幻想だからこそ、理想を重ねても苦しくならないし、現実と切り離して素直になれた。
その想いがどれだけ響いたのかは分からない。でも、ヤチヨは一度目を大きく見開いた後、とっても嬉しそうに笑ってくれた。
「そっか……そっかぁ……この透明な体にも、意味は、ちゃんとあったんだ」
彼女が抱えていた想いを推し量れるほど、私はこの少女を知っている訳じゃない。
けれど、この言葉が、届いてくれた。それだけで、こんなに幸せなんだ。
もしこれで、ヤチヨが私の言葉を受け取ってくれなかったら、とても悲しい思いをしていただろう。
――あっ、そういうこと、なんだ。私はずっと、そういう事を、してたんだ……
優しさに、何かを返して欲しい訳じゃない。
ただその人に笑っていてほしくて、辛い気持ちに少しでもなにかしてあげたいから、なんだ。
それを拒絶された時の筆舌に尽くし難い悲しみを、私は今まで、ずっと誰かに与え続けてきたんだと気付く。
言わなきゃいけない。今度こそ、私は……
「ありがとう、ヤチヨ」
誰かの想いを、壊すだけの日々からは、抜け出すって決めたんだ。
「こちらこそ、だよ。そんでもって、これからもよろしくね。彩葉」
心を通わせることは、こんなにも心地いい。
私を知っていてくれて、私を私と言ってくれる。いつだって、ヤチヨはそう。私の欲しい言葉をくれる。
色と温度をくれたかぐやと、言葉と想いをくれたヤチヨ。
その二つを持って、心の氷が解けた私。そうして巡って来た幸運は、こんな病気すら吹き飛ばしてしまいそうなんだ。
「数千年の間で、一番幸せ。今、ヤチヨはとっても嬉しいの。彩葉がそうしてくれたんだよ?……だから、ヤチヨからも、一つだけ誓わせて」
「え?うん、どうぞ」
世界最高の可愛さで改めて誓うとか言われると、反応が推し活時代の自分に戻ってしまう。
だけど、そんな場合じゃなかった。次に彼女が言った言葉に、私はそれ以上の衝撃を受けることになるのだから。
「―――色んなこと失敗して、なにひとつ上手に描けない私だけど……彩葉がヤチヨを信じてくれる限り、必ずヤチヨが、彩葉を幸せにして見せるよ」
月下に奏でられたヤチヨの声に圧倒される。
その誓いという名の告白に、私は返せる思いも言葉も持てないまま、常夜の世界でとめどない熱を胸に抱いた。
✧・゚: *✧・゚:*
凄く温かい時間だった。
あの後、就寝時間になったヤチヨと別れて、私もログアウトした。
―――幸せにしてみせる。
その言葉の意味を深くは知れないままの今、眠るには丁度いい時間帯。
明日のコラボライブは時間帯自体は早くないけど、体調を鑑みればそろそろ眠るべきだろう。
あの言葉に関しては、また今度聞こう。
そう思った矢先だった。
「彩葉ー、起きてる?」
電気を消そうとリモコンを握ったと同時に、部屋の扉が開け放たれてかぐやは入室してきた。
「今から寝るとこだったけど……どうしたの?」
この時間まで起きてたってことは、練習でもしてたのだろうか。歌とダンス苦戦してたしな。
「これの続き、どこにあるのか聞きたくって」
違ったようだ。
それはそうと、かぐやが目前に置いたのは私のノートPCだ。最近はほぼ彼女の私物と化しているそれのディスプレイに表示されているものを見て、
「続きって……あ、これ」
私は息をついた。
それは整理整頓されたフォルダ群をどんどん下った最下層にあるファイルだ。
『タイトル未定(彩葉と共作)』と名札付けされたそれは、随分前に心の奥底にしまいこんで、忘れたと思い込んでいた、大切な思い出のひとつだ。
「……聞いたの?この曲」
「うん、すっごく素敵な曲だった。でも、途中までしかなくって……」
「そりゃそうだよ。これの続き、ないもん。もう作れそうにないんだ」
これは、幼い頃に父と一緒に作った曲だ。
メロディーはどうだったかな。
……ダメだ、思い出せない。
けれど、確かな事として、これを作った頃の私にセオリーや技術なんてものはなく、恐れ知らずだったということ。
それこそ、今目の前にいるかぐやみたいに……
あの頃は、それでも良かった。
ワガママも、無茶無謀も、全てお父さんが受け止めてくれた。心を寄せ、信頼なんてしなくてもできるような人、それが父だった。
それ故に、居なくなれば、続きは出てこない。
私一人では作れない。
「ずっと聞いてないの?」
「うん。作ったのも忘れてたし」
「じゃあ、聞いてみようよ。今なら、もしかしたら続きが思いつくかもでしょ!」
かぐやの言葉を聞いて、再び画面を見る。
今なら、か。
つい先日、変わろうとし始めた自分にとっては、晴天に差す陽光のような言葉だ。
「まあ、良い刺激にはなるか……いいよ、聞こっか。ただし、もう時間も遅いから一回だけね」
「はーい。そんじゃあ、再生!」
かぐやは意気揚々と音源を再生する。
流れるメロディーに、記憶が蘇ってくる。枯れた土壌に水をやったみたいに、再現される景色は儚くて、辛くて、それでいてとても美しい。
嗚呼、こんな曲だったっけ。
「ん~、ふふっ♪……うん?」
曲が止まる。と同時に、かぐやが疑問符を浮かべた。
「どうかした?」
「んー、最後の十秒くらい……かな?戻して」
「いや、さっき聞くのは一回だけって……それくらいならいいけどさ」
言われた通りに戻してもう一回再生すると、さっき聞いたのと同じメロディーが流れる。編曲も満足にされていない未完成品、物語で言う所のプロット段階の音。
今聴いても、悪くないと思える。
けれど、かぐやは何やら首を傾げている。彼女のことだから、マイナスな事ではないだろうけど……
「…………既視感?」
やっと口にしたのはそんな言葉だった。
「え、なにへの?」
「あー、なんだろ。あれでもないこれでもない……んー、やっぱダメだ。わかんない」
「なんだそりゃ……」
そういう切り方をされると超気になるからやめて欲しいんだけど。
しかし一度こうなると、すぐさま気分を変えて話題転換をしてしまうのがかぐやだ。追及したってなにも出てこないだろう。
「はあ……さてと、今度こそ寝るよ。明日は本番なんだしさ」
ノートPCを閉じて、電気を消す。
布団にはすでにかぐやが入り込んでいて、私もその中に身を寄せた。
「そうだね。そんじゃあ、彩葉と同じお布団でおやすみ~」
「はいはい。おやすみ」
寝つきよく数秒後にはすやすやと寝息を立て始めるかぐやに微笑み、私も目を閉じると、昔から好きな緩やかで暗い眠りの世界へとこぎ出した。