デジモンDワールド-Repair-(ユキアグモンと少女の冒険記) 作:山下敬雄
冷たい機械のマニピュレーターが、拘束台に寝かせていた砂雪の細い首を締め上げる。息の詰まる感覚に、砂雪は声を発することもできない。
「そうだっ、覚えているさ! 研究だ研究! あれは素晴らしい研究だった! そうして勤しむこの体がオーバーヒートすると! くれるんだ、だから頑張るんだ! 冷たいコーラを、彼女はワタシに……!」
狂気に取り憑かれたようにナノモンは叫び、語る。
「なっ!? なんだこれはーー!」
胸に手を当てながら語っていたナノモンが、突如、自らのボディをかっ開く。ナノモンがボディ内に食事をするように蓄えていたそれは、冷たいコーラではなく、得体の知れない異臭を放つ冷めたスープだった。
放電するナノモンの手の中で、容器に入ったスープが怒るように沸騰し、やがて床へと叩きつけられた。どうやらデリバリーで頼んだ商品に誤りがあったようだ。
「っ……あなたの大事なデータを盗んだのは私じゃない。そしてご丁寧に出迎えてくれて残念だけど、私は〝彼女〟ではないわ」
怒りを露わにするナノモン。その間に、喉を締め付ける手から解放された砂雪は物怖じせずに、ナノモンの宿す疑いの思考回路を即座に否定した。
「ダレガ重ねてナドいるかーっ、そんなことはどうでもいいっ! あぁっ……秘めているのだ! そして、もう少しなのだ! 分からないノか?」
「隠し事をしているつもりもないし、この世界にも来たばかりで、ここに籠っているあなたの考えなんて分かるはずもないわ。でも、あなたがすぐに頭を冷やした方がいいのは分かったわ。あなたが欲しいコーラなら、私が後でいくらでも用意してあげる」
砂雪は恐怖を感じさせないとても平然な顔で、機械の頭脳をヒートアップさせるナノモンに対して大胆な提案をする。
「クックック……ナニヲ言い出すかと思えば、知性のないことを……」
拘束された身でよくも語る、砂雪の間抜けな提案を聞いたナノモンは不気味にワラった。
「もういい、さぁ研究のつづきだ! だから安心しろっ、ワタシがこのユキアグモンを、無限の力を孕む最強のデジモンに育て上げるのだーーっ! オマエはその瞬間ヲッ、そこでッ、お行儀良く見ていればいいーーッ!」
砂雪の無意味な提案は却下された。
素体ユキアグモンを使った最強のデジモンの研究、機械の脳に痺れ流れるその情熱と知欲と衝動は、冷やしたコーラなどでは消せやしない。
アイカメラを赤く光らせたナノモンは、狂ったような手つきでコンソールパネルを叩いた。